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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第3章 辺境都市編

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第72話:もう一柱の女神は実体化するなど考えてもみなかった場合

累計pv19万アクセス突破!!

ありがとうございます!!


連続更新継続中。


 ソリスエルは実に、守護神らしい活動をしていたようだ。

 つまり、イズタヤクモという転生者を、ただ見守っていただけだ。

 もちろん、話しかけたことなど、ない。

 ソリスエルにも、イズタにも、それを可能とするスキルがないしね。

 つまり、守護神とはいうものの、守護をしているのかと言えば、何もしていないのと同じ。本当に見守っているだけで、怪我をしそうだとか、裏切られそうだとか、そういう場面でも、見ているだけ。

 ・・・おれの場合、いきなりセントラエスを頼っていた気がするけれど。服とか、くつとか。

 ま、いい。

 ソリスエルの転生の担当はこれが二回目。

 一回目は17年間見守って、その時の転生者が流行病で病死したところで天界に戻されたという。自分で戻るのではなく、見守っていた相手が死んだら、いつの間にか天界に戻っていたらしい。それから次の転生の順番待ちだったとのこと。

 守護神となる下級神って、どれくらいいるんだろうか。

 それにしても、だ。

 転生について説明し、スキルを選択させ、転生させて、ただ見守る。

 誰とも話すこともなく、ひたすら見守る。

 それ、どんな苦行?

 孤独で、さみしくて、達成感もないだろうに。

 まるで、罰でも受けているような。

 ソリスエルの場合、最初の転生も、今回のイズタヤクモの転生も同じだ。

 イズタヤクモは転生して10年を過ぎたらしい。

「・・・神殿で、実体化して立っている、しかも誰かと話しているという今の状況は、考えてもみませんでした」

「・・・だよね」

 30年近く、ほとんど誰かと話すこともなく、ただ人を見守るだけ。

 二度、転生を担当してソリスエルはレベル14。セントラエスによると、守護神としての初級神はレベル10になってから最初の転生を担当するということらしいので、前回も、今回も、転生者はレベル2だったということになる。転生後にスキルを獲得し、レベルアップしたこともない。アコンの村でがんがんレベルアップが行われている現実は教えられない気がする。まあ、死因が自殺として減点された転生ポイントで固有スキルを選択させれば、そうなるのも自然だ。

 考えれば考えるほど、おれとセントラエスは特殊な事例だな・・・。

 まあ、それはいいとして。

「こっちとしては、ソリスエルが見守っているイズタヤクモのことを知りたいし、彼の情報をこれからも提供してほしいと思っている」

「イズタのことをですか?」

 意外だ、という表情でソリスエルは答えた。「イズタがそれほど重要だとは思えませんが・・・」

「そのイズタのことだけれど、この辺境都市のキュウエン姫に対して批判的だってことが気になった。それとね、イズタの固有スキル、「鉱脈自在」ってのが、知りたいしね。ソリスエルはおれたちのことをどこまで知ってる? つまり、イズタはおれたちのことをどう考えてた?」

「固有スキルですか・・・。イズタは、この神殿のことは警戒していました。突然やってきたと思ったら、ここ最近の辺境都市の話題の中心ですし。イズタ自身は、辺境伯のところから三か月前に移動してきました。辺境伯に仕えたいようですが、それなら辺境都市を探れ、手柄を立てろ、と言われていますから、いわゆる間者です」

「あ~、そっち系だったか・・・そもそも敵方なら、キュウエン姫は目障りだよなあ・・・」

「イズタは神殿の男女、つまりオーバさまたちのことは王都の間者だと考えていましたが、最近はその考えを改めたようです」

「・・・なぜ?」

「目立ち過ぎだ、とこぼしていました。間者なら、あんなに目立つはずがない、と」

 ・・・納得。

 おれたちを王都の使いだと勘違いを続けているキュウエン姫などは、冷静に考えられていないのかもしれない。イズタの感覚の方が正しい見方だ。

「イズタは辺境伯のスパイ、工作員か。まあ、そういうのはお互い様だろうしな。だからこそ、おれたちみたいに目立つ行動をするのはスパイのはずがない、と、そう考えるよな、普通。それで、あんな使えそうな固有スキルがあるのに、なんで辺境伯はイズタをお試し期間にしてんだ?」

「あのスキルが使えるかどうかと言えば、はっきり言って、使えない、です」

 んー・・・。

 良さそうなスキルだと思うし、金属とかに関係しそうだから、こっちの世界を大きく変えそうなスキルで、しかも、野心や企みがありそうな感じの辺境伯なら、のどから手が出るほどイズタがほしいはずだと思うけれど・・・。

「・・・そうか。イズタが固有スキルを使おうとするには、レベル2ではステータスが足りない、か」

「おっしゃる通りです。あの固有スキルは、何か、鉱脈を探し当てることに効果を発揮するスキルなのですが、イズタが使いたい時には忍耐力の数値が足りない状態でした。本人は原因が分からず、困っていました。イズタには自分のものも、他人のものも、ステータスを見ることはできないので」

「イズタに鑑定系のスキルはないもんね。それで、「鉱脈自在」を使いたい時ってのは?」

「町はずれへ出かけ、危険な森や崖まで行くと、イズタはそれだけで生命力や精神力、忍耐力を消耗していました。その崖などを固有スキルで調べたいのだけれど、消耗した後では忍耐力が足りずに効果を得られない、ということの繰り返しです」

 鉱脈を探しに探検するけれど、その探検自体で疲れてしまうから、ここだ、という場面で肝心の「鉱脈自在」スキルを使えない、ということか。しかも、ステータスが把握できないから、どうしてそうなるのかが理解できないと。

 いや、もう。

 残念な固有スキルの典型的な例だろう。

 別の意味では、予想通り、でもある。そういうことをずっとセントラエスと話し合ってきたのだ。そもそも人間の基本ステータスでは、生命力・精神力・忍耐力はレベル×10が通常だ。イズタのレベルは2だから、忍耐力は20で、固有スキルはスキルレベルがかなり高くならないと消費する忍耐力を減らせない。ちなみに固有スキルを使う場合、消費する忍耐力は16が基本。レベル2では頻繁に利用できないスキルになる。どれだけ優れた固有スキルだったとしても、それがまともに使えないステータスだったのなら、宝の持ち腐れ以外の何物でもない。

「一日一度は使えるくらいだと思うけれど・・・。そこで寝て、起きて、すぐ使えばいいのに?」

「そういう場所は、安全に眠れる訳ではないのです。安全な場所では、鉱脈を見つけても大した鉱石の量を確保できないらしいので・・・」

「・・・結果として、使えないスキルになる、か。でも、誰かと組めれば・・・」

「その、組みたい相手が辺境伯です」

「あ、なるほど。このへんじゃ、一番の権力者だから、当然と言えば、当然か」

「しかし、ほとんど成果を示せないので、今の状態です」

「ほとんど? じゃ、どんな成果を示した?」

「三年間で、一年間にひとつずつ、小さな矢じりを」

「矢じり・・・」

「辺境伯は、よい矢じりだと、ほめてはいましたが、あまりにも数が少なくて・・・」

「イズタはその矢じりのこと、材料のことは何て?」

「鉄と呼んでいました」

「鉄、か」

「世界を変える力があると、辺境伯に訴えていました」

「世界を、ね・・・」

 確かに、そうだ。

 鉄には、それだけの影響力がある。

 小アジア、古代ヒッタイト王国。

 製鉄技術を独占し、バビロニアを滅ぼし、エジプトと戦い、シリアの覇権を握った。この時、世界初の条約が結ばれたとされているし、世界史の必須暗記事項だ。

 銅の世界に鉄で挑めば、世界は変わるだろう。

 しかし、一年間で小さな矢じりをひとつとか、少なすぎるよね・・・。

 技術進歩の波は遅すぎないか? それとも、これが本来の、この時代の進化なのだろうか。原始や古代は、進化の流れが遅いというのは、確かにそうかもしれない。縄文時代なんて1万年続いたと考えられているし。

 それに、矢じりひとつじゃ、有用性を示せないから、こんなもんだろうか?

 おれの場合、狩猟・採集はそのままに、農耕を組み込んだだけなんだけれど、それほど時間はかからなかった。まあ、そもそも、辺境都市よりも向こうでは、当たり前のものとして農耕は進んでいたのだけれど。

「イズタは、鉄の作り方を辺境伯に伝えたのか?」

「いいえ。それは絶対に教えないと」

「なぜ?」

「教えてしまったら、自分の価値がなくなる、そう言ってました」

 情報は貴重な武器だ。

 だから、その考え方も理解できる。

 理解できるのだけれど。

 自分一人の力では、一年間に矢じりひとつ、というのであれば、考えを改めるべきだと思う。

「・・・じゃあ、どうやって生活してたんだ?」

「魚を捕まえたり、農作業を手伝ったりしながら、食料は手に入れていました。もちろん、この十年間で、食べられない日もたくさんありました」

「苦労してんな・・・それで、あの姫さん見てたら、ひとこと、嫌味も言いたくもなるか。今は、どうなんだ?」

「今は、辺境伯から、ある程度の助けを得られているので、食べるということについては、そこまで困っていないようです」

「認められてないんじゃなかったのか?」

「矢じりは、ほめられましたが、鉄については相手にされていません。しかし、銅の鉱脈を見つけたことがあるので、それをきっかけに辺境伯の間者になったのです」

「銅の方か・・・」

「一度だけですが」

「その一度が命をつないだのなら、幸運だったよな」

「二度目以降は、さっきの話ですが、その現場に行ってもスキルが使えない状態で、鉱脈を見つけることはできていません。当たりよりも、その、外れの方が多いので、それほど辺境伯から信頼もされていないというのが現状です。それを挽回するための、辺境都市への潜入です」

「・・・それでも、イズタのおかげで、少なくとも、辺境伯は銅の鉱脈をひとつ、手に入れたってことか。それでも優遇しないってのもな」

「それから、何度も、何度も、辺境伯の期待を裏切った、ということになると思います」

「・・・外れって、そういうことか」

「オーバさまは、イズタをどうなさるおつもりでしょうか?」

「・・・おれに手出しをされたら、守護神としては困る、ということか?」

「いいえ。私は見守るだけですから、イズタがどうなろうと、それを見届けるだけです」

 その一言に反応したのはクレアだった。

「・・・駄女神とはえらい違いよね?」

「何がです?」

 おれとソリスエルの横で、またしても女神対竜姫が勃発していた。

 なんか、最近、これが仲良く見えるんだけれど。

「だって、オーバを守るためにって、次から次に、いろんなこと、してるわよね?」

「守護神ですから」

「ほら! 見守るだけっていう、ソリスエルとは全然違う」

「女神のあり方はそれぞれでしょう?」

「見守るだけじゃないから駄女神なんじゃないの?」

「これだけの力を得て、守護神として付くのです。それを使って何かおかしいですか?」

「ソリスエルは見守るだけ、見届けるだけって言ってるわよね。駄女神の方がおかしいんじゃない?」

「そんなことはありません」

「ふーん、でも、オーバに惚れてるから、駄女神はいろいろと手を貸すんでしょ?」

「なっ・・・」

「そうじゃないと、私の邪魔するのって、おかしいもんね」

「く・・・」

 なんか、二人の・・・一柱と一頭の話の方向が変になってきたので、聞き流すとしよう。

 そもそも、ソリスエルとイズタの間では会話が成立しないのだから、助けるも何もないだろうに。

「ソリスエル、イズタが鉄の矢じりを作っていた時のことを、できるだけ、くわしく、教えてくれ」

 そうして、今回の偶然の出会いによって、おれは、手に入れたかった金属の製法を掴みとった。

 レベルが高いため、ステータスの幸運の数値が他の誰よりも高いことが影響しているのかもしれない。


 その後、ソリスエルは髪をひと房、セントラエスに預けることで、セントラエスとソリスエルの間で離れていても、やりとりができる関係になった。神族って、便利だ。

 ソリスエルはイズタの情報を確実に流してくれる。絶対の隠密、最高のスパイの一人・・・いや、一柱となった。




 辺境伯の使者は、三日間滞在し、男爵との交渉は平行線のまま、終わったらしい。

 フィナスンとキュウエンの情報が同じだから、間違いないだろう。

 また、ソリスエルからセントラエスには、使者とイズタが密談していたことも報告があった。使者はイズタに、辺境都市を混乱させて、力を弱めるようにと指示したらしい。具体的に何をするかは、イズタに任されたという。スパイは辛いよね。

 使者に向けた男爵の言い分は、これまでの分で足りているから今年は渡す必要がない、というゼロ回答のまま、変わっていない。

 辺境伯との軍事衝突を避ける気がないのかもしれないが、男爵は銅鉱脈の情報を掴んでいるのだろうか?

 辺境伯が、要求する麦の量を増やした時期と、銅鉱脈を発見した時期が重なるのは、偶然ではないはずだ。だから、そこに軍備の拡大という理由が浮かんでくる。そして、その軍勢は、辺境伯の野心、つまり領土拡大に使うつもりなのだろう。

 その状況なら、本当は、辺境都市のある男爵領のことは、麦さえ納めれば、辺境伯にとっては興味のない場所だったはずだ。なぜなら、男爵領は、最初から辺境伯の影響下にあり、労せず麦を回収できる場所なのだから。

 辺境伯の狙いは、おそらく中央を向いている。そっち方面で、「新たな」、領土を獲得するつもりなのだろう。それは、スレイン王国自体が弱体化し、群雄割拠が進んでいる、ということを示している。また、群雄割拠ということにおいては、辺境都市の男爵も、その点は同じだろう。ただし、辺境伯のやり方が下手で、辺境都市の男爵に叛旗を上げさせてしまいそうだというのも分かる。辺境伯には、立場が上であるという驕りがあるのかもしれない。そうなると、辺境都市は辺境伯の影響下であることを示すために、辺境伯には内向きの軍事行動が必要となる。既に、これまでの男爵の態度は、辺境伯の立場からすると処罰対象だろう。

 逆の立場から見ると、辺境都市の男爵スィフトゥは、辺境都市とその周辺の男爵領を自主独立に持ち込みたいのかもしれない。どのタイミングでそう考えたのかは分からないが、たぶん、間違いない。そうでなければ、辺境伯との衝突が避けられない今の状況はやり過ぎである。

 今回の使者が戻って、辺境伯に報告が届くと、今度は、ここ数年で軍備を拡張してきた辺境伯の軍勢が動くことになる。男爵は辺境都市にその対抗手段を用意してきたのか、どうか。相手の銅の武具や防具はたくさん作られているはずだ。装備では勝てそうもないはず。

 まあ、籠城戦なら、それでも戦いようはあるとは思う。

 そろそろ、カスタとの交易も難しくなるっすね、とフィナスンが言うので、薬つぼをたくさん提供して、できるだけ多くのナードの実を手に入れるよう、おれはフィナスンに頼んだ。

 十日後、カスタから戻ったフィナスンに、ナフティが通常の五倍くらいのナードの実を薬つぼの対価として差し出したと聞かされ、ため息をついた。しかも、干し魚とか、干しエビとかのサービスが付けられている上に、今回も自前の荷車を手下に運ばせ、帰りは安全のために空の荷車で戻させている。ナフティは商売人失格ではないかと思う。

 まあ、ここまでよくしてもらえると、もちろん、悪い気はしないのだけれど。

 フィナスンには、全てのナードの実をしぼらせ、油を大量に作らせた。大がめ三つ分の油と、ナードの実のしぼりかすが大量に出た。しぼりかすは干して、ピザのトッピングに使うように伝えた。


 そして、フィナスンがカスタから戻って五日後、事件が発生した。

 その結果、おれたちは決断を迫られることになる。


評価やブックマーク、ぜひともお願います。

どんどんお願いします。


完結済み「賢王の絵師」もよろしくお願いします。

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