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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第2章 大草原編

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第50話:女神が魚群探知機の機能を発揮した場合

 目標としていた50話に、なんとかたどりつきました。嬉しい限りです。

 評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。とても励みになっています。

 これからもできる限り、頑張ります。


 今回は三途の川の河原にて、です。

 危険を知らせるおれの叫びに反応して、ノイハが馬のたてがみを引っ張りながら後ろに下がる。

 それとほぼ同時に、川から大きく開かれた巨大な口が水しぶきとともにあらわれ、ノイハと馬に向かって突き進む。

 下あごも、上あごも、どちらも一メートルは超える。

 ずらりと鋭そうな牙が並ぶ。

 ノイハと馬が噛みつかれる直前に、おれは左足で下あごを踏みつけ、左手で上あごを押さえ、その突進を止める。


 ・・・河大顎です! 獰猛な肉食の動物です!


 かわおおあごって・・・。

 ・・・まあいい、ワニだ。

 こいつはワニと言ったら、ワニである。ワニ以外の何者でもない。奴らはワニなのである。名前はまだない。

 初見だと、『鳥瞰図』の『範囲探索』に反応しない。

 危ないところだった。

 ワニのあごの力はかなり強いが、ステータス上ではおれの筋力の方がかなり高い。だから、おれが押さえているワニはそのままで動けない。

 いやあ、レベルが高くて良かった。

 ワニはもがいているが、あごと顔のあたりはまったく動けない。

 とにかく大きいワニだ。

 大きいワニにはちがいない。

 大きいのだけれど。

 今日、見てきたサイとか、ゾウとかと比べると・・・。

 ・・・比べると、かなり小さい。

 小さ過ぎる。

 そういう印象のせいか、こっちも余裕がある。

 ・・・というわけで、そのまま、おれは右足でワニの横顔をガツンガツンと蹴りまくる。

 同時にスクリーンに目をやり、『範囲探索』をかける。縮尺を操作し、地図をこの付近に設定する。

 すぐ近くに、同じ反応が二つ。

 しかも、こっちに接近中だ。

「ノイハ、気をつけろ! あと二匹、くるぞ!」

「うおっ、もう二匹かよっ?!」

 そうノイハが応えた瞬間。

 さっきと同じように、ざばあっと川から巨大な口を開いて次のワニたちが左右から登場してくる。

 おれは蹴り続けていたワニの上下のあごから手足を離して、さっと飛び退き、身をかわした。

 おれに蹴られていたワニの口が、がちんと音を立てつつ閉じられて・・・。

 その閉じられたばかりの口に、別のワニの口が、がちんと音を立てて噛みつき・・・。

 ・・・さらにその上に、もう一匹の口が、がちんと音を立てて重なった。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 えっと・・・。

 こいつらって、馬鹿なの?

 馬鹿だよね?

 おれは、重なっているワニ三匹分の口を一番上から思い切り、どしん、と踏みつけた。

 ほんの一瞬の出来事。

 しかし、その一瞬を逃さず、三匹まとめて、その口をぐいっ、ぐいっ、と踏み込んでいく。

 ワニたちは、前足を振り回して、その鋭そうな爪で戦おうとしているようだが・・・。

 ワニの足が短か過ぎる。

 口の長さに対して、約一メートルは、長さが足りない。だから、おれまで、その爪はまったく届かない・・・。

 ぱしゃぱしゃと、前足の回転に合わせて水音が響く。ビート板を股間にはさんでクロールの腕の動きを練習する幼児のような動きだ。

 ・・・いや、泣きながら暴れる子どもの両手回しパンチみたいだ。

 大人が頭を押さえると、届かなくて空転する感じの、あれだな。

 泣いた子ども必殺技だ。

 いや、あれは、効き目はないけれど。

 見た感じ、組体操の扇、みたいに三匹のワニがバランスよく分かれて、ぱしゃぱしゃしている。

 セントラエムによると、獰猛な肉食の動物らしいのだけれど、こうしている限り、とりあえずこっちがダメージを受けることはなさそうだ。こいつら、獰猛、というより、なんだ? 愚鈍? いや、鈍くはないのか?

「・・・オーバ、これ、どうすんの?」

「いや、どうしようか?」

 おれに重なった口を踏みつけられたワニたちは、いろいろともがいているようだが、ステータス上、おれの筋力をワニたちは三匹分合わせてでも超えられそうにはない。

 つまり、もがいているが、動けない。

 でも、ものすごく、もがいている。

 その絵面は、笑える、としか、言えない。もはや、笑うしか、ないかもしれない。

 危険を察知して、その結果、笑いにしかならないとは、これ、いかに。

 まあ、そもそも、互いの口に噛みつき合うという間抜けな状態が、通常では考えられない状態なのだろうとは思う。

 いや・・・。

 それは人間の視点か。

 今回のように、同時に獲物を狙った場合、ワニたちの中では、よくあることなのかもしれない。

 獲物の奪い合いのついでに起こること、とも考えられる、かな?

 もし、そうなったとしても、通常ではワニが獲物に反撃されることはなく、獲物となるエサの動物をめぐる、ワニ同士の戦いになるのだろう。

 今回、おれがそこに手を加え・・・いや、足を加えたから、ワニたちからしてみるといつもとちがう、おかしな状況なのかもしれない。

「・・・まっ、とりあえず、馬に水でも飲ませっか」

 おい?!

 どうしてそうなるの?

 ノイハは落ち着いてるよな?

 なんでだ?

 この状況は、とりあえず、って切り捨てる場面なのか?

 あ、本当に馬に水を飲ませてやがる。

 しかも、二頭とも。

 馬も、冷静だな。

 ワニは、なんか、変な感じだ。

 下半身・・・下半身というのかどうか、よく分からないが、ワニの下半身がこの状況を抜け出そうともがいて後ろ足からしっぽの先までが左右に動く。前足は回転させたままなので、上半身でクロール、下半身で横向きのドルフィンキックをしているかのようだ。上下じゃなくて、左右だから、ちがうか。

 おれとしても、踏みつけているだけで、追加ダメージを与えてはいない。

 でも、足を動かしてしまうと、ワニたちがまた襲いかかってくるかもしれないので、結局、踏みつけ続けなければならない。

「・・・なんか、そいつら、まずそうだよな」

「あっ・・・、そこ、か」

 ノイハの奴め。

 冷静だと思ったら、まずそうで、食べたいという気持ちが湧かないから、冷静になれるってことね。

 ノイハの基準は、肉が食べられるかどうか。

 そして、その肉がうまいかどうか。

 そうでした。

 知っていましたよ、はい。

 ノイハと二頭の馬が、河原から離れる。

「よっし、オーバ、馬も、水を飲み終わったぜ」

 それはつまり。

 おれの足を離して、ワニから離れろってことだな?

 でもな、ノイハ。

 おれが、昔、いろいろと調べたところによると、だ。

 ・・・社会科教師ってのは、いろいろ調べて雑学が豊富なのが特徴なんだが。

 オーストラリアとかでは、ワニは養殖? 飼育かな? とにかく、食用として育てられているし、鳥肉みたいに淡白で美味しいらしいぞ?

 見た目だけでは判断できない、食べるべき要素が実は満載なのだ。

 これまでにはないタイプで、初めてだから、解体はスキルに頼るとして。

 本日、あきらめ続けた、サイ肉、ゾウ肉に代わって、挑戦するべき食材なのではないか、と思う。

 いや、三匹まとめても、サイ一頭には届かないサイズだし。

 皮革も元の世界では高級品だったんだよな。

 おれはかばんから、竹槍の一番鋭いやつを取り出す。

「えっ? オーバ、それ・・・」

 ノイハの疑問はとりあえず、スルーしておく。

 外皮に弾かれないよう、一点集中。

 力はもちろん必要だが、貫くには、速さ。

 一息で。

 見えないレベルの速さで。

 竹槍を真下へと突き落とした。

 ・・・さすがに、三匹全部を一度に貫くには、竹槍では鋭さに限界があったらしい。

 それでも、上あごは二匹分まで貫いたので、両サイドのワニたちの前足も後ろ足も、痛みに反応して動きが激しさを増した。いや、まあ、どんなに暴れても、この状態で竹槍が抜けることはないと思うけれど。

 おれは、刺さった竹槍をドリル状にぐりっ、ぐりっ、と何度も回転させて、さらに三匹目の外皮から上あご、そして、下あごへと突き刺していく。下あごに刺していくのは、口の内側からなので、外皮とちがって抵抗が小さい。

 刺さっていく深さが増すたびに、ワニのバタ足が、順番に一匹ずつ、さらに激しくなる。刺さる順に動きが変化するので、どこまで突き刺さったのかもよく分かる。

「うわあ・・・」

 ノイハが、まるで、なんて残酷なやり方を・・・とでも言うように、うめいている。

 いやいや。

 猛毒使いの君にだけは、言われたくないです、はい。

 昨日の君は、毒矢を刺したバッファローを一日中苦しめ、ストーカーのように追い回して、仕留めていたじゃありませんか。最後はでっかい鳥さんに丸ごと持っていかれてしまったけれど。

 ある意味でなら、残酷さはノイハの方がひどいんじゃないでしょうか、ね。

「・・・あれを、自分の口で、やられてっと、思うと、さ」

 ・・・確かに。

 それは、嫌だな。

 うん。それは、怖い。怖すぎる。

 そういうことにはならないようにまともな人生を生き抜きたいものだ。

 気をつけよう。

 さて、ワニに戻って。ワニは、痛みはあるが、生命力へのダメージはそれほどでもないらしく、三匹とも、竹槍に貫かれても生きたままである。

 ワニたちに竹槍を貫通させて、さらに河原へと突き刺して固定が終わると、ワニは足の動きで抵抗することを止めた。下手に動かない方が、痛みはないと気づいたらしい。

「死んだのか?」

「いや、動くと竹槍の刺さったところが痛むから、動くのを止めたみたいだな」

「そんなら、陸にあげた方がいいんじゃねーの?」

「陸だと、水の中よりも踏ん張りが効くから、動きを止められない気がする」

「ああ、そっか。水だと足が回転しても、踏ん張れねーか」

「それに、あきらめたみたいだし」

「だな」

 おれは、かばんから芋づるロープを出して、ワニの口をまとめて竹槍と結ぶように縛り始める。

「何すんだ? まさか、こいつら、食う気かよ?」

「その、まさかだな。とりあえず、口を三つまとめて縛っておく」

 ロープを水の中を通して、さらに竹槍にからめて、口に巻きつけ、また水の中を通して、と繰り返しつつ、最後は足で踏みつけて結び目が強くなるように力を込めて、ワニの口を縛った。踏みつけたときには、またワニたちのバタ足が見えた。痛みがあるとワニの足が動く。

「とどめ、刺さねーの?」

「今からだと、解体に時間がかかりそうだし、もうしばらくで陽が沈むからな。このまま放置しておけば、朝には死んでるんじゃないか?」

「逃げ・・・られねーよな、これ。芋づるロープが切れるわきゃねーし。ただ、朝まで生きてる気はするぜ?」

「・・・そうかもな。今、確認してみたけれど、生命力が継続ダメージでほとんど減少してないみたいだ。すごいな、これ。まあ、減少していたとしても、こっちが考えてるより、かなり時間がかかるな、たぶん」

「やっぱ、とどめ、いるんじゃねーの? その方が・・・」

 ノイハは言葉を濁した。

 その方が・・・ワニたちにとっても、楽だ、ということだろう。

 まあ、そうなんだけれど、試したいこともあるしなあ。

「じゃ、一匹、そうしてみよう。あとは、どれくらい生命力があるか、試してみたい」

「・・・おお、じゃ、解体して、食うのは明日だな」

「嫌なら、食べなくていいけど?」

「いや、食べてみねーと分かんねーこともあるしな」

 おれはかばんからもう一本の竹槍を取り出して、一番下流側の、最後に噛みついた一匹に狙いを定め、ワニの上あごの上に立った。目と目の間、眉間の、少し上。おそらく、そこに脳があるだろう、というところ。ここを一撃で貫く。

 ビュッ、と、高速で竹槍を突き刺す。

 狙い通りだ。

 それと同時に、ワニから飛び降りて、河原へ。

 今までにない、大きな動きで、頭に竹槍を刺されたワニの身体が上下左右に暴れて、しばらくもがいて、今度は全く動かなくなった。

 ステータスの生命力はゼロ。

 そのまま、動かなくなったワニの上に戻り、死体の頭の竹槍をぐりっ、ぐりっ、と・・・。

 ・・・ノイハ、そんな顔するなよな。

 ワニを頭から一度、竹槍で貫通させてから、竹槍を引き抜く。

 血が、川に流れだす。

「・・・ああ、血抜きかよ」

 おいおい。

 他に、何があると?

 おれに、死体をいたぶるような趣味はない。

 ないったら、ない。

「今日は、この近くで野営だな。明日、午前中にこいつを解体して、どんな味か、確かめよう」

「おう。でも、さ・・・」

「ん?」

「たとえ、味が良かったとして、さ。この川で獲れるっつーのは、おれたちの食糧としては、ダメだよなあ」

「・・・ああ、そうか。ここは、大森林から遠過ぎるから、か」

「そーそー」

「確かに、そうだな。まあ、こういうのが、どっかで役立つってことも、あるかもしれないから、とりあえず、やってみるだけは、やるさ」

「だな。食べて、うまけりゃ、ジッドへの土産話としてもアリだ」

 ノイハの冗談に笑顔で応えつつ、おれは竹槍の血を洗い流してからかばんに片付けて、水袋から水を飲んだ。

 ワニとの戦いで、のどが渇いていたらしい。

 大森林の滝の水が、いつもよりもうまいと感じた。




 真夜中に、セントラエムに起こされた。

 それは、セントラエムの役割だから、仕方がない。

 でも、ノイハ。

 火の番で寝るのは、やめてほしい。

 二日連続だよ、おい。


 ・・・スグル、聞こえませんか?


 おや?

 そう言われて、耳に意識を集中させてみる。

 はげしい水音が、ばしゃ、ばしゃ、と聞こえる。

 どうも、嫌な感じだ。

 しかし、音が近づくとか、離れるとか、そういう感じはない。

 その場で、音がしている。

 ワニを突き刺して置いてあるところ。

 生きている二匹が、逃げようと抵抗しているのだろうか?

 暗くて、見えない。

 水音だけが、響く。

 ワニを仕留めたところってことで、なんとなく状況が想像できるから、そこまで怖ろしくはないが、見えないものが音だけでってのは、怖いものだ。

「今さらだけど、逃げようとして暴れてるのか?」


 ・・・いいえ。河大顎が、襲われています。


「ええっ? なんで? いや、何に?」

 というか、それ、おれたちにも危険なんじゃないのか?

 ノイハを起こさないと・・・。


 ・・・スグルたちには危険はありません。もちろん、馬も大丈夫です。


「まさか? なんで?」


 ・・・河大顎は、魚に襲われていますから。魚は、水がないのに、ここまで来ることはできません。ここは安全です。しかし、せっかくの河大顎が、喰い尽くされてしまうはずです。


「魚って・・・」

 魚が、ワニを、襲うのか?

 ・・・ああ、あれか。

 ピラニア系か。

 肉食魚、だな。血抜きのときの血に呼び寄せられたか。

「なんて魚だ?」


 ・・・馬喰魚、といいます。


 うまくいうお、って・・・。

 ・・・ワニ、食ってんじゃねえよ。

 馬じゃねえし。

 うまく言おうって、うまく言えてないだろ?


 ・・・とどめを刺した一匹だけでなく、生かしておいた二匹も、柔らかい腹側から食い破られて、今はもがき苦しんでいます。


 おれはスクリーンに地図を出して、「馬喰魚」で調べてみた。

 広範囲で、この大きい方の河に分布している。

 地図の縮尺を変えて確認すると、ワニの周辺に、まさに無数に群がっていた。

 自分のステータスを出して、忍耐力を確認。どうやら、フルで回復していたらしく、『神界辞典』、『鳥瞰図』、『範囲探索』、『対人評価』を使って消費した4+8+2+2=16が引かれて、1040-16=1024だ。この四つのスキルはこれまで頻繁に使ってきたため、スキルレベルが高くなっているらしく、転生時よりも消費する忍耐力が半分になっている。固有スキルの『鳥瞰図』は、転生時では忍耐力を16も消費していたのだが、今では8しか消費しないのだ。しかし、自分の能力が数値で分かるってのは、分かりやすいけれど、慣れない。

 あと、忍耐力を使い切っても、死なないということは、実は以前、実験済み。

 これ、精神力も同じ。

 麻痺というか、気絶というか、つまりスタン、の状態異常にはなるけれど、死ぬ訳ではない。

 ピラニア野郎どもに、勇気を出して、『対人評価』を使う。

 忍耐力が一気に減少し、114になる。

 おれの場合、『対人評価』の消費忍耐力は2なので、(1024-114)÷2=455匹、か。

 算数か、数学の試験問題にできそうだ。

 『対人評価』を使って、ピラニアの数を確認すると、忍耐力が1024から114まで減りました。『対人評価』での消費忍耐力は2です。ピラニアは何匹いるでしょうか、みたいな。

 ・・・まあ、そんなことを考えている場合でもないか。

 スクリーンに、無数のステータスが表示され、スクロールバーが・・・、うん、大きく動かせる、あの感じだな。

 ピラニア野郎のレベルは1~3の範囲で、1が多い。

 しかし、その怖ろしさは、レベルとは関係のないところにある、と言える。

 ワニ三匹に、五百近くが群がっているとすれば、サイズは大きくても、アジとか、イワシとか、それくらいだろう。

 そのサイズでレベル3、か。

 うちの村なら、サーラと同レベルなんですがっ?

 魚くんにまでレベルがあるとは・・・。

 しかも、人間と同レベルの魚。

 まあ、生命力はレベル3でたったの6しかないけれど。

 スキルは・・・どれも応用スキルばかりで『群泳』、『血追』に・・・『跳躍』だと?

 ・・・ああ、泳ぎながら、河の上に跳びはねる感じかな。

 中には『跳躍』ではなく、『群寄』というスキルを持つ個体もいる。こいつが、群れを統率しているのかもしれない。

 倒せるか?

 いや、無理だよな?

 この暗闇で、水の中なんて、どう考えても無理だろう?

 ノイハを起こして、毒でとか?

 ピラニア野郎を一網打尽にできたとしても、そのあとの周辺被害が怖いよなあ・・・。

 ワニにも、『対人評価』をかけて、ステータスを確認。

 竹槍に貫かれてもほとんど減少しなかったワニの生命力が、どんどん0へと近づいていくのがはっきりと分かる。

 ああ。

 これはダメだ。

 ピラニア野郎どもを排除できたとしても、もうワニに食べられるところは残っていないだろう。

 どうやら、今回の旅では、捕まえた獲物を横取りされるって、パターンがあるらしい。

 油断大敵。

 隙あらば・・・ということなのだろう。

 大草原の氏族たちが、この猛獣地帯に手を出さないのは、手を出したとしても、手に入らないからなのかもしれない。まあ、そもそも、彼らからすると、いろいろレベルが高い地域では、あるけれど。

 おれは、ワニの肉、ピラニア退治、ノイハの無責任さなど、いろいろとあきらめるところはあきらめることにして、そのままもう一度、寝た。

 危険があれば、セントラエムに起こすようにお願いしておいた。

 ということで、今夜はおやすみなさい。


「どうなってんだ、こりゃ?」

 朝、ゆらゆらと川面に揺れるワニ皮を見たノイハがそうつぶやいた。

 腹側から喰い破られ、中身は喰い尽くされ、硬い外皮だけが残されたワニが、風になびく旗のように川面に漂う。鯉のぼり・・・という美しさはないか。脳や目玉も、なくなっている。ある意味では、皮革部分だけにする最高の方法なのかもしれない。ワニ皮狙いなら、これ、いい方法だよな。

 一方、ピラニア野郎にも、被害が出ていた。

 暴れたワニにはねとばされたのだろう。河原に打ち上げられて、何匹も死んでいる。

 見た目は、ちょっと小さ目のタイ、みたいな感じか。

 しょうがない。

 朝飯はピラニア野郎の焼き魚だ。

 やれやれ、と、そう思って、岩塩をふって焼いて食べてみたら、これが意外と美味い。白身で、小骨が少なく、食べやすいし、無数にいるので獲り尽くすということも考えにくい。でも、口まわりの牙はすごく硬くて、邪魔だった。何か使えると面白いのだけれど。

 川魚としての臭みがあるので、香草と一緒に焼いたり、煮たりすれば、たぶん、いい感じだ。香草なら、大森林にいくらでも、ある。

 小さな干し肉のかけらをエサに釣る、というのもアリかもしれない。釣り道具を作らなければならないけれど。いや、肉のまき餌で集めて、投網というのがいいかも。一網打尽にできそうな気がする。食い破られない強い網は、ネアコンイモの芋づるからなら、できるはず。

 まあ、ワニと同じで、大森林からの距離に問題がある、か。

 おれたちにとっては遠くても、大草原の氏族たちには、なんとかなるのではないだろうか?

 けっこう、大草原の氏族たちは食糧不足に悩んでいたみたいだし、いつか、教えてやろう。そうすると、投網は、重要な輸出品になるかもしれない。まあ、羊毛で作ったとしても、網は大丈夫かもしれないけれど。

 魚を食べるおれとノイハから少し離れたところで、馬がのんびり草を食べているのが、とても平和な感じがする。

 十数匹の馬喰魚を食べ終えて、おれとノイハで女神への感謝の祈り。

 それから、河から引き上げたワニ皮は、使えるサイズに銅剣で切ってから、かばんに収納。竹槍も洗って回収。

 剣の使い道がまちがってんじゃねーか、とか、おまえの弓ほどじゃねーよ、とか、おれの弓は弓らしー使い方だ、とか、つまらない軽口をたたき合って、おれとノイハは馬に乗る。

 さて、今日はどんな動物との出会いが待っているのか。

 むつごろうさん的な動物たちとの触れ合いなど一切なしで、おれとノイハの大草原サファリパーク、食レポの旅は続くのであった。

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