第47話:女神がとある姉妹を冷静に見極めていた場合
総合評価500pt突破!
・・・かつて、書いても書いても、一桁だったことを思い出すと、涙が出そうです。
あの感想を頂いてから、大きく変わりました。
評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。これからも頑張ります。
感想頂けると嬉しいです。
今回は、恋のさや当て? です。
そんなかわいいものかどうかは、分かりませんが・・・。
あと少しで、連載開始時、心の中の目標だった五十話です。
頑張りたいと思います。
トラブルなのか、そうではないのか。
ある日、河原でのんびりしている時間に、リイムがおれのところに来て、おもしろくなさそうな顔でおれを見下ろした。リイムは立っていて、おれは座っていた、ということなのだが、見下ろされる感覚は、何というか、おもしろくは、ない。うん。
リイムの後ろに、リイム以上に、複雑そうな顔をしたエイムが控えていた。
さて、いったい、何の用だろうか。
「オオバ、聞きたいことがあるの」
「うん?」
「ライム姉さまのことなんだけど?」
「ああ」
なんだ、そこか。
ずいぶんと、情報が遅れているな、と思った。
アイラやクマラは、おれが戻った日に把握していたことだったのだが・・・いや、名前までは把握していなかったか、そういえば。
「ライム姉さまと、寝たの?」
「なんで、そういうことが知りたいんだ?」
「はぐらかしてる?」
「いや、ただ、なんで知りたいのか、と思って」
「自分の姉さまのことよ? 知りたいに決まっているでしょ?」
「・・・姉のことでも、知りたいと思うかどうかは、それぞれじゃないか? 従姉妹のエイムも、リイムみたいに、知りたいのか?」
「う・・・エイムだって、ほんとは、知りたいはずなの!」
「ほんとはって・・・エイムには聞きに行くな、と止められたんだな?」
「あう・・・」
どうやら図星らしい。
リイムは、最初の勢いを失った。
エイムがリイムの袖を引いて、引き上げさせようとしているが、それでもリイムは動かない。
おれが何か言わないか、待っているらしい。
まあ、ここで問答しても、仕方のないことだけれど。
おれは、しばらく黙ってみる。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・スグル、どうして教えてあげないのですか?
いや、セントラエム。
こっちの世界は、そういう、プライバシーとか、ないんだろうけれど。
聞かずに察しろ、というところだって、あるよ、多分。
・・・ライムと言いましたか、あの娘は、気持ちのよい、賢い娘でしたね。比べるという訳ではありませんが、やはりリイムは妹。まだまだ幼い言動が目立ちますね。
セントラエムはどうやら、リイムよりもライムを認めているらしい。
確かに、リイムは幼い、と思うけれど。
それは年齢通り、と考えられないだろうか。
ライムの方が姉で、年上、しかも、結婚、離婚を経験済み。
精神的な二人の差は、どうしようもないくらい、開いていると思う。
「知りたいのは、わたしやエイムのときは断って追い払ったのに、ライム姉さまとはどうして寝たのかって思ったから」
リイムがぼそぼそっと、珍しく、小さな声でそう言った。
ライムと寝たことは、リイムの中では確定なのか?
まあ、それは、事実でもあるので、否定はしないけれど、ね。
「オオバは、妻として迎えない相手となら、そういう風に、寝るの? それなら、わたしやエイムだって、オオバのお情けがほしいよ? 別にアイラやクマラ、ケーナみたいに、后になろうなんて、思ってないし、そうなれるとも考えられないもん」
おやおや、リイムがずいぶんと後ろ向きだ。
しかし、ちょっとだけ許せないとすれば、それは、ライムとおれの関係は、真剣なものではない、みたいな言われ方をしたところだ。
おれは、ライムの笑顔、泣き顔、怒った顔など、いろんな表情を思い出す。
たとえリイムにそのつもりがなかったとしても。
おれがライムと過ごしたあの数日間は。
とても大切な時間だったんだ。
そこは、完全に、勘違いをしている。
「・・・リイム。おまえの姉、ライムは、賢く、そして強い女性だったよ。族長である双子の兄の命令で、おれのテントに来た。でもその目的が、未婚の妹を守るためだと理解していた。その上で、自分の立場をわきまえて、どんなことでも受け入れる覚悟があった。おれは、大草原の早婚や、出戻り娘というあり方そのものが気に食わないんだ。でもさ、氏族の期待を背負って嫁に出され、そこで子どもに恵まれず、氏族の期待を裏切って戻ったライムが、とても聡明で美しいと感じたし、ライムのことを大切に思った。おれとライムの関係は、リイムが言う「寝た」っていうものなんかじゃない。おれは、ライムという賢く強い女性を心から求めて、愛し合っただけだ。何か文句があるなら、聞くけれど?」
「・・・っ、そ、んなこと、言われたら」
「おれとライムのことを軽く見るな。ライムにその気があるのなら、おれはライムを大森林に連れ帰って、一人の后としてアイラやクマラ、ケーナと対等に扱うつもりだ」
はっきり、言い切ってみた。
ま、実際のところ、氏族の最強剣士をドウラやニイムが手放すはずがない。
おれがライムを強く求めたら、ナルカン氏族からどれだけの代償を要求されることか。いや、どんな代償を支払ったとしても、おれが族長だったのなら、ライムを手放すようなことはない。
そして、この前のチルカン氏族との攻防で、ドウラはそのことを完全に理解したはずだ。
だから、今の大草原の情勢で、ライムが大森林に来ることはないだろう。でも、だからといって、ライムがおれの敵に回ることもないだろう。
そもそも、ライム本人も、氏族を離れる気はない。
だから、あの時、あそこでおれと別れたんだろう。
涙があふれそうになったリイムがさっと向きを変えて、走り去っていった。
リイムは泣いていたけれども、おれはそれを放置した。
リイムを追わずに留まったエイムの表情からは、何も読み取ることができなかった。
でも、その表情が気になったということは、自分の中の、カンのようなものが働いたのではないかと思う。頭の回転が早く、相手の気持ちを考えられるエイムなら、おれが感情的になる前に、リイムを止められたはずなのだけれど・・・。
「・・・エイム、何を企んでる?」
「・・・何も。ただ、この大森林での暮らしを、絶対に守りたい、それだけです」
その表情からは、やはり何も読み取れない。
今、エイムが言った言葉に、偽りはないのだろうと思う。でも、そこには、どのような手段を使ったとしても、という言葉が伏せられている、そんな気がした。
それで、だ。
トラブルなのか、そうではないのか・・・。
しばらくして、ノイハにお姫様だっこをされたリイムが河原に戻ってきた。
リイムの顔色はとても悪い。
ノイハの表情はいつもとちがって少し暗い。
そういうところに異常を感じたので、二人のステータスをチェックする。
リイムの生命力は危険な数値まで下がっている。ただし、状態異常表示はない。数値は低いが、今すぐ死ぬということでもない。さらに、『毒耐性』スキルと、リイムのレベルアップを確認。
おれはクマラかジルを呼ぶように周りのみんなに声をかけた。
ノイハのステータスも確認するが、特に異常はない・・・いや、レベルがひとつ、上がっている。特殊スキルがひとつ増えたようだが、おれの『対人評価』ではまだ分からない部分なので内容は不明。まあ、この状況から考えると、『神聖魔法』関係のスキルで、おそらく『解毒』か。
さっき、泣きながら走り去ったリイムは、周囲への警戒ができる状態ではなく、何も考えられずに、毒蛇の近くを通ったのだろう。
毒蛇のいる方向へ走っていくリイムに気づいたノイハは、後を追いかけ、蛇に噛まれたリイムを発見して救出、そこで、解毒の神聖魔法のスキルを身に付けた、という感じか。
あくまでも予想だけれど。
「オーバ、リイムが蛇に噛まれた」
「毒は?」
「分っかんねえ、女神さまに言われた通りにやったつもりなんだけどさ」
「いや、毒は消えてるよ」
「そっか、良かった。リイムは助かんのか?」
「もうすぐ、ジルかクマラが来る。すぐに生命力の回復もできる」
「ん? オーバは回復させねえの?」
「ん・・・うーん。命に別状はないし、緊急事態でもない、今は。たぶん、さっきまでは、ノイハがいなかったら、本当にリイムは死んでいたかもしれない。ありがとう、ノイハ。リイムを助けてくれて」
「あ、いや、へへ。ま、まあ、こんくらいは、さ。でも、クマラたちを待って、オーバが自分で回復させないのは、スキルレベルのためか?」
「んー、それもあるけれど、それだけじゃないかな。おれがいないときのため、って部分が大きい」
「オーバがいないとき? ああ、こん前みたいな、大草原に行くときか~。ま、ジルやクマラがいるし、女神さまも協力してくれんだから、オーバがいなくてもなんとかできるようになってきたよな・・・。あ、それが目的か」
「だからって、誰かが死んでからでは遅いからな。そうならないように、ぎりぎりまではみんなで。それでもできないことはおれや女神に・・・」
おれがいなくても、困難を乗り越え、前に進むことができる。成人までにそれができる者に育っていると本当に助かる。
具体的な目標は、村人がレベル10になること。
今のところ、大草原で出会った最高レベルは8だった。しかもそれは、おれとの関係でレベルアップしたライムのこと。
とりあえず、レベル10なら対人関係での問題は十分処理可能だ。ただし、大森林の特殊な動物相手では、複数人で協力しないと対応できない相手もいる。例えば大角鹿のしゃべる奴とか、大牙虎の群れ、とかね。
レベル10になるための十個のスキルとは、どういうものか。
まずは、一般スキル、基礎スキルのうち『学習』、『運動』、『信仰』を身に付けた上で、もうひとつ何か、『計算』がなんとかなるか、それとも『調理』とか、『洗濯』とか、どれかで4レベル分。
次に、応用スキルでは、運動がらみで『跳躍』と『長駆』はほしいスキルだ。それと、『殴打』、『蹴撃』、『剣術』、『弓術』、『乗馬』、『投石』などから2つと、学習がらみで『調査』スキルがほしい。これでレベル9分。こうしてみると、応用スキルは運動とか戦闘がらみのものが多いよな・・・。
さらに、発展スキルで、『二段跳躍』があれば、緊急事態で縄梯子を使わずにアコンの樹上へのぼれてレベル10。または『苦痛耐性』か『毒耐性』で・・・いや、『毒耐性』を身につけるのは命に関わる問題があるな・・・。ここは『苦痛耐性』一択でレベル10分もあり。できれば、『対人評価』とか、『物品鑑定』とか、『範囲探索』とかのスキルを持つ村人が増えてほしいけれど、そこまで高望みはしない。
あとは、発展スキルでなくても、特殊スキルで『神聖魔法』のうち、どれかひとつを身に付けることができればレベル10というのも、オッケーだ。それに、『神聖魔法』関係のスキルは、人を救うスキルだから、その持ち主が多ければ多いほど村にとっていいことだし。
そんなことを考えていると、駆け付けたクマラが、『神聖魔法:回復』のスキルで、リイムを回復させていく。これが、村人全員のスキルになったら、どれだけ安全性が増すことか。
クマラはレベル12だ。クマラのように、『学習』と『運動』と『信仰』がそろえば、結果としてレベルは割と簡単に10を超えると考えている。クマラは、アコンの村ではオールマイティーだけれど、まあ、内政主体で頑張ってくれている。ありがたいし、それでいい。
アイラのように、『学習』スキルがなく、『運動』と『信仰』のふたつでも、もちろんレベル10を超えられる。どちらかと言えば、戦士系で、軍事主体か。まあ、今のところ、戦争はない、はずだけれど。
リイムはまだ『学習』スキルも、『運動』スキルもないのに、レベル4に達した。大草原の氏族なら中心的な役割が果たせるレベルだ。兄の族長くんであるドウラと同じレベル。このまま、伸びていけば兄を超えて、アコンの村の強さを示すことになる。もっと伸びてほしい。
・・・あれ?
リイムの視線の先は、ノイハ、か?
ノイハは気づいていないけれど?
これは、ひょっとして。
ひょっとするのだろうか・・・。
期待したい。
正直に言うのだけれど、最近、ノイハって、男として、村人として、とても頑張ってると、思うんだが、みんなからはどう思われているのだろうか?
クマラが数回、神聖魔法で回復をかけて、リイムは復活した。クマラの魔力とスキルレベルでは、回復はだいたい10ポイントずつだから、一度で回復させられない。だから、使う機会を増やして、使わせることが大切。
クマラがリイムの感謝の言葉に微笑みで応えて、それからあとのアコンの村は、平常運転。
ただ、立合いで、リイムがノイハを指名して、剣術で挑む、という一幕があった。
いつもなら、立合いを嫌がるノイハが、珍しくそれを受けた。
そして、ノイハは『剣術』のスキルがないのだけれど、それでも、『剣術』スキルを持つリイムを相手に、剣での立合いであっさりノイハが勝った。レベル差が3倍あるとは、そういうことだろう。
・・・うーん。
やっぱり、リイムがノイハを見る目は、あれだ。
恋、に近い何か、じゃないか?
はっきりとは、断言できない。
もちろん、ステータスにも表示されない。
そもそも、この村に連れてくるときから、はっきりと、ノイハとセイハの嫁の候補なんだと、説明していたはず。
今回の毒騒ぎで、恋につながるいい流れが、できた、のか?
・・・エイムの視線の動きが、気になる。
なんか、こうなるように、エイムが、仕組んでいるような気配も、感じる。
リイムよりも、エイムの方が、はるかに大人としての、政治としての考え方ができるからな。
まさか、ね。
もし、そうだとしたら、リイムの命を危険にさらしてまで、エイムは何を狙ってる?
エイムの狙いがおれとの結婚だとすれば、それは、エイムが『信仰』スキルを身に付けてセントラエムの声が聞こえるようになってからの話だけれどね・・・。
来年のための水田の拡張が完了し、大草原についてジッド、エイム、クマラたちと話し合いを重ね、冬の間に、大草原の空白地帯を調べておくことになった。
氏族がいないところは、ジッドは猛獣地帯だと言う。
また、大草原の西北部も空白地帯だが、エイムによると、ここは「竜の狩り場」と呼ばれているらしい。
ひとつ、猛獣の中に、捕まえて育てられる、または、狩って美味しく食べられるものはないか。
ふたつ、同じく、育てられる作物はないか。
ここまでが、今回の旅の目的。
みっつ、竜に会えるか、どうか。あ、これは、みんなとの話し合いでは、言ってない。おれは、セントラエムから直接聞いている上に、それから『神界辞典』で調べて、「竜の狩り場」と呼ばれるそこに竜がいると信じているけれど、ジッドもエイムも、竜というのはウワサばかりで見たこともない、と竜の存在を信じていないのだ。
いやいや。
いるはずだ。間違いない。
なぜなら、ここはファンタジーな世界。
『神聖魔法』を使って治癒や回復、解毒ができるファンタジー世界で、竜に会えないはずがない。
そして、おれには、竜に会わなければならない、理由がある。
あるのだ。
ファンタジーを楽しむ、とか、そういうことではなく。
純粋に、強い存在との出会いが、必要なのだ。
自分自身の、修行のために。
実は、アコンの村での修行では、おれ自身は追い詰められないし、苦労しない。それどころか、手加減ばかり、上達している。
そこで、最強の存在ではないか、と考えられる竜の出番だ。
竜との戦いで、自分自身を研ぎ澄ませることができる、という可能性を信じて。
ただし、竜が強過ぎて、命の危険がある、という可能性も忘れないようにしたい。
・・・これで竜がいなかったら、さみしいよなあ。
「それで、オーバ。同行者は、本当にノイハでいいのか?」
ジッドが確認してくる。
ジッドは自分も行ってみたいらしい。そういうことを何度か口にしていた。
しかし、今回は、ノイハ。
「ジッドの方が、オオバの助けになるのでは?」
エイムは、はっきりとジッドを押す。ジッド押しだ。この村に来たころは「さま呼び」だったが、今はジッドと言えるようになっている。たぶん、その裏には、ノイハをアコンの村に残して、リイムとくっつけようという意図も、あるのかもしれない。
同行者は誰がいいとか、クマラは、そのあたり、何も言わない。
誰が同行するのかは、おれが決めたらそれでいい、と考えているのだろう。
同行者はジッドではない。
そして、おれの一人旅でもない。
ここはノイハだ。
ノイハが、大草原の空白地帯を経験し、行き来できるようになれば、猛獣狩りができる、という可能性がある。肉好きのノイハにとっても、村のみんなにとっても、魅力的な話だ。アコンの村では、狩りと言えばノイハ。ノイハと言えば狩り。
これは、今後の食糧事情にも関係する重大事案だと考えられる。
肉好きは、多い。
美味しい肉は増えてほしい。
そういう意見はよく聞く。
だからノイハだ。
「猛獣地帯を調査して、いつか、そこに棲む猛獣を狩って食べると考えたら、ここはノイハが行くべきだ。ノイハが大草原の空白地帯に詳しくなることは、この先のアコンの村にとって、大きな意味があるからな」
・・・というのが、表向きの理由。
そこまでおれが言い切ると、ジッドもエイムも反論はない。
その通りだから。
でも、裏の理由は、ノイハとリイム。
リイムは、ノイハを意識しているのは間違いない。
それはもはや、恋、なんだろうと思う。
あの、毒蛇の一件で。
命の危機を救ってくれた男。
もしこれがエイムの仕組んだことだったとしても、ここでノイハとリイムが結ばれるっていうのは、おれにとっても、村にとっても、プラスになる。
おれと、アイラやクマラやケーナ・・・今後も増えるかもしれないけれど。
セイハとサーラ。
そして、ノイハとリイム。
三家族で、子どもが増えていくことは、村のこれからにつながる。
だから、リイムがノイハに魅かれている、この時点で。
一度、二人を引き離してみる。
おれの予想では、エイムがリイムのノイハに対する恋心を煽るだろうと考えている。
危険な猛獣地帯へと旅立つノイハ。
それを心配するリイム。
危険を乗り越えて、大きく、たくましくなるノイハ。
・・・というように都合よく行けば。
この二人って、あっさりまとまるんじゃないかな。
うん。
リイムについては、ほっといても、周りがそう動くだろう。
だから、おれは、ノイハと二人旅で、男同士、語り合ってみる。いろいろと、語り合うのだ。いろいろと。
そのとき、恋の話も、あるんじゃないか?
滝シャワーが気になる、ノイハのことだ。
もっと、いろいろと聞きたがるかもしれない。おかしな情報は与えないし、アイラの個人情報も教えたりはしない。
でも。
そんな中で、いろんな話を通して。
ぐぐっと女性に対する、ノイハのモチベーションを最大にして。
しばらく離れていたリイムと再会。
・・・それで、うまくいくといいなあ。
いまいち、ノイハの考えが、よく分からないから。
いろんなことを話す時間になってほしい。
思えば、こっちの世界に来て。
おれにとっては、ノイハが最初の男友達だ。
あのころは、命がけで大牙虎と戦っていたから、友情だのなんだの、のんびりと考えることはできなかったけれど。
とにかく、ノイハとゆっくり、旅をするのも、いいんじゃないか。
そう考えてみた。
・・・ま、ゆっくりはできないけれど。
出発はキリのいいタイミングで、と思って。
おれとノイハが組んで、二人で、ジル、クマラ、ジッドの三人とタイガの一匹を同時に相手にする訓練を重ねて。
セントラエムから、あのかばんをひとつ追加してもらって。
ノイハの矢を大量に準備して。
ネアコンイモをはじめとする物資をたくさん詰め込んで。
おれが転生してからちょうど二百十日目。そして、転生して七カ月目。
おれとノイハは、『長駆』のスキルを使って、アコンの村を離れ、ダリの泉の村を目指した。
大草原の空白地帯は、おれたちが来ることなど、気にもしていないだろうけれど。
そこに、どんな猛獣がいるのか、分からないけれど。
どんな苦労をおれとノイハで分かち合えるか、分からないけれど。
とにかく、新たな冒険が始まる。
並んで走りながら、おれとノイハは顔を見合わせ、笑った。
その笑い顔から、ノイハがわくわくしていると感じた。
男臭い、男旅が。
いったいどうなってしまうのか。
おれたちは声に出して笑いながら、走り続けた。
休憩を二回はさんで、夕刻。
大草原を抜けて、虹池の村に到着。
『高速長駆』ではなく、ただの『長駆』で移動すれば、時間的にはこんなものだろう。『長駆』による生命力、精神力、忍耐力の消耗は、『高速長駆』ほど大きくはない。それでも、おれよりもステータスの数値が低いノイハにとっては、かなり苦しい。今夜は虹池の村で一泊する予定だ。
おれは、イチたちの歓迎を受けつつ、イチたちにノイハを紹介する。馬の群れは、一度屈服した相手であるおれに対して、とても友好的なので、ノイハもあたたかく受け入れてくれる。
馬の群れと共に過ごす夜は、座り込んだ馬にもたれて寝る。
馬のぬくもりが心地よくて、焼き芋を半分と干し肉をひとかけらかじったノイハは、すぐに寝てしまった。いろいろトーク作戦は、いまだ発動せず。まあ、生命力などが四分の一以下になっていたのだから、かなり疲れていたのだろうと思う。
この前のレベルアップで生命力などが四ケタに達したおれとはちがい、ノイハの生命力の上限はまだ120だ。一日での消耗が限界に近くなるのも仕方がないだろう。
おれは、セントラエムといくつかの打ち合わせをしてから、眠った。
おれに付いてきているセントラエムが十分の一の力をもつ、本体、とのこと。どう考えても、その比率で本体だと言い張るのは無理があるけれど、守護神の本体が守るべき存在であるおれと離れている、というのは変だしね。
まあ、そういうのにも、慣れてきたかな。
さて、大草原編、中盤へと突入します。
オーバとノイハの二人旅、です。
活動報告にも書きましたが、次回更新は、しばらく間があくことになると思います。
申し訳ありません。
なかなか五十話にたどりつきませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。




