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戸惑うお嬢様


「じゃあ早速、次の対決を決めてしまってもいいかな?」


 先程の勝敗結果を受けて、新明さんがそう言われると、急にその場がシンっと静まってしまいました。


「そんなに今すぐ決めなくても、二、三日置いた方がいいでしょう」

「だな。今日は汗もかいたろうから、さっさと解散しねえ?」


 十六夜さんと三日月さんは、私たちを配慮されてか、日程の猶予を提案して下さいましたが、新明さんは首を縦に振らずに言葉を続けます。


「満からも言われてるだろう。どんなに遅くとも八月中には終わらせるって」

「いや、だからって、少しは休ませて……」

「朧、君はこれから何があるのかわかって言ってるのか?」


 その叱責にも似た質問に、下弦さんはそれ以上強くは言えず、黙り込んでしまいました。一体何があるのかとも思いますが、あまり皆さんに迷惑をかけてもいけませんし、ここは私たちから了承の返事をした方がいいでしょう。そう、有朋さんと目配せします。


「わかったわ、じゃ、さっさと決めましょう」


 さっと返事をされる有朋さんは、本当に男っぷりが上がっていますね。おお、と感心していますと、私の後ろから不機嫌そうな蝶湖様の気配を感じました。


「えっと、アドバイザーとジャッジは……」


 これが最後の対決になりますから、今までお願いしたことのない残りの方といえば、当然ですがあの方たちですよね。


「自分がアドバイザーで、ジャッジは満になるよ。よろしく」


 新明さんが、取り澄ました顔でそう言われました。

 今までの対決で、一番多難なものになりそうな予感しかしません。



 立ちっぱなしでは何ですからと、場所を移しての話し合いになりました。

 本来ならアドバイザーと私たちだけでお話をするのが筋なのでしょうが、蝶湖様が酷く反対されたものですから、全員で専用部室の方へ入ります。

 さて、このメンバーでは用意する人もおりませんので、私がお茶の準備をさせていただきましょう。


「美味いな」


 紅茶を飲まれた望月さんが、そう一言もらされました。


「本当に美味しいわ、うらら」

「うん。確かに美味い」


 皆さん口々に褒めて下さいます。


「ありがとうございます。紅茶を淹れるのは得意なんですよ」


 前世でもお茶の淹れ方は淑女の必須教育でしたので、たいそう慣れていました。自分が得意なことを褒められるのは、やはり嬉しいことですね。

 思わず自慢してしまいましたら、また新明さんから鋭い指摘が入ってしまいました。


「これは独学で?それともどこかで習ったのかな」


 ガタンと、音を立てて蝶湖様が立ち上がろうとするところを手で制止して、新明さんへと向かい合います。


「もちろん独学ですよ。紅茶だけでなく、緑茶も中国茶も好きなものですから、よろしければお淹れしましょうか?」


 ニコリと笑顔をのせてそう伝えれば、少しイラついたような態度で、それには及ばないと答えられました。


「それより話を進めよう。次の対決を何にするかだが」

「アドバイザーさんの意見は率先して聞かせてもらうわよ。聞かせて貰えばの話だけれど?」


 喧嘩腰です、有朋さん。


「勿論、提案させてもらうつもりだが、それについては条件がある」

「条件?」

「そう。絶対に履行すべき条件だ。その代わりと言っては何だが、完全バックアップの約束はする」

「随分と、もったいつけるのね。じゃあ先に条件だけでも聞くわ。それは、OK?」


 何だか物々しい雰囲気になってきました。まず、蝶湖様が怖いです。そして下弦さんたちも、なんとなく苦々しい表情で見守っています。


「ああ。条件というのは、だね」


 そう言うと、新明さんは蝶湖様の方へと顔を向け、言葉を続けました。


「アドバイスの対決種目を聞く前に、蝶湖にその対決を認めさせる。それだけなんだけど、出来るかな?」


 ……これは、この提案は、どうとればいいのでしょうか。


 今までの中で蝶湖様を交えて対決種目を決めたことは、料理対決の一回しかありません。その他の種目は、蝶湖様が大反対された乗馬も含めて全て事後承諾でした。

 それをわかった上で新明さんが言っているのだとしたら、それはきっと、蝶湖様が絶対に受けたくない対決なのではと、思われます。

 彼が私たちの方ではなく蝶湖様を見据えて話をしているのがその証拠ではないでしょうか。

 顔を見合わせる有朋さんと私には、その提案にのるべきかどうかの判断ができません。

 もうすでに、アドバイスは必要ないですと、そう言えばいいだけの話ではなくなってしまっているようです。


 悩み、言いよどむ私たちの耳に、堂々とした声が響きました。


「おい、どうする。これはお前が決めるしかないだろう」


 望月さんが蝶湖様に向かい、確かにそう言いました。


 蝶湖様が決めることだと。

 本当に?私たちの対決なのに?全てを蝶湖様一人にまかせてしまっていいのかと、声を出そうとしたところで、蝶湖様に目で止められました。


「いいわ。朔のアドバイス通りの対決にしましょう」


 とても柔らかい微笑みをたたえられて、新明さんの挑戦を受け取ったのです。

 その言葉を聞いた新明さんは、ほんの少しだけ眉間に皺をよせましたが、すぐにいつものように涼しい表情を私たちに向けて、その対決種目を発表しました。



「では、次の勝負はダンスで決定だ。勿論社交用のものだよ。いいね」



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