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ご立腹なお嬢様


「すっげえの、普通の動物ってまず蝶湖に近寄らないから。つーか、大抵は逃げ出す」

「……はあ」


 普通じゃない動物とは一体なんでしょうか?


「ほら、萎縮しちゃうっていうのかな。よっぽどしっかりと訓練された動物でないと……まあ逃げるか」


 下弦さんも同意されましたが、どれだけなんですか、蝶湖様。


「でも訓練された動物っていうなら、競技用の馬って大抵そうじゃないの?」


 有朋さんが当然の質問をされます。どんな競技で対決をするつもりなのかまだ聞いてはいませんが、馬と一緒にする競技というものはきっちりとした訓練、調教が必須なのですから、それならばあまり蝶湖様にとっても不利にはならないと思います。


「ただそんな訳で、動物絡みなら蝶湖の圧倒的有利じゃなくなるしなー。ぶっちゃけていい?俺が思いつく勝負で、万が一にも勝てるかもしれないっての、これしか思いつかねえや」


 相当はっきりと言い切られてしまいました。


 実際そうなのですから仕方がないのですよね。知れば知るほど蝶湖様の凄さがわかってきましたから。

 全く経験したことがないはずの料理ですら、あっという間に形にしてしまいました。

 だとしたらやはり、馬というイレギュラーな相棒と一緒に出来る対決というのは悪くない提案なのだと思います。


 ……ん?イレギュラーな相棒……何か、デジャヴが……まあいいです。


 そんなことよりもと、有朋さんと顔を見合わせました。二人、頷き、アイコンタクトを取ります。

 これはもう、やるしかないでしょう。

 三日月さんのアドバイスに従うことにします。そう答えようとしたその時、小道の向こう側に、急いで抜けてきたらしい蝶湖様と目が合いました。



「初、わざわざ馬場に呼び出すから、まさかと思ったけど本気なの?」


 足早に近づき肩を怒らせた蝶湖様が、三日月さんを凝視します。


「本気じゃなきゃ、馬場にまで呼ばねえだろ」


 わざと煽っているのか、妙におちゃらけた態度で蝶湖様に向かいあう三日月さんです。


「初心者にいきなり馬術競技をやれだなんて無謀よ」

「そうでもないぜ、結構乗れそうな気がするもん」


 俺の勘を信じろよ。笑う三日月さんに苛立っているのがありありとわかります。


「バカをおっしゃい。あなたの勘なんて聞いてないわ」


 蝶湖様は、私の方をちらりと一目し、小さなため息をつきました。


「馬に乗ったこともない、うららには無理よ。怪我をしたらどうするつもり」


 無理よ、と蝶湖様がおっしゃいました。私の言葉も聞かずに、ただ、無理だと。


 確かにこの世界で私は、乗馬をしたことはありません。ですから何故蝶湖様がそう断定したかはさておいて、心配されるのは当然なのでしょう。

 けれども、私の話を一切聞こうともせずに一方的に否定の言葉を告げられて、黙っていられるほど私は蝶湖様に盲目的ではないのです。

 先日の割り切れない思いから、対等になりたいと気づかされたばかりだというのに、また過保護に甘やかされるだけなのは、まっぴらごめんです。

 有朋さんだって教えてくださいました、そう言うときは――


 面と向かって、一発かませばいいんですよね。



 ずいっと、蝶湖様の前に立ち向かいます。そうすれば、蝶湖様がどこかホッとしたような表情を私に向けてこられました。

 うらら、そう呼びながら私の髪を触ろうと差し出された手を押しのけます。



「私、やります」

「えっ……?」

「次の対決は、乗馬でお願いしますと言ってるんです」


 私の言葉になのか、それとも手を押しのけられたことになのか、ショックを受けたような顔の蝶湖様に畳みかけます。


「蝶湖さんが心配してくださるのは嬉しいですけれど、私たちは三日月さんのアドバイスを受けることに決めたんです」


「あ、うらら、でもね、いきなりは危ないじゃない。ほら、乗馬がしてみたいなら、後でゆっくり教えてもいいし、ね」



 馬は危険だから――



「勝手に決めつけないでください」


 思わず、そう答えてしまいました。

 馬はとても賢くて優しい動物です。こちらが心を開いてきちんと相手をすれば決して危険な動物ではないのです。


 心配されることは嫌ではありません、けれども大好きなものを傷つけられるのは、すごく、すごく、嫌いです。そして、そんなことを言う、蝶湖様も、



「嫌いです。そんな蝶湖さん、嫌いっ!」



 唖然とする蝶湖様をきっと睨みつけて言い放ちます。例え勢い余って出てしまった言葉とはいえ、腹を立てたのは事実ですから、そのまま横を向いてわざと蝶湖様から顔を背けました。


 そうして三日月さんと下弦さんの方を見てみれば、蝶湖様以上に大きく目を見開いて驚いています。


「えっと……蝶湖、ごめん」

「あー、なんか悪ぃ。蝶湖」


 何故かお二人とも、蝶湖様に向かってそう謝罪していました。



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