生まれも育ちもお嬢様
なんとも扱いに困るお嬢様に絡まれてしまいました。
どうやって穏便にこの場から離れましょうか。伯爵令嬢時代の社交術でなんとかならないかと遅まきながら考えますが、なんだか言葉にならない唸り声が聞こえます。
あ、無理。
そう思ったその時、門の向こう側からどよめきが。
振り返ると、そこには素晴らしく煌びやかな御一行。どちらの方々も整った顔立ちに洗練された歩き姿をしています。一見して、この良家の子息子女が集まる学園の中でも頂点に立つ方々だとわかりますよ。
前世を思い出しますね。王太子殿下と取り巻きの貴族子息の方々みたいで眩しいんです。下手に近くに寄ると目が痛むどころではないので、一庶民としては当然のように道をあけましょう。
すっと一歩足を引いたつもりが……
摩訶不思議嬢に肩掴まれたままでした。
「きゃあーっ」
「え、あ、ちょっと!?」
何故、突然キラキラ様御一行に向かい飛び込むんですかー!?あなたいくらなんでもわざとらしすぎますよ。それよりも巻き添えにしないでください!
倒れる。目をぎゅっとつむって衝撃に耐えようとしたところ、ざばーっ、という音とふわん、というやわらかい感覚にびっくりしました。
あれ、倒れてません。おそるおそる目を開けると、私の肩に美しい指がかかり、支えられていました。そして横を向けばこれはまたびっくりするほどの美しい女生徒の顔。
「大丈夫?」
「あ……はい。ありがとうございます」
大きな漆黒の瞳に長いまつげが綺麗に飾られているようです。白磁のようななめらかな肌に艶々しい黒髪がかかっています。どこをどう切り取っても美少女としかいいようがありません。空気までがきらきらとしているようです。
美しい人の登場は自然とスモークが焚かれるのでしょうか、なんとなく土臭いような気もしますが、と見回せば、ガッと足首を掴まれました。
「ちょっとぉおお!」
「ーーーーっ!!」
ダイブしてました、摩訶不思議嬢。砂まみれです。
「なんで誰も助けてくれないのよお!?」
いや、無理でしょう。
キラキラ様御一行からしたら当たり屋かテロです、それ。どうして助けてもらえるとおもったんでしょうか?ほら、真ん中の王子殿下みたいな方ドン引き中ですよ。眼鏡さんは眼鏡クイクイ動かして平静装ってます。他のお三方なんて笑いこらえてるじゃないですか。いえ、お一方は大笑いしてますね。
どうしましょうか、本当に。もう入学式も始まってしまいそうですし、このまま何もなかったかのように行ってしまいましょう。足首捕まってますけど。
そんな現実逃避をしていたら、先生らしき方が慌てて走ってきました。
「先生、こちらです」
「うわっ、ひどいな。新入生?大丈夫か?」
「はいー……」
砂だらけになった彼女を立たせ、様子をのぞき込み追い打ちをかけます。
「カラコンに茶髪かー。いきなり校則違反で減点あるし、まず保健室と指導室のハシゴだな」
入学式にも出られず、先生に引きずられるように連れていかれる姿はなんとなく可哀そうな気もしましたが、イベントがー!好感度がー!と訳の分からないことを叫んでいたのでまあいいかと思うことにしました。
さて、今度こそ入学式会場へ行かなければいけません。
その場を離れる前に、再度助けていただいたお礼をしようと顔を向ければ、その美しい人はニコっと笑顔を見せてくれました。
「本当にありがとうございました」
「いえ、災難でしたね」
「……ええ、正直何がなんだかわかりませんでした」
お互い、クスっと笑いがもれてしまいます。
「月詠蝶湖と申します。お名前よろしいかしら」
「天道うららです」
「うららさん、よろしくね」
軽い会釈のあと、待っていたキラキラ様御一行の中にするりと入っていく姿を見送り、私は会場へと足を速めました。
初回の名前はルビ挿入することにしました。