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打ち明けるお嬢様

「あーあー、君たち。懐かしの再会みたいだけど、そろそろ御開きの時間なんだ」


 あまり申し訳なさを感じない下弦さんの言葉ですが、確かに午後三時を回ったところですから、今日のところはここで終わった方がよさそうです。

 けれども新明さんとはると君は、いまだ見合ったまま、お互い一向に引こうとはしません。

 先ほどの誰だかわからない方のことはひとまず忘れて、とにかく二人を引き離さないことにはどうにもならないでしょう。

 では、少し強引にでもはると君を連れて帰りましょうと手をだしたところ、逆の方の腕をグイッと誰かに引かれました。


「じゃ、私とうららは帰るわ。後は御勝手にどうぞー」

「え?あ、有朋さん」


 あ、戸締まりはよろしく!と、有朋さんは男性陣に向かい一言付け足し、ロッカールームへ私を引きずり込みます。

 

「あ、あのっ、有朋さん。私、はると君と話が……」

「まあまあ、いいから。こっちもちょーっと聞きたいこともあるし、今からお茶飲むわよ」


 がっちりと腕を取られてからのこの言葉に、何やら力が込められていました。


 うーん、これは断れません。






 お茶を飲むと言われて、車に乗せられ連れてこられたのは、有朋さんのご自宅でした。

 立派な門扉に広いお庭、更にその奥にある大きなお屋敷を見たとき、そういえば有朋さんもお嬢様でしたね、と大事なことを思い出します。

 普段の彼女の言動からは、あまりそういった感じがしないので、つい失念しておりました。申し訳ありません。


 そうして有朋さんの広く整えられた自室へと通されると、直ぐにお茶が運ばれてきました。


「いらっしゃいませー。あらあらあら。雫ちゃん、こんなに素敵なお友達が出来たのね」

「はじめまして、天道うららと申します。いきなりお邪魔して申し訳ありません」


 にこにこと素朴な笑顔のお母様が、歓迎して下さいます。


「お母さん、こっちはもういいから」


 お茶を受け取ると、有朋さんはそう言って、まだまだ話をしたそうなお母様をサクッと部屋から追い出してしまいました。


「素敵なお母様ですね。お家もとても大きくて素晴らしいです」

「そう?まあ、ちょっとうるさいお母さんだけど、褒められるのは嬉しいわね。ありがと」


 素っ気なく言っているようですが、頬を赤らめてますので、お母様とは随分仲がよろしいのでしょうね。ほのぼのします、と目を細めていると、有朋さんが呆れたような声を出しました。


「ただ家なんか、聖デリア(うちの)学園のなかじゃあ小っさいもんよ」


 そうなのですか?

 しかしそうなると、私の家なんてどうなるのでしょう。さっき見た感じですと、多分有朋さんのお宅のガレージくらいの大きさでしたよ。

 間違いなく聖デリア学園一、小さなお家ですね。


 まあ、庶民なので、そのくらいでも十分な広さですが。


 そんなことを考えながら、出されたお茶をいただきました。

 ああ、汗をかいた後ですのでとても美味しいです。

 お行儀良くありませんが、ごくごくと飲み干してしまいました。

 ほう、と一息ついたところで、有朋さんが急に真顔なり、私の名前を呼びます。


「ねえ、うらら」

「はい、なんでしょうか。有朋さん」


「あんたってさ、……一体何者なの?」


 飲み干しておいて良かったです。口に含んでいたら吹き出すところでした。


「な、何者と言われても……天道うららとしか言えないのですが……」

「うん、わかってる。これでも一応調べてもらったから」


 調べたと、さらっと言えるところが凄いですね。

 いえ、私の素行など、今世では何も無さ過ぎて調べるほどではなかったかと思われます。

 無駄なことをさせてしまいましたと、上目遣いで伺うと逆に、勝手なことして悪かったわよと謝られてしまいました。


「いえ、そんなことは……」

「ううん。友達に対してする事じゃなかったわ。……まあ、友達だって思う前の事だから、ノーカンにしといてよ」


 有朋さんのそういう潔さが好きです。


「たださあ、私ですら不思議に思って調べてるんだから、月詠さんや、他の皆のところはもっと詳しく調べてるんだと思うわよ」

「はあ……」


 そういえば、新明さんにも何を隠しているのだと言われたことがありました。あれはきっと、私のことを調べた上で出た言葉なのですね。


「うららが生まれも育ちも庶民なのは紛れもない事実だわ。でも、天道うららはどこからどうみてもお嬢様なの。そりゃおかしいと思うじゃない」


 ……これは、


「特に今日のダンスは、習ったことのない人が踊れるもんじゃないでしょ?」


 きっと、


「だから、思い切って聞くわ。うらら」


 告白のタイミングなのですね。


「あんたは一体……」


 有朋さんからの再度の質問を受けて、すくっと立ち上がります。


 着古したワンピースの両裾を軽く摘まみ、膝をグッと曲げます。そうして腰を曲げ深々と頭を下げ、淑女の礼を彼女に向けた後、努めて自然に聞こえるようにと、前世以来の名乗りを上げたのでした。



「私……私は、アンネローザ・オルテガモ。ラクロフィーネ王国、オルテガモ伯爵家の長女で……ございました」


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