第93話:そして、女神の膝を借りた場合
完結しました。続編は計画中です>
スピンオフ作品として、別に「かわいい女神と異世界転生したこぼれ話。」を掲載しています。
続編の連載再開までのおつまみとしてお楽しみください。
100話に足りないくらいが、物語としてはちょうどよい長さかもしれない、そんなことを思います。
あれから。
フィナスンは銅貨の流通に挑戦した。ナフティも協力していたが、同時にライバルでもあった。
残念ながら、最初は大失敗。やっぱりね。
塩と交換したカスタの町は割とすんなり銅貨が動き始めた。しかし、麦と交換したアルフィでは、銅貨がほとんど動かなかった。しかも、辺境都市アルフィから、いろいろな商品を持ってカスタへ出向いて、カスタの銅貨をアルフィに持ち帰るという人がたくさんいた。そして、その銅貨を使わなかった。
フィナスンは言った。
「最初は、嫌がらせかと思ったっす」
「いや、嫌がらせだろ?」
「・・・信仰心だったっす」
「なにそれ?」
「・・・銅貨にはオーバの兄貴の顔が刻まれてたっす。アルフィのみんなは、大切な宝物だって、貯め込んだっす」
「・・・」
なんてこった。
いつの間にか、神格化されてたっ!?
フィナスンの失敗って、おれのせいか?
・・・いやいや、おれのせいって訳じゃないな。まあ、なんだ、なんちゃら記念硬貨みたいなものかな。そういう貨幣もあってもいいかな。
「話し合って、次は男爵の顔にしたっす!」
そうすると、あっという間に銅貨は流通したそうだ。
「男爵の落ち込み具合は半端なかったっすね・・・」
そうか・・・。
勝手に落ち込んでろっての。
貨幣なんてもんは、使われてなんぼ。
結果として、この一年で、アルフィとカスタでの商取引は大幅に増大し、辺境伯領の他の町にも、銅貨が拡大し始めているらしい。貨幣って、便利だからな。
イズタがアルフィからそう遠くないところで、なかなかの銅鉱脈を発見したこともあって、今後も銅貨の流通は拡大していくだろう。イズタに活躍の場が生まれてよかった。
この一年といえば、ハナさんが亡くなった。
ハナさんの守護神、ヤクトエルからの神様通信で、セントラエスからハナさんの危篤を伝えられたのだが、どうすることもできないと、そのまま続報を待った。
結局、続報はなく、セントラエスは、ヤクトエルの気配が完全に消えた、と報告してきた。それは、つまり、ヤクトエルが守護神としての役目を終えた、ということだろう。
ハナさんが死んだのだ。
もともと、そう、長くはない命だった。
一度しか会っていないが、とてもいい人だったと思う。
冥福を祈りたい。
しかし。
残念なことではあるが、今のスレイン王国の王は、実はハナさんが目の上のたんこぶみたいなものだったらしい。まあ、自分が王位にありつけたのは、ハナさんのおかげ、だった訳だから。ハナさんは巫女長という高位神官で、しかも『預言者』という固有スキル持ち。やりたいことが、神殿の意向とぶつかれば、ハナさんには逆らえないというのが実態だった。
簡単に言えば、歯止めがなくなったのだ。
国王は神殿の権力を奪おうと、なんと、王国内のどこよりも早く、王都が内乱状態。
・・・まあ、それは、北のなんとかって領主が裏でいろいろやったんじゃないかとは思うんだけれど、それにしても、いや、そうだとしたら、まんまとのせられた国王自らが、王国を乱していた。
神殿騎士とか、巫女騎士とか、王都の最高戦力は、王家から離れ、ハナさんがいなくなった神殿にも頼らず、王都を出奔。
国王は王都を制圧したが、王国は混乱に陥り、いくつかの領主が隣に攻め込むという、戦国時代が動き始めた。
・・・実は、辺境伯領にとっては追い風。
内戦不介入の方針は、生前のハナさんによって周知され、三人の男爵はどんな声かけにも微動だにせず、辺境伯領の安定に力を尽くす。そこに、辺境伯領が安全だという噂を信じた人たち、特に、戦災が広がる他領からの避難民が入ってきて、辺境都市と辺境伯領があの戦いで失った以上の人口を獲得。
漁夫の利だよ。
にやにや笑うフェイタン男爵の顔が浮かぶよ。
新たな子どもたちが産まれて育つのを待たず、辺境伯領は力をつけていく。
戦わぬが勝ちだな、というスィフトゥ男爵の言葉をキュウエンが教えてくれた。
あっ、そうそう。
王都の最高戦力は、実はアルフィに集まった。
巫女長ハナさんの遺言だったらしい。
「辺境の聖女を守りなさい」
とのこと。
・・・実は、その辺境の聖女は、最近妊娠が発覚した妊婦だったりする。
父親は・・・どっかの樹海の奥の王さまらしい。
実際のところ、内戦不介入の方針をとっていても、敵は勝手に攻めてくる。
しかし、攻めてはみたものの、辺境伯領には、王都を出奔した最高戦力である神殿騎士や巫女騎士が集結し、傷ついた者たちを癒やしてエンドレス参戦させる任侠保健師フィナスン組が神聖魔法を使ってサポートに回り、誰が相手でも戦えば勝つ、という余裕の状態。
結局、その実力を怖れた周辺の領主は、辺境伯領への南進を断念したのだ。相手にするだけ消耗していくだけ。放っておけば、後ろから攻められることはない。
ただし、逃げ出す民衆だけは止められないようで、まあ、それでさらなる人口移動が辺境伯領へと続く。
重要な取引相手の勢力拡大はありがたい。
いろいろなものがよく売れて助かる。
辺境伯領の人口増加による食糧不足は、大森林からの輸送ルートを確保したフィナスン組によって支えられていた。セルカン氏族の夏のテントまでの道も完成したしね。
フィナスンはもうけて、もうけて、にやにやしっぱなしだ。パイナップル、トマト、みかん、そして、ネアコンイモ。大森林からの食糧は、辺境伯領にとっての生命線。
やがて、ちょくちょく、大森林をめざして移住に挑戦する者も現われた。フィナスン組と取り引きして、大森林まで同行し、そこからアコンの村に。中には、元神殿騎士とか、元巫女騎士とかの移住者までやってきた。
食糧に困らないという噂と、女神信仰の拡大が大きな要因らしい。
女神信仰と言えば、今では、ユゥリン男爵が毎日、女神への祈りを捧げるようになったらしい。混乱していくスレイン王国内で、平和を保とうとしているだけで、逆に領地が栄えていくのだ。そこにつながった女神という存在に祈りたくなるのもうなずける。
神殿に聖女がいるから、戦力増強。
もはやキュウエンは、巫女長ハナの後継者だった。
女神に守られた辺境伯領、という噂も、竜に守られた町があるらしい、という噂も、辺境伯領への避難民の動きを加速させた。
辺境伯を交代させた男爵たちのクーデター以降、辺境伯領の歯車は良い方向へ、良い方向へと回っているらしい。
そのおかげで大草原の氏族同盟も潤っている。
この一年で、氏族同盟は五氏族から七氏族に拡大し、さらに加盟したいという氏族がドウラのところに相談に訪れていた。
四方不仲と呼ばれつつも、その戦力の高さで怖れられていたエレカン氏族を騎馬隊で圧倒した氏族同盟。力を示したことで、ドウラに対する周辺氏族の評価はどんどん大きくなっていったらしい。
辺境都市からの隊商は、辺境都市から、族長エイドのいるセルカン氏族、ドウラとライムがいるナルカン氏族を経由して、虹池をめざす。大森林のいろいろな産物はもちろん、辺境都市からの銅製品なんかも手に入り、羊毛などは安定して売れていく。
ドウラとエイドは、氏族を遊牧で移住する者と、スレイン川沿いに定住する者とに分けて、活動する方針を真剣に検討し始めたという。
定住するきっかけは、聞いて驚け。
・・・トマトだ。
ふはははは、どうだ、参ったか!
苦節数年。不当な扱いを受けてきた日々が懐かしい。
大森林でも、大草原でも、好き嫌いが分かれ、その強烈な成長エネルギーを持て余していたトマト様だったのだが、これが辺境都市アルフィや海沿いの町カスタでは、平たい麦パンの「ピザ」との相性の良さで大ヒット!
しかも、作物が育ちにくい大草原でも、少ない水でたくましく成長し、赤い実をたくさん実らせていく優秀な作物なのだ。ちなみに、大草原産のトマトは、大森林にも入っていて、しかも人気だ。
大森林産のトマトよりも甘くなるから。
実は、ドウラとエイドが、辺境都市の隊商が通年で移動できるように定住拠点をつくりたいと考えたタイミングと、出産を終えたクマラが大草原や辺境都市を見てみたいと言い出したタイミングが偶然重なった結果、たまたまおれと一緒にナルカン氏族やセルカン氏族を訪れたクマラが、懇切丁寧に分かりやすく、ただしとても小さな声で、トマトの育て方を教えたことが全ての元。
実は、おれと正式に結婚した時、クマラはなんと三つも固有スキルを身に付けた。それが『大地豊穣』と『萌芽育苗』と『衣裳美麗』だった。クマラが育苗に取り組めば、どうやら失敗しないらしい。生きた農業神ではないだろうか。いっつも小さな声で優しいクマラだが、一度、私、失敗しないので、とか言ってほしい。
トマトの復権はクマラのおかげ。
もう、二、三年もすれば、ナルカン氏族とセルカン氏族はトマト長者になるだろう。辺境都市にはトマトの育て方を絶対に教えないように、ドウラとエイドには厳命してある。二人とも、真剣にうなずいていた。
しかし、トマト栽培で遊牧民が定住するとは考えてもみなかった。
ちなみに、クマラは、アイラとは違って、辺境都市まで旅をし、さらにカスタまで足を伸ばした。
好奇心の強さと、勉強熱心さは、アコンの村で一番のクマラ。
言語の習得にも熱心で、辺境都市を訪れる前から、トゥリムを捕まえてはスレイン王国語を学んでいたし、同時に、トゥリムには南方諸部族語を教えていた。
辺境都市では、おれの后として男爵やキュウエンとスレイン王国語で会話した。声は小さかったけれど。フィナスンや、カスタのナフティとも、スレイン王国語で話して、しかも、有利な取り引きを成立させた。声は小さいけれど。
さらには、「日本語」で、イズタと話して、イズタからいろいろな農業関係の知識を引き出していたのには、おれも呆然としてしまった。
確かに、ジルやウルとか、村では少しずつ、日本語を教えたりもしていたのだけれど。
・・・クマラって、天才だよな。
いや、それらをぶっ飛ばして、クマラが実りの女神のように扱われるようになっていったのは、海沿いの町、カスタでの出来事だった。
カスタを訪れ、おれと一緒にその周辺を視察したクマラは・・・。
「・・・オーバ。ここ、夏なら、米が育てられる」
そう言った。
そこからのクマラは、ナフティにいろいろと指示を出して、スレイン川の下流の調査をさせて、水路の建設予定地や水田の開墾予定地を杭打ちして定め、カスタから稲作知識伝達のための人材を大森林に連れ帰り・・・。
翌年には、カスタでの稲作を実現させてしまったのだ。
この後、カスタはスレイン王国で最大の人口を抱える大都市へと変貌し、後に新スレイン王国の副都と定められるのだが、それはまた別のお話。
大森林からの稲作の流出は、正直なところ、どうかなあ、とは思ったのだが。
なんとなく、亡くなったハナさんの顔が思い浮かんで、そういや味噌もカスタにあったよなあ、と感傷的になっていたおれは、クマラの強い思いに、まあいいや、と許可を出したのだ。
アルフィはかなりの麦の産地で、カスタは麦が育ちにくい場所だったから、この稲作の伝来で、スィフトゥ男爵の支配下である二つの町は、繁栄していくことになる。
それは、辺境伯領から大森林までを大きな経済圏ととらえて、一緒に豊かな暮らしを享受しようと考えていたおれの意図とも、一致していると思えた。
まあ、米の味は圧倒的に、大森林産の方が美味しいってことだけは言っておきたい。
イズタはスィフトゥ男爵に重用されて、少しずつ、製鉄に力を入れ始めた。
辺境伯領は、金属革命が起こる可能性を秘めていた。
まあ、その前に、イズタは、馬と荷車をつなぐ銅と皮のベルトを完成させて、大森林から辺境都市までの流通に革命を起こした。
馬車輸送の実現だ。
ただし、辺境都市から大草原までの隘路では、速度要注意ではあったのだけれど。
フィナスン組は、馬に乗れる者が増えていたし、大森林までの道も把握している。スレイン川を渡るところだけは、苦労することになったのだが、かなりの距離で、大幅な時間短縮と労力軽減が可能になった。
大草原から辺境都市へ馬を譲ることは認めなかったのだが、馬の存在が有用であることは、辺境伯領では広く伝わっていた。いずれ、馬が拡大していくことは止められないだろう。
大草原で、辺境伯領以上に馬を増産するしかない。まあ、辺境伯領では、馬を食わせるコストが大草原よりもかかるはずだから、広まるまではまだまだ時間がかかるだろう。
馬車輸送だけが流通革命ではない。
大森林では、青銅製の工具を使い、一本の丸太から二隻のカヌーを造った。土器名人のセイハがこれは頑張った。おれが伝えたイメージを再現するように全力を尽くしたのだ。
そうして完成したカヌーは、虹池からの小川を下り、スレイン川との合流で東に曲がって、ナルカン氏族の定住予定地までたどり着けることを証明した。
途中、危険な動物との遭遇もあり得るが、それをうまく、時間帯をずらしてかわせば、下りの速度は馬よりも速い。荷車の目一杯よりは少ないけれど、それなりの荷物も乗せられるので、もう何隻か、増産して、水上輸送を実現させていくことに決定した。
猛獣たちの小川への出現時間の調査では、ノイハが何人かの少年を連れて大活躍。大森林の少年たちは数年前の、おれとノイハの大冒険に憧れていたので、ノイハとの旅に大興奮だったらしい。
さて、カヌーでの川下りは速いが、川上りはそれほどでもない。そこで上りは、川沿いを馬に引かせるという作戦が実行された。これは、イズタが開発した荷車を引っ張らせる銅と皮で造った道具が活用されている。
馬たちからしても、荷車を引くより、カヌーの方が抵抗は小さく、軽いらしい。
大森林とナルカン氏族との間、辺境都市とセルカン氏族との間での流通革命は、この四カ所の関係を劇的に変えていく。
そして、ナルカン氏族とセルカン氏族の間でスレイン川を渡る時には、カヌーに積み替えるという方法が選択されたことで、この時代、この場面での、辺境都市から大森林までの輸送の高速化は、物量の増大へとつながった。
そして、それは、辺境伯領と大森林のアコンの村が、スレイン王国の中央部や北部から、人口を奪うという成果を生んでいるのだ。
軍事的にも、経済的にも、戦乱という大いなる無駄を顧みない、スレイン王国の完敗だろうと、おれは思う。
現在の状況を、どう考えるべきだろうか。
大森林とアコンの村は、完全に、おれたちの影響下にある。それは、まあ、当然だ。その一部に、虎やら熊やら鹿やら、それなりに危険な存在はいるのだけれど、今の戦力なら、特に問題は感じない。
大草原では、ナルカン氏族と密接な関係を築き、そのナルカン氏族は、氏族同盟を拡大させつつ、その頂点に立っている。ドウラの双子の姉はおれの妻であり、その子のユウラは次期族長だ。ナルカン氏族が氏族同盟に対する影響力として握っている食糧の大半は大森林からのもの。氏族同盟は、大森林のアコンの村なしでは、その影響力を保てないだろう。
そして、辺境都市と、辺境伯領については、女神への信仰での大きな影響力を発揮している。アルフィの神殿はキュウエンが聖女として治め、辺境都市だけでなく、辺境伯領から、さらにその先まで影響力を持ちつつある。神聖魔法での治療を望む多くの人がアルフィをめざし、訪れる。そのキュウエンは妊娠中で、いずれ産まれるその子は、男爵の跡を継ぐキュウエンのさらに跡を継ぐ。また、アルフィの顔役であり、貨幣発行を独占しているフィナスンとその一味が、おれとの密接な協力関係を保っている。
しかも、カスタでは后の一人であるクマラが神格化されつつある。豊穣の女神とか、豊漁の女神とか、そんな風に言われてたりする。漁に関しては、クマラは何もしていないにもかかわらず、だ。びっくりするよな。ま、農業関係は、確かにクマラがそういうスキルをもっているってこともあるけれど、ね。それに、カスタの町では一番影響力の強いナフティという網元が完全におれとの関係を重んじている。
「・・・スグルは、かなり広い範囲の覇王となったと、言えるはずですが」
「正直なところ、確かにそういう影響力はあると思うんだけれど、そういう範囲全体の覇王だって言われても、王国を支配して政治を行っているって、そういう感じはほとんどないからなあ」
「実質的には王である、というのは、納得できませんか?」
「納得するとか、しないとかじゃなくて。まあ、複雑な思いがあるんだよな」
「・・・まだ、エイムとのことを割り切れていないのでしょうか?」
「・・・ん、どうだろ」
あれは、あれで。
おれ自身が、自分の男としての役割を果たさなければならなかったのだと、考えるしかない。
「あれも、覇王の役目かと、考えます」
「そうなんだろうね」
うん。
分かっている。
トゥリムがおれに仕えるのだ、と移住してきて、トゥリムの年齢から考えて、適齢期で独身のエイムと結婚させようとしたのだけれど。
「オオバの命令には従いますが、ひとつ、条件を認めてほしいと思います」
そう言ったエイムは、おれとの夜伽を望んだ。
命令で結婚させるってことにも、トゥリムと結婚する前におれとの関係を持つことにも、本当は違和感を抱いていた。でも、それは、前世を基準とするものだということも分かっていた。
しかも、エイムの政治力はおれなんかより、はるかに上だった。
アイラはもちろん、クマラ、ケーナ、さらにはドウラやライム、ジッド、ノイハなど、おれの周囲のみんなを巻込み、さらには味方につけて、トゥリムとの結婚の条件として、おれとの十日間の夜伽を要求した。
なんで、アイラたちがそれを後押しするのかは、分かるようで、分からないのだけれど。
まあ、結局、おれはエイムの要求を受け入れて・・・。
そして、エイムはトゥリムと結婚したのだけれど、エイムが妊娠した第一子は実際にはおれとの間の子だと、分かっている。なんか、トゥリムもそのことを別に気にしていないし、おれに命じられて結婚するのは、エイムにも、トゥリムにも当然、という感覚があるらしい。
おれも、こっちの感覚に慣れていこうとするしかない。
ジッドの娘のスーラとは婚約済みだし、アイラは妹のシエラの嫁入りをおれに認めさせた。
おれの養女の扱いとなっているジルとウル、おれの后にあたるアイラ、ケーナ、クマラ、それから事実婚状態のクレア。そして婚約者のスーラとシエラ。
アコンの木を七本使って造られた「後宮」と呼ばれる範囲で、おれはこの八人と、さらには産まれた娘たち、サクラ、アオイ、ユキネと一緒に暮らしている。
これ、幸せだと答えないと、おかしいと思う。今さらだけれど。
きっと、この先も、多くの妻と、多くの子に囲まれて、生きていくのだろうと思う。
ま、アコンの村で一緒に暮らしていたジッドの子のムッドとヨルが婚約した時や、エイムの弟であるバイズとトトザとマーナの娘でケーナの妹であるラーナが婚約した時は、正直、ほっとした。
これから先、いろいろな夫婦が村にはできていく。
移住ではなく、生命の誕生という人口の増加が、数年後には起こる。ベビーラッシュがおそらく始まるだろう。
アコンの村は、きっと、今以上に発展していくと思う。
「なあ、セントラエス」
「なんでしょう、スグル」
「おれの転生って、成功だったのかな?」
「さあ。そんなことは、気にしなくてもよいのでは?」
セントラエスは、おれの頭を膝で受け止めて、おれの髪をそっとなでている。
女神の膝枕だ。
「私が見てきた、これまでのスグルの生き方は、とても楽しそうだった、そう思います」
「そっかな?」
「そうですとも」
「そうか・・・」
いつも優しい、おれの守護神。
とりあえず、今夜は深く考えることをやめて、おれは女神の膝でゆっくりと目を閉じた。
それは幸せな膝枕だった。
こんなかわいい女神の膝枕で休めるなんて考えてもみなかった。
とりあえず、オーバの建国記としては、完結です。
続編はいずれ、必ず。
プロットから練り直します。
本業多忙につき、確約できませんし、別の新連載もあり得ます。
では、これにて。
かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。
了。
続編の連載までは、
「かわいい女神と異世界転生したこぼれ話。」で、スピンオフをお楽しみください。
また、「賢王の絵師 ~アイステリア王国中興物語~」も、ぜひ、お試しください。
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