表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第2章 大草原編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/132

第49話:女神のモーニングコールが命の危険を知らせる場合

 あけましておめでとうございます。

 今年も頑張りますが、できる範囲での執筆と更新のため、なかなか話が進まず、申し訳ありません。

 評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。これからも頑張ります。


 今回は大草原サファリパークをご案内、の続きです。





 ・・・スグル、スグル。起きて下さい。


 朝から、セントラエムに起こされた。

 いや、まだ、空はうっすらと白いだけで、太陽が昇った訳ではなさそうだ。周囲を見回しても、ぼんやりとしか見えない。昨日の記憶がなければ、ぼんやり見えるものがかまどだったり、木炭とその灰だったりということは、判別できないだろう。

 ノイハは寝ているらしい。

 ・・・あれ?

 確か、火の番をノイハと交代してから、おれは寝たはずだが・・・。

 あ。

 ノイハの奴、火の番をしたまま、寝たんだな。

 それで、火も消えてしまっているし、セントラエムが慌てて起こしてくれたのか。

 まあ、セントラエムに寝ずの番を任せるのは正解と言うべきなのだけれど。


 ・・・スグル、急いでノイハを起こしてください。私が呼びかけても起きません。身体に直接働きかけなければ!


 ノイハのように、セントラエムの呼びかけで目を覚まさないというのは、致命的だろう。この、脳に直接響く、セントラエムの声で起きないってのは、どういうしくみか知りたい。

 セントラエムに言われるまま、おれはノイハの身体を揺すって起こした。

「ん・・・」

 ノイハはゆっくり目を開く。


 ・・・スグル、早く、ここを移動してください。危険です。


 危険?

 何が、だろうか?

 いや、こういう場合、セントラエムの言葉に素直に従うべきだな。

 おれはノイハの腕を引いて立たせると、一緒に歩いて移動を始めた。

 馬も気づいて、付いてきている。

 二十メートルくらい、川沿いに北上すると、さっきまでいたところに、足音が響く。

 何か、大きな動物が、何頭もそこに集まって・・・いや、殺到しているという表現の方があてはまりそうだ。

 どどどどどどど、という響き。

 ばしゃーん、ばしゃーん、という水音。

 その両方が連続して聞こえてくる。

 何かはよく見えないが、さっきまで、おれとノイハが寝ていたところに、大きな何かが殺到し、小川に突入して水音を立てている、らしい。

「なんだ・・・?」

 ノイハも目をこらして、さっきまで自分がいたところを見ている。

 まあ、おれも、ノイハも、今は明るさが足りないので、それが何かは見えていない。

「セントラエム、あれは、何だ?」


 ・・・三つ角サイ、です。角が三本はえた、大きな動物です。草食ですが、体が大きく、意外とスピードもあります。水浴びが好きな動物なので、ああやって小川に飛び込んでいくのでしょう。大変重いので、踏まれては命の危険があると判断し、スグルを起こしました。


 サイ・・・。

 三つの角がはえたサイ。

 ・・・トリケラトプス、みたいなサイってことか?

 猛獣地帯って、恐竜地帯の間違いじゃないのか・・・。

「いや、起こしてくれて、助かったよ、セントラエム」


 ・・・いいえ、それが守護神としての私の務めですから。ここまで離れていれば大丈夫だと思います。肉食ではないので、こちらを襲ってくることはないはずです。どちらかと言えば、大人しい部類なのですが、大きさが、脅威です。


 守護神としての務め、か。

 確か、セントラエム以外の守護神は、見守るだけで、話しかけたりはしないはず。

 セントラエム自身もそもそもそういうつもりだった。

 しかし、セントラエムの場合、おれの方に聞き取るスキルがあったから、こうなった訳で・・・。言いかえると、おれ以外の女神をともなう転生者は、こういう状況すら、守護神からはただ見守られているだけで、本人はあっさり命を落とす、ということが考えられる。

 そうして、守護神は任務完了で神界へ戻り、新たな転生者の守護神として少しずつレベルを上げていく・・・。

 いや・・・自身のレベルを上げるためなら、守護神はあっさりと転生者を見守ると言いながら見捨てて、死ぬのを放置するのではないだろうか?

 他の守護神たちは、セントラエムのように、守護するのが務めだと考えているのか、いないのか。

 転生者がどのくらいいて、どのくらいの期間で死んでしまうのか。

 そういうことを調べてみないと、はっきりとした結論は出せないけれど。

 神族はおれたち転生者をレベルアップの道具としか見ていない、という可能性は高い、と思う。

 いったい、転生したおれたちに、何をさせたいのか。

 この異世界で生きていけば、それだけでいいのか。

 それとも、身に付けさせた固有スキルでこの世界に変革を起こさせたいのか。

 おれが大森林にとばされたのは、影響を最小限にするためだと思うから、この世界に変革を起こさせたいというのは、少しちがう気がする。大きな影響を与えることまでは望んでいないのだろう。

 まあ、今はそういうことまで考えていても、どうすることもできないけれど・・・。

 トリケラトプスのようなサイは、その足音だけでなく、その振動まで、ここに響いてきている。

 おれはスクリーンを起動し、固定する。『鳥瞰図』で地図を出して、『範囲探索』をかけてみる。トリケラトプスのようなサイ、三つ角サイも、新たに探索に反応する。三つ角サイの点滅は黄色だ。周囲に別の動物は、知っている範囲ではいない。何かに追われてここへ来た訳ではないようだ。ちなみに、地図上では、もっと北の方でも、三つ角サイの群れがもうひとつ、小川に集結していた。

 新しい動物を発見するたびに、地図上での光点が増えていく。

 暗いけれど、馬たちも、おれとノイハの側に避難して無事だと分かる。

 とりあえず、大草原では、馬、羊、ライオン(獅子という方が大草原の人たちには通じる)、バッファロー、ウナギ猫・・・マダラオオネコね、小竜鳥、トリケラトプス・・・三つ角サイが、今のところ把握できている。

 ま、馬や羊は小川よりも東側で、氏族に飼われている野生ではないものが中心だ。

 特に羊は、野生の存在だと考えられる位置にはいない。

 馬は、猛獣地帯にも二つの群れがいる。馬ってのは、猛獣の部類に入るのだろうか。ライオンにつけ狙われていたという事実から考えると、獲物系動物ではないかと思う。ま、獲物がいないと猛獣も生きられないよね。馬の群れのもうひとつは、虹池にいるイチたちの群れだ。ここは現在、安全地帯のようになっている。大牙虎が再び動き出したら、どうなるかは分からないけれど。

 あ、この馬の群れは、戦えばイチたちのときみたいに、群れごと従わせることができるだろうか?

 まあ、そううまくいくとは限らないが、意識して狙っておこう。

 今のところ、大草原サファリパークってところか。

 新しい動物と出会って、戦ったり、よけたり、味方にしたりして、旅を続ける。

 三つ角サイのレベルは3から5まで。レベルだけ見ると、昨日のウナギ猫・・・マダラオオネコと同じくらいだ。

 サイズとレベルのずれは、感覚的に気をつけないと、油断につながりそうだ。

 三つ角サイの生命力はマダラオオネコの十倍、およそ200前後だ。種族補正なのだろう。精神力30程度と低いが、耐久力は100くらいで、レベルに対して多いと思う。

 種族によって、ステータスにちがいがあるというのは、普通のことなのだろう。

 神族のセントラエムなんて、生命力、精神力、耐久力の全てがすでに五ケタだ。まあ、セントラエムの場合、レベルも高いのだけれど。

 種族がちがえば、レベルだけで強さを決められるものでもないのかもしれない。時間をかけて打撃を与え続ければ、勝てるのは間違いないが、それでは効率が悪い。

 空の明るさが増して、周囲の見え方が変化してきている。まだ、はっきりとは分からないが、三つ角サイの姿が、その一頭一頭の形が、影のように見えていた。

 三つ角サイはかなり大きい。全長七~八メートルくらいか。元の世界のサイもそれくらいなのだろうか。なんか、おれが知っているサイよりもサイズがでっかい気がするけれど。

 あと少しで太陽が昇るのだろう。

 水袋から水を飲み、ノイハに回す。

 ノイハも水を飲む。

 光が、大草原の薄い闇を追い払っていく。

 三つ角サイが、はっきりと、その姿を現した。

「・・・でけーな、あれ。しかも、かたそうな感じだ。肉は食えそーにねーな」

「中は、やわらかいかもしれない」

「そーなの? ま、そーだとしても、倒すのは昨日のバッファローみてーにはいかねーよなあ」

「確かに」

「なんでも簡単に食べ物にはなんねーのな。肉が食いてぇーと思っても、うまくはいかねーなー」

 ノイハにとって、肉が食べられるかどうかは、一大事なのだ。

 ま、村に戻れば、もう一人、ジッドがそうだけれど。

 ・・・んー、と。

 サイがいるのなら、どこかにゾウもいるのか?

 可能性はある。

 原始時代は、マンモスを食べていたはずだ。まあ、本当のところはよく分からないが、野尻湖での発見などから、そうだと考えられている。

 大量の食肉の確保には、ゾウってのは、ありかもしれない。

 ・・・そんなことを考えたこともありました。




 馬だと移動が速い。

 大草原でなら、障害物の多い大森林での『高速長駆』とそれほど変わらない。おれの『高速長駆』よりは少し遅いくらいの速さだ。

 それなのに馬たちのステータスがそれほど削られていないのは、やはりここにも種族特性が関係しているのだろう。

 相変わらず、ノイハに『乗馬』スキルは身に付いていない。このあたりの、スキルが身に付く基準は全く分からない。まあ、ノイハのレベルは既にこのへんの猛獣を上回っているので、気にすることでもないのかもしれない。

 馬に乗って北上して約三時間、もうひとつの三つ角サイの群れを確認して通り過ぎていき、さらに三時間で小川と大草原を横断する川の合流地点で西へ。

 川の色が、合流前と合流後で、ちがう気がする・・・というか、ちがうな、これは。

 合流する前の方が濁っている。不思議だ。上流の方が濁っているなんて。

 よく見てみると、川に段差がある。合流する前に、濁りがそこでせき止められて、上澄みのところだけが下流へ流れ、さらに虹池からの小川のきれいな水と合わさって、色が変化しているのだ。不思議な感じがするが、色のちがいは、透明度のちがいなのだと分かる。

 ・・・せき止められているところの濁りから沈澱した川砂は、栄養がある土のような気がする。

 このへんでも農業ができるってことかな?

 まあ、いつか、必要があれば利用しよう。

 少し戻って、さっき通り過ぎた三つ角サイの群れに対して、食糧化チャレンジをする、ということは考えていない。

 ・・・しないよ?

 もし、ここで三つ角サイを倒して、肉にしたとしても、おれとノイハで食べ切れるサイズではないしね。持ち運びも無理だ。

 セントラエム情報では、三つ角サイは大人しい部類だという。

 まあ、大人しい動物ほど、本気で命の危険にさらされた場合、獰猛になる。それがたぶん鉄則。あんなサイズに暴れられたら、勝てるとしても、面倒だし、そこまで美味いという感じもしない。美味いかどうかは、勝手な想像だけれど。

 という訳で、三つ角サイはスルーで。これはノイハも賛成。

 大きな川に沿って小川との合流地点から西へ三時間。

 そして、予想していたゾウの存在を発見。

 やっぱり、いた。

 ゾウはこの世界にも存在していたのだ。

 さすがは大草原の猛獣地帯。

 天然サファリパーク。


 ・・・長鼻大耳です。まるでアコンの大樹のような動物ですね。これも、基本的には大人しい動物で、草食のはずです。子育て中の場合、母親が凶暴になることもあるようですね。


 セントラエムがサファリのコンパニオン化している。

 ながばなおおみみ、って・・・。それって動物の名前というより、形状ですよね?

 こっちの世界のネーミングセンスは、どうかと思うが、まあ、おれにネーミングセンスがあるとも思えないから、気にしないことにしよう。あれは、ゾウ。ゾウだ。

 そのまま馬に乗って近づいて・・・。

 う、んと・・・。

 あれ?

 近づいて・・・る、よな?

 おれは、小学生の頃、遠足で行った動物園で見たゾウのイメージを思い出す。

 まだ、ずいぶん距離があるけど、小学生のときに見た、動物園のゾウのサイズで見えている気がするんだが・・・。

 さらに近づいて・・・。

 ・・・どうも、おれが知っているゾウのサイズとは、根本的に異なるらしい。

 耳は大きく、お鼻は長い。

 足はぶっとく、しっぽは振れて。

 見た目は、というか、形は、まあ、想像通りのゾウだ。

 ・・・やっぱり大きさは、おれの知っているゾウではないと思う。

「・・・でっけー。朝の三つ角サイよりもでっけーな」

 高さが、アコンのツリーハウスの、竹で作ったバンブーデッキの二段目くらい。およそ、六メートルはある。全長は十メートルを超えているだろう。十五メートルくらいはあるはず。

 見た目、形は元の世界の通りで、サイズが二倍以上になっているファンタジーってのは、どうなんだろう。

 モンスターってことでいいのだろうか?

 ステータス上のレベルは最大のもので6。言い方は悪いが、たったのレベル6。生命力は500オーバーなんだけれどね・・・。レベル60を超えているおれの半分も、レベル6で生命力がある。

 この群れは、小さいサイズの子ゾウ・・・これが、おれにとっては動物園で見たことがあるサイズなんだが・・・子ゾウも合わせて十二頭の群れ。

 子ゾウ、ね・・・。

 さっき、セントラエムがなんか言っていたような気が・・・。

 おれとノイハは、あまりの珍しさに、そのまま馬に乗ってゾウの群れに接近した。

 ゾウがおれたちの接近に気づく。

 ・・・っ!

 まずいっっ!

 母親ゾウだと思われるゾウが、大きく鼻を振り上げて、おれたちの方へと向きを変えた。

「ノイハっ!」

「う、おおっっ?!」

 おれもノイハも、馬の首を押して、加速させた。

 母親ゾウが川から出て、おれたちを追いかけ始める。

 子ゾウが狙われるとでも、勘違いしたのだろう。

 確かに、子ゾウに注目していた。

 注目していました。

 すみません。

 でも、それは、サイズが気になっていただけなのです!

 そんな言い訳が通用する訳もなく・・・。

 おれとノイハが全力で馬を走らせる後ろに、巨大なゾウの群れが。

 地震のような振動、地響き。

 大きな耳と長~い鼻の動きがなんか怖い。

 しかも。

 ・・・なんでそんなに速いんだよ!?

 全力で逃げる馬と、変わらない速度で走るゾウの群れ。

 ・・・いや、ステータスを見ると、急激に生命力なんかが減少している。

 怒りに我を忘れて・・・。

 空飛ぶ少女の名作アニメに出てくる、目がたくさんある蟲か?

 今は目玉が赤い状態な感じで?

「・・・ゾウのくせに、まさか肉食か?」

「えっ、肉食じゃないのか?」

「知るか!」

「・・・言い出したのはオーバだろ」

「くぅ・・・」


 ・・・さっきも言いましたが、草食です。


 間に入るセントラエムの豆知識が、今の状況では少しいらっとしてしまう。

「三つ角サイみたいに、大人しくはないのか!?」

「馬の全力でも、少しずつしか離れないもんなあ・・・」

「なんでノイハは余裕がある?!」

「・・・まあ、少しずつは離れてんだから、追いつかれるってこたあ、ねーし」

 ノイハ、意外と大物?


 ・・・大人しいはずなのですが、ただ単に大人しいという性質ではないかもしれません。特に子育て中の母親は警戒心が高まるらしく、近づくものを追い払おうとするようです。草食ですから、食べようとはしませんが、踏み潰されることはあるはずです。


 とっても冷静に、おれの不安をあおってくれて、ありがとう、セントラエム。

 いや、子ゾウも含めて、群れが丸ごと追いかけてきてます、はい。

 まあ、追い払おうという行動なら、そこまで心配はいらないかもしれないけれど。

 ノイハの言う通り、少しずつ、少しずつ、おれたちの馬とゾウの間の距離は開いている。

 二十メートルくらい、間ができたとき、ゾウの群れはスピードを落として、おれたちを追うのを止めた。

 追いかけられ始めてから、三十分は経っていた。

 けっこう、しつこいよね?

 約二十キロは逃げたんだけれど?

 どれだけ追いかけたかった、というのだろうか。そこまで子ゾウに敵意は持ってなかったのに。

 ゾウ・・・長鼻大耳は、身体は大きいけれど、ステータス上は、楽勝の相手では、ある。

 ステータスの数字の上でなら、ね。

 しかし、実際に、あの巨体と向き合って戦う、という考えは、精神的にどうかと思う。

 原始の人々はよく、あんな動物を食べようと思ったもんだ。

 集団での狩りだからか、罠になる地形に誘い込む方法をとったか、他に食べられるものがなかったか、巨大だから一度狩ったときの効率が良かったのか・・・。とりあえず、食糧不足に悩んでいない大森林のおれたちからすると、ゾウやサイの肉を確保する必要性がない。

 ・・・さっき、大量の食肉の確保にはアリって、思ってなかったか、だと?

 それはこの異世界の世の中の現実を知らない過去のおれが勝手に思ったことだな、うん。

 あいつらでかすぎんだろ!? という感じで。

 古代ローマで、カルタゴのハンニバルの軍勢の中には、ゾウに乗った部隊があったらしい。元の世界のゾウはここのゾウよりも大人しいのかもしれないね。

 ま、動物園で見る限りは、ほぼ動きもないしね・・・。

 しかし、猛獣地帯ってのは、動物巨大化地帯なのか?

 鳥、サイ、ゾウ・・・。

 ネコもある意味では巨大化。まあ、大きくというよりは、長く、だけれど。




 ゾウとの競争のあと、スピードを落とした馬がかなり疲れていた。

 おれとノイハは一度、馬から降りて、それぞれの馬をなでる。

 ぶるるん、と気持ちよさそうにした馬は、そのままその辺の草を食べ始めた。

 平和な食事風景だ、うん。

 やはり草食動物は、基本的に獲物系動物なのだろう。

 逃げる速さが命、ということだ。

「しっかし、でっけー動物だったなー」

「確かに」

「あれも、食えねーよなー」

「どうやって倒すか、か。あ、いや、それはバッファローのときと同じなら、できるか・・・」

「ああ、毒矢、使えば・・・って、あんなにでっけーのに、毒が効くもんかね?」

「うーん。試してみるにしても、無駄になるよな、今は。ただし、毒矢を使って、倒れたら解毒するってやり方は、安全な狩りの方法かもしれないな。ノイハ、これはすごい発見かも」

「おっ! そっか? そりゃ良かった。んー、オーバに誉められっと、嬉しーねー!」

 ノイハが屈託なく笑う。

 いい笑顔だ。

「毒と言えば・・・」

「んー?」

「リイム、元気にしてるかな?」

「・・・大丈夫だろ?」

「心配じゃないか?」

「いや、心配は心配っつーか、なんでリイムだけ?」

「毒の話だからかな」

「心配なら、女神さまに聞けばいいんじゃねーか?」

「いや、それは毎晩、確認済み」

「・・・じゃ、リイムも元気だろ」

 馬たちがぶるるん、と近づいてくる。食事は終わったらしい。

 おれたちと川を交互に見ている。

 ・・・水が飲みたい、ということだろう。

 ノイハもそれに気づいたようで、馬と一緒に川へと歩き始めた。

 おれも少し遅れて、ノイハに続く。

「ここの川、大きいけど、ずいぶん濁ってんだな」

「ああ、そうだな」

 ひょっとしたら、黄河ってのは、こういう色なのかもしれない。まあ、川幅ははるかにせまいんだろうと思うけれど。

 水深など分かることもない、濁り。

 汚い、という印象ではない。

 しかし、透明度は、低い。

 見えない水底。

 まあ、このくらい濁っていたとしても、馬には飲み水として十分なのだろう。

 おれやノイハには、飲めないかな。

 ノイハの馬が、首を下げて、川の水を飲み始める。

 ノイハがその横で、馬の首をなでる。

 おれも、その横に並ぼうとして・・・。

 川面に小さな水泡があらわれ、ごぽん、と小さな音を立てて消える。

 川の流れの中での、その、違和感。

 何か、おかしい。

「ノイハ! 下がれ!」


『「危険察知」スキルを獲得した』


 久しぶりのスキル獲得、かもしれない。

 また、レベルをひとつ、上げてしまった。

 今さら、という感じのスキルでは、ある。

 そもそも、セントラエムがいれば、たいていの危険は察知できる。

 ・・・あれ?

 セントラエムの奴、さては油断してたな?

 いや、そのおかげでこのスキルが身に付いた、のだろうか。

 そんなことをのんびり考えている暇はないようだ。

 おれとノイハの、二度目の共同戦線が始まる・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ