開戦宣言のお嬢様
突然の登場にもですが、その発した言葉にも驚きました。まさか『お嬢様対決』なるものを、蝶湖様がそんな簡単に容認するとは思いもよりませんでしたから。
……そもそも蝶湖様は有朋さんを変な方としか認識していないような?
「あの、蝶湖さん……」
何故かにこにこと楽し気にしている蝶湖様へ声をかけようとしたところ、私の後ろからグルルル……となにやら不穏な唸り声が聞こえました。
「つーくーよーみぃーちょーうーこぉー……」
ヒィイイ!有朋さんがもの凄く怖いです。この間観たホラー映画みたいなのですが、どうしましょう。
そんな剣呑な雰囲気も、蝶湖様はどこ吹く風です。なあに、うらら?と私に向かってだけ返事をしてくださいました。有朋さんを完全無視されてます。
「どうして、こ「なんであなたがここにいるのかしら、月詠蝶湖さん?」
私の言葉に思いっきり被せられてしまいました。しかし、有朋さん、普通の口調でお話できるんですね。私にもそうであって欲しいのですが。
蝶湖様は、それはもう冷ややかに有朋さんを一瞥した後、私の方へ駆け寄り、ぎゅっと手を握りました。
「お昼をね、一緒にいただこうと思って探してたのよ」
まさかこんなところにいるとは思わなかったのだけど。そう言って、再度有朋さんへ向けた視線がこれ以上ないというくらい冷たいものでした。こう、視覚的にはいきなり吹雪が吹いたような感じです。
有朋さんも、これには少々身震いしたようでしたが、流石にお強いですね。たくましくも怯みません。
「ちょっと。なんであんた、月詠蝶湖とこんなに仲いいのよ!?」
あ、私の方にですか。やっぱり怯んでたようです。
「あの……蝶湖さんとはお友達になりましたので」
「はああぁ!?」
口を大きく開けて呆ける有朋さんと、にっこりと微笑む蝶湖様の対比がなんともいえない空気を醸し出しています。
まさかの鉢合わせに対処不能です。
ギリギリと歯ぎしりの間から、モブが、モブが……と聞こえてきました。本当にこれはどうしたらいいのでしょうか?
「有朋さん?だったかしら」
「え?」
ぶつぶつと自分の世界に入り込んでいた有朋さんの意識が、蝶湖様からの呼びかけで戻ってきました。
「私と対決したいのでしょう?」
直球です。これ以上ないくらい真っすぐな質問ですね。
「え、ええ。そ、そうよ」
若干気圧されながらも、有朋さんがなんとか答えます。
ふうん。と息をはき、蝶湖様は有朋さんに向き合いました。
「私はね、自分のお友達に相応しくないと思う方には近づいて欲しくないの。あの五人もそうだけど、当然うららもね。ですからお嬢様対決でもなんでも応じましょう」
――私に勝って、あなたを認めさせてごらんなさい。
女王然とした言葉が素晴らしくお似合いです。
しかしそれを聞いた有朋さんがぷるぷると震え出しました。
これは、ちょっと怪しいかも?大丈夫でしょうか?と声をかけようとした瞬間、それはもう飛び上がるような歓喜の声が響きました。
「よっしゃー!キターッ!!初イベントきたわー、ようやく来たわ!」
はいっ!?
「正直初のイベントがライバル令嬢イベントってのが気に入らないけど、これがなきゃゲームが進まないもんね。好感度はおいおい上げるわよ」
ええと……
「あー、なんかホッとしたらお腹減ったわ。やだ、もうこんな時間じゃん。じゃ、またあとでね」
そう言い残して、まるでスキップでもするかのようにウッキウキで去っていく有朋さんの姿を見て、蝶湖様がため息をつきました。
「あの子って、本当に変な子よねえ」
蝶湖様でさえ言葉を選ぶのを放棄したようです。
ええ、全く同意します。本当に、本当に。




