悪魔に転生してました外伝〜ニワの迷宮主日記〜
悪魔に転生してました。に登場するニワの日常です。
息抜きで書きました。
「今日は抹茶小豆のあいすくりんにするのじゃ」
ニワが、目の前にある半透明のモニターを操作すると透明な器に、見た目可愛らしい球体の状の抹茶アイスに小豆トッピングされ、さらに練乳のかかったデザートが現れた。
「これじゃ、これじゃ」
ニワの目尻は自然と下がり、口元が緩みに緩んでいく。
ニワは早速、粘土を焼いてできたような茶色のスプーンをどことなく取り出すと抹茶アイス、小豆、練乳といい按配にすくい取った。
「うほほ……」
嬉しさのあまり変な笑いを上げたニワだったが、この場にはほかに誰もいないので、気にせずそのまま自身の口へと運んだ。
「んん〜!」
口に入れた瞬間、練乳と小豆の甘みの後に抹茶アイスのほろ苦さとお茶の香りが口の中いっぱいに広がりニワは思わず手足をバタつかせた。
「う、う、美味いのじゃ……」
満面の笑み浮かべながら頬張り続けるニワ。気づけば美味しさのあまりぺろっとそのアイスを食べてしまっていた。
「あぅ、もう無いのじゃ……残念なのじゃ。おかわりしたいところじゃが……」
これは、迷宮の主であるニワが不純物ポイントを消費して出したものだった。
迷宮主であるニワは、迷宮外のものを不純物として吸収し不純物ポイントにできる。
その逆として、一度でも迷宮に吸収させれば不純物ポイントを消費することで吸収したものを何度でも再現することができた。
ただし生物以外であるが、迷宮主の特権である迷宮魔獣については不純物ポイントで生み出せる。
「ん?」
ニワはモリター中の一つにしゃがみ込む一人の少女を見つけた。
「地下一階層……クローのところの二人と同じくらいちっこいのじゃ」
しばらく見ているが、一向にその少女は動こうとしなかった。
「うむ」
時間のたっぷりある暇なニワは、その少女が気になって気になってしょうがない。
「そうじゃ。行って話でもしてみるのじゃ。クローは顧客に満足してもらうことが大事で、ゆくゆくは、それが感情値の増加につながると言っておったのじゃ」
ニワはクローが己に頭を下げる姿を想像した。
「ふふ、ふふふ……」
思わずニワの口元が緩んだ。
「そうじゃ。もっともっと来宮人口を増やして、クローの欲しがる感情値とやらを増やしてやるのじゃ。クローにさすが迷宮主のニワだ、と言わせてやるのじゃ……くふっ、くふふ、かーっかっかっか……けほけほっ。
うむ、それじゃ早速、迷宮転……」
ニワは少女のところに迷宮転移をしようとして、またしてもクローの言葉を思い出した。
「そうじゃった。クローは、この部屋から出る時は一人で行動するなとも言っておったのじゃ」
しばらく考えたニワはモリターに触れある項目をタッチした。
「迷宮魔物一覧っ……あう、多いのじゃ」
迷宮魔獣の量に、見て早々に根を上げたニワは――
「これは、いつものマンティコアにでもするかのぉ……」
よく召喚する合体迷宮魔獣を召喚しようと、タッチパネルに触れ操作しようとして思い留まる。
「いや、待つのじゃ。マンティコアではこの少女が怖がるやもしれぬのじゃ。
なんて言ったってマンティコアは最凶最悪じゃからのぅ……
ふむ。ここは合体前の迷宮魔獣、迷犬にでもしとくのじゃ……よっと、迷宮魔獣、迷犬名前は……チロ……さぁ、来るのじゃ。迷犬のチロ!!」
ニワの前に小さな魔法陣が現れポンっという音とともにニワの遥か遠い記憶の彼方、前世の記憶でいうところの豆柴によく似た迷宮魔獣が現れた。
「わふ」
「おお、迷犬チロよ。わしの共をするのじゃ」
「わふ」
「うむ」
迷犬チロが嬉しそうにしっぽぶんぶん振って応えた。それを見て満足そうに頷いたニワは早速、迷宮転移で少女の元に移動した。
――――
――
「お主、そこで何をやっておるのじゃ」
「わふ」
ニワの声にびっくりしつつ見上げた少女の顔は今にも泣きそうな顔をしていた。
「お、おねぇちゃんだれ?」
「わしはニワ。こっちは迷犬チロじゃ」
「わふ」
「してお主は何と言う?」
「スイはスイ……」
そう言った少女は再び膝を抱えて俯いた。ニワもスイの横に同じように座ると迷犬チロは二人の目の前にちょこんと座った。
「して、スイは何かしておるのじゃ?」
「たからばこ、このへやによくでるってきいたの、それでまってるの……」
「スイはたからばこを待っておったのか……」
人は誰しも欲を出す。スイの言葉に興味を失ったニワは立ち上がろうとした。
「スイのおかあさん、びょうき。ぽーしょんほしいの……」
なぜか病気という言葉に胸の奥が疼いた。でも遠い記憶のどこかにあったことで今のニワではよく思い出せなかった。
――むむ、スッキリしないのじゃ。
再びニワはスイの話を聞くことにした。
「……スイの母上は……病気なのか?」
スイがこくりと頷きそのまま立てた膝に顔を埋めた。
「しんりょうしょ、おかねなくていけない。おくすりかえない。はんたーのひとはなしてた。
ぽーしょんあれば、たいりゃくかいふくするって……たいりょくあれば、おかあさんもびょうきにまけない」
よく聞けば食事も満足にできず、やせ細っているという。一時的に体力が回復したところで、病気に打ち勝てるほど回復できるだろうか、とニワなりに思った。
「ふむ……」
正直にポーションでは病気は治せないと教えてあげ、この、階の弱っちい迷宮魔獣を踏みつけさせてお金を稼がせてあげたた方がいいのではないだろうか、と思い悩んだところで、ふとクローが各階に設置した〈願いの部屋〉を思い出した。
――そうじゃ。
集客アップのだめだと言いつつも、なぜか、クローは女性用入口の方のみの、地下十階層までしか設置しなかったが、たしか地下一階層の願い部屋では何でも回復ポーションを欲すれば叶えてくることを思い出した。
「スイ。思い出したのじゃ。何でも回復ポーションが手に入る部屋があるのじゃ」
「……なんでもかいふくぽーしょん?」
「そうじゃ。ほれ、スイ行くのじゃ。チロもついてこい」
「わふ」
そう言って立ち上がらせたスイの手を引き願い部屋へと向かった。
――――
――
「ここじゃ」
狭い通路を四つん這いに進むこと数十分。まだ誰も利用されたことのない願い部屋は閑散としていた。
「ここにぽーしょんある?」
部屋を見渡し首を傾げるスイに、ニワは中央にある凹型のベッドに似た台座を指差した。
「うむ。見ておれ、こうするのじゃ」
「うん」
「わふ」
一人と一匹からの返事を後ろ耳に聞いたニワは凹型のベッドにうつ伏せに寝転んだ。
「たしか、こうだと言っておったはずじゃ……」
身体を少しずつずらし、胸部に凹みがくるような位置にずらしたところで、がっちり何やら身体を固定される感覚がした。
「うむ。ここじゃな。ここで、ポーションがほしい、そう言うとじゃな……あ、くふふ、あはは、くすぐったい、あはは……ふふはふふ……」
しばらく胸部をくすぐられ悶えていたニワの耳にチンっと甲高い音が聴こえてきた。
それと同時にニワの胸部に触れられていた手のような感覚と、身体を固定していた感覚が消えていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「お、おねぇちゃん。ぽーしょん、ぽーしょんがでてきたよ」
「……そ、そうか、それは、よかったのじゃ……」
驚きはしゃぐスイを横目に、不思議とぽかぽか身体の火照ったニワはまだ動けずにいた。
――――
――
「母上によろしくなのじゃ」
「うん!」
スイは何度も振り返り、嬉しそうに手を振り迷宮の外へと駆けていった。
嬉しそうに駆けていくスイの手には大事そうに抱えた何でも回復ポーションがあった。
もちろんそれはニワが与えたものだ。
スイ自身もニワがやったように凹型のベッドに横になろうとしたが、身長が足りずできなかった。
ほんとうはクローの作った願い部屋の商品。自分の部屋に飾ろうと思っていたニワだったが、何度も挑戦し、しょんぼりとするスイを見兼ねたニワが与えた。
「これでいいのじゃ。のうチロ?」
「わふ」
嬉しそうしっぽを振る迷犬チロを抱えたニワは迷宮主の部屋へと転移した。
「おお!」
すると、部屋の半分以上を埋め尽くす見たことのあるよな、無いような大きな家具や家財が積み上がっていた。
それはクローがゲートを使い定期的に送ってくれる不純物と変わらぬ量だった。
つい数日前にも貰った記憶があり、定期不純物にしては早すぎる。
なぜ? とも少しは思ったニワだったが、間違いだったと回収されるのを恐れたニワは早々と不純物ポイントへと変換していく。
「もうわしのポイントなのじゃ……ん?」
それでも、クローに感謝しつつ不純物ポイントへと変換していく。すると、その中から可愛らしい一冊の日記を見つけた。
「おお」
ニワは懐かしいと感じた時にはその日記を手に取ってパラパラとめくっていた。
当然だが、その日記は真っ白だった。
――『この日記かわいい。ねぇねぇ……。わたし今日から……いいでしょう?』
それでも断片的に何やらぽかぽか暖かい懐かしい記憶が蘇るのを感じた。
「……かわいい日記……」
――うむ
しばらくその日記を手に眺めていたニワは、急に両手で日記を掲げチロに向かって宣言した。
「チロよ。わしは今日から日記を書くのじゃ」
「わふ」
迷犬チロも嬉しそうにしっぽを振って応えた。
「さて、早速なのじゃ。なんて書こうかのぅ……」
今日は色んなことがあった。スイと言う少女にもあった。初めてクローの作った願い部屋を使ってみた。楽しかった。
「……うん。これじゃ」
書くことが決まったニワはすらすらと日記を書いた。
◯月◯日 今日は抹茶小豆のあいすくりんを食べた。おいしかった。
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