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第二十四部 二章 入学

3月22日


View 美奈


心臓が早鐘を打つ、自分の呼吸音と心臓の音が体を通して感じる。いつかの俺もそんな感じだったのだろうが10年以上も前の事を思い出すことは出来ないし、このような事を2度もやる事なんて思いもしなかった。


 いや、普通に生きていて普通の生活をしていればこんな体験が出来るのはいないだろう。せめて記憶を本当に無くしていればそれは1度目の体験と言っていいだろう。今は身体は初めて精神は2度目の小学校入学式。


 日にちが経つにつれて身体がだるくなりつつも、アドレナリンが栓を閉め忘れて開けっぱなしにした横倒しの酒樽のぶどう酒みたいにこぼれ続けている。


 別に俺はこの入学式に不満があるわけじゃない、逆にこの学園でどのようなことが起きるのかワクワクしているくらいだ。だったらなぜ憂鬱な事を思っているのか聞かれたら、その理由は俺が入るクラスは特待生クラス、いわゆるエリート中のエリートのみが入ることが出来る所。


 もしかしたら、エリートの奴らに囲まれてマウントを取りたがりな奴や高圧的な奴がいる事でモチベーションが下がったりする事があるのではないか、という不安がある。


 救いがあるとすれば、アイシャとレイラ、リラも同じクラスだというところだろうか、ヴェルスター学園の新入生の入学式が始まる前からクラスの名簿が配られた、それは卒業式で配られるあの黒い筒に入って配られた。


 関係ないが、誰もがする蓋を開け閉めして何度も小気味がいい音のポンッポンッをしたのは言うまでもない。


 パイプ椅子に座って、生徒会長の新入生歓迎の言葉だけでなく校長先生の言葉と理事長の言葉も続く事で今が春風吹く直前の肌寒い日で不満がある。とは言え真夏の校長スピーチで何名か熱中症で倒れるような事がないだけ余程マシだと思う。


 そして入学式最後にそれぞれのクラスの担任の先生と副担任を紹介する事とよく使用する教室、つまり保健室や図書室の管理をしている先生を紹介される。そこで見知った顔が現れた。


 『そして特待生のクラス担任、タリーズ・アンドレ 副担任、レレイ・アクアマリン』


 そう言われて一歩前に出てお辞儀をする2人の男女、知ってはいたが体験版では授業風景はほぼカットされていて、立ち絵がほんの2回程度しかなかった。ちなみに声優はどちら某異世界天性アニメの相棒キャラが演じていた。


 しかし、それよりも驚いたのが、保健室の管理人として紹介された人物だった。壇上に上がったその姿を見て思わず声を上げそうになるのを必死で堪える。


 『保健室管理 ケルビム』


 その言葉で確信した。ケルビムストアドシリーズ第2作目の主人公、ファンの間では「神創(じんぞう)人形」と漢字を変えたあだ名で呼ばれている。実際その名は半分合っていている。


 彼は意思を持っている人ではない人形、神々が勝手に趣味を全面的に貼り付け力を注入して人間の世界にぶち込んで、その人生を見て暇つぶしをする為に右も左も分からずに地上に落とされた兵器。


 最終的には神々にも呆れられ、監視という呪縛から放たれたという何とも言えない最後を迎えたがその描写はファンの間でも賛否両論だった。中でもその後の考察が捗った人が多く中には「自ら自分で自身を破壊した」という考察もあったが今こうして目の前にいるということはその考察が否定されたと同じだ。


 そしてそれと同時にその光景を見た一心四体(いっしんよんたい)の4人はそれと同時にある一つの感情に頭を支配されていた。


 (か…か、かかか…)


 ((((かっこかわいい~~~~~~!!))))


 (何々あのキラキラした目と男でありながら最高級のシルクのようなサラサラで艶やかな髪はまさに神GJ(グッジョブ)としか言いようがないもちろんそれだけじゃないし、眉毛もシュッとしてかっこかわいさを引き立てる役として尚且つそれだけでもかっこかわいさを主張する主役としての二足の草鞋を履く事をいとも簡単に役目を果たしている、それは顔だけにとどまらずつま先から髪の毛の先端まで二足や三足だけでなく五千兆足の草鞋を履く…いや、NO!数字で表すなんてNein!おこがましいくらいだ。そんな表紙で本を判断するような三流評論家でもしない事を彼にするなんて事は出来るはずもない。だってそれは今まで生きてきた中でもこれ以上ないと思った胸の高鳴りで生きがいを感じたものだもん。あぁ!今見渡した時に目が合った絶対目が合った、ヤバいヤバい胸が熱い心臓からマグマが吹き出しそうなほど熱くなっているのが分かる。所作の1つ1つがかっこかわいさを全身で表現をして表情を変えずともからだ中から隠し切れないかっこかわいさを出していて本当に最高、それが画面で見るのが精一杯なのにそれが手の届く範囲に行けるなんて、ほんっとうにいいに決まっている、今すぐにでも保健室に行きたいいないと分かってでも保健室で彼から触って貰えたらそのまま死んじゃいそうというか、死んでもいいかも知れない。いや、死んじゃったら触れることも出来ないから流石に困るけど、ダメダメ最後まで我慢しなきゃいけないだろ、今の心を抑えて明鏡止水に落ちるんだ五十嵐響也、あぁいや無理普通に無理、絶対に無理飛ばし不可のムービー並みに無理、二次元のかっこかわいさを3次元として見ることでマジで四次元の存在としてのオーラが身体を駆け巡りに巡っているのがたまらないのにどこかそわそわしてそうな小動物のつぶらな瞳みたいな保護欲を搔き立てられる可愛さで、もちろん可愛さだけでなくかっこいいんだけどただでさえストアドシリーズの主人公好き好き大好きな俺にとってというか、もし怪我したら優しく治してくれるのかな治してくれる流れだよねめっちゃウェルカム、それなら回復魔法を使えない程度に両腕を欠損しないといけないからとりあえず風で斬り飛ばすかズタズタにしなくちゃね本作ではやってもらいたかったシチュがいっぱいあったしそれをしてもらう為に色々とプランを練らなくちゃ、それとは別に前世のストアドシリーズ主人公別のシークレット写真フォルダを作って日刊が出来るほど写真を撮りまくって一先ず1テラバイトくらいパンパンになるくらいとらなくちゃ、その前にちゃんと許可を取らないといけないけど、絶対許可してくれるよね、マジ感謝その前にハードディスクを購入して999テラバイトが入るのを発注しなくちゃ、あそうだ、せっかくなら手を怪我した体で食事が出来ないとか言ったらあーんしてくれるのかなそれでもめっちゃウェルカムむしろ一緒にご飯食べて口元についたご飯粒やデザートだったらクリームを舐めとるのもいいよね。今は5歳なんだからそういうのをしてもギリギリ事案にならないよね、多分。そういう想像をしただけで、んはあああああ!!ダメダメおかしくなりそう、まだおかしくなってはダメ、これまでの制作陣がやってくれなかったあんなことやこんなことを実際にしてもらうまではおかしくなってはだめ、ボイスレコーダーも、最高級のものを買ってつまり何が言いたいかと言うと)


 ((((泣けるぜ))))


 超早口で今までつもりに積もっていた上にいろんな事が起きすぎて考える暇が無かったかっこかわいい欲が爆発してしまった4人の心は天国に到達した気分で入学式は終わり、そしてその後自分がこれから通うクラスへ移動することになった。


 小学の特待生クラスは確か、コロッセオ風の建物の一階で昇降口に入って右側の一番突き当りの教室だったはず、通っているときにいろんな小話や隠しステージの噂とかCG回収の情報が聞けるから前ステップしながらギリギリ文字が見える速度で通っていた。


 「し、失礼します…」


 さっきのかっこかわいさの熱が冷めきらずに顔が真っ赤になっていることを知らずに教室の中に入るといち早く声をかけてくれた人がいる。


 「美奈!こっちこっち、隣り座りなよ!」


 声をかけてくれたのはアイシャ、となりの椅子をパシパシ叩いて座るように促している。


 「アイシャ、久しぶり!」


 そう言って足取りを少し早めてその席につくとすぐにその近くの席近くの他もすぐに埋まる。そこには男性攻略対象と女性攻略対象のカテゴリーで集まった。特待生クラスは他の教室とはあまり大きさは変わらないが人数が少ない、席も他クラスと同じ数が用意されているので一角に生徒が密集していると傍からみると違和感がすごいと思われる。


 というのも、気の知れた友人がいたらその近くにいたいと思うのは人間の性だろう。初対面は誰もが挙動不審になって勘違いを起こしてもおかしくない。


 「あんたら、本当に仲がいいんだな。少し羨ましいな」


 再開の会話に混ざってきたのは女性主人公の攻略対象のアルバート・ジャックだ。他の攻略対象から自分じゃ不満か?という視線を無視しながら不貞腐れた顔をしている。


 「そう?最近じゃめっきり会う機会がないから、ついこんな反応しちゃうのは仕方ないじゃないか。ほらほらもう少し離れてくれよ。レイラが怖がっているじゃないか」


 「へっ?レイラ?」


 アイシャがくいっと顎で指した場所には後ろの席でリラの袖を力いっぱいしがみついて身体全体を震わせているレイラが今にも涙が流れそうな表情でいる。


 「レイラー!!」


 「あの、悪いのですがレイラさんよりもレイラさんの指が服ごと内側にめり込みそうな私も心配して欲しいのですけど…とりあえず助けてください」


 よく見るとその袖にはめり込むというよりも指が刺さっているようにも見えてリラの表情は微笑んでいるが顔色は上半分が青くなっていて誰が見てもその原因は今にも骨が軋む音が聞こえそうなほどのパワーでしがみついているレイラだと分かる。


 とりあえず、このままでは入学初日で完治数ヶ月の大怪我をするという最悪の事態を防ぐためにレイラの両隣と前の席に私たちが座る形となって最後に後ろの席に座ることになったのは…


 「まさか、あなたまでこのクラスにいるなんて、結構私たち縁があるのかもね。優菜」


 「ふ、ふんっ…当然に決まっているじゃない。この私…わたくしが他の人よりも劣っているなんてありえないもの、わたくしは努力を惜しまず魔法の勉強も護身術だって毎日続けていたのですよ。このクラスには入れない事なんてあるはずないですわ」


 ふわりと偉そうに髪をなびかせる優菜は少し顔を赤くして、チラチラとこっちのほうに視線を送ってくる。レイラは優菜には少しだけ怯えているようだが、さっきまでのような余裕ない顔は徐々に和らいでいる。


 そろそろ先生がきて入学案内の説明が始めるかと時計を確認すると後10分もある。このまま雑談をしながら待っていようかと思いながらクラスを見渡しているとまだ席につかずにウロウロと教室の中を見渡したり、廊下の方に顔を出して何かを探しているようにしている少女がいる。


 他の4人もそれに気づいてようで、レイラはリラとアイシャにしがみつきながらもその人の傍に行く。


 「あの…どうしましたか?何か探し物なら、手伝いましょうか?」


 そう声を掛けて見た後彼女の口から出た言葉は予想を上回る返答だった。


 「Извините! Котэцу Эй, я ищу свою сестру Разве ты этого не видел?(ごめんなさい!コテツを探しているんだけど、見かけてない?)」


 「!?」


 彼女が話した会話はロシア語、それも流暢で全て聞こえ取れなくて最初の言葉とその後の「コテツ」という言葉しか聞き取れなかった。


 返答に困っているとリラが前に出てその少女に答える。


 「рад встрече я Rira Как тебя зовут?(はじめまして、私はリラ、あなたの名前は?)」


 少女は同じ言語を話せる人に合えたことで安堵したのか、声に落ち着きがついてきて先ほどまでの取り乱しは和らいでいるようだが、それでもまだ完全に安心しきってないのか辺りを見渡したりしている。それでも彼女は自分の名前を名乗る


 「Анастасия(アナスタシア)」


 (っ!確かに今までロシアの主要キャラがいなかったけど、皇女様の名前か…!とはいえここはリラに任せるしかないかな、俺もロシア語は挨拶程度しか出来ないし話に割り込んで警戒されたり、無意識に失礼な態度と思われて利害関係に触れるのは避けた方がいいだろう)


 「Анастасия Вы сказали Котэцу Это называется кто?(アナスタシア、あなたが言ったコテツというのは誰?)」


 「мой друг милый кот(私の友達でかわいい猫ちゃん)」


 「Понятно Подожди меня(分かった、少し待っててね)」


 一旦、会話を止めてリラは私たちに振り返り、事情を話す。


 「猫?探すと言っても猫を学校に連れて来たこと自体がおかしくない?」


 「それについては今は置いておこう。後10分もあるから、軽く見回る時間はあるだろう」


 「…みっけ」


 アイシャが提案してから1秒も経たずにレイラが言ったと同時に教室を出て行ってしまった。反射的にレイラの後を追う形になって校舎の間にある渡り廊下でロシアンブルーの毛が特徴の猫が悲しそうな声を上げながら佇んでいる。


 レイラが目を合わせずに、チチチッと舌を鳴らすと少し足を前に出してゆっくりと近づいてくる。レイラはそれでも自分から近づこうとはせずに向こうから寄ってくるのを待つ。


 猫がレイラの指先をクンクン匂いを嗅ぐと顔をスリスリと匂いを押し付けるようにした。その後は優しく抱き上げると、猫は特に嫌がる様子も見せずに大人しく腕の中で抱かれて教室まで連れてくることが出来た。


 「コテツー!!」


 アナスタシアが猫、コテツを見るとパァッと笑顔を浮かべて、走り寄ってくる。コテツはレイラの腕から飛び移るようにアナスタシアの服に爪を立ててしがみつく。


 アナスタシアは涙を堪えながらコテツを抱いて、しばらくして顔を向ける。


 「とっても……アリガト…」


 おぼつかない日本語ではあったがその感謝の気持ちは素直に受け取ってなぜ猫を学園に連れて来たのかを聞こうとしたときに先程も聞いたチャイムが聞こえると同時に扉から壇上で見た2人の男女が入ってきた。


 「はい、席についてくれ」


 その男性は片手に生徒名簿を持ってその手で着席を促す、それに従い疑問はまた後でにする事にするしかなかった。


 「既に一回挨拶して知っていると思うけど、改めて自己紹介をしておこう。先生はタリーズ・アンドレ、君たち特待生クラスの担任を任される事になっちゃった。とりあえずよろしく」


 『お願いしまーす』


 クラスの人たちが返事をすると、次は女性の方が一方前に出る。


 「わたしはレレイ・アクアマリン、このクラスでは副担任としてみんなと一緒に過ごす事になるからもし、何か気になることがあったら気軽に話しかけて来てね」


 『はーい』


 「さて、次は君たちの自己紹介を…と言いたいところだけどまずは出席を取らないとね。誰かがトイレに行ってたり、その帰り道で迷子になってたりしていたらいけないから。それじゃあ…」


 先生が生徒名簿を見て出席を確認する。

次回3月中旬予定

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