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作戦完遂のお嬢様


「でー?何でこんなことになってるのかわかんないんですけどー」


「え、女子会ですよ。ねえ、蝶湖さん」


「ええ、そうね」


 有朋さんを連れ出して、三つ隣のクラスの蝶湖様のところへやってきました。

 丁度頂いたお土産もありますし、ここは交流を図るという意味でもいいタイミングかと思われます。


「嬉しいわ、うららがこちらの教室へ遊びに来てくれるなんて」


 美麗な口元をゆったりと上げながら、蝶湖様は歓迎の意を示してくださいました。いつになく嬉しそうに見えるのは、私自身が久しぶりに会えて嬉しいと思っているからでしょう。


「連休中はどうしてましたか?有朋さんはハワイへ行ってきたそうです」


 そう言いながら、半分ほど減ったマカダミアナッツの箱を差し出します。蝶湖様に食べかけは失礼かとも思いましたが、なんら気にすることなく一粒とりあげて、ごちそうさまですと、口にされました。


「手習いだけで過ぎてしまったわ。うららの方はどうでしたの?」

「妹と買い物に出かけたくらいです。どこも人が多くて疲れてしまいました」

「ハワイだってそんなもんよ。人人人だらけ」


 まあ、ほほほほほ。三人揃って笑いがこぼれる女子会中です。



「――って、いやいや、そうじゃなくって!どうしてここにいることが王子を捕まえることとつながるのよ」


 気がつかれましたね。でも、本当にこれでいいんですよ。


「ところで蝶湖さん、望月さんは日に何回ほど会われますか?」

「そうね、学園内では少なくとも三、四度くらいは顔を合わせるかしら」

「学年が違う割には多いわね……」


 そうです。今まで何度となく蝶湖様とお会いしたりお見かけしたりしていますが、そういった時は大体望月さんが一緒にいらっしゃいました。クラスが違うので気が付きにくかったのですが、あの望月さんの様子では、きっと休み時間でも顔を出しにくるのではないのでしょうか。

 私の推測を説明をすれば、なるほどと有朋さんが納得します。蝶湖様は若干渋い顔をしています、レアですね。


「しばらく月詠蝶湖……さんに張り付いていれば、王子が焙り出されてくるってことね。確かに下手に追いかけるよりもホイホイのほうが効率的かも」


 忍者からGに格下げですか。

 王子とは一体何ものかと確認したい気持ちでいっぱいです。


「では、私は学園外では満と会わないように気を付けましょう」

「え、いいんですか?蝶湖さん」


 これは私たちの事情ですから、蝶湖様が無理に望月さんとの接触を絶たなくてもいいんですよ。そう口にしようとした私の髪に手をかけて、おっしゃいます。


「あら、でもそうすれば、しばらくうららが近くにいてくれるのでしょう?」


 そちらの方が、満なんかが寄って来るよりもとても嬉しいわ。


 優しく梳くように撫でながら応えてくださいました。少し頬が熱くなってしまいます。

 あととりあえず、『満なんかが』という言葉はスルーさせていただきましょう。




 

 あまり日数的余裕がない中、長期戦になるのは避けたいと思っていましたが、あっさりと捕獲成功しました、翌日の放課後です。


「……昔から思ってはいたけれど、本当に堪え性がないわね、満は」


 と、軽く不機嫌の蝶湖様。


「わかってたことじゃん。いや、でも見事な作戦勝ちだよ、有朋さん。天道さん」


 と、やや楽し気な下弦さん。


「うるさい。面倒はさっさと済ますことにしただけだ」


 と、非常に業腹な望月さん。


 聞きたいことがあるなら聞け。答えるとは限らんがな。そう言い足して苦虫を噛み潰したような顔をしています。


 有朋さんと目を合わせました。聞きたいこととは言っても、望月さんは友人である蝶湖様に不利になることは絶対にお話ししてくださることはないでしょう。

 例え、それを蝶湖さんが許したとしても、絶対に。

 やはり、望月さんはそれだけ蝶湖様のことを――



「蝶湖さんのことを、とてもお好きなんですね。望月さんは」


 ぶぇほぉっ!!!


 私たち以外誰もいない静かな放課後の教室、三か所から同時に豪快な吹き出し音が響きました。……三か所?


「ちょ……天道さんっ、ダメ、ダメだって!」

「っ、は?はあっ!?おま、……はああ?」

「………………チッ」


 物騒な舌打ち音が聞こえましたが、いえ、そうではなくってですね。


「ご友人として、とても大事に思ってらっしゃると言いたかったのです」


 小さな時からいつも一緒にいたのでしょうか。きっと、私たちにはわからない絆があるのでしょう。決して、無理強いしたいわけではないのです。


「ですから無理にアドバイスお願いするつもりはありません。けれども、せめて私たちに挑戦の挨拶をさせていただけますか?」


 そう言って、有朋さんの方を見れば、うん。と一つ頷いてくれました。


「どうぞ、よろしくお願いします」


 そう、有朋さんと一緒にお辞儀をします。


 助言をしないというのが望月さんの意見なら、それを尊重するべきだと。それが私たちの出した結論です。

 一度それを直接伝えたいと、大変苦労しましたが、なんとかミッションクリアですね。


 呆気に取られている望月さんの姿に、かなり溜飲が下がった思いがします。さんざんてこずらせていただきましたので、それくらいはいいでしょう。

 

 それでは失礼します。と二人で教室を出ようとしたその時、ふてくされたような声で、待てがかかりました。



「一つだけ、……アドバイスしてやる」


 目元をほんの少し赤くした望月さんが、私たちの方を見ずにそうおっしゃいました。

 思わず有朋さんと顔を見合わせれば、彼女の瞳はきらきらと期待に輝いています。


 ですが、次の続いた声に、一瞬でその光が消え飛びました。



「次は捨てろ。――絶対に勝負するな」



 ……アドバイスって一体?


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