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外伝 八傑の決意 

 ~シャリア城 エリア4~


 シャリア城のエリア4は中心部にありながら城内で最も狭いエリアと言われる場所だ。その理由は部屋の圧倒的少なさとその部屋の大きさ、どの部屋もこじんまりした感じで静かな部屋で一人になりたかったり、静かに食事をとるための多目的部屋として使われるだけ、しかし、その中でもそのスペースを取っているのがエレベーターとエスカレーター、そのどれもがシャリア城のどのエリアにも一本で向かえる。空港の通路エスカレーターと同じようだが、その本数が明らかに多い。キチンとエリア番号順に並んではいるがその利便性からエリア4にわざわざ行ってエスカレーターを使う人は多い。


 そのためエレベーターを使う人は少ないが、今日はそのエレベーターを使うひとがいる。数人がエレベーターに入り閉まる寸前、一人が滑り込むように入ってきた。一瞬踵が扉に挟まれるが、反射的に力尽くで引っこ抜く。


 (危ないな)


 その中の一人がそう思いながら、懐から一枚のカードを取り出して階層ボタンの下にある繋ぎ目に押し込むように入れる。カードが曲がるほどの力に差し掛かろうとすると今まで力を入れても入らなかった繋ぎ目にするりとカードが入り込む。


 エレベーターはガコンという音の後にモーターのような音をエレベーター内に響かせた後、もう一度ガコンと音を鳴らして階層を下っていく。


 ~シャリア城 エリア4 地下~


 エレベーターが開くとそこには、黒を基調とした長い廊下、蛍光灯はあるが、それでもその先を見通すことは出来ない。その中で道があるのを示すのが床に流れるように光る黄緑色の灯り、それが道に沿うように流れている。ヴァーチャル空間に入った気分になって現実から急に引き離されたと思ってしまう程の非現実空間がこのエリアの特徴である。


 そこにエレベーターに乗っていた全員が降りる。誰かが先導するわけでもなく、横に整列してどこまで続くかも分からない廊下を先に進んでいく。


 いくら歩いたか感覚が狂い始める時にその扉はあった、その扉は自動ドアで特に先程のカードがなくとも簡単に開いてくれる。その部屋には先客が何人かいたようだ。


 無言で目を擦り、時折あくびをする人、小説を片手にペットボトル飲料を一口飲み、舌で味を確かめるように小さな水音を響かせる人など、数人しかいないとしても客観的に、見れば全員が個性的と言えるだろう。


 その中でも彼らの共通点を敢えて言うとすれば誰も喋らないというところだけだ。その部屋は近代的な机に9つの席が用意されているだけ、それ以外は廊下と同じ黒を基調とした場所だ。


 そして、そのうち一人が言葉を発する。


 「さて、予定より10分早いが始めるとしようか、シャリア王国英傑八人衆定例会議」


 そう言ったのは英傑の第一席、リュミエール・グレイラット。英傑の中でも最古参であり、王から最も信頼されている一人。


 英傑はそれぞれの分野で他者と比べると遥かに高い才能を持っているその中でもそれぞれ英傑の中でも更に特化したものを持っている。第一席の特化は忠誠心と芯の強さ、それは100人の忠誠心を絞りつくしても一億分の一にも満たない。それが陛下から最も信頼されている器の持ち主たる視認できぬ証だろう。


 「どうでもいいが、早く終わらせてくれないか?研究が忙しいんだ。時間は一秒も無駄にできん」


 グレイラットの言葉に反応したのが第三席、フリューゲル・クロックス。元帝国皇太子の親族として生を受けたが内戦から帝国は事実上壊滅、それでも帝国に残り続け離れようとしなかった亡帝国の生き残り、現在は医学、薬学、魔法学、美学、力学、全ての学問を熟知して城内全ての研究所の最高責任者である。


 もちろん特化分野は学問の知識の多さ、才能を生まれ持ってそこから基礎から独学で熟知して更にそこから新たな理論を仮定してそれを証明した事で、何千という論文を一人で作り上げた。


 「いくつも作り上げては失敗、作り上げては失敗の繰り返し、知識があっても結果を出せなければ失敗は成功の元で終わってしまう。過程から考えて失敗を成功の糧としなきゃ、それこそ一秒の無駄だと思うけどね」


 「なんだと…?」


 「さぁ、どうだろうね。どうとらえるかはキミに任せるよ。ぶどうジュースでも飲む?味が舌に残りやすいよ」


 そう言ってニヤニヤと意地悪な笑いを浮かべながらクロックスを見つめているのは第四席ガレス・ベルラ、シャリア王国建国発案者の一人の家柄で、シャリア王国の再開発計画のほぼ全てを、完璧に仕上げた影の実力者であり、やや武力は他の人達よりも劣るものの頭脳は随一であり、常に先を見て行動している。この地下施設のみならず城の設備発案、デザインも彼女の指示で行われた。


 「ただでさえ、うるさいやつを更にうるさくして、どうするんだ。定例会議は常に頭を冷やして問題を解決するため、わざわざこんな地下室で行うんだろう。涼しい地下を暑く、騒がしくするんじゃない」


 そう言い放つ彼、第二席の茨巳(いばらみ) 巌十郎(がんじゅうろう)の一言で一瞬、場が文字通り凍りつくように静まり返った。彼の固有魔法「凍てつく威厳」を言葉に乗せてこの場を沈めた。


 彼はとある国の皇弟で王亡き後、皇太子と争い敗北した。粛清を恐れ逃げた弱者というレッテルを張られながらも生き延びた生存者。彼の特化分野は固有魔法の多さだ。一般的に固有魔法を持っているのは一日中休みも食事も取らずに努力に費やして開花するか、生まれながらにして発現しているもの、はたまた聖遺物や道具を使い眠っている才を無理矢理呼び覚ます三つの方法が確認されている。


 彼はその三つを全て使い固有魔法という特殊魔法に分類されている魔法を数十個も所持してその理解力が王国の中での随一と言われている。


 「安心してくれ、俺らが持つものはどれもどうでもいいなんて言葉では済まされない情報ばかりだ。必要ない事、私欲が混ざっている事のない、いい話を期待してくれて構わない。最も誰もがそれを持ってきているのを俺は期待しているんだがな」


 凍り付いた場を引き裂いたのは第五席ゲンブ・オーガスタ・キャロル、冒険者ギルドで新人冒険者の指南を担当している。刀も握ったことがない一般人が彼のもとで一週間指南を受けることでライオンを素手で倒せる筋骨隆々のマッチョマンになって帰って来るという実話もあるほどだ。


 彼の特化分野は武力、第一席でさえ彼との十回勝負で一太刀を当てるどころか服にかすりもしなかった。例えこの場の彼以外の八傑全員が戦ったとしても息を切らすこともできないだろう。それをただの木刀でやってのけるほどの武力を持つ、彼が刀を振るえば斬られた事も気付かずにいられることからついた二つ名が「剣神」彼はそれを己が体術として使ってる。


 「と、言いつつもうちでは色んな話が入ってくるからまとめるのが大変だったけどね」


 ゲンブの話しを遮るように割り込んできたのは第七席アリア・オーガスタ・キャロル、冒険者ギルドのギルドマスターで主に執務の仕事をこなして、休憩時間によくフロントで冒険者達の悩みや話しを真摯に聞いて的確なアドバイスなどで、心の支えとなっている。


 彼女の特化分野は扱える武器の多さ、ゲンブの剣には敵わないものの武器のみならず防具や道具などを斬新なアイデアで使用する事で何度危機的状況も覆すことが出来るアイテムマスター。彼女にかかれば回復アイテムだろうと致命傷を与える攻撃アイテムに、逆に攻撃力を上げるバフアイテムも死者を蘇生できる回復アイテムにも出来る。


 「問題ないです。まとめてある以上、曖昧な情報が錯綜しているというわけではないのでしょう。あなたたちの仮説は豊富な経験を積んでいるが故、当たることが多い」


 口角を少し上げながら笑いを隠している第八席アルバート・レイジ、八傑の中では一番新人だが特化分野によって国王陛下の目に留まり、八傑に所属する事になった。


 彼の特化分野は統率者としての才、彼の率いる隊や軍は、彼が指揮を執る事で一騎当千の力を得ると言われて、国家転覆を狙ったならず者や海賊を彼率いる王国軍親衛隊によって一掃した。彼を象徴する槍術は現在でも年齢問わず、騎士や冒険者、子供達の憧れとなっている。


 「…んー、そろそろ野良とやるのも飽きてきたし、仕事に戻ろー」


 今までの話しを意に返さず、携帯ゲームを操作していた第六席カントリー・J・クーティはパタリとゲーム機を閉じて、目をこすりながら近くに置かれていたコーラ(氷&カフェイン多め)を一気に飲んで頭をブンブンと振って髪をボサボサにして、話を聞く体制にする。


 彼の特化分野は眼を持っている。他の比べるとシンプルで誰でも同じだと思われるがその意味は彼自身が一番自覚している。彼は主に偵察を仕事にしている。国全体の治安維持組織の全体を通してポイントを即時マークをして治安悪化を的確に阻止している。それだけでなく犯罪の行為もなくすことができる。彼はその「眼」をもって国に貢献、そしてこの八傑に選抜されるほどの実力者だ。


 「さて、そろそろ無駄話は終わりにして時間を有意義に使うことにしよう」


 その言葉に八傑はその声の方向に顔を向ける。そこには国の国王陛下リヒト・エンジェルス・シャリアが気配もなく、その場にいた。彼はこの場の誰よりも早くここに着き誰よりも言葉を無駄に発さずに、そこにいることさえ言葉を発するまでその存在を認識することが出来なかった。


 「そうですね…それでは僭越ながらこの第一席が最初に現在の情報を共有致しましょう。補足があれば挙手をしてお願いします。共有者の順番は席順でよろしいですね」


 それに皆は何も答えないが、肯定と捉えていいのだと場の雰囲気で察する。


 「現在の国内で起きた出来事をリストアップして起きました。こちらがそのリストです。既に解決済みのものはレッドスタンプを押しておりますが、解決済みというだけで、情報の見落としがある可能性があるので、各自目を通してください」


 彼がそう言うと円状の机の中央に四角のキューブが浮かび上がりゆっくりと回転しながらディスプレイの画面みたいに文字が映っている。これは誰がどの方向から見ても正面から見えるようにした科学技術だ。


 「ご覧の通り、これらの出来事はおよそ9割が解決済みという結果になっておりますが、前回の時より明らかに多いのはご理解いただけるでしょう。その様な状況でも9割も解決出来たのは、混乱する民をまとめ上げたり、冷静に対処できた八傑の皆様の健闘の結果と言えるでしょう。この場で感謝を申し上げます」


 リュミエールは座ったまま、頭を下げて感謝をすると、それに同じくお辞儀を返すと頭を上げて話を続ける。その時アリアが挙手をして発言をする。


 「確かに検討したのは間違いないけれど、それは私達の働きじゃなくて、それを信頼して実行してくれた人達に感謝をするべきだと思うわ。私たちは例えるならハンドル、それだけでは動くこともできない。重要な動力があってこそ動くことができるのだから、ちゃんと動力になってくれた人達に感謝ね」


 それに同意するように何人かが頷く。リュミエールは少し自分の発言に公開したのか、苦笑いをしながら頬に指をトントンと当てながら、何かを言おうとするが言葉にはならず少し口ごもる。


 「…続けますね、しかし、1割が未解決であるという事実がある為それに関連する情報や関連する証拠などを今回の議論の1つとさせて頂きます。この多さで1割も未解決が残っているのは正直言って多いです。もし、これが後に国を揺るがす事がないように徹底的な案を提出させてもらうことを希望します。わたくしからは以上となります」


 話を聞きながら、思い思いの箇所を調べていたが、リュミエールが話し終えたのを確認して茨巳が話し出す。


 「今回の情報を共有してくれたのは、開発区を中心とした職人通りや、東洋人が多く住んでいる東洋人街、印象としてはリストにある大きな事件があったのに誰もが、被害者の支援や物資の援助に自ら動いてくれていた。それに加わって話しを弾ませると色々と話してくれたよ。わざわざ記憶を辿ってまでな」


 茨巳が話した内容は、混乱に乗じた犯罪が所々で発生している事、それが窃盗や置き引きなど盗みを主としたものが多いが手口に共通点は無く犯人も次々と捕まっているという話、他にもそれに関連した噂があるが、それについては省き、目撃証言や憲兵の聴取で明らかになっている事を話した。


 「中でも多かった情報として気になったのは、密輸の話しだな。知ってると思うが、何か月前からこの国に全国各地から移住や行商人などが多く入ってきている。それについては喜ばしい事なんだが、それに乗じて非合法な物品や薬など1つ上げると次から次へとごっそり出てきて、もしかすると見逃しがあって、気付かずに通してしまったんじゃないかって不安がっている人も少なくない。と、それくらいだな実際、うちの検査は最先端技術で限りなく不正物を持ち込める可能性が0に近づけている。内部調査を徹底すれば更に不正物を発見したり根源から取り除けるのも期待できると思う。…問題はそこまでの人員を派遣したり、相応の信頼できるやつが自由に動けるわけじゃない、そうだろう?真相に近づいていない以上、踏み込めば更に大事なんじゃないかって民の不安が加速するからな、何もできないのが少し悔しい」


 キューブから映されている画面は次々と文字が追加されている。それに目を向けながらも一人一人途中で口を開こうとするが最後まで口を出さずに話しを聞く体制を貫いた。


 「次は、儂か…とりあえず、二席と同じく情報源から話すとしよう。儂の耳に入ったものは王宮の研究者の話しだ。失踪者や行方不明者の話が一番多いが、数日後にふらっと帰ってきていて集団ではなく一人になったのをまるで見計らったように消えることから、同じ手口を使った同一犯の可能性がある。容疑者はいるが明確な証拠がないと牢屋にぶち込むこともできん。帰って来た奴らも口を揃えてどうやって帰ってきたか覚えてない、の一点張りだ。覚えてないのを思い出せなんて口にするのは簡単だが実装するのは難しい。だが、それを解決しなければならないという姿勢はある。靴底や襟元にGPSを仕掛けたり、ネクタイピンにカメラやボイスレコーダーを仕掛けたりしているが、それをしていない人を狙っているようだしな、あと持っている情報は研究結果しか持っていないが、言えることは成果は余り芳しくないってことだ。いくつか商業を手伝ったが、それは詳しく聞くなら儂よりも詳しいやつのほうがいい」


 第三席の研究は多岐にわたる、1つの分野から10個以上の研究科が設けられそれらを総括する以上、ひと時も気を休める事ができない、しかし、彼はそれを気にしないようで毎日研究に勤しんでいる。彼自身から見るとうまくいった物もすぐに欠点を見つけてしまいそれの改良を繰り返す為、それをよくないと思う者も少なくないが欠点を見つけるからこそ常に努力を続けて完全無欠の物を完成品が出来上がる。それがシャリア王国が常に発展出来る理由の一つに彼の功績が大きい理由だ。


 「どうも、未解決の事は三席が絡んでいるのが多いらしいね。棒グラフにしたら棒と呼べないくらい短いんじゃない?まぁ、いいや。次はあたしか、情報は開発区中心、これは常に現場にいるから前の元開発区域からは少し離れているけど、多分新しいのが多いんじゃないかな。貿易部も毎日楽しくも忙しい日々を過ごしているし、喜びと疲労の悲鳴がずっと続いているよ。海外の製品の性能を加味して享受したりしてるけれどやっぱり物売るのが性に合ってるし好きだよ。何本もホネ折ったとしてもね。資産運用はパズルみたいで本当に暇つぶしでお金稼げるのはいいもんだよ。今新しいことに挑戦してて、これたった今追加した奴だけど」


 少し感想と皮肉を述べつつも情報を提供するする。彼女は貿易部と開発区域の代表をして表立っての活動ではなく、人目につかないところでのサポート役に徹している。地味な作業と思われがちだが、開発区域ではその地味な作業が何よりも重要で誰もやりたがらない作業が多いので人員が少ない。


 「その挑戦しているのがちょーっとだけ、面倒なことになっててね。まぁ、その事で了承して欲しいんだけど、あたしがほんの少しだけ現場から離れているうちにバカやった奴がいて、金に目がくらんで組織に売る土地を別の組織に売ったんだよね。それだけならまだ対処できたんだけど、その土地が他と比べて地価が上がった事で問題があって、それがこんなことに」


 そう言ってキューブに映された画面を見て少しリュミエール第一席が少し目を細めた。


 「会場の近くというのもあってそこからのアクセスが大きいし、そこらへんの貴族や大富豪からも狙い目だったんだろうね。その土地を取り合いが始まる前に一手先に手を付けようとした所であたしが先にOK出した後にバカが先客の倍以上の値段を出された結果……あぁ、自分で言ってて頭が痛くなってきた。あたしに相談を一切せずOK出しやがって先客の怒りをしこたま買った結果になったんだ」


 土地の売却はその地価でお金の動きが劇的に変わる。それをいち早く手を打って利益を大きく得ようとする人は少なくない。今回もその一件だが、先客の予定がはいっているにも関わらず、責任者を通さずにいい値段に飛びついて大事になったとなれば流石に無視できない事になる。予約を入れて前払いのお金も既に受け取った後にお金は返すから土地は渡せないし、別の組織に売ったとなれば激怒するのは当たり前と言える。それだけでも懲戒解雇ものだというのにその謝罪以上に面倒な事を残してクビをするのもそれはそれで問題だ。


 「確かにこういうのは責任者である私が取るべきなんだけど、今までお金に目がくらんで飛びついた奴がいなかったから、そういうやつの対処ってわからなかったんだ。だって監督不行き届きなんてなかったし、みんないう事聞いてくれたから、そんなことする人がいること自体信じられなかったし」


 口を尖らせていう四席に苦笑いをする他のメンバーの視線を流すように目を泳がせながら、額の汗を流す。


 「まぁ、そこで第三席殿に一枚かんで貰ったの、その別の組織から買い取って貰った。リストの中で添削仕様がないやつの1つに移住者の対処として後々に宿泊施設の建設の打診があるよね。それを先客の組織に任せる。で後からきた組織からは運営を任せる事にしてもらった。さすがは学問については右に出る者はいないと言われるだけはあるね。後はそれが手を出しやすくするのが私が手を出すだけになった。…うーん、一件一件詳しく言っちゃうと本当に時間がないなー、でも開発区域では適当に進めたらそれこそ取り返しのつかないことになっちゃうし、これでいいよね」


 開発区域は現開発区域と元開発区域の責任者は別となる。彼女は常に開発区域に身を置いて開発がひと段落すればすぐにその場から信頼できる者を責任者に据えて自分は新たに開発区域に移動をする。彼女が責任を負うのはあくまで開発完了まで、責任者に任命されたのは彼女だけでなく貴族や平民からも信頼の厚い人物、その中でも裏表のない一面性のみの人物を厳選して任せている。


 「さて、次は俺と…そうだな、いつも通り情報を提供者は冒険者ギルドの冒険者彼らから聞いたのは主に素材の依頼が増えたってことだな、知っての通り魔物や動物の毛皮や骨、中には血液や目玉を使って家具や研究材料に利用される。その大半は冒険者の武器や防具に使われるが、それだけでなくアーティファクト…聖遺物にも出来る。ヴェルスター学園の学生は魔道具を作りたいが為によく依頼を出すが、素材の原価を知って自分で冒険者になって現地まで取りに行くのも珍しくないしな。それで死にかける奴もいるから、その度に熟練者をこっそりとついていかせたりするのも一苦労だ。他には市場や港の物価だが、それはほとんど周知の情報だからそれ以外だと何も…あえて言うとしたらうちの敷地が大きくなって、更に多くの動物を飼育するようになったことだな、近くの家の子供がよく見に来るよ。待てよ…そう言えばコカトリスの幼体が最近大量発生しているというのを聞いたな、幼体だから石化の瞳も未発達で卵を守る親もいないし、討伐自体に問題はないが被害が出るか、エンカウント以外で手を出せないのが少しむずがゆいが……もう少し成長したら、素材の材料として討伐依頼も出てくるし、状態が良ければ依頼額も跳ね上がる。まぁ、そこら辺は冒険者ギルドとしての問題で国の問題とは言えない。ただ、コカトリスの大量発生が山脈付近の洞窟で起こっているのが俺が持っている情報の全てだ」


 第五席は冒険者の指南役ということでそこでの情報が主だ。それ故に特段変わった出来事がないが、それだけ多くの情報を出すのは今まででも多くはなかった。それ故に今回はそれだけの出来事が多かったという証明になっただろう。


 「…うん……えっと…情報は主にネットの中だから、事実を見つけるのは少し骨が折れたけれど、裏通りでの抗争がすこし増えたかな。絡む奴らは典型的な自分よりも弱い相手しか狙わないで時と場所も選ぶ安全圏で甚振りたいやつだね。ボコって毒を注入したら自殺しようとしたから止めたけど、なんか最近そういうやつが増えたというかやたらピリピリしているというか落ち着きがないくらいかな、更生しようとしている人も増えているけど、それに乗じての争いって感じかな、国内としてはこれ以上の情報はハッキングしないと無理かな、面倒だし足跡消すのに手間取って逆探知されたらやばいから、あきらめたけど、いや、追いきれなかった、というのが正しかったな。そういうトラップがあるんだよ。書き込みから後を追うと途中のサーバーでログを残しまくるっていうのがあって、それで追いきれなかったっていうのが張られていた。並のハッカーじゃそれに引っかかってドボンって感じ、でも相手はプロとは言えないな。あっ、口が滑ったから言うけどうちのサーバーが攻撃受けたんだよ。一回だけなら愉快犯の可能性もあるけれど、うちが持っているやつに立て続けに攻撃を受けたとなったら、流石に疑わないほうがおかしい。そうそう、何で相手がプロじゃないかって分かるのが常套手段を取っているから、プロなら自分だけのハックツールを使うはずだし、物理的に他人のIPアドレスを利用してのハッキング、ネカフェを使って海外のサーバーを攻撃するのはザラだし。ログを断ち切られたら後を追えない。まぁ、めどは立つ、トラップを張ってて誰かの存在を利用しているとなれば、待ち伏せしたいってことでしょ?これをここで言えてスッキリしたよ。君たちに裏に繋がっている人がいないのは確認済みだし」


 彼の情報網はそれこそ専門家顔負けのネット知識、彼の存在自体がネットの中から的確な情報だけでなくネットを利用したハッカーを数秒で特定出来る。自作のパソコンを数十台持って、最大5台のパソコンを頭、両手、両足で同時に操作してネットに関する情報なら世界一の才能と言っていいだろう。それでも彼の第六席という地位はこの国の位の高さが他国から見ても恐ろしいのだろう。


 「全体的にざっと見てみたけれど、解決済みのやつはそれ程、修正箇所はない。逆に言えば調査中のやつは情報が錯綜しているからまとめ切れてないね。所々に矛盾が生じている。私が持ってきた情報はウチのギルドが行っている貧民区への炊き出しかな、みんなそれだけで情報ボロボロくれるもの、お酒を持って行ったのなら更に伝手を紹介してくれるし」


 この国でも闇市やスラム、段ボールハウスに住んでいるホームレスのたまり場がある。ギルドはそこへ更生目的という形で炊き出しを行っている。更生に成功したのは徐々に増えているが、中には野良猫や迷い犬の世話を生き甲斐として頑なになっているホームレスも多い。


 「彼らの話では、最近おかしな奴がいかにも怪しい言葉でクスリを売ってるんだって、ただの商売にしたって貴族や平民を相手にした方が遥かにいいのにホームレスを対象にしているなんて明らかにおかしいでしょう?物々交換でもなく明らかに金銭を貰っているし、それで伝手に金銭を渡してクスリを持って来たんだけど、それは後で見せるわ、まずは情報の提示でしょ?そのクスリなんだけど、何回か使ってみたの、それを使ってみたらビックリ、マウスに注入したらケージにヒビが入るほどの力を発揮したの、二回目で完全にケージが壊れた。しかも体当たりならまだしも前脚での力のみでの力だから驚きよね。他にもモルモットでも同じ効果が見られたんだけど、どうも肉体の急激な異常進化に肉体が耐えられなくなって最終的には肉片がそこら辺に弾け飛んだ結果になったわ。これはマウスもモルモットも同じ、今は他の動物で試そうと思うんだけど、人間で試すのは個人的にもいい気分じゃないし、実験者の被害は最小限に抑えるのが一番だからね、とにかく次の対象が人間より大きいか小さいかで悩んでいるところ、これはギルドの職員総意だからね」


 クスリの事でその場のメンバーの顔が少し戸惑いの表情が見れた。そのクスリ売りの正体よりもそのクスリの正体が気になるようだ。


 「謎なのがそのクスリをどうやって持ち込んだか、というのもあって入国手続きで必ず引っかかると思ったんだけど、未だにそのクスリ売りが捕まってないんだよ。まず、入国手続きで手荷物検査が行われるからそんなの一発でアウトでしょう。二つ目に目撃証言から売っているのは老若男女様々、爽やかなスポーツマンの男子高校生から還暦を迎えたしわくちゃな老婆まで、時には二人以上でやや強引に売っていることもあるらしい。これはさっき言ってた裏路地である暴動に関係あったりするんじゃない?怪しい連中がそういうのを行っているから、危険性を察知してぴりついているのかも、とにかく検査場でも厳戒態勢を敷くように手配してくれない?流石に一人二人ならともかく全員が敵ってことはないだろうし」


 そこまで言うとアリアはこれ以上は確証できる情報がないのか座りなおして背もたれに倒れこむように腰を下ろした。


 「ありがとうございます。最後に私がというのもあって少し緊張しますが、そうですね…何から言えばいいのか、親衛隊は業務以外の無駄話をあまりしないので、敢えて話題を上げるのならば、聖騎士の大損害の話題が上がっていた事…でしょうか。ついこの前、魔界開拓の大規模な計画があったのは既に知っている人も多いでしょう。しかし、その被害についてはまだ一般的には公表されていない部分があるのも事実です。その事については実際に開拓のメンバーの一人として参加したわたくしから、ご説明させていただきます。まず、今回の開拓計画には大規模というだけあって多くの人が参加させて貰いました。しかし、魔界に一歩踏み出した時にそれを待ち構えていたように魔人達が遠距離から弓矢や魔法で攻撃を開始しました。それにいち早く気付いた聖騎士達がすぐに防御陣形と魔法で防いだのですが、それからは応戦をするしかありませんでした。元々友好的な関係ではなかったにしても、魔人達は手を組んだり大人数で行動するのが苦手なはず…まるで別人か何者かに洗脳されているようでした。互いに前衛、中衛、本殿と結果的に大規模しか合ってない争いになってしまいました。最後には敗走する形で私が率いる親衛隊と第二聖騎士団が殿になって帰還しました。死者が出なかったのは本当に幸運でした。いつ死んでもおかしくなかった。それほどまでに彼等は話し合うことすらせず、迎え撃つ気しかなかったんです。な、なんか一度話すと上手く止まれなくなってしまいましたね…私からは以上です」


 全員が話し終えた後、それぞれの情報からまだ回収されなかった詳細について追及されたが、それ以上の情報はまだ確証が得られずに新たな情報待ちと照らせ合わせないと確定とは言えない情報ばかりだった。


 「それで、私が持ってきたというクスリが、これなんだけど…」


 アリアが取り出したものは瓶に入った錠剤、一番目立つのはその色、黒い。真っ黒な錠剤が全員の目を引いた、ラベルには市販のクスリのラベルが張られているが、明らかに色が違う。錠剤には名前もなく、1つ割って見るがなんの臭いもしない。ただただ黒い、それだけでこんなにも違和感を覚えた。


 「これ、月影じゃないか?」


 リヒトが一言そう言うとゲンブとアリアを除く全員が目を見開き、瓶から数粒手の中で転がして何かを考え込む。


 「月影?なんだそれは」


 「今まで色んな国を渡り歩いてきたけど、そんなものは聞いたことがないわ」


 2人がリヒトに訪ねている間も他のメンバーはクスリをジッと眺めたり握りしめて割ったりしている。


 「あなたたちが来る前、私が国王陛下として政治を行い始めた頃、先代の国王がとあるビジネスを始めたんです。思えばこれが八傑を結成する切っ掛けと言えるでしょう。それが薬学に関する研究でそれは作られました。肉体の自然回復の強化、例え腕が吹き飛んでもほんの数日で元通りになると一時期話題になりました。しかし、それは肉体の限界を超える為その副作用を加味して中止を命じましたが、先代はそれを無視、完成した薬を売ってそれを自分だけの利益にしたそうです。しかし、それが災いして元々治安悪化の一途をたどっていたこの国が更にそれを加速させてしまったのです。それを対処するために設立したのが6人の番人、今で言う八傑が出来たきっかけです。そのクスリは形状も効果も曖昧なまま闇に葬られました。なんせ、先代に罰を言い渡した時には彼の手元には錠剤は一粒も残らずに利益になったお金しか残ってなかったから…まさか、これがその月影ならば、これは見て見ぬふりを出来ない。この件は大事にせず我々の中で人知れず、解決するのが得策でしょう。国民に不必要な混乱をさせるわけにはいきません。皆様、ご協力をお願い出来ますか」


 「それを言うなら、こちらこそだ。騎士は動かせなくとも兵士は動かせるだろう。コカトリスの幼体はギルドでは被害が出ないと動けないが兵士ならそこら辺のフットワークが軽い。それに…俺たちが八傑にいる以上、国王にお願いされるのは信頼されている証、故に俺たちの答えはこれだ」


 八傑はリヒトを中心に取り囲むように経つをそのまま片膝を着く。


 『ご用命とあらば何時でもお力になりましょう。我が主よ』

次回5月末予定

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