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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第3章 辺境都市編

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第78話:女神が心配事を華麗にスルーした場合

感謝感激、累計20万PVを突破!!!

ありがとうございます。嬉しいです。

毎日連続更新継続中。六月中は17時更新です。七月から0時更新に変更する予定。

こんなに連続更新ができるとは自分でも思っていませんでした。

お友達に紹介していただけたら嬉しいです。

読者拡大希望です。

評価やブックマークもよろしくお願いします。



 辺境都市アルフィ、籠城戦、三日目。

 辺境伯軍の本隊が到着した。

 そのまま辺境都市へと攻め寄せて来るかと思ったが、敵陣から炊煙が上がっている。のんびりしたものだ。

 どうやら敵にあせりはないらしい。

 食事と休憩をとって、午後もかなり時間が経って、陽が沈むまであと二時間くらい、というところで、敵陣の前に辺境伯軍が整列を始めた。

 一方、辺境都市アルフィの守備兵は、休憩を取れなかった。

 男爵の判断ミス、だと言える。

 まあ、仕方がない。

 敵の主力が到着したのだ。油断せずに警戒するのも当然と言える。

 おれは、東南の外壁の角の上で、見物していた。

 南側はそのまま急峻な崖で、その底には川が流れている。かなりの水量で、しかも急流だ。この辺りは渓谷で、川幅が細くなっているからだろう。

 大草原は広大な台地でもあるらしい。まあ、全部が全部、台地という訳でもないのだろうけれど。辺境都市よりは標高が高いことは間違いない。

 北側にも似たような崖が高くせり上がっていて、スレイン王国側から攻め寄せることができるのは東側の外壁だけだ。

 辺境都市は、断崖となった渓谷の横にあるわずかな細い道を塞ぐように建てられた城塞都市だ。ただし、本当に戦うことを想定しておらず、外壁がたかだか3メートルという低さであるという、どうしようもない欠点を有する。

 大草原の氏族たちなんて、スレイン王国からしたら、敵だと考えられないみたいだからな。


 さて、辺境伯軍の布陣は整ったようだ。

 ソーソー軍百万という威容を誇るわけではないが、こっちの人数から考えると、2000人ってのは、なかなかの軍勢だ。ずらりと隊列を整えているから、ある意味、壮観でもある。正確にはわずかに人数は欠けているはずだけれど。

 まあ、そのまま攻め寄せても、門の前の丸太橋しか、寄せられるところはない。だから、実際に相対する攻め手の人数が増えることもないし、多くの場所を守る必要もない。門の近くだけが攻防の中心となる。

 辺境伯軍が前進を始めた。そのまま堀の前までやってくる。

 盾兵の後ろに弓兵、そのさらに後ろに突撃兵という布陣は初日と同じだ。

 初日よりも数がかなり多いので、その厚みが違うけれど。

 しかし、戦術は変更したらしい。初日は、矢を射かける間に突撃兵が外壁に接近して登る、というやり方だったが、今日はまだ一射も放っていない。突撃兵が走っている間に、矢を放ってはこないと考えたのだろう。

 まあ、正解だ。そんな動く的を狙って、敵を戦闘不能に追い込むには、かなり弓の技量が高くなければできない。だから、一射必中の至近距離攻撃を選択したのだ。

 ただし、戦術の変更の、狙いは、おそらく・・・こちらの弓兵か。

 突撃兵が外壁に取り付き、登り始めるが、まだ敵軍から矢は届かない。

 これ以上は待てないので、男爵が弓兵に指示を出す。

 弓兵は初日と同じように、外壁の壁面沿いに至近距離から矢を放とうと乗り出していく。

 そこを相手の弓兵に狙われた。弓兵の数も初日よりも多い。当然、飛んでくる矢の数も多い。

 守備側の弓兵は、自身の矢を放つ前に、身を引いて敵からの矢を避ける。

 そのタイミングで、突撃兵が外壁の上に現れる。残念ながら、味方の矢に背中を射抜かれ、落ちた者もいた。なんまんだぶ、なんまんだぶ。

 中には、登ってきた突撃兵の腹を、その場で射抜いた強者もいたが、何か所かは槍と棍棒での対処となった。また、槍持ちや棍棒持ちが敵の弓兵に狙われ、怪我人が増える。

 第一波はなんとか下へと落としたが、初日よりも第一波から守備兵の怪我人が多い。

 さて、どうする?

「藁束! 股下!」

 男爵から指示が飛ぶ。

 初日は置いていた藁束を今日は兵士が持って立つ。

 敵からの矢は藁束を持ったまま受ける。そのままの姿勢で藁束の壁となった兵士の股下から、わずかにのぞいた隙間に弓兵が頭を突っ込み、矢を放つ。

 なるほど!

 確かに、藁束、股下、である。

 敵兵がこちらの弓兵を狙おうとすると、藁束の下のほんのわずかなスペースを射抜かなければならない。そもそも、堀の向こうからの矢は、こちらの守備兵を即死させるような勢いがない。あの矢なら、怪我人は増えても、死人が出る確率は低い。辺境伯軍からすると、弓矢は補助兵器であって、主たる攻城兵器ではないのだ。あくまでも、突撃兵が大量に外壁に登り、壁の上の兵士たちを制圧し、辺境都市内を蹂躙することが目的なのである。

 この藁束、股下の作戦で、辺境伯軍の弓兵からすると、一気に外壁の上の弓兵への狙いが難しくなったはずだ。

 ただし、藁束を持つ兵士の中には怪我人が出ている。盾役なのだから仕方がないともいえるが。ま、死なない限りは、セントラエスの祝福を受けた傷薬で、なんと翌日の朝には傷が完治するという女神の加護が今の辺境都市アルフィには存在している。

 藁束の兵士は新しい藁束を持った兵士と交代して、たくさんの矢が刺さった藁束を城内へ投げ落とす。下では今日もせっせと矢を回収する兵士たちがいる。せこせこ矢数ましまし作戦だ。

 弓兵も二人一組で、うまく交代して攻撃の合間を減らしている。

 初日の敵の戦術から学んだのだろう。

 そのまま第七波までは、なんとか防ぎ切った。

 しかし、第八波は、辺境伯軍が弓兵を先に動かし、藁束を攻めてきたのだ。

 人ではなく、藁束を、だ。

 火矢、である。

 藁束はよく乾燥しており、また藁の構造上、空気をよく含むので、これがまた、よく燃える。

 簡単な対処方法だが、きわめて効果的だった。

 ただの矢なら、最高のリサイクルボックスになる藁束だったが、火矢だとそうはいかない。

 飛んでくる矢を防ぐと、藁束に火が移る。そして、パチパチという音とともに、煙と炎がおどり狂うのだ。

「ちっ・・・燃えた藁束をぶつけてやれ!」

 男爵の指示は正しい。

 藁束はもう、辺境伯軍に対処されてしまったのだ。せこせこ矢数ましまし作戦は、籠城側としては重要だったが、それにこだわっていては危険だ。自滅する。

 燃やされたのなら、燃やされたことを活用して、武器に変えていけばよい。

「油を撒け!」

 藁束をぶつけた突撃兵が壁から落ちると、そこにひしゃくで油をかけていく。

 登ろうとしていた突撃兵も、油にまみれる。

 壁の上からは油の雨だ。サクラの雨とかなら美しかったのに。

 辺境伯軍からの火矢は続けて藁束に刺さる。

 新しい藁束も燃やされてしまったが・・・。

 今度は守備兵の逆襲である。

 大量の油が撒かれた外壁の下に、パチパチと燃えている藁束が次々と投げ込まれる。

 さらに上から、油は追加されていく。

 門の前にはあっという間に、火炎地獄が広がっていた。

 人間が生きたまま、炎に包まれてもがいている。

 炎から逃れようと、壁に取り付き、登る者を、守備兵は上から炎の中へと突き落とし、そこに、とどめとばかりに油をかけていく。

 第八波の後ろに控えていた、第九波や第十波、第十一波の突撃兵たちがみな、燃え盛る炎に巻き込まれて焦げていた。

 肉が焼ける、嫌な臭いが外壁の上に届く。

 今夜は、焼肉が食べられないな、とおれはため息をつく。

 カンカンカンと辺境伯軍の中から金属音が響き、辺境伯軍が後退していく。

 炎は命ある者も含んだまま、その猛威を振るい、外壁の下にある生命を全て奪い去った。

 かつて人だったその塊りは、そのまま朝まで燃え続け、ただの炭となった。

 この日も辺境都市アルフィは辺境伯軍の攻撃を耐え抜いた。

 守備兵たちは雄叫びをあげ、辺境都市アルフィは歓喜に包まれた。

 しかし、用意していた藁束を全て失い、これから先の矢の補充が難しくなったこと。

 切り札のひとつだった油での火攻めを見せてしまったこと。

 実際のところ、男爵の方が、辺境伯よりも、追い詰められていた。

 籠城戦は、まだ終わらない。

 一時の勝利に酔いしれていたとしても、それは本当の勝利ではない。

「嫌な感じがするな」

「スグル?」

「いや、ひとつずつ、手の内を暴かれて、封じられていくような感じがする」

「気のせいでは?」

「・・・相手にだって、優秀な奴がいても不思議じゃないだろ」

「まあ、そうですね。でも、スグルは始めから、辺境都市は5日か、長くて10日、もてばいい方だと考えていませんでしたか?」

「・・・勝ちたいって欲が出てたのか。そうだな、セントラエスの言う通りだ。とりあえず、相手の城攻めに対処できる方法と物資があるところまで、が、ここの戦いだ。勝つことにこだわらないようにしないとな」

「それよりも、大草原ではケリがついたと、アイラから知らせがありましたよ」

「そっか」

 おれは、夕陽に照らされて後退していく辺境伯軍を見た。

 特に乱れた様子もなく、整然と退却している。

 まるで、このくらいは予定通りだよ、とでも言うかのように。

 きっと、予定通りなのだろう。

 様子見のつもりだったから、食事と休憩をはさんで、夕方のわずかな時間で攻め寄せてきたのだ。

 籠城三日目の陽は落ちた。

 東門の前の炎は、吉兆か、それとも凶兆か。

 戦いは夜にも動く。




 神殿でスクリーンの確認をしていると、辺境伯軍の陣地から動きがあった。

 いくつか、少ない人数が動いている。

 移動方向は、南。

 狙いは川。

 険しい渓谷を移動し、大草原側の西門を狙う作戦が思い浮かぶ。

 辺境都市では、誰もが、それはない、と考えている手だ。

 それはない、と思っているからこそ、そこを突いてきたのだろう。

 思った通り、川沿いを移動している。

 敵の数はたったの10人。

 辺境都市が近づくと、移動スピードが極端に遅くなった。

 外壁の上の見張りから見えないように、断崖絶壁へと降りて、横移動をしているのだろう。

 レベルは7が一人、6が三人、5が六人。

 精鋭部隊で、しかも、夜間行動が得意な者か、隠密活動が得意な者か。

 通常は不可能だと思われているルートを突破できる能力の持ち主が選抜されている。

 光点がひとつ、急速に仲間たちから離れていく。さっきまでの動きから考えると、あり得ないスピードだ。

 ・・・川に落ちて、流されたか。

 そのまま光点が消える。

 落下によるダメージか、溺死かは分からないが、一人は死んだ。

 続いて、二つの光点がさっきと同じような動きをして、消えていった。

 誰かが誰かを巻き添えにして落ちたのか。

 それとも、仲間を助けようとして二人とも助からなかったのか。

 敵には敵の、辺境都市を攻略するためのドラマがあるのだろう。

 さらにひとつ、光点が流れ星のように動いて、消えた。それと同時に、辺境都市内でマークしていた光点が動き出した。男爵が取り逃がした辺境伯の間者だ。西門の方向へ移動している。

 どうやったかは分からないが、連絡手段があったのだろう。

 おそらくは、無造作に打ち込まれた矢の中に、メッセージを込めたものがあったに違いないが、それが真実かどうかは分からない。元々、何日目には何をする、と細かく行動計画が立てられていたとしても不思議はない。

 問題は、男爵たちには、この動きが全く読めない、ということだ。

 教えてやったら感謝されるかもしれないが、どうして分かったのか、という話になる。まあ、おれは初日に慌てて仕出かしているので、それも今さらという気もしないでもない。

 西門からの侵入が狙いなのではなく、西門から侵入した後、東門を開くのが本当の狙いだろう。辺境伯軍は、東門が埋められていることに気づいていないのだ。同時に東門に夜襲がかけられるはずだから、男爵たちはそもそも西門での動きに対応できない。だが、間者は東門が埋められていることに気づいているはずだから、部隊と間者が合流した時点でおそらく別のプランになる。そうなると、男爵の暗殺か、兵糧の火攻めか。あ、まずい。神殿が焼かれるかもしれない。よく考えたら、ここに兵糧の麦粉がたくさん用意されてるんだった。男爵の野郎、なんてものを押し付けやがった。

 ・・・降りかかる火の粉ははらうべきだよな。

 おれは木剣を取り出して腰紐に差し込み、奥の部屋を出た。

 物音に気付いたクレアがキュウエンと一緒に使っている部屋から顔を出した。

 口の動きだけで、キュウエンを頼む、と言うと、任せて、と返してきた。神殿はクレアに任せて、おれは外へ出る。

 スクリーンに新たな光点の反応が出る。

 やれやれ。

 おれの動きに合わせてきたか。

 話をややこしくしてほしくはないのだけれど・・・。

 おれが西門を目指して歩いていると、中央広場で、三人の男がおれの前に立った。

 王都の密偵たちだ。そのうちの一人は、神殿で話したことがある。

「辺境伯の最後の間者が動いている」

「それくらい知ってるよ」

「奴を止めるんだな?」

「邪魔するのか?」

「いや、協力する」

 おや、まあ。

 それなりの実力者だから、邪魔ってこともないけれど。

 王都の密偵たちに、どんなメリットがあるのやら。

「いいのか?」

「この状況を長引かせることが必要だ」

「長引かせてどうする? どのみち、ここは落ちるぞ?」

「落ちるまでに、できるだけ辺境伯の力をそいでもらわねばならん」

「ほう・・・?」

「あれほどの銅の武器と防具をそろえているとは思っていなかったからな」

「なるほど、ね。ところで、今日は長々としゃべるんだな」

「・・・皮肉か」

「いや、知りたいことがあるっていうか、その・・・」

「なんだ?」

「辺境伯の軍勢が、なんて言うか、不気味だ。戦上手というか、男爵や守備隊はよくやっていると思うが、なんか、手のひらで踊らされてるというか」

「ヤオリィンだ。辺境伯に仕える知恵者で、もともとは北方のカイエン候の下にいた」

「そいつが、軍略を?」

「そうだろうな」

「どんな奴だ?」

「背が高いが、やせている。短髪で、瞳が碧い。この辺では珍しい色だ」

 おれは、いろいろと計算する。

 この三人と、西門を目指す部隊の六人とのレベル差。

 ヤオリィンとかいう軍師の価値。

「そいつ、夜襲で、城攻めに出てくるような奴か?」

「本陣でふんぞり返ってるだろうな。考えるだけで仕事は済ませた、とでも言いそうだ」

「・・・辺境伯の密偵と、辺境伯軍の精鋭6人、その6人は、あの急峻な川沿いを移動してくるような連中だけれど、たった3人でやれるのか?」

「おまえはどうする?」

「・・・ヤオリィンってのがいなくなると、この状況がほんの少しは長引くんじゃないか? なんて思ってさ」

 密偵が目を開く。

 珍しく驚いた、という感じの顔だ。

「そっちこそ、一人でやれるのか」

「ま、な。でも、気遣い、感謝するよ」

「ならば、行け。こちらは問題ない」

「だろうな」

 3人ともレベル10だ。

 王都ってのも、いろいろと、怖ろしいところなのかもしれない。

 できれば、関わりたくないもんだ。

 おれと王都の密偵は、東と西に分かれた。


 おれは高速長駆で全力疾走、そこからの大跳躍で、一気に外壁の上に立つ。

 隠密行動スキルで着地音はさせない。

 そのまま外壁の東北角から飛び降りて、堀の向こうへ。

 いったん森へ入り、遠回りをして辺境伯軍の本陣を目指す。

 夜襲だっ、という叫びとともに、東門で戦闘が始まる。

 今夜の勝負は三面展開。

 東門で男爵、西門で王都の密偵くん、敵本陣でおれ、だ。

 まあ、任せるところは任せたんだ。

 おれは、おれがやりたいことをやるだけだな。

 おれがやりたいこと。

 それは、おれ自身が感じた違和感の解消。

 その違和感の中心にあるのが、辺境伯軍の、軍師。

 こいつを、そのままにしていては、いけない。

 高速長駆で、敵本陣に接近。

 隠密行動で、音もなく潜入。

 スクリーンに鳥瞰図を開いて、地図の範囲をせばめ、対人評価をかける。

 スクリーンでステータスをチェック。

 名前を確認。

 移動しては、対人評価。

 移動しては対人評価を繰り返す。

 そして、ヤオリィンがいる天幕を発見。

 まあ、豊富な忍耐力のステータス値を活用して、スキルを使うだけの簡単なお仕事です。

 軽口はここまで。

 音も立てずに木剣を抜く。

 そして、そのまま、さっと天幕に飛び込む。

 王都の密偵から聞いたまんまの男が、聞いたまんまの感じで寝台にふんぞり返っていた。

「ヤオリィンだな」

「っ・・・いや、ちがう」

 ・・・平然と嘘を付くタイプって怖いな。ま、軍師向きではある、か。

 木剣を一閃し、右腕を折る。

「ぐ・・・」

 次の瞬間、木剣をもう一閃し、左足を折る。

「・・・わっ」

 ぐわっ、という音を発し切る前に、手足をどちらも骨折させて行動の自由を奪った。

 とどめに、みぞおちを強く突き込む。

 まあ、嘘つきだと分かったから、手加減はいらないと思えたので、結果オーライだ。

 意識のないヤオリィンの両腕を後ろで縛り、両足も縛っておく。

 男と触れ合う趣味はないが、ヤオリィンを肩に担いで、天幕の中の灯りの火を天幕に付けた。

 天幕が少しずつ、燃えていく。

 おれはそのまま誰にも気づかれずに敵本陣を抜けて、再び森へ入った。

 この軍師、優秀な分だけ、いろいろと、重要なことを教えてくれそうだ。


 東門への辺境伯軍の夜襲は、アルフィ守備隊の奮闘で何度も敵を突き落とし、およそ二時間で辺境伯軍があきらめて後退した。その原因のひとつに、辺境伯軍の本陣に火が見えたらしいということがあった。

 夜襲では何度も外壁の上に突撃兵が登ってきたが、男爵が獅子奮迅の活躍で銅剣を振るい、危ない場面を引っくり返したという。

 この活躍で、アルフィでの男爵の勇名は轟いた。

 しかし、この夜、辺境都市の兵士に初めての死者・・・犠牲者が出た。

 西門の門衛が二人、殺されていた。犯人は、男爵に正体を掴まれて逃げ、潜伏していた辺境伯の密偵で、その密偵も門衛の一人と相討ちとなって西門で死んでいた。おそらく、逃走しようとして門衛と争ったのだろうと結論付けられている。まあ、本当のところは、王都の密偵が、そう見えるように偽装して殺したのだと思う。

 辺境都市近くの森の中で、二本の木の片方に右腕、もう片方に左腕を結ばれて、さらに両足の足首をひとつにまとめるように縛られて、Yの字の形にように宙吊りにされた、痩せた背の高い全裸の男が発見されたという噂はどこからも、誰からも、一言も、聞こえてくることはなかった。まあ、そもそも、あそこの森に入る者はほとんどいないということらしい。あんなに美味しい肉がたくさん歩いているのに、残念なことだ。

 あの軍師を縛ったネアコンイモのロープが偶然切れることは、まず、ない。まあ、平然と息をするように嘘をつく男が幸運に恵まれることも、たぶん、ない。あの軍師は、Yの字のまま、そのまま一生を終える可能性もある。誰かが見つけてくれるといいのだが。

 次の日から三日間、辺境伯軍は本陣から動かなかった。その原因は不明だったが、アルフィの守備隊は一息つけて、かなり回復できたという。


 ただし、その三日間で、辺境都市には何も起こらなかったのかというと、そうではなかったのである。





評価、ブックマーク、どしどしよろしくお願いします。

こんなに続くとは思ってもみなかった連続更新。

明日も17時更新予定です。7月からは0時更新に変更する予定です。

よろしくお願いします。


掲載時間は決まっていませんが、活動報告でプチ予告編を掲載中です。

更新後、2~4時間くらいの間に載せています。



もうひと作品、「賢王の絵師」

完結済みですので、安心してお読みください。

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