第二十三部 弐章 保護者達の新年
View アリア
「よかった、みんなも会えて嬉しいみたい」
最近、あの子たちは直接出会うことは出来なかった。4人で予定を立てる事で誰か一人でも都合が悪いと延期してそれが続くと更に出会うことが後れてしまう。レイラは人見知りが激しいから少しずつ慣れるためにしたいとは思うけれど、それで無理矢理外に連れ出したりするのは逆効果になり兼ねない。
だからか、こうして3人もの友達が出来たと言った時にはすごく驚いた。レイラが勇気を振り絞った結果なのか、もしくは彼女らの人柄がレイラに影響を及ぼしたのか、それは分からないがそれでいい。
どちらにせよ、レイラが徐々にではあるが、人見知りが治りつつあるのは変わりない、記憶を失う以前は知らない人と会うだけで身体が動かなくなって何とか動かせる顔だけを私に向けて涙を浮かべていたのに、今では少しだけ受け答えが出来るし、家族の誰かと一緒なら買い物にも行けるようになった。
まさか、料理教室を開くなんてことを言う事は驚いたが…いや、あれはアシュリーが言い出した事だったが、あれは結果として少し良かったのかもしれない。この前、習った手料理が家族に好評だったなどという手紙が送られてきた。メールでもいいんじゃないかとも思ったが、習いに来た人達には誰一人として連絡先を教えてないと言っていた。
この前は思い切って、ギルドの臨時料理人として研修という建て前で連れて行ったが、それは少し思い切りが良すぎて大変な事が起こった。次の日から多くの冒険者に昨日と同じ味のやつをくれ、と何人もの冒険者が押し寄せてきた。
確かに、美味しい料理はモチベーション向上に関係する。たかが食事でそんなまさかと思う人もいるが、食事に関係する話しは諸説ある。中でもよく聞くのがプロ棋士の出前選びは勝敗を左右するらしい。
レイラが作った料理を食べた日の冒険者たちの働きぶりは、とても良かった。普段は1つしか依頼を受けない人もやる気が満ち溢れて3つも依頼をこなしてしまった。という人もいれば、任務失敗でふさぎ込んでいた人も前向きな気持ちを持った人もいた。その人たちの共通点がレイラの料理を食べたという事のみ。
食べてない人から、アレな薬物でも使っているのでは?と言われたが、正直なところ私もそれを思った事がある。何回か隣でその料理している姿を見たことがあるが、そのようなことをしている様子はない。確証はないが、多分レイラの固有能力なのかもしれない。
同じレベルのレイラの食べた人と普段の食事をした人を比較してみたところ、ステータス事態は変化がないもののレイラの食事を食べた人は格段に動きがよくなっていた。同じ人間がとる行動ではないとも思った。因みにこれは実際に見たわけではなく、スタッフに映像を取らせたやつだ。
レイラの料理の美味しさだけでなくモチベーションを上げたとなればあのように次の日に前のような味に戻ってしまえば不満もあるのだろう。専用料理人が少しダメージを受けていたが、それもレイラの弁当箱を与えたらメンタルリセットした。
それでも、レイラは自分から料理を届けようとしなかったし、誰かに手伝いをお願いすることもなかった。料理が好きというのもあるのだろうが、人見知りを直したいという気持ちとは全く別ベクトルで役に立って少し複雑な気持ちになった。
専属料理人はレイラに料理を教わりたいと言って、私同伴でよければと晩御飯の時にギルドで料理をするレイラとそれを見て、教わる料理人が何日か見られた。その事がどこから漏れたのか、夜のギルドに天才料理人が来ているなんて噂が流れて、英気を養う目的で夜に冒険者達が列を作るレベルで殺到したこともあった。結局券を作ったけど、これもレイラが学園に通うまで続くと思うと頭が痛い。
レイラの年齢を考えると、アレくらいの歳の子は同年代の友達と楽しく遊ぶのが当たり前だ。短所を直そうとしようとした、それが行動を制限して普通の生活と違う事になった事に責任を感じていたが、やはりあの子たちを見ると安心していられる。
「こんばんわ、随分久しぶりですね。ギルドマスター」
「…?あら、もしかして、リディ…むぐっ!」
「しーっ!その名前はやめてください!お嬢の前でそれはNGです!私のことはランクとそう呼んでください」
ハンドサインで(分かった、わかったから手を話して)とジェスチャーを交えるとようやく手を話してくれた。
「全く、そっちから話しかけたのに口を塞ぐなんて、でも冒険者のランク制度に一役買ってくれたあなたが気にする…のはやっぱりその名前かしら」
ランクと名乗った彼の本名は リディア・ストレルコフ 元北方の母国特殊部隊の衛生兵にしてチームのリーダーを勤めていた人物、その部隊をまとめ上げた人物としてそれに目を付けた貴族が、好条件をつけて使用人として招いたという話がある。
それだけでなく彼は冒険者ギルドの制度のランク制度をほとんど1人で大部分を仕上げてしまった。特殊部隊に所属していた事で身につけた能力なのかリーダーとしての才能なのかは分からないが、ギルドの規律に力を貸してくれた人物だ。
その反面、男性でありながら リディア という母国で女性に使われる名前に不満を抱いて私のように誰に対してもを名前で呼ぶ事にバカにされているのではと言う思考が少し強いらしい。
「ゴホンッ!改めてお久しぶりです。暇な時間を見つけてご挨拶をと思ったのですが、使用人としての仕事が忙しくて、お伺いするのが出来なくって」
「あら、そんなこと気にしなくていいのに、隠さなくていいのよ?ハーン家の生活に満足しているのでしょう。そんなに健康な体をして疲れているなんて嘘は通用しないんだから、それと…」
ある事を言おうとして口ごもる、それは彼にとって2つ目の禁句だ。ギルドに彼の存在と功績を知る者は少ないだろう。しかし、知っている人が誰も好印象を持っているわけではない。その1人が感情の読めない声色で話す彼の話題はまるで死人のようだったのだから。
「少し寒くなってきたわね。子供達も少し寒くなって来たでしょうに、甘酒の追加でもお願いしてくるわ。あなたも元気でね」
「はい、それでは」
View 徹
「ふぅ…」
手に取ったおみくじを結んで、1つため息をつく。
「相変わらず、結ぶのが下手ねぇ」
蘭がからかうように、肩に手をおきながら言う。
「そもそも、紙が悪い。ゴムのように少しでも伸縮性があればいいのに、薄くてペラペラな紙切れだと破けるのは当たり前じゃないか、その証拠にほら、下にほどけたおみくじが何枚も落ち出るだろう」
その落ちたおみくじを拾い上げて結びなおす巫女さんが健気で自分のおみくじではないが心が痛くなってくる。
「おっと、これは失礼」
それを見ていたら、通り抜けようとした人とぶつかってしまう。しかし弱弱しい明りに照らされた自分の顔を見ると相手は少し驚いた顔をした。
「おや、これはこれはレイラのお友達の美奈ちゃんのお父様、徹さんでしたね」
夜の暗闇で顔の半分も見えなかったが、声色とレイラの話題でレイラちゃんの父親であるゲンブ・オーガスタ・キャロルと思った。
「これはこれは、ゲンブさん。ご無沙汰しております」
「いえいえ、あなたの機械には毎度お世話になっていますよ。冒険者達も使いやすいと好評ですし今回のオーダーは少し無茶を言ってしまったかと思っていましたが、予定3日前に納期してくれて妻も喜んでいましたよ」
「あはは、無茶な注文だから、少し熱が入ってしまいましてね。このようなものに挑戦できるから、常に成長をし続けると思ったらこの程度軽いものです。まぁ、少し骨が折れましたが、主に精神的に」
常にオーダーメイドを受け付けて特注品を作っているが、その中でも主に多いのがパソコンの類だ。物にもよるがパソコンは寿命を迎えると途端に性能がガタ落ちする。昨日までは読み込みに1秒もかからなかったのに急に1分以上もかかるようになった。なんてことがよくある。
そのような、不満を解消すべくカスタムにカスタムを重ねて寿命を限界まで延ばして、尚且つコンパクトで持ち運びも簡単で高機能冷却システムとグラフィックボード搭載、メモリも10TBに増強、勿論CPUも最新型で外付けデバイスをスキャンすれば常に最新のバージョンに適応する物を作ったのが俺の電子機器作りの始まりだった。
出来上がったものは確かに、高性能ではあったが作るのには莫大な金と技術だけでなくコードの繋がりや1つ上げればキリがない程の工程に目が弱いのに何時間も性能に不備がないか画面と何時間も向き合って、涙を流しながらハンカチをお供に、不備があったら他の部分を傷つけないように修正の繰り返し、決して楽ではなかったが、楽しいし何より、バラバラな部品が自分の手で1つの最高傑作を作れると思うと底知れぬワクワクがあった。
そこから、俺の将来の仕事として常にオーダーメイドの電子機器を作ろうと決めたのだ。従業メンバーも今では世界最大規模の技術者として賞を取った人も何人かいる。
いつの間にか、家電の開発にも手を出していたのは自分でも驚きだったが、利益が跳ね上がった事で取引先も増えて信頼関係も良好になった事から、とても充実した毎日だった。
それが、当たり前になっていたからこそ、こうしてプライベートの場で感謝を伝えられると新鮮で更にやりがいを感じる。それでも、礼儀は忘れずにお客様にはこう返す。
「今後とも是非ご贔屓にお願いします」
「ああ、よろしく頼みます」
そう言ってゲンブさんは絵馬や振るタイプのおみくじを売っている社務所に向かって歩いて行く。
「破魔矢でも買うのかしら?」
「イメージがないとでも?」
「それはそうでしょ、武器を取り扱っている人が縁起物みたいな感じでそれを買うなんて、おかしいと思わない?」
「確かに、思うがそのおかしさは喜びを感じるおかしさだな。子どもの頃見つけた星型の石を見つけた時のような」
そう、おかしいことは別に悪い事じゃない。それで何かを仲間外れにしようとしている人は、一歩間違えれば悪いことの区別が曖昧になって最悪死に至る。だけど、ゲンブさんは間違えて尚、賢くなっている。そうなるまでにどんな人生を送っていたのか、想像もつかない。
View ジェシカ
「♪~」
あぁ、機嫌がいい。新年はやっぱり好き。澄んだ空気、涼しい風、空に浮ぶ多くの星、雲一つない吸い込まれそうな暗い空、遠くにネオンの灯りが祝福をするように新年を迎え入れる。あぁ、気持ちいい、気持ちいい。一年に一度しかこの心地よさが味わえないのは少し残念だけれど、一年に一度だからこそ心地良いと感じられるのだろうと考えると、その待ち遠しさも心地よいと感じられる。
あぁ、毎日が楽しい。この一年もそのまた一年も楽しく過ごせそう。
その場で気づかれないようにゆっくりと片足で静かに踊るように舞う。浅黄色の「キモノ」というお召し物に幻想的な色をした蝶々の柄がひらひらと動いているような錯覚を感じながらもそれに気づくのは少数、皆がそれを見てもめでたい新年が主役、それ以外はただの背景としてしか映らない。
「っと、ジェシーそこまで、浮かれる気分は分からなくもないが、讃美歌はここの神様は求めないよ。それと、真ん中は神様の通り道だ。キチンと通さないとな」
ガルドが子猫を咥えて連れていく親猫のように首裏の襟をつまんで制止する。その顔色はいつも見る強面であるものの前よりも話しやすそうな顔をして甘酒を片手にチビチビと傾けている。
「ふにゅ…」
頬をムニムニと触る、それは「自分がこうされたらどう思う?」と言う合図だ。逃げるように振り払うと嫌だ、何もしないと後で、擦り寄るともっとしての合図だ。
「…」
少しだけ考えると、軽く走ってアイシャの方へ走る。
「それじゃあ、今度はまたみんなで…わっ!ま、ママ?どうした?まっ、待って僕はまだ話している途中なのに…」
ガルドの前に戻るとアイシャを抱っこしてスススッと背中を預けるようにガルドの脇腹にポスッと頭を置く。新しく見せた合図をガルドは察したようで甘酒をすぐに飲み干すと風魔法で紙コップをゴミ箱に捨てると両手で2人の顔をムニムニと触る。
「「んにゅ…」」
どこか気持ちよさそうに、声を上げるが何度もすりすりと頬擦りする姿はまるで猫のようだった。アイシャも最初は少し早く終わらせてという感じだったが、すぐにリラックスして今ではもっとやってとばかりに頬擦りを乱暴にゴシゴシとしてくる。
「それにしても、神社というのは新年だとこんな感じなのか、いつも夏祭りだと騒がしいくらいに明るいのに、その明かりも少ないし、口数も少ない…教会とは違った雰囲気でどこか違った雰囲気でいいな」
「んぅ…やっ!」
さっきまで撫でてモードだったアイシャが突然手をペチッと叩くと振りほどいて、友達の元へかけていく、その後ろ姿は心なしか猫の耳と尻尾が見える。
「ははっ、これじゃ本当に猫みたいだな」
「ん?」
「何でもないよ、ほら」
「んんっ…やら」
ジェシーもアイシャが離れた事に気づくとブンブンと顔を振りほどいて逃げるように少しだけ距離を置く。どうやら途中で無意識に乱暴にし過ぎたらしい。
辺りを見渡すと子供を連れている大人は少なからずいる。普段は公園で遊具を使って遊んでいる子供がここではほとんど何も喋らずに緊張して辺りをキョロキョロして落ち着かない様子で母親に抱っこさせて貰おうと手を伸ばしている。
「親も大変だな、今日のために仕事を数日前から急ピッチで終わらせないといけないし、子供の世話は楽しいけど疲れるなんて、今までもそう思ったことは何度もあったが、こういう時はなんだかんだ、かわいいと思ってしまうな」
「子供は全身で愛を叫ぶ生き物だ。それを可愛らしいと思うのは当たり前じゃないのか?」
「うおわっ!誰だ気配もなく…って国王陛下!?」
思わず声を荒げたガルドの声に誰もが目をこちらに向けて驚愕の表情を浮かべて、中には同じく声を張り上げる人もいる。
「今はその肩書きは必要ない。今のわたしは新年を迎える娘たちの親としてのリヒト・エンジェルス・シャリア 国王陛下なんて言い方はよしてくれ」
普段から正装で威厳がある王がこのような神社に来る。それはだれにとっても異常ともいえる事態であった。本人は今は関係ないと言っているが、誰もが注目してしまったのがガルドの大声が原因だろう。子連れの母も子供の目線を陛下に向ける。その事に気づくと条件反射とでもいうのだろう。その方向へ手を振る。
「…神に祈りを捧げるより、王にお目通りをさせるのが親のすることか…?目に見える形でなければ神もやりきれないだろうな…」
~遠方の街~
View リオ
「へくちっ…夏風邪?」
「冬だよ」
8月末予定