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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第2章 大草原編

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第51話:女神を動物図鑑の代わりに利用した場合

 評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。

 本業多忙のため、ほとんど更新ができず、申し訳ありません。

 そろそろ評価ポイントも四ケタに。(900ポイント超え!)

 嬉しい限りです。


 今回は、ドラゴン・アライアンス・グループにご搭乗いただき、誠にありがとうございます、です。

 おれとノイハの旅は続いた。

 猛獣地帯と呼ばれる地域のうち、虹池から流れる小川とダリの泉から流れる小川にはさまれた地域の中を二人で行ったり来たりを繰り返す。

 虹池側の小川を北へ進んで、三つ角サイの群れやゾウの群れ、ワニとか、ピラニアなんかにも出会ったことは既に述べた通りだ。

 小川と大きな川との合流地点から、少し西へ移動して、そこから南下して大森林が見えるところまで来たら、ここでもまた少し西へ移動して、大きな川を目指して北上する。

 これをひたすら繰り返した。もちろん、途中、何度も寝泊まりをしながら、だ。

 そんな道中では、さまざまな経験をした。


 灌木の近くで危険を感じ、樹上の猫型動物、セントラエムいわく、樹色ヒョウという、灌木と同じ色をしたヒョウを発見。

 灌木の枝にしか見えなかったのが驚きだった。

 黄色ではなかったのが残念。黄色の樹色ヒョウとか、期待したかった。

 大牙虎みたいに美味いかも、とノイハが三本の矢を同時に放ってヒョウを射落とす。

 食料確保、と喜んで近づいたおれとノイハが灌木の根元で見つけたのは、灌木の幹と同じ色をした巨大な蛇。

 セントラエムいわく、擬態大蛇という名前の大蛇。いわゆるニシキヘビのようなもの。背景色に合わせて色が変化するタイプ。忍者系ハンター蛇だ。

 どうやらおれたちよりも早くヒョウを狙っていたようで、灌木の幹に擬態してヒョウに近づいていたらしい。

 全長五メートルくらいで、ノイハが射落としたヒョウを丸飲みにしていた。頭のすぐ下くらいが、ヒョウの形に膨らんでいたのがとても不気味だった。まあ、ヒョウを飲みこんだ状態だったため、まともに動くことができず、銅剣で頭を貫いてあっさり倒すことができたのはラッキーだった。

 その後、この蛇そのものを食べるかどうか、また、蛇に飲みこまれてその体内の何かにまみれたヒョウを食べるかどうか、おれとノイハは激論を交わした後、二人でうなだれながらあきらめたこと、とか。

 ある意味でトラウマものの記憶だな、これ。

 ちなみに、おれたちがあきらめた後、ウナギ猫、セントラエムいわく、斑大猫、マダラオオネコの群れがどこからともなくあらわれて、ヘビとヒョウを食べ始めたのだった。

 その日の夕食がウナギ猫だったことは言うまでもない。


 他にもある。

 ノイハがその卓越した弓矢の技で、インパラみたいな鹿、セントラエムいわく、早足小鹿というシカをしとめたとき、ひらめいたので、血抜きした血を確保しておいた。このシカ肉は、硬くて、あまり美味しくなかったのが残念だ。調理方法次第だとは思うけれど。

 それから、二本の棒の間にネアコンイモのロープの細い方で網を作成。

 狙いはもちろん、ピラニアみたいな、セントラエムいわく、馬喰魚という魚。おれもノイハも、あの魚は美味いと思っていたので、大漁を夢見て二人で笑い合った。

 しかし、川に近づいて網を仕掛けようとすると、仕掛ける前にワニ、セントラエムいわく、河大顎が寄ってくる。

 危険だからおれもノイハも網ごと川岸から離れる。

 離れたところから、スクリーンの鳥瞰図でワニが川の深みに戻っていったのを確認したら、おれとノイハは網を仕掛けようと川に近づく。

 そうするとまたワニが寄ってくる。

 何度も同じ状況が繰り返され、最終的におれたちは網を仕掛けることをあきらめた。

 そして、おれたちはそのいらだちをワニにぶつけた。

 近づいてきたワニの口を竹槍で串刺しにして生きたまま川岸に留め、インパラの血を流してピラニアをそこに集めた。

 ワニは生きたままピラニアに腹を食い破られることで暴れて、全身でピラニアに抵抗し、ピラニアを弾き飛ばした。

 ワニが動かなくなった頃には、十数匹のピラニアが陸の上で体をうねらせていた。

 陸へと弾かれたピラニアは二人で美味しく頂いたのだが、このやり方はどう考えてもエサ代の方が魚代よりも高い漁法だったこと、とか。

 ちなみに、ピラニアは陸に打ち揚げられてもしぶとく生きていて、油断していたノイハが左手を噛まれて血だらけになり、おれが神聖魔法で治療したことも追記しておく。

 馬喰魚、恐るべきタフさだ。

 魚のくせに。


 こんなこともあった。

 ダリの泉の村から流れる小川の川沿いで見つけた湿地帯に、ピンク色の羽毛のサギが群れで立ち尽くしていた。

 セントラエムいわく、桃色鷺。

 どんなハ二―トラップなんだ、という名前のピンク色のサギ。

 美人局でもしていそうな、そんな名前に、おれは心の中で笑った。

 ノイハは矢羽がほしいと、馬をおりて湿地に侵入。

 サギの群れはぴくりとも動かないので、捕まえやすいと思ったらしい。

 ノイハがあと数十センチというところまで接近すると、ばさあっと一斉にサギの群れは翼を動かして飛び立ち、ノイハの手はその辺にはえていた草を掴んで終わる。

 それでも落ちていた羽は回収できたのだが、湿地から戻ったノイハの足には手の平サイズのでっかいヒルが五、六匹・・・。

 サギに騙されヒルに血を抜かれたのだ。ある意味で詐欺に遭ったとも言える。

 焚き木を燃やして、火でヒルをはがし、血だらけになったノイハの足を神聖魔法で治療。

 ノイハについていかなくて本当に良かった。それぐらいあのヒルは気持ちが悪かった。セントラエムに祈り、ノイハに神聖魔法をかけながら、おれの腕には鳥肌が立っていたのだ。

 そのとき、ふとノイハの手を見ると、偶然にも、ノイハがその手に掴んで、湿地から持ち帰ってきていた草が、実は麦だったこと、とか。

 これには驚いた。


 ノイハに、麦を採りにもう一度湿地に入ってくれと頼んだのだが、ノイハからは全身全霊をかけて拒否されてしまった。

 まあ、火を近づけて取り除き、神聖魔法で治療できるとはいえ、あのヒルを見た後では、あまり無理は言えない。

 馬たちも、湿地へは入りたがらなかった。

 そりゃ、あのヒルを見たら、おれだって絶対に近づきたくはない。

 この麦は大切に実験して増やすことにした。

 ある意味、今回の旅での狙いは、予想外の形で達成された。

 おれたちの目的のひとつとしては、安定した食料、それも、肉の確保の方法を見つけることだったのだが、そういうおれたちにとって都合のいい動物は、残念ながらいなかった。大き過ぎたり、速過ぎたり、小さ過ぎたり、狩る手間や危険に対して、見返りがあまり感じられないのだ。

 そういう訳で、肉は、いまいちの成果。実際のところ、旅の間に一番よく食べたのはウナギ猫。マダラオオネコだ。こっちが狩った獲物を横取りしようと狙ってくるせいか、何度も接触し、何匹もしとめたからだ。残念ながら、味は、かなりいまいちで、毛皮の方はもふもふしていて気持ちがいいのだけれど、気候的に亜熱帯に属する大森林ではあんまり役に立たない。

 ところが、肉ではないのだけれど、偶然にも麦を見つけることができたのだ。場所ははっきりしているので、ヒルの対策がとれれば、別の機会に採取することも可能。できればしたくはないけれど。

 これまでのクマラとの話し合いでは、これから数年かけて、少しでも短い期間で育つ米を品種改良して生み出し、米の三期作で食料の確保をしようと考えていた。三期作で確保できる量なら、大草原の氏族たちと取り引きしても余裕がある。相手の食、すなわち胃袋を握るのは、恋愛でも、政治でも、どちらでも効果的だろう。

 まあ、品種改良とは言っても、バイオテクノロジーとかがある訳ではないので、時間をかけて、同じ環境でも早く実をつけた稲から種もみを確保して、それを育てていくことの繰り返しで早く育つ稲へと改良しよう、という計画だった。

 ここに麦を加えると、二期作プラス麦の裏作、という方法が使える。冬場のやや気温が下がる時期を麦作で生かせるのだ。無理に品種改良をして、三期作を目指す必要性が低くなる。それでも、三期作の可能性には挑戦するけれど。

 それに、大草原の氏族たちのことを考えると、米よりも麦の方がいいと思う。勝手な思い込みかもしれないが、羊を生活の中心としている彼らの食卓には、ごはんよりもパンの方が合う、というのがおれの勝手なイメージだ。

 ただし、麦作は稲作以上に注意が必要だろう。

 水田での稲作は、あまり連作障害は起こらないとはいえ、まったくない訳でもない。肥料など、十分な量を土に加えなければならない。

 麦は連作障害が米よりもはっきりと起こる。だから水田は三分割して、冬の麦作は常に三分の一で行う。あとの三分の二は休耕して森小猪や土兎の放牧地とするか、地力を回復させてくれそうな草花を植えるか。ちょうどいい冬場の豆類が見つかるといいのだが。

 アコンの村でのメインの食材は、イモ、米。豆類もあるけど、いまいち育ちがよくない。

 一方、かぼちゃやトマトはよく育つのでありがたい存在だ。かぼちゃはみんなからも好評。がんばれトマト。

 果物類もかなり充実しているし、アコンの果実なんて、不思議な力がありすぎて逆に不安になりそうなくらいだ。

 ここに麦が加われば、その充実したラインナップは、思わず笑みがこぼれるほど。そもそも、ネアコンイモがある時点で、飢えることはない。およそ一か月という短期収穫が可能なイモを通年で育てられるのだ。アコンの木の根元であれば。

 まあ、アコンの群生地の近くでなくとも、麦を育てるのなら、例えばダリの泉の村があった辺りや、虹池の村があったあたりでもいいだろう。いずれ、人口が増えたら、衛星都市として、また、大森林の玄関口として、あのへんで人間が暮らせるようにしたいしね。

 もちろん、今、畑や畜産をしているあたりで麦を育ててもいいし、他にも可能性が色々と膨らむ。

 特に、食文化的に、いろいろと、だ。

 とにかく、麦の発見は、ノイハのお手柄だ。未来の村の命をたくさん救ったと言える。

 ノイハ本人に自覚はないが、大手柄である。

 狩猟と採集から、農耕への転換期にあるおれたちの暮らしで、貴重な種苗は最優先で確保したい重要な宝なのだ。

 転換期、とはいっても、前世の知識で行うことができる農耕は、この世界においてなら、かなり先進的なものになるのだろうけれどね。




 そんなこんなで、ジッドが猛獣地帯と呼んだ一帯をおよそ二週間かけて探索したおれとノイハは、セントラエムとも話し合って、一度、虹池に戻って、協力してくれた馬を群れに戻した。

 そして、今度は、自分の足で大草原の猛獣地帯に向かう。

 まあ、おれもノイハも「長駆」のスキルがあるので、マラソン選手並みに走ってもまだ余裕がある。

 そして、今は、バッファローの群れの後ろを追いかけている。

 既に、ノイハの毒矢は一頭のバッファローの尻に刺さっている。

 狙いは、「小竜鳥」へのリベンジだ。

 リベンジとはいっても、「小竜鳥」そのものを倒す、というつもりはない。

 バッファローの肉を確保する、ということでもない。

 おれたちの狙いは・・・。


 スピードが落ちて、群れから離れた尻矢バッファローが倒れる。

 この旅の初日に見たのと同じ光景だ。まあ、あの時は馬上でのんびり追いかけていたけれど。

 バッファローを神聖魔法で解毒し、銅剣でとどめを刺して、血抜きをする。

 ウナギ猫がやってきて、ノイハが弓矢でしとめつつ、追い払うのも前回と同じ。

 ただし、今回、バッファローの四肢には、ネアコンイモのロープが、これでもか、という強さでしっかりと結んである。足の付け根に結ばれたロープは、反対側の脇から肩の上へと回して、もう一方のロープと軽く結んである。合計四本のロープ。

 それに加えて、射とめた五匹のウナギ猫も一本のロープにそのしっぽが結ばれて、垂れ下げられている。

 おれの腰と、ノイハの腰にも、それぞれロープが結ばれている。

 全部で七本のロープを利用中。

 あとは、あのでっかい鳥、「小竜鳥」が来れば、実験が始まる。

 ここまでくれば、何を実験しようとしているのかは、分かるはず。

「オーバっ! 来たっ!」

「おおっ!」

 ノイハの叫びに、おれも叫び返す。

 まあ、スクリーンで「小竜鳥」の接近は把握していたのだから、心の準備はできている。

 その飛翔スピードは脅威だが、前回も、バッファローをその爪で掴む瞬間は、少しだけ間があった。

 おれはスクリーンから目を離し、目視で「小竜鳥」を確認する。

 そして、奴がバッファローをその爪に掴むタイミングをはかる。

 まだだ。

 まだ。

 あと少し。

 もう少し。

 そう。

 今だ・・・。

「ノイハっ!」

「おうっ!」

 おれとノイハは、前回とは違い、小竜鳥をかわすのではなく・・・。

 小竜鳥の爪がバッファローを掴む。

 それと同時に、おれとノイハは、その爪がある小竜鳥の足を掴む。

 小竜鳥の巨大な翼が、上昇するために、ぶぁさ、ぶぁさ、と大きく動く。

 おれとノイハはバッファローに腰掛けつつ、自分の腰に結んでおいたロープを小竜鳥の足に結ぶ。ただし、長さはゆとりをもたせている。

「できた! ノイハっ! そっちは?」

「おう! できたぜ!」

 既に、おれたちは空中にいる。

 猛獣地帯と呼ばれた大草原の大地からは、引き離された。

 風が、まるで壁のようだ。

 大怪盗の三代目やら渋いガンマンやら無敵の剣豪やらが活躍する有名テレビアニメとかでよく見るけれど、飛行機の車輪にぶら下がって飛ぶって、こんな感じなんだろうか。まあ、あの人たちは空中でも加速したりしているのだけれど。

 事前の打ち合わせ通り、自分の命綱を結んだあとは、バッファローの足の付け根に結んでおいたロープも、小竜鳥の足に結びつける。それも、強力に、だ。絶対にほどけないように、する。

 おれは左手で小竜鳥の足を掴み、右手を顔の前に。

 ノイハは右手で小竜鳥の足を掴み、左手を顔の前に。

 小竜鳥の両足と、バッファローの身体でつくられた巨大ブランコ。

 上空何メートルなのかは分からないが、間違いなく、空中にいる。

 リアル空中ブランコだな。

 馬の背から、牛の背へ。いや、生きてないからちがうか。

 馬上の旅から雲上の旅へ。

 あ、雲の上ってほどでもなかったな。


 ・・・スグル、結界をしかけます。今の状態での神力を大きく消耗するので、あまり使いたくはない力ですが、この状況では危険でしょうから。


 セントラエムがそう言うと、風が止まる。

 おお、助かる。

 こういうことができるって、やっぱりセントラエムは女神なんだなと思う。

 神力を大きく消耗するのは、アコンの村に残してきた分身の方に大きく力を与えているせいだろう。こっちの本体には十分の一の力しかないらしい。どっちが分身なのやら。

「なんか、風がなくなったな?」

 ノイハが変化に気づいた。

「女神が結界を張ってくれたらしい」

「へえ。やっぱ女神さまはすげぇな」

 確かに、すごい。

 そのおかげで、周囲を見渡すゆとりが生まれた。

「ノイハ、周りを見てみろ!」

「うおっ」

 それは、リアルな鳥瞰図。

 大草原も、そこを流れる河川も。

 走り去るバッファローの群れも。

 ところどころにある灌木も。

 そして、みんなが待っている大森林も。

 全てを見下ろし、遠くまで見ることができる。

「すっげぇな。これが、鳥の目線、か」

 ノイハは驚きながらも、落ち着いた声で言った。

 珍しい。

 いつもなら、ぎゃーぎゃー言いそうな場面なのに。

「あれは、ダリの泉か、な・・・」

 ノイハのつぶやきが聞こえる。

 おれに話しかけている訳ではないようだ。

 ノイハは、感動し過ぎて、騒ぐような気持ちにはならなかったのかもしれない。

 おれも、大森林の方向を見ていた。

 正確に言えば。

 大森林の、さらに向こう側を見ていた。

 大森林を突き抜けた先にある、石灰岩の白い岩壁。

 世界の終わりだと感じさせられていた、いや、世界の始まりだと感じさせられていた、白い行き止まり。

 その上には、濃淡さまざまな緑が広がる台地があった。

 見えなかったから、気づかなかっただけで。

 あの滝の水の元となる場所が、あそこなんだな。

 世界は広い。

 本当に。

 異世界であっても、その事実は変わらないらしい。


 ・・・こんなことを思いついて、実行に移してしまうとは、驚きです。


 セントラエムが驚いているらしい。

 ここから見える景色に、ではなく、自分が守護するべき男、つまりおれに、だけれど。

 今さら、という気もする。

 ノイハは大森林から、大草原へと視線を移したようだ。

 おれもノイハと同じ方向に目をやる。

 二人でジグザグに行ったり来たりした、猛獣地帯が小さく見える。

 そう思った瞬間、胃袋がせりあがってくる。

 どうやら小竜鳥が下降し始めたらしい。

「なんか、気持ちわりぃな」

 急激な下降による内臓のせりあがりなんて、ノイハには初めての経験だろう。

 こっちの世界には、ジェットコースターなんて、どこにもないからな。

「ノイハ、前もって話していた通り、ここから先は、一瞬の判断に命がかかってくる」

「お、おう」

「確認するぞ。まずは、小竜鳥がゆっくりと着地する場合」

「そんときは、慌てず、命綱の腰の近くを切って、小竜鳥から離れる、だったっけ」

「そうだ。じゃあ、小竜鳥が空の上からバッファローを落とした場合は?」

「一番危ない場合ってやつだったよな。ええっと、命綱を頼りに小竜鳥の足にしがみつく」

「注意点は?」

「小竜鳥が不安定になるだろうから、だったっけ? 小竜鳥が立て直すまで気をつける」

「立て直せなかった場合は?」

「なんとかできそーなときに、うまく飛び降りる」

「そのときは命綱を切り忘れるなよ」

「おう」

 ちなみに、小竜鳥が空の上からバッファローを落とそうとして爪を放しても、既にロープで結びつけているので、バッファローは落ちない。というか、落下しようとするバッファローに小竜鳥は引きずられて落ちていく。

 だから、そのこと、つまり足にバッファローを結びつけられていることに気づいていない小竜鳥は、必ずバランスを崩すはず。これが一番危険な状態で、そのまま墜落するということも考えられる。

 まあ、おれたちは、死なない限り、骨折くらいならなんとか神聖魔法で復活できるから、こういう無謀なことにも挑戦できるのだけれどね。

「女神さまが言う通り、だと、いいんだけどよう・・・」

「小竜鳥は、体の大きさに似合わず、気性は大人しいって、ところか? 自分で狩りをせずに、他人が狩った獲物を掠め取るあたり、本当は臆病だってのは、当たってると思うぞ?」

 小竜鳥は、急下降するときのスピードが唯一の武器、らしい。

 今回の挑戦は、セントラエムからの動物情報が全てだ。

 おれも「神界辞典」のスキルで調べれば、いろいろなことは分かるが、セントラエムは女神というだけあって、「神界辞典」へのアクセスが速い。おれが調べるより何百倍も速い。

 セントラエムの守護と、セントラエムとの会話能力がなかったら、こんな旅ではなかなか生き抜けなかったのではないか、と思う。まあ、おれの場合は、スキルとレベルだけで、なんとかなりそうな部分もあるけれど。

 この旅にはものすごい価値があったと思う。ノイハも、かなりのサバイバル能力を発揮していたし、この経験がノイハを大きく成長させたはずだ。いつか、他の者にも、経験させて、成長してほしい。まあ、いわばアコンの村の修学旅行、みたいな感じか。体験型、だな。ただし、小竜鳥による飛行体験まではさせなくてもいいかも。

 それと、さみしさ、というか、ホームシックみたいな感じが、強い。半月も大森林を離れたから、そろそろ一度、アコンの村へ戻りたい。旅は十分に楽しめたし、成果も得た。いい区切りだろう。

 そして、その前に、この旅の最後に、大きなことに挑戦してみたかった、ということもある。せっかくの異世界生活だ。冒険心も満たしたいところ。まあ、それなりの土産話はこの挑戦がなくても、けっこうあると言えばあるのだけれど。

 小竜鳥は、ダリの泉から流れる小川を超えて、草花があまり見えない岩山へと下降していく。

 さあ、どんなタッチダウンになるか、機長の腕前が楽しみだ。

 小竜鳥に腕はないけれど。

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