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解放されたいお嬢様


 有朋さんとの対峙後、蝶湖様は私の手を取り直し、カフェテラスへと連れ出されました。お弁当がありますので、とお断りしたのですが、大丈夫だからとグイグイと引っ張っていきます。中々に力がお強いのでなすがままです。

 いつ見ても目に鮮やかなキラキラ様御一行のところへたどり着いた時、テーブルの上にはしっかりと私のお弁当の包みが鎮座していました。デフォルメされたミツユビナマケモノのブショウくんのイラストがなんともいえない様相を呈しております。

 望月さんが、王子様らしく真っ白な歯を光らせて、可愛いイラストだねと褒めてくださいましたが、頬がヒクついてます。他の方々も同じような表情でした。三日月さんに至ってはすでに笑い潰れた後のようにぐったりしています。


 ……とても可愛らしいと思ったのですが、皆さんにはどうにも不評のようですね。



 時間の余裕もあまりないので、急いで箸をとります。

 皆さんもすでに注文済みのようで、男性陣は時折りシェアしながら結構な量を片づけていきます。

 意外なのは蝶湖様で、かなりの量を召し上がる様でした。仕草がとても美しいので気が付き難いのですが、まるで目の前からどんどんと食べ物が消えていくように見えます。


 半分ほど食べ進めてところで、あまりお行儀はよくないと思いましたが、どうにも気になり蝶湖様にこっそりと伺いしました。


「蝶湖さん、さきほどの有朋さんとのお話、本当によろしいのですか?」


「あのお嬢様対決っていうの?ええ、全く問題はないわよ」


 美しいお顔に微笑みをたたえながら答えてくださいましたが、なんとなく薄ら寒い感じがします。ですがきっと気のせいでしょう。

 とにかく、蝶湖様が問題ないとおっしゃるのなら大丈夫なのだと思います。少し肩の荷が下りたようで、ホッとしました。


「そうですか。蝶湖さんがそうおっしゃるのならいいのですけれど……」


 ん?……ですけれど?

 私は何故逆接表現をしているのでしょうか。蝶湖様が了承し、私も有朋さんから解放されたのだから素直に安堵すべきところなのに……

 なんとなくもやもやとしたものが胸の奥に詰まってるような気がします。


「心配してくれるのね。ありがとう、うらら」


 ああ、そうですね。きっと心配なのです。対決自体はともかく、あの有朋さんが無茶をして蝶湖様に迷惑をかけないかどうか。きっと、そうです。


 蝶湖様からのお礼の言葉に、頷き、笑顔を返します。そうすればまたにこやかな美しい微笑みが返ってきました。


「ねえ、ところでうららのお弁当はとても美味しそうね。自分でつくってるの?」

「ありがとうございます。家の家族は皆お弁当持ちなので、母の手伝いで半分くらいは作っています」

「そう。今日は何を作ったのかしら?」

「はい、今残っているのは卵焼きですね」


 そう言うと、蝶湖様は私の方へその美しい顔を向け、あーん、と口を開けました。


「あ、はい。どうぞ」


 あまりにも無邪気に催促されたため、何も考えずに卵焼きを一つつまみ、蝶湖様のお口へと運び差し上げます。


「ん、美味しい」


 にっこりと笑ってくださった姿に、気に入ってもらえてよかったと嬉しくなります。

 しかし望月さんたちの声が聞こえ我に返りました。


「まじか……」

「俺狙ってたのに」

「こいつが?」

「嘘でしょ?」

「あーあー」


 間接キス?


 うわーうわーうわー!

 

 待ってください、待ってください!いや、そうですよね。全く気が付きませんでしたが、そうです。間接キスになりますよね。

 こ、こ、こんなカフェテラスのようなオープンスペースで、これはもの凄く恥ずかしいです。


 私は前世の伯爵令嬢としての記憶もありますので、このように皆様の視線のある場所で、このような親密なふるまいは全く慣れていないのです。

 本当に。


 例えそれが、女性であってもです。はい。


 顔から火が出そうなくらい真っ赤になっている私に向かい、蝶湖様は目を細め、とても機嫌の良さそうな声で意外な言葉を口にします。



「こんなに上手なら、料理対決も楽しそうね。うらら」


 え?ええ?


「楽しみだわ、うららの料理」


 あ、あのー。あのー……もしかして……


「私も、その……お嬢様対決に参加、させら……するのでしょうか?」


「勿論よ、うらら。私はあなたに向かって、最初にそう言ったじゃない」


 確かにおっしゃいましたよねーーっ!



「あの子も絶対に諦めないと思うから、どうせなら一緒に楽しみましょう。ね!」



 う、うう。有朋さんに関して言えば完全に同意しますが、参加は同意したくありません!


 なんだか蝶湖様に上手に転がされてるような気しかしないのですが、どうなんでしょう?


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