第三部 二章 トラブルの迅速対処
View リラ
わぁ、すごい、打ち合わせしていないのに三人息ピッタリで驚いている。
「わ、私ってそんな簡単に姫様の対面に気軽に座って…!」
「いいのいいの、逆にそんな畏まられるとこっちまで、気を使っちゃうよ、堅苦しい言葉なんていいから、よろしくね」
右手でゆっくりと握手を交わす。
View Change 美奈
あっ、姫様の手、小っちゃいけど、あったかい…ポカポカして、安心する。
それに、きれいな人だなぁ、普通ならこんな人いたら、誰だって振り返って見とれてしまうよな、なんだろう画面越しに見るよりもとっても、魅力的な雰囲気というか、やっぱり、姫様が持つ桁外れな高貴さが、伝わってくる。
「あの…」
「はっ、はい、何でしょうか」
「手、そろそろ放してくれませんか?」
「へっ?…ハッ」
考えている間無意識にずっと握手をしていたらしく、姫様も少し苦笑いしている。
「す、あっ、し、失礼しましたっ!」
「あっ、いえ、そんなに謝らないでください」
うぅ、すごい申し訳ない、こんなことで、失敗してしまうなんて…
View Change アイシャ
「アハハッ!顔真っ赤まるで、恋する乙女みたい、もしかして美奈ちゃんはそっち系?」
男の頃だったら間違いなくグーパン食らっていただろうけれど、こういうのってからかわれずにいられないんだよね。
「?そっちってどっち?」
あっ、しまった、まだ知識はない方か、こういう返し方が一番のカウンターなんだよなぁ…
「いーや、知らないならいいの」
「……っ」
あっ、レイラちゃんは知っていたか、運悪く流れ弾に当たっちゃうなんて、運悪い。
「アイシャさん、あまりからかわない方がよろしいかと、思いますよ、いつか自分に返ってきますから」
「すみません、面白くなりそうな所見るとつい」
View Change レイラ
「ふ、二人共、落ち着くの早いですね、わ、私まだ、緊張して…ゴニョゴニョ…」
平民と貴族の格差とか、知らないけれど、平民だからって、蹴り殺される事案もあったくらいだし、綺麗な人たちに囲まれているけれど、失礼を働かないようにしているだけで、息が詰まりそう。
「会話くらい簡単だよ、僕なんて記憶が無くなる前は最終手段として拳一つで語り合うことを主流としたくらいだし」
さっきの自己紹介の時も思ったけど、やけに好戦的というか、言葉より先に手が出るタイプなんだよな、長所でもあり短所でもある感じかな、口が裂けて枝分かれても、言えないけれど。
「す、すいません、少々お手洗いに…」
駄目だ、テスト前の休み時間のように緊張の線が張り裂けそうになる。
「あっ、お待ちになって、お手洗いの場所はご存知で?」
「あっ…」
「お手洗いの場所は僕が覚えているよ、一緒に行こうか」
いやっ無理無理無理無理!!武闘派の筆頭キャラのアイシャに連れられたら、バッドエンド直行しそうだから無理っ!!
「ばっ場所を教えてもらうだけで結構ですので、どうぞ、皆様はごゆっくり…」
「そぉ?顔赤いよ、さっきの美奈ちゃんよりも赤くて熟したリンゴみたいだよ」
「ひ、人が多く集まっているので熱が籠っているので、それではっ!」
「…ここ、屋外ですけれど」
そうでしたー!まずい!失言が多すぎる、もう、これ以上、無理っ!今日の俺は失言botですー!最低で最悪手を使うしか能がない失言botでございますぅ!!
「お手洗いの場所はここから入口の方へ進んで、二つ目の十字路を右に曲がって、階段上がって、渡り廊下を進んで、分かれ道が何回か選ぶんだけれど、そこを右右右左右左左正面、左右左左それから、さらに十字路が…」
「アイシャさん、流石にからかいが過ぎます、遠回りですしそもそも、そんな迷宮みたいな構造でもないですし、お手洗いの場所は真っ直ぐ行って突き当りまで進んで、左に曲がります。
城の壁外の近くを通りますが、少しすると小さなガーデンがあるので、そこの舗装されている道を渡ったら、お手洗いのマークが見えますわ。
一つ注意点があるとすれば、男性用女性用、どちらとも赤色なので色に惑わされないでくださいね」
「あ、ありがとうございます!それではっ!」
逃げるようにスカートの裾をつかみダッシュで向かう。
View Change 美奈
アイシャ、からかうのが好きなのかな?貴族らしいお淑やかさが感じられない。
もう少し、レイラみたいな、丁寧な言葉遣いと、礼儀をわきまえてほしい…って、何で親目線で考えているんだろう。
でも、なんか違和感あるんだよなぁ、なんていうんだろう、愛想笑い?いや、無理矢理テンション上げて気を紛らわせているっていうのかな?どこか、そんな感じがする。
「お待たせしました」
「まだ、ハムサンドとカツサンド残ってるよね?」
案内が終わったのか、リラとアイシャが戻ってくる。
「おかえりなさい、同行しなくてよろしいので?」
「いやぁ、行こうとしたんだけれど激しく断られちゃってさぁ参った参った」
「何言っているんですか、アイシャさんがからかうから、逃げちゃったんですよ」
この二人、何だかいいペアになりそうだな、喧嘩しそうだけれどそれほど大きくの喧嘩じゃなくてお説教モードのリラの言葉を軽く受け流すような、でもどこか気が合う二人みたいな。
「いいですか、世の中には言っていいこと、悪いこと、言わない方がいいことがあるんですから、それで、人間関係が重要になってくるんですからね」
「だーかーらーごめんってー」
「謝罪は私ではなくレイラさんに言うべきです、それに今初めて謝罪を口にしたではありませんか、だから、なんて言葉は使いません」
「あはは…」
二人のやり取りを見るとつい乾いた笑いが出てしまう。
「それよりも、立派なお城ですね。さすがは、この国を治める由緒正しいお城です」
「ふふ、恐縮です。ですが、すごいのはお父様ですわ。昔は国家転覆などを狙う不届き者もいたらしいのですが、私の祖父とお父様が直々に迎え撃ったのですから」
「あー、それは僕も聞いたことあるよ、内部から壊そうとしていると策略を物ともせずに鎮圧したとか、どれもこれも眉唾物だけど、実際の映像が残っているのを見るとね」
ワイワイとお城の経歴や英歴について話すことになった。
View Change レイラ
はぁ、息が止まりそう、攻略対象で唯一、主人公と同じ平民の立場だから、気さくなキャラクターだから、人気はあるんだけど、自分が動かすとこれほど辛いものだなんて、知らなかった。
「えーっと小さな庭小さな庭…ここか」
言われた通りの道を進むと花の香りが体を包み込むように出迎える。
「わぁ…」
綺麗だ。葉の表面にはたった今水やりをされたように水滴が滴って、太陽の光を映しながら見事な花を咲かせている。
(庭師の姿はないけれど、まだ近くにいるのかな?)
辺りを軽く見まわしてみるが、今この場には自分以外に人はいないようだ。
城の小さい庭とはいえ、ちょっとした温室程度の広さはある。誰かがいたら、すぐに見つけられそうだが…
(まぁ、城の関係者は多忙だろう、手入れもテキパキとすぐに出来てもおかしくないな)
庭の光景と用を済ませたら、大分心に余裕ができた。またあの場に行くと直ぐにメンタルがクラッシュしそうだけれど、行かないと心配させるだろうし、この広い城内をうろつくのも危ないよな。
そういえば、この城ってどんな構造をしているんだろう?複雑な構造ではないとして、広すぎるんだよな?正面から見ても敷地面積は東京ドームおよそ50個は軽く超えていると思うけれど。
全く関係ないけれど東京ドームの例えってオリンピックや野球ファンしかピンと来ないんだよな。誰もが見ているような分かりやすい…テニスコートとかに例えた方が分かりやすそうだけど…
「地図、ないかな?そうだ」
あれがあった。ステータスで唯一使える魔法、探知魔法、少しスキル上げて限界範囲も拡大して地図替わりとしても使えるようになったし、試してみよう。
「えっとまずは、生体反応や植物反応を薄くして、建造物などの探知範囲、構造などを中心に…」
それぞれ、細かい設定を行い、城の地図を脳内で作り出す。
少し離れた場所に多数の生体反応、さっきの場所か、特に小さな動きを見せるだけで近くには誰もいないみたい。
城の中はどうかな、…すごい、それぞれの部屋が一軒家並みに広い、個人に与えられた部屋もあるだろうに、実際に見たらもっとすごいんだろうな。
次は…あれ?城の反対側…壁外の遠くに多くの生体反応?ひい、ふう、みい…多過ぎる、20人の大人に、60人の子供?何で壁外にそんな大人数で――
「ゲットォ~」
「なっ!?」
大人!?こいつらの服、同伴者のような、貴族の関係者が着るようなものじゃない、まるで、平民、いや、それ以下の貧民のような薄汚さが目立つ服…こいつなんなんだっ!?
「おい、さっさと運ぶぞ、騒がれる前に猿轡でもして口塞げ」
2人組、運ぶってまさか…あの生体反応は、こいつら人攫いか!?
「や、やめろぉ!放せぇっ!!」
「っとと、あぶねぇなぁ、少し痛めつけねぇと大人しくできねぇのか?」
腕をつかんでいる男が、片方の腕を懐に入れて小さなナイフを突きつける、サイズこそ小さいが、柔肌を切るのは容易だろう。
「おい、キズものにするな、値が落ちる」
「へへっ目立たねぇところならそんなに落ちねぇだろ?それにこんな上玉、仲間にすこーしお裾分けしてもいいんじゃねぇか?」
駄目だ、筋力が桁違いだ、剣術を習ったが、今の状態は腕をつかまれて足払いもできない状態、少しでも抵抗しようものなら刺されるだろう。
「ほら、さっさとずらかるぞ、明後日には港の船に運び込まねぇと金もらえねぇぞ」
「へいへい、ほら、大人しくついてこい」
数分前 View 美奈
「…そのような、事件もあったのですね。アイシャさんは、よくご存じですね。親族に学者さんでも?」
「え?あぁ、いや、お父様、が、持っ…て……て………」
突然言葉が途切れ途切れになり、最終的に泣きながら手を震えさせて持っていた紅茶を地面にまき散らしながら顔を青ざめている。
「アイシャさん!?」
「ど、どうしましょう!?そうですわ!近くに医務室があるはず、今すぐそこまでお連れして」
「だだだだだだだだだだだいいいいいいじゅぉぉぉぉぉぉぉぶぶぶぶぶぶぶぶででででででですすすすすすすすここここここここのののののののののおおおおおおてててててててていいいいいいいどどどどどどどどど」
「いやいや、何言っているか分かりませんよすごい振動音もしていますわよ!ランマーでも腕につけているとしかおもえないほどの!!」
「落ち着いて、応急処置として…そう、素数を数えるの!」
何で某アニメの神父と同じ方法を取ろうとしたんだろう、俺
「そっそそそ素数?ハーッハーッ…ふぅ3.141592653589793238…」
「それは素数じゃなくて円周率!十万桁言い続けた人もいますけど、そもそも、よくそこまで言えますよね!!」
パニックになりすぎて単語の意味も理解しているか怪しい状態、こんな時どうすればいいか分かるわけない、こんなことになるなら准教授のメンタルケアの講義真面目に聞いておけばよかったっ!!
View Change リラ
うわぁ…なんだろう落ち着くどころか、一秒ごとに悪化していない?
「あばばばばばばばばば」
あ、駄目だこれ、小石どころかそよ風が吹いただけで、この世の終わりを決めつける程の発狂状態だ。
「美奈さん、これどうしましょう。多分、深呼吸でも落ち着きませんよね?」
「勧めても一時間以上過呼吸になりそうなので提案自体愚策でしょうね」
お互いにうーんと首を傾げていると、ふとお手洗いに行ったレイラの事を思い出す。
「そういえば、レイラさんやけに遅いですね、道を間違えるようなルートでもないのに…」
「確かに、何かあったのでしょうか?」
二人掛かりで何とかアラームモードのアイシャを『物理で』正気に戻して最短のルートでレイラを探す。
「…ねぇ、ほっぺた超イテェ…」
「致し方無い犠牲と思ってこらえて」
「せめて、回復魔法を頂戴」
「ゴメンレベルも魔法も全然ないから無理です、美奈さんは?」
「私も出来ない。攻撃以外ほぼからっきし使えなくてね」
小さなやり取りをしながらレイラを探していたら、曲がり角の方向から声が聞こえた。
「や、やめろぉ!放せぇっ!!」
「っとと、あぶねぇなぁ、少し痛めつけねぇと大人しくできねぇのか?」
「っ!いっ…」
声を上げそうな美奈の口をふさいで制止して、小声で話しながら、様子をうかがう。
「二人…この城のものじゃないな…二人はここで、待ってて、同伴者たちを連れて来る。間に合わなかったら逃げた方向だけでも覚えていて」
二人は口を押えて息を殺しながらコクコクとうなずいたのを確認して、駆ける。
そして、いち早く知らせる為に「アレ」を使う。
View Change 美奈
アイシャと一緒に様子を見るが、今にも連れ去られそうだ。ナイフで脅され声も猿轡をされて出せない状況にある。
今にも直ぐに駆けつけて救出したいのはやまやまだが今の身体で勝てるかどうかすら分からない。
もし、この世界がストアドと全く同じ理論で動いているなら、なおのこと動けない。
美奈の得意は攻撃魔法だがストアドシリーズの世界では魔法は百発百中ではない。
狙いをつけ手を向けて照準を合わせて魔法を放つ事で初めて狙い通りに動く。だが、どれかを一つでも欠かしてしまうと命中率がガクリと落ちてしまう。
つまり、今の状況だと誤射してしまう可能性が高いのだ。
(まだ…まだなの…まだ…!)
View Change アイシャ
あの2人組、一体何処から?侵入経路は?脱出口をすでに確保済み?考え出すとキリがない。
助けを待つ、奇襲を狙う、気をそらして時間を稼ぐ、色々と考えがあるが、それを行うような時間もない2人組はレイラを引きずりながらも壁に近づく。
「ごめん、アイシャ。やっぱり見過ごせない」
「えっ」
振り向いた時にはその先には美奈の姿は無かった。
「おい!そこの唐変木共、その子を放せっ!!」
何やっているんだ、あのおてんば娘はっ!
待てよ、今あいつらの注目は美奈に集中している。追いかけて姿を見せるよりも、救出か奇襲に行動を起こすべきか
思考を張り巡らせるよりも、自分の身体は動いていた。一瞬の隙に茂みを伝ってすぐにでも行動を起こせるポジションに見つからないように屈む。
View Change レイラ
「むっ、んーっ!んぐーっ!!」
「こっこのガキっ!大人しく…」
「デュアルフレア!!」
その一瞬、美奈が放った三つの火球は寸分の狂いもなく、腕をつかんでいた男に命中した。
「っがあっ!!あっあづぁぁぁぁぁぁ!!」
「っ!ちぃ、アイシク―」
一瞬、気を取られた男が補助に向かおうとしたとき、その男の死角に黒いバランスボール程度の大きさの物が男の脇腹に当たった。
「ぐぶっ!」
男は一瞬、苦痛の声を上げた後一メートル後方へ吹き飛ぶ。
それと同時に飛んできた物の正体が手を差し伸べてくる。
「レイラ、大丈夫?僕たちが助けに来たから、安心して」
その言葉に反応するより自分の視界は危険を察知する。腕をつかんでいた男が背を向けているアイシャに突進してくる。その手には脅しに使っていたものではなく、どこに隠し持っていたか、それよりも、遥かに長い太刀が迫っていた。
その時、自分達の後ろからヒュンッ!と何かが飛んできて、それは男の腕に刺さり、男はぐっと苦しみの声を上げると太刀をカランと落とし腕を抑える。
「俺の娘に…手を出すな」
振り返るとゲンブが手に投げナイフをいくつか持ち、立っていた。
その後、こちらですわ!という声と同時に同伴者を多く連れてきたリラ姫様が来て、男たちは拘束された。
次回8月中旬予定




