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11 教会の子供達

 メルトホルン市民区の端には教会が設営されている。この教会では様々な理由で親を亡くしてしまった子供も預かっており育てている。翔はある理由でこの教会兼孤児院と係わりを持ち親しくしている。


 30分後、翔は協会に着いた。協会は協会としての活動用の礼拝堂と孤児やシスターが住む住民に分かれている。翔はまず礼拝堂に向かった。そこには一人のシスターがいた。


 彼女の名はジル。この教会兼孤児院の院長をしている。ジルは翔に気づくと話しかけてくる。


「おかえりなさい、翔君。無事でよかったです」


「ただいま。ジルさん、みんなは元気?」


「ええ、子供たちは・」


 翔達の話が聞こえたのか奥の居住区から足音が聞こえ子供たちが出てきた。


「お兄ちゃん、久しぶり」


「今度はどこに行ってたの?」


 翔は孤児院の子供たちの頭をなぜながら迎える。


「みんなただいま。元気にしていた?」


「うん」


「元気」


「ごはんもいっぱい食べてるよ」


「お手伝いもしてるよ」


「うん、みんなちゃんと生活できているみたいでよかった」


 そこにジルが子供達を翔からはがし、子供達に戻るように伝える。


「ほら、みんな翔君は何か用事があって来たみたいだから離れて」


「「えー」」


「話が終わったら遊んであげるからこのクッキーでも食べといて」


「やったー」


「わーい」


 と子供たちは奥に戻っていった。


「じゃあ話を聞こうかしら」


 翔は協会の近くの土地を買ったこと、その土地にお店を作ることを話した。


「だからこれから周りが騒がしくなるし、お店ができたら子供たちに仕事を頼みたいことがあるけど、大丈夫かな?」


「そうなの、わかったわ。周りが騒がしいのはいつもの事だし、仕事の件も大丈夫よ」


「よかった。でも仕事の内容聞かなくてもいいの?」


「ええ、私も子供達も翔君は信用しているし多大なる恩を返したいと思っていたから」


「・・・(テレッ)」


 翔は照れながら当時の事を思い出す。



 俺が異世界ヴィジョンに来てメルトホルンで冒険者として生活していた。そんなある日、昼食を何処で食べようか考えながら歩いていた時香ばしい匂いが漂ってきた。その匂いをたどったらオークの肉を串に刺して売っている屋台を見つけた。


 俺はその屋台で何本か豚串を買い食べてみる。一口食べると肉汁が溢れとてもおいしかった。と串の味を楽しんでいるとクイックイッと服を引っ張られた。そこには裾や袖がちぎれている服を着た子供たちがいた。これってまさか


「ああ、その子たちは協会の孤児たちだな。たまに食べ物をもらいに来てるんだ。ほらお客さんに迷惑だろ。どこかに行きな」


 子供たちは屋台のおっちゃんに追い返されどこかへ走っていく。やっぱり孤児だったか、食べ物をもらいに来るっていうことは例のパターンかな。


「ねえ、おっちゃん。教会では子供達を養うことはできないのか?」


「一応、国から補助金は出てるはずなんだが、あの様子を見ると足りないんじゃないか?わからんが」


「ふーん、今教会の子供達って何人いるの?」


「ん?どうした突然。たしか15人ほどだった気がするが?」


「だったら、豚串追加で40本ほど売って」


 俺のその言葉に驚き屋台のおっちゃんは聞き返してくる。


「いいのか?今更あんたが少し渡すだけじゃ何も変わらないぞ?」


「いいから、売ってよ」


 俺は追加で買った豚串をカバンの中の【収納空間】に入れ、先ほどの子供たちの後を追いかけた。子供達3人はふらふらと歩きながら前を歩いていた。よく見ると体も細く栄養が行き届いていないようだ。


 俺は子供達に追いつくとカバンから豚串を取り出し差し出す。子供たちは突然出された豚串を見つつこちらの顔をうかがっている。俺はうなづいてあげると子供たちは我先にと豚串を食べ始めた。その必死さを見ながら少し涙が出てきそうだ。


 俺は別に誰でも助けるわけではない。ヴィジョンに来た当時なら心の余裕もなく金銭の余裕もなかったため見捨てていただろう。しかし今の自分にならどうにかできるかもしれないから助けようと思った。


 その後豚串を食べ終わった子供たちに教会の場所を聞き向かった。協会は市民区の端にあり、その周囲の土地には何もなかった。教会もよく見ると柵が壊れており、壁にはひびが入っていたり、窓ガラスも割られていたりしていた。俺は子供達に案内され教会内に入る。中には一人のシスターがお祈りをしていた。


 子供たちはシスターに近づいていく。


「院長先生、お兄ちゃんが何か聞きたいことがあるんだって?」


 子供たちが伝えるとシスターはこちらの方を向くと名前を名乗り始める。


「初めまして。私はこの教会のシスターをしているジルと言います。えーと、どのような御用でしょうか?」


「俺の名前は天魔翔って言って最近このメルトホルンに来たんですけど、今日街中で豚串を食べていると子供達に会ったんですよ」


 ここまで俺が話すとシスターは子供達をにらみながら叱り始めた。


「あなた達、また屋台のとこに行ったのね、だめでしょ」


「だってお腹すいたんだもん」


「お兄ちゃんが豚串くれたの。おいしかった」


 ジルさんは子供たちの話を聞いて慌ててこちらに頭を下げてきた。


「もうしわけありません。今すぐ代金を払います」


「いや気にしないでください。あとこれ皆で食べてください」


 俺はカバンから先ほど買った豚串を取り出した。しかしジルは首を横に振りつつ断った。


「いえ、そんな、もらうことなんてできません」


「間違ってたくさん買ってしまったんですよ。それに子供たちは欲しそうですよ」


 俺はちらりと後ろの扉を見ると豚串の匂いに引き寄せられて顔を出す数人の子供がいた。俺は豚串を差し出すと子供たちは群がるように豚串を食べに来た。


「あと、お金はいらないよ。でも一つだけ聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいことですか?」


「うん、この教会への補助金はどうなってるの?」


 おれがジルさんにそう聞くと、ジルさんは困った顔を向けてきて説明してくれた。以前は十分あったのだが少しずつ減らされ1年前からまったくなくなってしまったらしい。これまではどうにか寄付金で賄ってきたがその寄付金も尽き子供達に食べさせるのも困難になってきたと。


 うわー、これってあれだよな、国が渋ってるか、仲介役の貴族か役員が採取してるかのどれかだよな。だったらレオナに相談するのが早そうだな。ちなみにレオナは別件で今日は居ない。よし、まずはできることからするか。


「ジルさん、キッチンまで連れて行ってくれない?」


 ジルさんは不思議に思いつつ住居内のキッチンまで案内してくれた。俺は近くのテーブルに依頼で余っていたオークの肉3頭分、いくつかの野菜、調味料を置いた。ジルさんはその様子に驚きながら訪ねてきた。


「これは一体?」


「とりあえずこれだけあれば3日は持つでしょ。これで食事については大丈夫だから。次はこの教会兼孤児院の設備についてだよね」


「あの、翔さん、私たちはこんなにされても何も返すことはできませんよ?」


「別にいいよ。今は余裕があるから助けられるだけだから。この食べものも余ってたしね。それにこんな子供たちの状態はほっとけないしね」


 ジルさんは俺のその言葉を聞いて涙を流し何度もお礼を言ってきた。


 俺はそれからとりあえず協会から出てべリオス商会に向かった。足りない服や布、食器などを購入するためだ。店員にいろいろ頼んでいると来店に気づいたルードとサクヤが近づいて来た。


「翔、今日はどうしたの?結構買い込んでるみたいだけど?」


 俺は今やっていることを説明するためルードの仕事部屋に行き相談した。するとルードとサクヤは驚いた顔をしながら相談に乗ってくれた。


「だったら費用はこっちで持つよ。あとこれらも足りないはずだ」


「いいの?」


「ああ、俺らもまさか協会がそんな状態になっているなんて気づかなかった。だからそのぐらいはさせてよ。あと大工もこっちで探しとくから」


「あ、でも」


「わかってる。気づかれずにだろ。任せ解きな」


 よしこれで生活用品と教会の改修については問題なさそう。あとは補助金の方だな。


 俺はレオナがいる城に向かった。


「なんですって?」


 俺の話を聞いたレオナは怒りに身を震わせテーブルをたたき割った。そしてすぐにアルフレッドさんの下に向かった。アルフレッドさんはエリザベスさんと共に執務室にいたが突如扉を乱暴に開けたレオナを叱ろうとしていたがレオナの話を聞いたとき顔を怒りに染め。部屋の外にいる兵士にある貴族を呼びに行かせた。貴族を待っている間、アルフレッドさんは俺に現状を聞いて来た


「で、翔、教会は今どうなってる?」


「俺が気づいたときは子供たちはろくにご飯も食べられなかったみたい。一応俺が食べ物を渡したから3日は持つよ。後生活用品についてはルードに頼んだから大丈夫。教会の修理についてもルードが大工も探してくれるって。でも補助金の事がわからない限り取り掛かれないから急いでといわれた」


 それからは早かった。すぐにアルフレッドさんが採取していた貴族や役人を処罰し、補助金を復活、ルードの手によって集められた大工によって教会の修理は直ちに行われた。


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