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理想の果てのニルバーナ  作者: swallow drop
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2話 バベル (後半)

「良い出力だ。だけどね、これが本気では無いよっ!」


 鍔迫り合いの中、山那はいきなり後ろに飛び退き、蓮はそのまま剣を振り切ってしまう。

 しかし山那は追撃することなく剣を下ろし、ニヤリと笑う。


「エリュシオン…起動 。」


 その声とともに、瞳が琥珀色に染まり、金色のオーラが鎧にまとわりつく様に広がる。するとその鎧はするりと解けるように形を無くし、ただ山那の周りをとぐろを巻くようにゆらゆらと揺れている。


「ここから本気を出すよ…ついて来れるかい?《英傑投影》!」


 そう叫ぶと体の周りを取り囲んでいた金色は、鎧に変わる。

 しかしその鎧の後ろには山那がいる。中には誰も入っていないのだ。しかもその鎧が2つ。剣を掲げて立っている。


「これが私の能力、《英傑投影》。私のエリュシオンに記憶された武人たちの姿をアリアドネで再現し私の意思で操るものだ。」


 アリアドネで作られた黄金の騎士は揺らぐことなく直立している。その後ろで山那が腕をいっぱいに広げる。


「見えるかい?この右腕が。これが私の義手、エリュシオンだ。見たところ近衛君もそうなんだろ?だったら私に見せてくれ。君の力を!」


 肩まである右腕の義手、エリュシオン。それを起動させた山那を見た蓮は驚きこそしたものの、冷静さを欠くようなことは無かった。

 右手に持った廻式を高く投げ、左手のグローブのリングを捻る。


「ニルバーナ、起動!!」


 同じように瞳を琥珀色に染め上げ、回転しながら落ちてくる剣の柄を受け取り構え直す。

 その瞬間、廻式が眩い光を放ち、白い刀身が柄側から金色に染まっていく。


「あの剣…刀身はアリアドネで出来てるんだねぇ。」


 へぇ、と興味深そうにハフリングは蓮を観察する。

 すると奥のソファーに深く腰掛ける2人のうちの大柄な方がハフリングともう1人に提案をする。


「なぁ、賭けようぜ!面白くなってきやがった!おい、どっちにする?」


 はぁ、と深いため息をつき、細身の少年はじゃあ、と言いながら紙幣を何枚か差し出す。


「僕は…やっぱり」

「俺は白に賭けるぜ!」


 口をポカーンと開けたまま台詞を妨害された細身の少年は、得意気な顔をして紙幣をテーブルに叩きつける大柄な男をちらりと見て、頭を抱えたまま小さな声で呟く。


「全く…まぁいいよ。どうせ変わらない。僕も白さんに。」

「で?ハフリングは?」


 は?というような顔をしてハフリングは大柄な男を見る。

 大柄な男は、もちろん山那の方に賭けるなんて面白くない事はしないよな?とでも言うようにニヤニヤとハフリングを見る。


「はぁ、分かったよ。まぁ、君らが誰を選ぼうと最初から決まってる。勝つのは蓮くんだ。」


 意外そうな顔をする2人を他所に、ハフリングは財布丸ごと机に叩きつける。


 2人は3人が賭け終わるのまで見守り、互いに向き合う。

 山那は相も変わらず笑顔のままだ。


「さて、賭けの場に出されちゃったね。2人の期待に答えなきゃ。」

「ええ、全力で行きます。」


 2人が先程とは比べ物にならない速度でぶつかる。

 しかし山那は本人だけが蓮とぶつかり、分身の騎士は蓮の背後を取る。


「当たりませんッ…よ!!」


 身を捻り後ろから振り下ろされる剣を躱し、逆に背後を取る。高速で剣を薙ぎ払うように斬るが、黄金の騎士がそのまま前に出て間一髪で攻撃を防ぐ。


「次はどうかな!」


  騎士の1人が蓮の攻撃を止め、もう1人と山那が2方向から攻撃に回る。


「無駄です!」


  底からタイヤを出して、後ろに高速で移動し、2つの攻撃の範囲から外れる。

  不意をつかれた山那は前傾姿勢だったため、そのままバランスを崩してしまう。


(今だ!)


 そこにすかさずタイヤを逆回転させ、飛び上がりながら体を捻り山那を飛び越えて後ろに着地し、山那のうなじに剣先を突き付ける。


「僕の勝ち…です。」


  2人はニルバーナとエリュシオンを停止させ、剣を収め、鎧を元に戻す。

  あぁぁーー!と悔しそうな声を上げる2人を他所に、山那と蓮は互いに無言のまま握手を交わす。


「ハァー…マジかよ…白が負けるたぁ驚いたな。まぁ、これでテストは終わりだろ。」


  ソファから大柄な明らかなパワー型な方が立ち上がり、それにつられて青白い細身の方も立ち上がる。


「入隊…となると自己紹介だよな!俺は写日薔薇(うつしび そうび)だ。両腕の義手、"エデン"の保持者だ。」


「僕は久得須弥(くどく しゅみ)。右足の義足と右の手首から先が義手。"シャンバラ"の保持者。」


  最後にハフリングが両手で賭け金を回収しながら自己紹介をする。


「初めまして。近衛蓮くん。錦博士から聞いているよ。私はエウニル・ハフリング。このバベルの技術者さ。ようこそ、"アリアドネの義肢"の保持者の集まるバベルへ。他にもスタッフとか色々いるから、後で紹介しよう。」


  そして最後に、というかハフリングに完全に忘れられていた鎧の騎士は少し残念そうに1歩前に出る。


「よろしくね、蓮くん。私は…下でも言ったね。名前は山那白。右腕と鎧のアリアドネの…義肢…と言っていいのかは分からないけれど、"エリュシオン"の保持者。」


  4人の視線を集めた蓮は毅然とした態度でピシリと姿勢を正す。


「本日よりバベルに入隊する、近衛蓮です。アリアドネの義肢は両腕と両足、名前は"ニルバーナ"。義父である錦博士の願いの為、AIと戦う為にここに来ました。」

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