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乙女ゲーム参戦のお嬢様


 二日目の教室、なんとなく皆さんこちらを見ているような視線を感じますが、朝から下弦さん以外とは誰ともお話ししていません。


「天道さん、今日の髪形もよく似合ってるね」

「ありがとうございます」

「選択教科決めてないなら美術にしない?」

「音楽にしたいと思ってます」

「今日のお昼、もしよかったら一緒に……」

「すみません。今日はお弁当を持ってきましたので」


 下弦さんは優しいですね。きっと一人庶民の私に気を使ってくれているのでしょう。お昼を断ったあたりでは少し寂しそうにねだる様な目でこちらを見てましたが、彼の甘い顔立ちではそんな姿も絵になります。


 HRに校内案内など淡々と予定が進められて、あっという間にお昼です。今日から自分で作ったお弁当をいただきます。ウインナーを一つつまんで咀嚼するとじゅわっと油のうまみが口に広がりました。美味しい。


 しかし静かですね。なんで今日はこんなにのどかなんでしょうか。


 ほう。と、水筒の紅茶を一口飲み込んだところ、ガッガッガと、けたたましい音が廊下から聞こえました。


「天道うららぁー!ちょっと顔貸しなさいよっ!!」

「…………あ、……はい」

 

 うん、さようなら平穏。



 昨日運ばれた病院で、頭を打ったかもしれないから念のためと一泊してきたために遅れてきたという有朋さんに捕獲されました。お泊りの必要が本当にあったのかわからないくらい今日も元気ですね。先ほどまでちらほらと人がいた教室ですが、彼女が姿を見せた途端あっという間に誰もいなくなっていたので、そのままここでお話合いです。


「で?昨日あれから本当に一時間動かなかったんでしょうね」

「はい。ちゃんとお約束は守りました」

「じゃあなんでイベントが起こらなかったのよ!?」


 そんなことを言われてもさっぱりわからないのですが。


「ういういのお姫様だっこだって、病院での不知くんと出会いだって、何にもなかったのよ。わざわざ病院に一泊してまで待ってたのに全く会わなかった……」


 ぶつぶつとつぶやく有朋さん、ちょっと怖いですが。……ういうい?不知くん?


「あのっ、もしかしてですが、それは三日月さんと十六夜さんのことでしょうか?」

「何であんたが彼らのこと知ってるのよっ!?」


「えっと、昨日あれからお知り合いになりまして、カフェで一緒にお昼とお茶をいただきました」


 拳を握りぷるぷる震えだした有朋さんの口が大きく開かれたままで止まってしまいました。声出てませんが、きっと私の名前を叫んでるんですね。わかりますよ。


 なんとなく彼女のペースに慣れてきたようです。


「……わかった。わかったわよ。ふふふ」


 ようやく絞り出した声が掠れています。

 大丈夫でしょうか。


「あんたやっぱりイレギュラーなモブなのよ。居ちゃいけないキャラクター、居ちゃいけない存在。あんたが居るからゲームの世界と違うのよ」


 存在全否定されました。


「私が特待生じゃなかったのも」


 それは単純に成績では?私もかなり頑張りましたよ、目指せ無料!でしたから。


「王子に助けてもらえなかったのも」


 王子……多分望月さんのことでしょうね。でもあれで助けてもらおうとするのはちょっと図々し……


「髪の毛だってピンクじゃなかった」


 あのー、髪の色ピンクは変ですよ。気が付いてください、すごくすごく変です。


「全部、天道うらら、あんたのせいなのね」


 冤罪です。


「っふ、ふふふふふふ。こうなったらいいわ。イレギュラーモブ、取り込んでやろうじゃないの」


 有朋さんが私の両手をぎゅうぎゅうっと握りしめました。すみません、ちょっといた、たた、痛いのでもう少し落ち着いてください。


「天道うらら、あなたこの乙女ゲーム、『月嫁美人~僕のお嫁さんになって~』に……」



 私の相棒となって参戦しなさい!!



 呆れかえるような高らかな宣言に、唖然としました。全く意味不明です。乙女ゲームってなんですか?思考のキャパオーバーです。


 なんと答えていいのかもわからないので、もうここは前世の淑女のマナーにのっとり、失神しましょう。


 はい、暗転。


 目が覚めたら、全てなかったことにならないでしょうか。ねえ?



メリークリスマス!

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