表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想の果てのニルバーナ  作者: swallow drop
2/12

1話 「ニルバーナ、起動!」 (後半)

 目を瞑り、聴覚を研ぎ澄ます。

 蓮はニルバーナにだけでなく、全身の神経をアリアドネに置き換えている。それは皮膚や筋肉にまで侵食し、ほぼアリアドネでできていると言っても過言ではない体なのだ。そんな体はあらゆる感覚が研ぎ澄まされている。聴覚もそのひとつで、音を聞くだけでどこから出た音なのか、何の音か(もしくは何の音に近いか)など、常人では決して聞き分けれない音まで聞き分ける。


(右?いや、正面にでてくる!)


 蓮の耳が聞いた通り右手前から現れたのはブラウン管テレビにケーブルが大量に飛び出たようなもの。それはオートマタ。AIのアリアドネによって形を変えられ、操られるだけの存在。人類の"敵"である。

 ふわふわと飛びながら移動するオートマタは画面を蓮に向け静止する。


(これでも…人間だったのか。)


 向かい合い、その姿を蓮は凝視する。それは人間であったもの。しかしその面影は無く、ただただ無機質な機械である。

 蓮は警戒しながら腕や足の動作チェックをする。そうしているうちにオートマタの画面に砂嵐が映った。

 次の瞬間いきなり画面が真っ暗になり、画面が割れた。


「キャハハハハハハハ!キィィィィィヒヒヒヒ!!」


 けたたましい笑い声が聞こえたと同時に割れた画面の中から赤黒いアリアドネが大量に出てくる。槍のように束ねて先を尖らせた、確実に殺しにかかるオートマタ達の武器。

 他人に接続されたアリアドネはその本人の物となり、自由自在に操ることが出来る。そして他人のアリアドネを断つ性質を持つ。

 蓮にとっては1番効く武器だ。

 しかし蓮はするりとその攻撃を躱す。

 オートマタは束を薄く伸ばして剣のようにして薙ぎ払う。

 それにも即座に反応し、攻撃を飛び越える。

 視力、動体視力、反射神経、全てが強化された蓮は相手動いた瞬間に反応し対応する事が出来る。

 相手からすれば「未来予知」能力でも持っているのかと錯覚するほど、早い段階で反応する。


「キイイイイイイイイイ!!!!」


 オートマタはさらに放出するアリアドネの数を増やし様々な方向からの攻撃を試みるも全て躱されてしまう。


「お前の行動はほぼ理解した。全て躱すことも出来た。次は出力だ。」


 蓮がそう呟いた瞬間、ニルバーナの底からタイヤが出てローラスケートのような形になった。

 体重を前にかけ一気に加速し、一瞬のうちに何メートルもの距離を詰める。

 拳をを握りしめ、少し上体を起こして右手を振りかぶる。


「ハァァァアア!」


 握りしめた拳はオートマタのアリアドネに防がれたが、拳の当たった所は無残にも粉々に砕け散る。


「なるほど。1発で破壊するには少し足りないな。だったら…。」


 蓮はタイヤを逆回転させ一気に距離をとる。

 そしてマントを外し、左手のグローブに付いた大きなリングを捻る。


「ニルバーナ、起動!」


 蓮がそう叫ぶと蓮の体から金色のオーラが立ち込め、黒い瞳が琥珀色に変わる。

 ニルバーナシステムが起動した。それはアリアドネの力を高める。つまり出力を上げ、感覚を研ぎ澄ますもの。


(凄い…。まるでパワーが違う。これなら!奴を倒せる!)


 腰を落とし、姿勢を低くする。右手を握りしめて力を目いっぱいこめ軽く振りかぶる。

 異常を察したオートマタは笑い声を出しながらアリアドネを放出し、倒される前に倒そうと先ほどよりも一回り大きな槍を放出した。


「行くぞ!」


 タイヤをフルで回転させる。それと同時に右手で殴る。

 空を殴るのではなく、少し先の、普通に殴っては決して当たらない場所にあるアリアドネの槍を目掛けて。

 普通では無い速度で迫る。先程とは比べ物にならない速度だ。

 振りかぶった右手がちょうど振り切る一瞬前に槍に当たり、速度を落とさないまま槍を砕きながら突き進む。


「ハアァァァァ!」


 叫ぶと同時に、ちょうど振り切ったタイミングでオートマタ本体に当たり、アリアドネを撒き散らしながら砕け散る。

 轟音を立てながらそのまま小さなパーツはその場に散らばり、大きなパーツは土埃を巻き上げながら、少し先の廃屋まで吹き飛んだ。


「これが…ニルバーナの力!」


 内蔵されたブレーキでタイヤを止め、タイヤを引っ込める。蓮はその場でニルバーナの凄まじい力に立ち尽くす。

 力を緩めると金色のオーラは消え、瞳の色も元に戻る。どうやらニルバーナシステムは停止した様だ。

 ふぅ、と息を吐き、マントを羽織りもう一度タイヤを出して振り返り、塔を目指して全速力で戻る。


 壁の扉を通り抜け、塔の国に戻ると目の前に錦博士がいた。


「おつかれさん。上から見てたよ。凄いパワーだったろ?」

「ありがとうございます、博士。少しびっくりしました。あんなにパワーがあるなんて。」


 タイヤを引っ込め歩きながら蓮と博士は話す。

 空はすっかり晴れ、水たまりは小さくなっている。

 暫くしてしみじみとした顔で博士は蓮に手紙を片手で手渡す。


「これでテストは終わりだ。紹介状を渡そう。塔の奴には話をつけてある。手紙を見せて用件を言えば中に入れるはずだ。」


 手紙を受け取った蓮は嬉しそうな顔をするが、博士が布に包まれた長い何かを持っているのに気がついた。


「博士、その手に持っているものは?」

「ああ、これか。これはな…」


 ヨッと声を出して包んでいる布を取り、中身を取り出す。

 中からでてきた物は二対の剣。


「お前の…武器だ。名前は『廻式(かいしき)』。」


 ほれ、と布に包み直して蓮に投げるように渡す。

 慌てて蓮は受け取り、小脇に抱えるように持つ。

 しばらく歩いて塔があと数百メートルの場所まで来たところで蓮が口を開く。


「そう言えば僕の…行く塔の中の機関の名前は何なんです?」


 博士の口元がニヤリと口角を上げる。そしてその名前を口にする。


「"バベル"。この塔の厄介者の溜まり場だ。」


 蓮は気まずそうな顔をして言葉を詰まらせる。


「まぁ、そこしかAIどもと戦う所はない。とにかく…行ってこい。」


 蓮は溜息をついてから微笑んで博士を見つめ、


「ええ、そうですね。まぁ、」


 一呼吸おいてから別れを告げる。


「行ってきます。」

「おう。行ってこい。」


 博士は小さく手を振り、振り返って塔に向き直って進む蓮の後ろ姿を見つめる。


「…いつか。今度会う時は…。」


 博士は手を力が抜けたように下ろし、声が聞こえない距離まで離れたのを確認して小さく呟いた。

誤字脱字等ありましたら宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ