9話 ダークヒーローになるようです
「風が気持ちぃー」
私は城にいくつかあるテラスにいた。
外の風が溢れだした涙を乾かす。
「涙を流すなんて何年ぶりだろう」
そもそも泣いたことなんてあっただろうか?
少なくとも止まっていた私の時間が少し動き始めた気がする。
「私、変われるのかな」
私は変わりたい、周りがおかしいのだと決めつけてきたけど。
それでは何も変わらなかった。
でもあの人ならなにか変わるきっかけをくれるかもしれない。
「こんなとこにいたのか」
「だれ?」
「なんだ?俺のことを忘れちまったのか?さっきも会ったばかりだろう?」
「ザコル……」
こいつがすべての元凶、でもあのとき私のことを話さなければと何度思ったことか。
「こいつは上玉だな」
「話に聞いていた通りだな」
ザコルは見たことがない男を2人連れていた。
「なにをしに来たの?」
「いや、予定が狂っちまってな、やつがこんなに早くかえって来るとも思っなかったし、変な新入りも来るしな」
やつが誰だかはわからないけど新入りってのは暗黒騎士のこと?
「やれ」
「「まかせとけ」」
不意に近づいてきた男2人に両手を捕まれる
「いや‼触らないで、殺すわよ」
「「おー怖い怖い」」
しかしなぜだか男たちはすぐに手を離した。
どういうこと?襲うつもりだったんじゃないの?
でもこれでも正当防衛になるわよね。
「今までは我慢してきたけど、これ以上なにをされるかわかったもんじゃないわ、ここで再起不能にしてやるわ」
そうして魔力を集中させる……しかし魔法は発動しない。
「え、なんで、こんなこといままでなかったのに」
「成功みたいだな」
ザコルは不適な笑みを浮かべる。
「なにをしたの?」
「手首を見てみろよ」
そう言われ手首を見るとさっきまでなかったブレスレットが両手首にはめられている。
「なにこれ……」
「それはな”魔封じの腕輪”といってな、魔法が使えなくなるんだ」
「そんな……」
「いやー手に入れるのに苦労したんだぜ?だいぶ高かったしな」
まずい、まずい、すごくまずい、魔法があればどうにでもなると思っていたけど、魔法がなければどうしようもない。
「俺はなお前が強力な魔法を使えることぐらい知っていんだよ」
「どおすんだ?」
「実験は成功だろ?早くしよーぜ」
「それもそうだな、俺の部屋に連れてけ、ついでに口は縛っとけ、叫ばれたら困る」
「いや、来ないで」
「おとなしくしとけよ」
魔法に頼りっぱなしでろくに体を鍛えて来なかった私は男の力に勝てるわけもなく、両手足は縛られ口にも縄が巻かれた。
「ん‼んー‼んー」
「だいぶおとなしくなったな」
「はやく連れていけ」
今まで耐えて来たのに結局こんなところで終わってしまうのか。
私はこれから行われるであろうことにきっと耐えられないだろう。耐えられたとしても死のう。
やっと希望が見えてきたところだったのに。
「なんだ?そんな顔をしてもう”純血”だなんて呼ばれなくなるんだぜ?良かったじゃねーかwww」
「んー‼んー‼」
「なんだ?聞こえないなwww」
せめて死ぬ前にこいつだけは殺してやる。
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「泣くほどつらかったんだな」
ルナと別れて俺は自分の部屋でゆっくりしていた。
「なにか力になれればいいけど」
それにしても~たった1度の強制イベントてだいぶ距離縮んだ気がするし、これなら個別ルートも近いな。
という冗談はさておき、それにしても遅いな。
隣の部屋だからドアの音くらいは聞こえるんだけど、全然戻って来ないじゃないか。
ちょっと心配だな。
「う~ん、探しにいくのはさすがに……がぁッ‼」
急に目に激痛が走った。
しかし一瞬のことで不思議と痛みもひいた。
魔眼に副作用があるなんて話聞かなかったけど。
ーーーーーこれは貸しですよ。
ん?どこからかシエラの声が聞こえた気がした。
「いや?気のせいか?」
しかし次の瞬間、俺の体は唐突な衝動に刈られた。
ーーー行かなくては。
どこに?
どこかはわからないが俺の体は知っているようだ。
多分ルナを助けなければいけない。
部屋を出た俺は迷うこともなく走り出した。
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気がつけばすでにザコルの部屋のなかだった。
ああ、終わった。今まで耐えきたもの、守ってきたものはすべて無駄になるんだ。
「お前の周りから人を消すのは大変だったぜ」
やはりすべてはこいつの仕組んだことだった。
「サキュバスの初めてなんてレアだからな」
「ローブが邪魔だな」
ローブを強引に剥ぎ取られる。
これから私はどんなことをされるのだろう。
いくらサキュバスでも行為は初めてだし。
「…………」
「随分大人しくなったな?」
「…………」
「まあいい、それにしてもローブの中はまさかこんなにエロい格好だったんだなww」
着たくて来ている訳じゃない……ステータス上昇がいいし、これ以上の装備は、今の私には買えないし……。
「サキュバスってのは皆こんなの着てるんですかね?」
「男を誘惑するためだろ」
「どうでもいい話をするな、時間がなくなっちまうだろ」
「「悪りぃ」」
今度はその手が私の素肌に触れそうになったときだった。
「なにをしている?」
聞こえたのは彼の声だった。
開いた窓から差し込む月明かりに照らされて鎧のシルエットが写し出される。
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