第83話:ここぞという時には女神の力を遠慮なく借りる場合
7月からは0時更新です。よろしくお願いします。
日別[全部分] アクセスのほとんどが6月になりましたが、それを7月は塗り替えていくのか、どうか。
アクセス数の伸び具合にも注目しています。
評価合計500pt突破! 嬉しいです!
辺境都市から大草原に向かう隘路での戦いです。
避難民の一団が全員、例の橋を渡ってから約二時間。
陽が傾き、闇が近づいてきた頃、兵士の一団が見えた。
兵士の一団が二列縦隊で走ってくる。なんか、大学の駅伝部のトレーニングみたいだ。予想通り、長駆のスキル持ちの集団で、23人しかいない。
武装していない避難民への追撃など、23人でも十分なのかもしれない。
おれは一人で撃退するつもりだったのだけれど、トゥリムが残ると言い張った。
あまり、戦う姿を見られたくはないのだ、とはっきり言ったのだが、トゥリムは譲らない。
戦いの後、ここに置き去りにするぞ、と言ったら、ついていくぐらいのことはできると言い切りやがった。長駆のスキルがあるからって調子に乗ってやがる。
絶対に置き去りにしてやると決めた。
とにかく、おれが戦う姿は秘密にできるかどうかを確認すると、意外なことに、誰にも言わないと神に誓った。
神では信用ならんと、巫女長に誓わせると、それにも従う。
えらく従順で不気味だった。
「邪魔だから、余計な手出しをするなよ?」
「・・・討ちもらした分はこっちで止めてやるから安心してくれ」
なんという、偉そうな一言。
はあ。
ま、秘密は守ると約束したんだ。
せっかくなので守ってもらうとしよう。
「一瞬で終わるから黙って見てろ」
「20はいるぞ? 剣も抜かずにどうするつもりだ?」
はいはい。
黙って見てなさい。
今回は、殺さず、などということはしない。実験したいことがあるからだ。
敵軍がおれたち二人に気づく。
でも、特に止まる訳ではない。
おれは投石スキルを活用して、小さなつぼを投げた。中身はナードの油で、大葉でふたをしてひもでしばってある。
うわ、と言いながら避けようとするが、兵士ごときに投石スキルとおれの能力値で投げるレーザービームは避けられない。右投げだけれど。
小さなつぼは割れて、わずかなダメージとともに、敵兵を油まみれにする。
油だ、火攻めに警戒しろ、とかいろいろ言ってる。
まあ、おれたちは火らしいものは何も持ってない。
おれはさらに5つ、油の小さなつぼをぶつけた。
「嫌がらせなのか?」
トゥリムがささやく。
おれは無視した。
慌てるな、とか、たいまつは持ってない、とか、聞こえてくる。
男爵たちの守城方法は辺境伯軍にとってトラウマになっているのかもしれない。まあ、壁を登ってきた敵兵の顔面に油をひたしたぼろ布をかぶせて、たいまつで火をつけて落とすっていう対処法だけれど、トラウマになるよな、それ。そこまでやっても、壁を突破されたんだけれどね。兵力差、恐るべし。
敵兵の一団とおれとの距離は3メートルを切った。
敵兵は十分に油にまみれている。
おれは意識を右手に集中させて、体内の見えない力、魔力を集め、高めていく。
魔力を集めた、その右腕を伸ばす。
「火炎嵐」
たった一言のつぶやきとともに、突然現れた大きな炎が23人の敵兵を全て包んで、ぐるぐると回転しながら焼き尽くしていく。
兵士たちが浴びた油が、炎をさらに拡大させている。
何か、言葉になっていない音のような悲鳴が聞こえてくる。
肉が焼け、焦げていく臭いが広がる。
やがて、敵兵は燃えながら宙に舞い、何人かはそのまま渓谷へと落ちていく。
味方であるはずのトゥリムが、後ずさりながら、意味をなさない音を口からもらしていた。
大森林では使えないもんだから、ある意味では実験のつもりだったんだけれど。
・・・火炎魔法、怖いな、マジで。
数秒後。
炎の嵐がおさまってから、隘路に倒れた敵兵を確認した。
最後方にいた一人だけがかろうじて息があったのだが、その他は確認時点で死亡。その生きていた者も含め、全員を渓谷へと蹴り落とした。
先に渓谷に落ちた者も含め、スクリーンで生存者はいないことを確認済み。
これで、おれの火炎魔法を見たのは、トゥリムだけだ。
「さっきのは、なんなのだ・・・」
「知る必要ないだろ。どうせ秘密なんだ。あ、これ、しゃべったら殺すぞ」
「あ、ああ・・・」
「じゃ、走るぞ。ついてこれるんだろ?」
「ま、待て。橋は? この橋はどうする? 落とさなくていいのか?」
「言ったろ。辺境都市を取り戻すことの方が、優先順位が高いんだ。ここの橋を焼き落としたら、戻るのに余計な手間がかかるだろ」
「本気なのか?」
「いいから、ついてこいよ」
「・・・分かった。さっきの兵士たちと同じくらいは走れる。遠慮はいらん」
「そっか。長駆スキルはあるもんな」
おれは走り始める。
トゥリムがその走りについてくる。
「長駆? スキル?」
「まあ、知らないこともあるよな。でもな、それ以上に速く走る、そんな力もあるからな。じゃ、先に行くぞ」
おれは高速長駆スキルで、あっという間にトゥリムを置き去りにした。長駆スキルで走るトゥリムとはスピードが段違いだから、当然の結果だ。
神眼看破で見た、遠く離れたトゥリムの表情は、可能なら写真に撮って残し、からかうために使いたいくらいのいい表情だった。
ざまあみろ。
偉そうについていくぐらいはできるとか言ってくせに。
これにこりたら調子に乗るなよ~。
避難民の最後尾に、おれはとっくに追いついていたのだけれど、かなり遅れて、トゥリムが追いついた。
さっきまで後ろで戦闘が行われたなんて、避難民たちは知らない。
フィナスンが手下たちとクレア、キュウエンにだけ、辺境都市の落城を伝えている。キュウエンには、男爵が捕えられたことも合わせて伝えられたはずだ。男爵は死んではいない、今のところ。
スクリーンで、辺境都市に入った辺境伯軍の動きを確認。
まだ、町でいろいろと動いているが、こっちに向けて出発するようなようすはない。そもそも、先行した部隊が全滅したことを知ることもないはずだ。
どっちかというと、作業がメインだな。生き残って降伏した辺境都市の兵士たちに東門の掘り起しをさせている。壁を乗り越えるのは、別に人間はいいが、荷物だとかなり面倒だからな。開門作業は当然の処置か。
もう陽は沈む。
そうなったら、あの隘路を行軍するのは危険なので困難だ。
こっちも、明日の午前中には大草原へと入れそうだし、休むにはちょうどいい頃合いだ。
遠慮なく、休憩しよう。
翌日、辺境都市から、新たな辺境伯の軍勢が出発した。辺境都市の統治に残している部隊も多いので、全軍ではない。明後日の朝には、大草原へなだれ込んでくるだろう。辺境伯本人が、辺境都市に残っているか、軍勢を率いてくるかが、おれたちの運命を分ける。
こっちは、大草原に入り、避難民を連れて、予定通りの位置を目指した。
「なんだ、あれは?」
トゥリムが声を上げた。
「見て分からないのか?」
「・・・守備陣が設営されているようにしか見えん」
「その通りだな」
大草原に入って、およそ一時間の距離。一段高くなっているところに、木の柵で囲まれた一帯があった。柵の中の中央には櫓が立てられている。木の柵の一帯では、先に到着した避難民が、男も女も関係なく、周囲を掘って堀をつくっている。陣の中からは炊煙も見える。
「・・・前もって、準備していたのか?」
「王都の密偵が知らなかったとか、フィナスンとその手下たちは優秀だねえ」
「こういう事態を想定していたのだな」
想定していた、と言えば、そうとも言えるし、そうでないとも言える。どちらかといえば、これを狙っていた、という方が正解かもしれない。避難民を引き連れ、大草原へと逃げて、辺境伯の軍勢を待つ。おれたちが勝つには、これしかないと思うから。
「予想以上の数を連れてきてしまったけれどね」
おれはそう言い捨てて、構築中の陣を見つめた。フィナスンがスィフトゥ男爵から大草原の調査を依頼された時に、鳥瞰図スキルで確認したちょうどいい高台の場所を教えて、必要な木材と食料などを運びこませて、木の柵を設置し、食料は埋めるようにしてほしいと頼んでおいたのだ。避難民の数はその時に予定していた人数よりも多いが、それでも五日は食料ももつだろう。
最後尾のおれに気づいたクレアが、キュウエンに声をかけ、二人で大きく手を振っている。ここまでの移動では離れ離れだったので、久しぶりだ。
「ようやく、まともなものを食べられるな」
フィナスンの手下がパンを焼いているのを見て、おれはそうつぶやいた。
食事と、休息。
日中は陣の構築を頑張ってもらうけれど、これまでの移動中とちがって、よく食べて、よく寝る時間が確保できる。
少なくとも、辺境伯の軍勢が来る、明後日までは。
信じられない、と顔に書いてあるような表情で、トゥリムは守備陣と、その守備陣をさらに堅固なものにしていく人々を見つめていた。
この程度で驚くなよ、と。ここからが本番だからな、と。
おれは心の中で笑った。
王都の人間をびっくりさせるような報告させてやろうと思う。
さて、面倒なことに、またしても、麻服のアルフィ人が、羊毛の服の大草原の人に暴言を吐いたという。
そして、今度は手下ではなく、フィナスン本人が仲裁に入った。
いや、仲裁というか。
何というか。
はっきり言えば、毅然とした、処理、をした。
暴言を吐いたアルフィ人は、フィナスンの手下たちによって自分の荷物を全て守備陣の外へと放り出された上で、フィナスンによって四、五発殴られ、追い出されたという。
フィナスンが女性を殴ったと聞いて、かなり驚いたのだが、まあ、咎める必要はない。そういうものなのだ、と思うことにする。うちの村でも、手合わせならアイラやクマラを骨折させるところまでやることだってあったしね・・・。
差別意識の強いアルフィ人とやらは、これから避難民が一丸となって戦う必要があるのに、そういうタイプの言動が許されると思っていてもらっては困るのだ。本当のところは、貧民区の、大草原出身者を避難民として連れて逃げるつもりだったから、非協力的なアルフィ人は、正直、おれも邪魔だと感じる。セントラエスの女神効果が出過ぎたかもしれない。
「そういう感じっすけど、問題あるっすか?」
「いや、別にいい。問題ない。そもそも、ここは辺境都市アルフィじゃなくて、もうすでに大草原だしな。大草原に文句があるなら、辺境伯に占領されたアルフィに戻ればいい。他の避難民にも、はっきり伝えておく方がいいな。これから一緒に戦う味方を認められないのなら、それは敵の味方、つまりおれたちの敵だって。見せしめってことで、さっきの女と同じ目に合わせると、伝達しよう」
「今の状況で、敵味方の区別がつかないような、危機感のない者がいると、戦えないっすからね」
「そうだな。キュウエンにも頼んで、さっきのことを全員に伝わるようにしてくれ」
「了解っす」
フィナスンが動き、手下たちが散らばる。フィナスン組はとても優秀だ。正直なところ、フィナスンを兵士のリーダーにできなかった、スィフトゥ男爵の限界が、辺境都市を陥落させたんじゃないのか、とさえ思う。
とりあえず、これで表向きは内部の争いが浮き出てこないはず。
でも、まあ、もうちょっと、別の形で、一体感が出るようにはしないと・・・。
「なんだこれは、どこから出した?」
作業が進む中、常識ある巡察使トゥリムは悲鳴のような声で叫んだ。
とっても便利な袋からですが、何か、問題でも?
・・・という、本当のことは教えない。
知りたがったらなんでも教えてもらえると思うなよ。
おれがセントラエスに昔もらった便利な袋から取り出したのは、竹。
それも、握るのにちょうどいい太さで、しなりはほとんどない。
長さはだいたい三メートル。
どうしてこの袋にそれが入っているのか、訳が分からない長さと・・・数。
その数50本。
「見たことない木っす」
「そうか、こっちにはないんだな。これ、竹っていう、いろいろと使い道のある木なんだよ。ま、いいか、それは。フィナスン、頼んでおいた、あれ、出してくれ」
「もう用意させてるっす」
フィナスンがそう言うと、手下が麻袋をひっくり返して、中身をぶちまけた。
からからと接触による金属音が響く。
落ちてきたのは、銅製品。青銅の槍の穂先だ。
「これで槍を作るのか・・・」
「この長さなら、外壁代わりの木の柵の間から、しっかり離れて突くことができる。かなり安全に戦えるし、穂先は青銅だから、よく刺さるだろ」
「しかし、男が少ない。女では扱えないのではないか?」
「別に、力が弱いのなら、二人で一本の槍を持てばいい。足腰が弱いのなら、少し下がって助走をつければ問題ない」
「・・・辺境都市の守りは、やはり、オーバ殿が男爵に知恵を付けていたか」
「さあね。どうだろうね。ま、この槍なら、女たちでも戦えるし、女たちの方が危機感は強いだろ。ここで負けたら、ひどい目に遭うのは女の方だからな。そういう目に遭わないように逃げてきたんだ。必死で頑張るだろ」
「それでも、ここで相手をするのは、最終的には辺境都市の外壁を乗り越えた軍勢だぞ?」
「・・・辺境伯の軍勢は、楽勝だと思って、完全にこっちをなめてるし、草原でおれたちを追い回すつもりだろうからな。弓矢とか盾とか、邪魔になるもの、わざわざ持ち出すと思うか?」
「・・・思わん」
「槍も、最初は見せないようにするんだ。相手を呼び込んで、木の柵まで引きつけて、最初にごっそり突き殺す。そこからが、勝負だな。おれの予想じゃ、何度か突撃してきたら、今度は無理せず距離をおくと思うぞ。こっちの食糧がなくなるか、あっちの食糧がなくなるか、そういう戦いになるかな。そもそも、最初にこの守備陣を見つけた段階で、しばらく足踏みしてくれると考えてるけれど」
「兵糧攻めか。それは、時間を稼いだ分だけ、辺境伯の方が有利だろう? 向こうは伝令を走らせれば、辺境都市から補給ができるのだろう?」
「ま、そこからは、どうしたもんかねえ・・・」
おれはトゥリムが持つ正しい感覚に満足して、槍の穂先の取り付けに集中した。
トゥリムの正しい感覚、とは、スィフトゥ男爵にはなかったものだ。つまり、援軍のない籠城は意味がない、というもの。相手に補給がなくて、おれたちが籠城するのなら、時間が経つまで守ればいい。相手に補給が届くのに、おれたちには食料の限界があるというのでは、話にならない。籠城とは、本来、ただの時間稼ぎなのだから。
おれは避難民の中から、道具製作関係のスキルがある者を4名、選抜して、穂先を取り付けさせている。どのみち、使い捨ての槍なのだが、少しでも、折れるまで、穂先が取れるまで、時間がほしい。そういう思いで、対人評価を使ってスキル持ちを選抜している。対人評価を大勢に使ったので、おれはごっそり忍耐力を削られているが、忍耐力は今夜眠れば朝には戻ることだ。
穂先の取り付けにはやはりネアコンイモのロープを使う。ネアコンイモは、こういう場面でも役に立つ。大森林の恵みに感謝したいと思う。
守備陣の外では、クレアとキュウエンが子どもたちを連れて、草を結んでいる。単純な、足を引っかけるだけの結び罠だ。子どもたちも何か手伝いたい、と言うので、クレアとキュウエンに連れて行かせた。ま、相手を即死させるような効果はないが、全力疾走での突撃なんかだと、けっこう混乱を生むはずだ。こういう地味な嫌がらせは、時間稼ぎにはちょうどいい。最初にひっかかるし、忘れた頃にもひっかかるだろう。
外堀となる穴掘り組は、掘り出した土で木の柵の根元をしっかり固めつつ、出てきた石は投石用の武器として柵の内側に確保している。木の柵はそのままだと簡単に木と木の間を抜けられてしまいかねないので、ネアコンイモの芋づるロープをたくさん結んで、通り抜けにくいようにしている。ロープを結ぶ作業も避難民が協力し合っている。
トゥリムは、守備陣が気になるようで、きょろきょろ、うろうろと見学している。このまま、何日もここで耐えしのぐとしたら、不安で仕方がないのだろう。
フィナスンとその手下たちは、避難民の指揮、監督だ。作業の指示を出したり、食事や薬の世話をしたりと活躍している。あまり不安そうではないのが不思議だが、フィナスンに問えば、「ここなら兄貴と一緒ですから」としか言わないし、手下たちもその言葉に力強くうなずく。フィナスン組からの信頼がありすぎてちょっと怖い。
出来上がった槍を使うメンバーも、スキルとステータスを優先している。出来上がった分はすでに渡して、フィナスンの手下たちが手際よく訓練させている。一人で使う者、二人一組で使う者など、木の柵の間に刺す練習を真剣に続けている。
おれは辺境伯の軍勢をスクリーンで探る。大草原まで攻め込むために進んでいるのは、およそ500人。単純な数だけなら、避難民の方が多い。数だけでは話にならないのだけれど。そろそろ忍耐力が限界だ。目当ての情報はひとつだけ。
辺境伯が、いるか、いないか。
明日の朝、一番に確認しようと思う。
次の日も、朝から作業や訓練が続く。
昨日の夜は、避難民のみなさんもゆっくりと食事をとり、ゆっくりと眠ったはずだ。まあ、安心して眠れるという訳ではないだろうが、それは仕方がない。
復活した忍耐力で、スクリーンを出して、辺境伯の軍勢を確認する。進軍速度はそれほど速くないようだ。これなら、こっちの予想通り、明日の朝以降に、ここに攻め寄せてくるはずだ。あの、辺境都市の籠城初日の軍勢は、裸の軍師が言っていた通り、スィフトゥ男爵以外の、あと二人の男爵の兵士たちが中心だったようだ。
つまり、この進軍速度のやや遅い軍は、辺境伯の直轄地からの辺境伯軍で、この中には辺境伯がいる可能性が高い。
トゥリムの情報を信じるなら、辺境伯の狙いはひとつ。
スィフトゥ男爵の娘、キュウエンだ。
辺境伯は、キュウエンにあんなことやこんなことがしたいのだろう。キュウエンは迷惑だろうと思うけれど、そのおかげで、一兵卒にキュウエン捕縛を任せたりせず、自分の目の前で捕まえたいのだ。欲望にまみれてて気持ち悪いが、そのおかげでそこに辺境伯がいるのなら。
おれは運がいい。
どのみち、長期戦になれば、どうしようもない。長期戦にするつもりもない。
これだけの人数をアコンの村に連れて行くとすれば、道中の猛獣をどうするかは大きな課題だ。やってできなくはないが、かなり苦労するのは目に見えている。
数も、装備も、士気さえも、上回っている相手をどうやって倒し、追い払うのか。
一番簡単な方法は大将首。辺境伯を倒してしまえばいい。
今回の場合は、生け捕りが勝利条件。
狙いは、人質交換。交換するのは、人質だけじゃないけれど。
正直なところ、辺境伯さえ、ここまでやってきてくれたら。
ここで辺境伯を捕まえるというのは、そんなに難しいとは思っていないのだ。
逃げられないように、足の骨でも折ってしまえばいい。
とっ捕まえた辺境伯と、すでに捕まった男爵の人質交換というか、辺境伯の命をかけさせて、交渉する。裸の軍師からの情報で、どういう交渉をすればいいかは、だいたい分かっている。要するに、スィフトゥ男爵の即時解放と、辺境都市アルフィからの撤退、その他もろもろ盛りだくさん。辺境伯の命が惜しければ、と。まあ、まだ捕まえてもいないけれど。
・・・そういや、あの軍師、森の木に結んで吊るしたままだったな。あれから何日か経つけれど、誰かに気づいてもらえただろうか?
ま、いい。
まずは辺境伯の確認だ。
おれは、ごっそりと忍耐力を奪われながら、対人評価で情報を得ていく。
・・・やっぱり運がいい。
辺境伯は、ここに向かって軍勢を率いていた。
これは、男爵二人には、避難民を追いかけて、奪い、犯し、蹂躙するだけの簡単なお仕事だと思われたか。辺境伯に任せても問題がない、簡単な追撃戦だと。
いやあ、ラッキーだよなあ。
一発逆転のチャンスが歩いてこっちに向かってるよ。ありがたいことだ。
アルティナ辺境伯はレベル11。なんだ、スィフトゥ男爵と同じなのか、と驚いた。その程度か、と。
支配者層は確かに、他の人よりもレベルは高い。でも、高いといってもレベル10前後ということなのだろうか。まあ、それで十分だと言えば、それもそうか。支配される側はレベル4か5くらいが上位者の中心なのだ。支配するのにレベルが10もあれば十分だ。
以前、セントラエスと辺境都市を攻め落とす話をしたけれど。スレイン王国そのものだって、その気になれば落とせそうだ、と。
口にはしないけれど。
さて、それでも保険をかけておくとしよう。
「セントラエス、ちょっといいかな」
「どうしました、スグル?」
おれの背後にいたセントラエスが、いそいそと正面にあらわれる。
いつ見ても、かわいい女神さまだ。
「実は、こういうのが、ほしいんだけれど・・・」
おれは、辺境伯を確実に捕まえるために、セントラエスの力を借りるのだった。
7月からは0時更新です。よろしくお願いします。
第3章完結まで、あと数話。
気合いを入れて頑張ります。
拙作のもうひと作品、「賢王の絵師」も、もしよかったら読んでください。
感想、ブックマーク、評価、どんどんよろしくお願いします。




