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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第3章 辺境都市編

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第63話:女神が最高神について教えてくれた場合


 評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。

 連続更新中。

 拡散、紹介希望です。

 

 さて、新キャラの運命やいかに?






 男が目を覚ました時、おれよりも前のめりになったジルとウルがその顔を覗き込んでいた。

 気絶している間に、神聖魔法で治療と回復は済ませた。

 あばらの骨折と、腹部に裂傷。

 今は癒えたとはいえ、よく七日も生きていたものだ。

 ただし、状態異常が飢餓となっており、生命力は回復させたものの、その数値はじわじわと減少していたので、目覚めたら何かを食べさせないといけない。

 だから、目覚めたことに気づいたら、誰でもいいから知らせてくれ、とみんなに伝えていたのだが、ジルとウルがずっとおもしろそうに男の寝顔を観察していた。

「う・・・む・・・」

 腕を動かそうとして、力が入らないような感じだった。

 まあ、ゆっくりとはいえ、生命力が減少し続ける状態とは、死に向かっているということ。

 力をふるえる方が不自然だ。

「オーバ、起きたみたい」

「起きた、起きた、良かったね」

「でも、体は動かないし、うまくしゃべれないのかな」

「どうやって食べさせようか」

 ジルとウルは、看護するということが、楽しいらしい。

 まあ、うちの村ではめったにそういうことにはならない。

 神聖魔法があるから。

 ジルやウルの神聖魔法は、おれやセントラエスが使う時ほどではないが、はっきり言えば、即死でない限り、簡単に命を救うことができるレベルで使える。まだまだ子どもだが、レベル20台後半の、人間としては稀有な存在。この世界のバランスを崩しかねない、奇跡。

 三年前の、舌っ足らずなしゃべり方はもうしていない。

「リゾットの、水分だけをほんの少しずつ、口にふくませてやれ。いいか、ジル、ウル、間違っても、たくさん流し込むんじゃない。ほんの少し、だからな」

「は~い」

「了解で~す」

 ジルとウルはじゃんけんをして、負けたジルがリゾットを取りにいった。

 勝ったウルが食べさせるらしい。

 ・・・不安だ。

 結局、目を離すことができないなら、おれがやればよかったな、と反省する。

 ジルがリゾットを持って戻ってきた。

 リゾットの入った土器をウルが受け取り、レンゲスプーンを持った。

「ジル~、口、開けさせて~」

「えっと、これでいいかな」

 ジルは右手で上あご、左手で下あごを持って、がばっと口を開いた。

 ・・・開け過ぎだよ。

「じゃあ、少しずつだね」

「・・・ぐほっ、ぶぼ・・・」

 気管に入ったらしい。

 あいつらに殺されたらどうしよう?

「ウル、もっと少なくするんだ」

「え、まだ多いんだ。難しいな」

「交代する?」

「ううん、ウルがやる。えっと、こうかな」

 ウルはレンゲスプーンの傾きを一生懸命、調節しているが・・・。

「ぐほ・・・」

 うまく調節できないらしい。

 まあ、死ぬことはないから、いいか・・・。

 生命力自体は回復させている。減少が続くのであれば、また回復させるだけだ。飢餓の状態異常がステータスから消えれば、何の問題もない。

 ・・・何度も、ぐぼぐぼ言わされたものの、およそ30分くらいかかって、飢餓の表示は消えた。

 まあ、このことで恨まないでほしい、とは思う。

 一応、命の恩人なのだ。


 飢餓の状態異常が消えて、生命力の減少が止まったら、実は通常の状態である。まあ、胃がまだまだ食べ物を受け付けないという可能性はあるが、立つことも、歩くことも、問題ない。

 もちろん、しゃべることも。

 おかげで「スレイン王国語」のスキルを獲得して、おれはめでたくレベルアップした。

 火炎魔法をいくつか習得した時以来だったので、久しぶりだ。

 言語関係を極めていったら、かなりのレベルになりそう。

 セントラエスによると、いろいろなスキルと、そのスキルレベルの相互効果だろう、とのこと。おれでなければ、こんなに簡単に言語関係のスキルは獲得できないはず、らしい。例えば、学習スキルのスキルレベル10(最大)とか、ね。

 おかげで、いろいろと話も聞きやすい。

「あんたは、大草原で会った、大森林の人だな」

「覚えててくれて嬉しいよ」

「じゃあ、ここは、大森林の村、か。本当にあったんだな」

「ないと思ってたのか?」

「まあ、信じられないという感じだったな」

「それでよく、商売に来たよな」

「あ・・・ああ、そうだ。もしも本当にあったら、とんでもなく稼げるってな」

 はい。自白頂きました。

 そこでつっかえたら、商売のつもりはなかったと言っているようなものだろうに。

 まあ、ステータスで分かってたことだけれどね。

 しかし、この状況で、まだ隠す気か。

 辺境都市に戻れると思ってんだろうな。

「あんた、確か、ナルカン氏族のところへ行くと言っていたな。じゃあ、その帰りに、おれを助けてくれたのか」

「ああ、そうだ」

 嘘ですけれどね。

「あんたに会ってから、何日経ってる?」

 ま、小川で会ってからは十日、だね・・・。

「さあ、おれたちは、1日1日、過ごしちゃいるが、いちいちそれを数えたりはしていない。まあ、そんなに経ってはないと思う」

 正確な日数で移動距離を計算できるかもしれないが、ま、それも無理か。

 あやふやなことはあやふやなままにしておく方が良さそうだ。

「そうか。ありがとう、感謝する」

「いや、気にするな。この大森林では、助け合わないと生きていけないしな」

「ああ、そんな気はする。しかし、あんた、おれたちの言葉が分かるとはな。大草原でも、そんな奴はいない。いったい何者だ?」

 おっと、言語だけで、こんなに警戒されるとはな。

 さて、なんて言い訳をしよう?

「大草原で知り合ったじいさんに教えてもらっただけだ。誰だったっけな。みんな似たような名前でよく覚えてないが」

「・・・そうか」

「それで、これから、どうする気だ? 商売ができるような物は何もないようだが?」

「いや、できればアルフィに帰りたいが」

「なら、好きにするといい」

「案内してもらえるのか?」

「いや、案内はしない。勝手に森を出るのは止めない。まあ、この森を抜けられるとは思えないし、一度この村を離れたら、この村に戻れるとも思わないしな。助かった命は自分のものだ。好きに使えばいいぞ」

 男はあんぐりと口を開けた。

 まあ、出て行って死にたいのなら、勝手に死ねば、と言ったようなものだしな。

「・・・じゃあ、なんで助けた?」

「たまたま、通りかかっただけだ。女神のお導きに感謝すればいい」

「女神だって?」

「ここは女神に守られた村。そっちに女神はいないのか?」

「神はいるが、男神だと聞かされてきた。それに、神はひとつと教えられた。女神など、聞いたこともない」

「人族に信仰されている神族はウィルマエスさまだけと聞いています。ウィルマエスさまは最高神さまです。上級神の頂点に立つお方・・・」

 セントラエスが後ろから教えてくれた。

 最高神、ウィルマエス、ね。

 当然だけれど、いろいろと違いがあるらしい。

「男神は聞いたこともないな。おれたちの女神は、セントラ。女神セントラだ」

「セントラ・・・。女神セントラ、か。ああ、そういえば、あんた、名前は? おれはタリュウパだ」

「タリュウパ、いい名前だな。おれは、オオバだ」

「オオバ、か。えー、あんたはこの村の・・・」

「ここは女神セントラに護られたアコンの村。おれはこの村の長を務めている」

 タリュウパは、もう一度、あんぐりと口を開けた。

 ジルが強引に開き過ぎたからかもしれない。

 まあいい。

「虹池という池があるが、そこでタリュウパの仲間が死んでいた。あの二人は焼いて弔った。そっちの習慣とちがったとしても許してほしい」

「ああ、それは、かまわない。どうしようもないことだし、感謝する」

「それと、そこにあった荷車、荷物、二人の服や剣など、おれたちが頂いた。これも、この森で生きるために必要なことだ。理解してほしい」

「・・・分かった。それも気にしないでほしい」

 タリュウパの目が、少し細められた。

 剣、というところに反応したように思えたが・・・。

 まあ、大人しく、アコンの村で暮らそうって訳ではなさそうだ。




 おれはみんなにタリュウパを紹介した。

 残念ながら、タリュウパには言葉が通じない。

 みんなはいろいろと話しかけたが、なんとなくしか伝わらない。まあ、ここはタリュウパが努力しないとね。

 そのうち、食事の準備ができて、いつものように大鍋三つに行列ができる。

 タリュウパにも並ぶように伝えた。

 受け取った土器を持って、タリュウパはおれのところに来る。

「見たことがない食べ物だが?」

「おれは辺境都市に行ったこともないしな。それだけ離れてるんだ。見たこともない食べ物くらい、お互いにあるだろ」

「そう言われれば、そうか」

 ふふふ、トマトソースリゾットにひれ伏すがいい。

 おれは生トマトをかじりながら、リゾットを口に運ぶタリュウパを見ていた。

 恐る恐る、一口目を口にしたが、そこからは手の動きが早くなった。

「これ、うまいな」

「そうか、良かったよ。後ろを見ろ、みんなおかわりに行ってる。ほしければ行け」

「いいのか?」

「アコンの村は食べ物がたくさんある。遠慮するなよ」

「あ、ああ。そうする」

 タリュウパがおかわりの列に並ぶ。

 みんながいろいろと声をかけているが、もちろん、タリュウパには意味が分からない。

 歓迎の言葉だけれどね。

 まあ、しっかり食え、とか、早く元気になれよ、とか、だな。

 おかわりを持ったタリュウパがまたおれのところに来て食べる。

 すぐに器は空になったが、3度目のおかわりには行かないらしい。

 おれはみかんの皮をむいて、半分、タリュウパに手渡した。

「この果物も、おいしいからな」

「あ、ああ・・・ありがとう」

 タリュウパがみかん半分を一口に放り込む。

「・・・うまい。なんだ、これ。酸っぱくて、でも甘いな」

「みかんだ。これも知らないのか?」

「ああ、初めて食べた」

 おれは、みかんを一切れずつ、口に入れて食べた。

「・・・そうやって、ちょっとずつ食べるものだったのか」

「別にどんな食べ方でもいいだろうに」

 タリュウパは周りをぐるっと見やってから、もう一度おれの方を向いて、まっすぐに目を合わせてきた。

「食べ物はうまい。女は美人が多い。おれは、本当は死んでいて、神さまのお近くに呼ばれたんじゃないか?」

「タリュウパは生きているし、ここは大森林のアコンの村だ。ここの食べ物は女神のお陰でうまいし、もちろん美人も多い。ただし、うちの村の女たちに手を出したいなら、きちんと結婚を許可されてからだ。でないと殺されるぞ」

「・・・ほほう、おれも、そこそこ鍛えたことはあるんだが・・・」

「・・・すぐに分かる」

 この後の訓練で、何人かと手合わせしたタリュウパがこてんぱんにやられたのは言うまでもない。

 どうしても知りたいのなら教えよう。

 最初はクマラ。みぞおちに拳がめり込んで悶絶させられた。

 続いてシエラ。棒術で転ばされて、喉元に棒を付きつけられた。

 最後にジル。木剣で勝負して、両手両足を骨折、激しい痛みはもちろん、生命力が2まで減少してスタン。気絶したまま、神聖魔法で治療し、骨折は即完治。

 そのまま、ノイハがアコンの群生地まで運び、一室に寝かせた。

 いい夢が見られるといいな、タリュウパよ。

 ちなみに、ステータスの職業欄では、彼は兵士となっていることを追記しておく。

 レベルは2だけれど。

 そして。

 あえて言おう。

 彼、タリュウパは、この村で最弱の一人であると・・・。




 今朝の、朝の祈りはシエラの経験談の語りから。ま、本当は姉のアイラから聞いた話を語っているだけだけれど。あの時の、おれの神聖魔法を受けたシエラは気を失っていたしね。女神の奇跡は、何度も繰り返し、みんなに聞かせている。

 腕を前から上げて背伸びをするあの体操は、全員にすっかり馴染んだ。うちの村では全員が踊れるダンスとなった。なかなか跳躍のタイミングが合わないところが、日本で生きていた前世と同じだ。

 ランニングは水汲みをせずに、畑作地域を周回するコースを走っている。以前とコースがちがうのは、ため池ができたからだ。小川との道を確実に覚えるために往復していたという側面もかつてはあったが、小川の河原はアコンの村にとって食堂であり、道場でもあるので、雨でも降らない限り、毎日行くのだから、道を覚えていないものはない。

 畑の水やりを全員でした後は、布作りと竹材の付け替えとに分かれて作業を開始した。

 ちょうどその頃、お寝坊さんのタリュウパが目を覚まし、アコンの木の中から顔を出した。

 タリュウパは三段目の高さにいた。9メートルくらいのところだ。

 ぐるりと周囲を見て、またしてもあんぐりと口を大きく開けている。

 まあ、驚くのも無理はない。

 巨大なアコンの木の群生地など、これまでに見たことがある訳がないのだから。

 木の中からはい出てきたタリュウパは竹板のデッキに立ち上がり、上を見てはぐるり、下を見てはぐるりと、周囲に興味津々。

 そして、縄梯子を見つけて、おそるおそる、下へと降りてきた。

 タリュウパが寝ていたのはノイハの家。アコンの木を三本利用した大きな家で、ナルカン氏族の子たちが一緒に暮らす。いつもはエイムが寝ていた木の中に運んだため、エイムが喜んでおれの宮殿の一室に居座ったということを追記しておく。

 エイムが独身なので、相手にどうかと思ったのだが、あっさりと、あんな弱い男、と切り捨てていたことも忘れないようにしておく。

 いろいろな意味で、そんなに弱いとも思わないけれど。

 確かに立ち合いは、弱い。レベル2ではそんなものだ。うちの村でただ一人の兵士にして最弱だ。

 でも、時々見せる鋭い目つきは、何か情報を得ようとするあれは、諜報員の目だと思う。

 ・・・問題は、その情報を持ち帰ることが難しいってことなのだけれど。

 骨を折られて、苦痛耐性とかでレベルアップしたかもしれないと思っていたが、変化なし。苦痛に耐えられず、あっさり意識を手放しているからかもしれないし、年齢的にスキル獲得の成長期を過ぎているからかもしれない。

「昨夜はいつの間にか寝たらしい。すまないな」

「・・・いや、気にするな」

 ジルにぼっこぼっこにされて・・・、ぼこぼこ程度ではない、ぼっこぼっこ、である。それで、記憶をなくしたか、夢だと思ったか、それとも忘れたフリをしているか、いったいどうなのかは分からないが、タリュウパはいつの間にか寝ていたことにしているらしい。

「それよりも、どこかで作業の手伝いをしてくれ。働かざる者、食うべからずだ」

「分かった。どこで、何をやってるんだ?」

「あっちの木の下で、いもの収穫。その反対側は、布を作っていて・・・向こうは、古くなった建材の交換作業だな」

「建材の交換が、一番できそうだな・・・」

 そう言いながら、タリュウパが歩いていく。

 おれも、タリュウパと並んで歩く。

 言葉が通じないって、面倒だよな。まあ、それでも、なんとなくの意思の疎通ができるのが、異文化との交流点である辺境都市の出身者だからか。

「作業をしながら、辺境都市のことを聞かせてほしい」

「ああ、そっちは、この村のことを教えてくれ」

 そうして、互いの情報交換が決定したのだった。


 この日も、タリュウパは意識を失って運ばれた。

 今回はウル。

 ジルとウルは、自分たちで癒せるものだから、容赦がないのだろうか。

 それとも、タリュウパをスパイとして、叩きのめしているのだろうか。

 ・・・そう言えば、リゾットを食べさせる時も、殺しかけてたような。

 まさか、セントラエスの指示じゃ、ないよなあ・・・。

 ありそうで、心配。



もうひと作品、賢王の絵師、完結しました。

よろしければご一読願います。


かわいい女神、連続更新続きます。

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続きが読みたい、楽しみにしている、ということがあれば感想やレビューをいただけると嬉しいです。



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