第二十二部 一章 王城の新たな仲間
8月27日
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「よしよし」
最近、運がいい。外は快晴、雲一つない風邪か心地良い。そして今、膝には青い毛を持つ子ウサギが耳をピクピク動かしながら、服にスリスリと頬擦りをしている。リエラにも猫や狐が足元に寄ってきては膝に乗ったり、胸元に飛びついたりしている。
しかし、これらは動物というには少し違う。それぞれの動物には有り得ないものが生えているのだ。今、膝に乗っている子ウサギには角が生えている、しかし、尖っているわけではない、なだらかな曲線で角というよりはラクダのコブに似ている。
他にも舌が5枚のカピバラや額に三つ目がある羊がいたり、それぞれ普通の動物にはないものがある。中でも迫力があるのが、通常の何倍も大きいサイズの動物だ。さっきメイドの一人に背中から覆いかぶさるように特大サイズの猫が襲い掛かっていた。
リエラ曰くじゃれているつもりなのだろうが、メイドは重さと毛のふさふさ感の狭間で苦しみとくすぐったさの笑いで廊下を這いつくばりながら移動していった。
この子達は言わば魔獣、特殊な環境で育ち魔素の影響で突然変異を遂げた動物達、普段は魔物となって正気を失い人を襲うはずなのだが、リエラの神獣としての気配を頼りに王城に入り込んだ挙句、仲間を読んでエリア30に動物達専用の小屋まで出来た。
最初王城内で大パニックになりながら、動物アレルギー持ちの人たちが絶叫しながら逃げまどってその動物たちを宥めて躾をしたのがリエラだった。魔獣の中には人間を怖がっている個体もいたが、当時勤務していた人達はその区別もせずに逃げる個体は追って、近づく個体からは逃げる、言わば弱い者イジメみたいにしていた。
その様な出来事が、ひと段落して今日みたいな日はこのエリアに足を運んで、ブラシで毛並みを整えたりして時間を消費している。
最初こそ神獣であるリエラにばっかり集まっていたが、リエラが動物の鳴き声で何かを言ったら少しずつではあるが警戒しつつも少しずつ撫でさせてくれたりしてくれるようになった。
中でも多いのが猫たちでゴロゴロ喉を鳴らしたり、可愛い鳴き声で誘惑するようにかまってアピールをする。長毛種に上品な毛並みを持っている猫がいたりしてかまってしまう。
中には構ってほしいのに他の子たちが猛烈にアタックをしているから入る隙がない様で捨てられた子犬のようにつぶらな瞳を向けている子がいるがリエラが誰よりも早く気づいて抱き上げて神獣形体になって遊んでいる。それで、どの子も楽しく過ごしている。
一応、このことについてレイラに聞いてみたところ、「魔獣は獣の要素を多く含んでいるから、普通のペットと同じ様に扱っても被害は少ないかな、過去の例で言うととある一家のペットの犬が脱走して帰ってきたら魔獣化していたらしいんだけど、寿命が少し伸びただけで他には何の以上もなかったらしいよ。でもあくまで一例だからそれは時間経過で、様子を見ないと分からないかな、少なくともレイラは青い角の生えたウサギなんて見たことないなー、この写真待ち受けにするね」と早口で言われた。
レイラは動物に好かれる体質と言っていたけれど、魔獣を引き付けるのはまた違うベクトルなのだろうかと疑問に思う。
「もふぉー♪」
小さなアルパカが胸に飛び込んで反射的にキャッチする。
「もっふー♪」
膝の上の青いウサギがアルパカの毛をかき分けて顔を出して一間おいて耳がぴょこっと飛び出す。
「はぁ、幸せぇ」
リエラと手をつないで魔獣たちの毛並みに埋もれながら、遊んだりする。
「ボールとか水鉄砲でも持ってくればよかったですね、そう言えばグレーターウルフの子はどうしたのでしょうか?適任だと思うのですが」
「ん」
リエラが顎で指した方向にはイヌ科の魔獣たちを舐めて毛繕いしながら、寝かしつけているグレーターウルフの姿があった。まるで親子のように身を任せているようで目をパチパチと瞬きを何回もしながら、ウトウトと頭を下げようとして地面の硬さに目を開いて頭を上げるのを2回ほど繰り返してからゆっくりと頭を地面につけてゆっくりと目を閉じてスヤスヤと寝息を立てる。
「仲がよさそうで何よりですね」
「おねえちゃん…今までずっと「あの子」とか「この子」って言ってたけどさ、名前つけてないよね?」
「…はい?」
言われてみれば、ずっとグレーターウルフという種族で言っていたから気付かなかった。普段から寝る時もボール遊びをしているのにも一緒だったのに名前をつけていなかったのに付けた気になっていた事にも驚いた。
その事に今まで気付かなかった。いや、気づけなかった事に恥ずかしく隠すように額に指を当てながら考える素振りを見せる。
グレーターウルフも元々魔獣の一種だ。他の魔獣と違うのは魔獣との間に生まれた魔獣で変異によって魔獣になった個体ではない。いわゆる純血個体と言えるだろう。グレーターウルフは野生の狼が魔力の瘴気が立ち込める地域で魔力を過度に体内に溜め込んで変異した魔獣だ。
神獣のリエラと出会い、理性が芽生えたと同時に人間に対する敵対心も薄れて今では重要施設以外ならエリア内を自由に行動できると聞いた。
最初こそ狼の唸り声の「グルルルル…」に怯えていた人達も多かったが、ただそれは怒ったり不機嫌であるわけではなく不器用で子犬のような「クゥーン…」と言う悲しそうな心配してそうな声を出そうとしているが、それが上手くできなくて誤解されていた。最近ではキチンと意思表明が出来るようになってきたとリエラが言っていた。
話しを戻して、グレーターウルフの名前について考える。リエラの時の命名はただフェンリルの名前で合いそうな「ェ」を大文字にしてそれを自分の名前でサンドイッチにしただけ、この子の名前はどうするべきか、今最有力候補が「グレイ」なのだが実はこの子はメスだ。カッコイイ名前よりは可愛い名前を付けたほうが愛着が湧くだろう。
だが、ほとんど犬につけられているのはオスっぽい名前だ。オオカミだがと言うツッコミは無視するとして「ポチ」は除外「タマ」は猫っぽい。そもそもグレーターウルフというカッコイイ種族名から連想出来る名前がオスにつけられる名前しか浮かんでこない。
個人的にグレーターウルフの文字1つずつ考えてみよう。「グ」は濁点がついている以上、ゴツイ感じがしてしまうので除外「レ」は中々いい線言っていると思う。ラ行から行く名前はペットとして一番親しみやすさとどことなく特別感を感じる。同じ「ル」もキープしておく。「ー」は可もなく不可もなくただ装飾語としか考えられないから保留するとして、「タ」から始まる名前として「タロウ」が思い浮かぶ、だけど、それは一番初めと一番最後に置くからオスっぽい名前になってしまうのではないかと思う。太夫という最上位の遊女を意味するのもあるがそれはそれ、例外中の例外だろう。除外だ。「ウ」はどうだろう。先程の「タロウ」の一文字が入れられているとは言え、「ユウ」ならオスでもメスでも通じそうな感じがする。最後に「フ」か…名前に使うのだろうか?そもそもハ行を名前に使うのがほとんどないのではないか?あったとしても「ヘイ」以外に思い浮かばないこれも除外となると残った文字をあげると。
残ったのは「レ」と「ル」と「ウ」の三文字一応「ー」も入れると「ー」は小文字として扱うことも視野に入れて見る。この三文字にア行の何かを入れるとドラゴンの名前になりそうな感じがするはそんな考えも除外して考える。
(レル…ラ行同士は相性が悪いな…ウレ…憂いを連想させちゃう…ウル…目をウルウルさせてそう)
考えるがどうも、これだっ!という名前が出てこない。だからといってずっとあの子、この子呼びは可哀想だ。
「ハルちゃん!」
リエラがそう言って飛び上がる。すぐにあの子に駆け寄って抱きつく。「ハルちゃん」と何度も連呼しながら、背中や頭を撫でて何度も叫ぶ。
「ハルって名前にするの?その心は?」
「「は」いいろのウ「ル」フだからハルちゃん、カワイイ名前!」
そう言って寝ているあの子、ハルに抱き着きながら頬擦りをするリエラはとっても楽しそうだ。ハルに身を寄せている魔獣が何匹か起きてしまったがそれを気にする用でもなくリエラははしゃぎまわっている。
(ハル…ハルちゃんか、そうだな。リエラが選んだ名前ならそれでいいかも、それにしてもリエラは最近自分で選ぶことが多くなってきた気がする。確かに、いつも自分の後ろをついて来るけど、それでも選択を自分で考えてそれを実行する事が出来るようになった。この前も自分と真逆の意見を言った事もあって、いつもなら対立せずにこっちの意見に合わせてくれたけど、あの日、初めて対立して少し言い争った。と言ってもそれは口喧嘩というよりは互いに納得させようと説得しあっただけだが)
リエラがハルちゃんの背中にボフッとダイブするとリエラに続くように魔獣たちもリエラを取り囲んで掛け布団のように覆い被さる。その毛の中からひょっこりと顔が出ているのを見て笑みが零れる。まだ自分の周りには魔獣が数匹かいるのでリエラにやっていたように、ポケットから柔らかブラシを取り出して丁寧に毛繕いをする。
リエラもそうだったが、俺のブラッシングは心地よいようで、このブラッシングをした子は1分も満たないうちに寝落ちする。それは小型大型問わずぐっすり眠る、リエラもこのブラッシングが好きだった。
魔獣のほとんどが寝ると、自分も少し遊び疲れたのか瞼がだんだん重くなってくる。外で寝ると風邪をひきそうなので、立ち上がってリエラを毛の綿だらけの布団から引きずり出して自分の部屋に連れて帰る。
魔獣たちは俺とリエラがいないことに気付くと自分達の小屋に自主的に戻る。たまに少し開いていた扉から迷い込んで迷子になってしまう子がいるが、その時は近くの人の足元で回ったり鳴き声を出して知らせてくれる。
魔獣は動物たちと共存するには、やや不向きなのだ。その一つが餌の違いだ。普通の動物なら肉食や草食、雑食など分かれているが魔獣はその中でも魔力を含んだ物を食べる。魔力が含まれているかどうかは一見パッと見ても判別が出来ない。
魔力が植物に含まれる条件などは多岐にわたるが、それでも視覚では判別できないため特殊なゴーグルなどを装着して確かめる必要がある。今回の魔獣たちの餌も魔力を多く含んだ物を好んでいるようで、少なくとも40%を超えていなきゃ大した栄養にはならないようだ。
栄養面だけでなく満腹感も得られないらしい。一回庭師が魔力がほとんどない餌を与えたが、まだまだ足りないとでも言うように一週間分の餌を食べつくしても全く足りないとでも言うように庭師に餌をねだったらしい。
そこで、この前使者として、行った時の釣り大会で参加賞として貰った魔石を肥料にした草を与えたら肉食の魔獣も美味しそうに食べたらしい。それで魔獣たちは肉食でも草食でもないという話になり、魔力を含んだ物を餌として出すことにしたらしい。
王城のエリアには植物を育てる温室があり、その中にも魔力を多く含んでいる植物が育てられているので、それを定期的に送って貰っている。
そのように普通の動物と魔獣は姿かたちやないべきものも持っている以外に違いがあるため、他の動物と一緒にするわけにはいかないらしい。こう言うことはギルドに一任されるのが一般的なんだが、ギルドの方でも意見が分かれて最初はギルドで預かる事に賛成する者が多かったのだが、反対派にあのギルドマスターとその夫のゲンブさんの2人が居たため影響力とでも言うように却下された。
神獣のリエラがいることもギルド責任者の2人が反対派にいた理由だろう。リエラの存在は国民には知られてはいけない。だが、魔獣を御せるのは神獣であるリエラのみ、その為王城でも位の高い者しかリエラの存在が知られていなかったが、魔獣を王城内で監督する事で王城勤務しているほとんどの人々が知ることになってしまった。
しかし、それとは別にかわいい魔獣に注目が行って、中には手乗りサイズの象の魔獣が執務室に迷い込んで職員達の注目を集めたら、その場でぴょんぴょんジャンプしたり二足でよろよろと不器用に歩いてまるで踊っているみたいな様子に癒されて仕事が捗ったと職員やスタッフが証言していて、もし魔獣に危険性がなく仕事に支障をきたさない程度の魔獣なら一人一匹まで職場へ連れてきていいと申請をしたらしい。
中には、口に小さな財布を加えて、一人の職員の足に抱きついたところ、加えていた財布がその職員が気付かないうちに落としていたものだったと城内のスタッフ達に好印象を持たれてそれと同時にリエラの存在自体に感謝を込めている職員もいた。
リエラは人型でいることが多いが、それは一種の愛情表現で俺がペンを持って文字を書くのを見て、それを真似て拙い持ち方で俺とリエラが笑顔で手をつないだ絵を描いたりしていた。魔獣も同じようで一般的なモンスターと一括りにされていた時とは別に今では迷った魔獣を小屋のある所まで案内したり、挨拶をしたり、している。
「あら、こんにちは、ボクちゃん。今日はお友達とお散歩?あまり遠くに行っちゃダメよ。危ないんだから」
そう言った職員の足元でありがとうと言うように前脚で器用に二足で立って片方の前脚をブンブンと振ってから廊下を歩いている。今、王城ではカワイイ魔獣ブームが起きている。
中には好きな動物に似た魔獣を探して撫で続けて時間を忘れてリラックスする職員もいて、逆に仕事が止まってしまうのではないかと心配になっているスタッフもいるとか。
(まぁ、職場には癒しも必要だよな)
前世の時、クリニックの院長室では金魚を何匹か飼っていた。父が子供の頃から鑑賞用の魚が大好きでメダカも別の水槽で毎日水を替えていたくらいに可愛がっていた、あまりにも好きすぎて一匹死んでいたら、泣きながら小さなお墓を作ったりしていたくらいで実家の庭が死んだ魚の墓地になっていた。
魔獣たちも特別な個人を好きになったりはしないが、しばらく構ってくれなかったり、露骨に嫌な態度を取られると何かを察したようにその場を去って小屋に戻る事もあったらしい。
これらの事はリエラが話していた事で、神獣であるリエラは魔獣の言葉も理解できると言っていた。それでも完全に理解できるのではなく、人と同じように楽しい表情、悲しい表情、怒っている表情が魔獣たち一匹一匹にもちゃんと表現できていて、それで判断していると言っていた。
人間には動物の群れを見てどれも同じようにしか見えなかったりするものだから、リエラのように魔獣の表情が分かるのが、少し羨ましい。というのも最近は一日、必ず何匹かの魔獣を可愛がっているから、楽しそうな魔獣たちを見て癒されないと生きがいがないと思ってしまう。
(大きい魔獣にまたがって仕事場を駆け巡るのもありそうだな)
その翌日、大型の猫型魔獣に乗ってエリア内を爆走する職員が話題になって、いくつかの魔獣の事で禁止リストが配られた。
次回6月中旬予定