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理想の果てのニルバーナ  作者: swallow drop
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1話 「ニルバーナ、起動!」 (前半)

趣味で書いているものです。連載が途中で終わったりするかも。

 暗い灰色の空の下、雨がしきりに降っている。

 そこは『塔の国』。その端の方にあるひとつの家の前の舗装された道路の上に、1人の少年が立っていた。

 黒い髪に黒い瞳、対象的な白いシャツと黒のよれたスキニーを履いている。肌も白く、白と黒の対比が美しい。

 ふぅ、とため息をひとつしてからくるりと蹄を返してその家へ戻る。コッコッと硬く高い足音を鳴らしながら。


「ただいま戻りました、錦博士。」

「おかえり、蓮。調子はどうだ?」


 その家の中は整頓はされているが物が多く、壁もコンクリートが剥き出しでかなり汚い、古い、という印象だ。

 蓮と呼ばれた少年は玄関の扉を開けて帰宅したことを告げると家に響く機械音が止み、何度も繰り返したであろう挨拶が帰ってきた。


「ニルバーナに問題はありません。腕も雨の中でも正常に稼働しました。」


 そうか、と一言口にして、錦博士と呼ばれた白髪初老の男性はやや短めの顎髭をいじる。

 博士は何かを思い出したように、家の奥からタオルを持ってきた。


「ほれ、蓮。体を拭いたらニルバーナの底もな。」


 ありがとうございます、と蓮は返事をして髪と胴回りを拭き終わるとそのタオルを上がり框に置き、タオルの隣に座ってズボンを脱いだ。

 すると黒いスキニーからは人のそれではない、足がでてきた。

 見た目の質感は硬く、脛には銀の装飾が施されている美しい義足が現れた。

 その底を拭くと立ち上がって博士のもとへ歩いていった。

 ニルバーナと呼ばれていたものは義足だった。スラリと伸びたその格好は機械と人が一緒になっている、という違和感を決して抱かせない、慣れにも似たものがあった。


「 蓮、グローブを貸してもらえるか。」


 博士は達成感とワクワクとした表情に満ちあふれさせながら手を出した。


「錦博士、ついに完成したんですか!ニルバーナ…システム…でしたっけ?」


 蓮も歓喜に前のめりな姿勢で博士に詰め寄ると、グローブを脱いで、両手で丁寧に博士に手渡した。


「ああ。完成した。だが完成したのはニルバーナシステムでは無い。それはもうとっくに完成しとる。お前の腕に付いてるだろう。」


 蓮は二の腕よりも先、肘関節から両腕とも義手だった。足のニルバーナと同じ薄い乳白色で指や手首は人間のそれと全くシルエットが同じであった。


「完成したのはニルバーナシステムを起動させるものだ。お前の中のアリアドネの力をさらに増幅させるものでもある。」


 アリアドネとは金色の髪の毛よりも細い繊維のようなものだ。最近見つかった未知の物質。分かっている能力は"本人の神経と接続して義手にも神経を通す"そして"様々な力を増幅させる"など様々ではあるが、まだまだ詳しいことは分かっていないそうだ。

 蓮の足のニルバーナにはアリアドネが大量に使われており、普通の足の何倍ものパワーを持っている。

 普通義手にしてもタイムラグが発生するが、このニルバーナにはそれがない。アリアドネが神経のかわりをしているからだ。

 やや顔を赤くした蓮はしばらく自分の腕を見つめてから、博士が扉の向こうへ行く前に声を少し張って言う。


「朝ごはんの準備をしておきます。どれくらいかかりそうですか?」


 博士は扉を閉めかけたところで顔だけ蓮の方に向け、

 あー、と言いながら少し考えて、微笑んだ。


「取り付けだけだから…飯ができる頃にはこっちも終わる。」


 それを聞いた蓮は薄暗い台所に立つ。



 蓮は朝食の支度を終え、しばらく待つと作業室から博士がでてきた。そのまま席に着き、スープを啜って少しほっとしたような顔をしたあと、蓮の方をちらりと見る。


「今日は性能のテストだ。実地で動けるか、相手に対応できるかを見る。」

「はい。それが無事に終われば…"塔"に行くんですよね。」


 少しワクワクしたような高いトーンで蓮は言いながら朝食を食べ進める。

 "塔"とは、この国の名前の由来でもある、国の中心に立つ巨大な塔である。様々な機関があり、この国を守る為にも非常に重要な役割を持っている。国の直属の機関はこの塔に、もしくは近くに集まる。そのため中心の近づくほど発展しており、逆に離れれば離れるほど寂れていく。

 錦博士と蓮の家はほぼ端に位置する。

 蓮が行く予定にあるのはその中にある組織、通称"バベル"。

 蓮は食べ終わった食器をシンクに置き水を張るとスキニーを太腿の付け根近くまでしかないホットパンツにも似た、それより少し生地の薄いズボンに履き替え、シャツをタンクトップに変え、その上に足元が隠れる程のマントを羽織る。

 博士に渡されたグローブをはめて手をグーパーして動きを確かめる。軽く頷いて、決意を固める。


「よし…。行ってきます。」

「ああ、気をつけてな。こちらは"壁"の中から確認する。」


 "壁"とは、国の周りをほぼ円に近い形で囲む、敵の侵入、侵攻を防ぐための壁であり、これが崩れた時はその国の終わりとほぼ同意義となる。

 蓮は博士に暫しの別れを告げ、家の扉を開けて壁へと向かう。

 先程まで降っていた雨は上がり、木漏れ日が蓮を照らす。空の映った水たまりを軽く飛び越えて蓮は走り出した。


 蓮は壁の外に出て十数分ほど進んで振り返ってみると遠くに塔の国の壁とその奥にそびえる塔が見える。

 周りにはかつて塔の国の一部であったであろう建物や、廃墟が目に映った。

 蓮は警戒しながら進んでいくと、ピタリと足を止めた。

 そのまま目を瞑り、耳を潜め、集中力を高める。


(ーーーー来る!)

読んでくれてありがとうございます。誤字脱字等ありましたら宜しくお願いします。

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