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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第2章 大草原編

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45/132

第45話:女神が危険を前にしても意外とのんびりしていた場合

 総合評価ポイント400pt突破、ブックマーク150件突破。地道ながら、頑張っています。

 評価や感想、ブックマークも、ありがとうございます。これからも頑張ります。


 今回は、浮気者の運命はいかに、です。

 まあ、一応、ラブ、です、か、ね・・・?

 第二章、大草原編、前半と中盤のその間、みたいなところです。



 朝、目覚めたら虹池にいた。

 そういえば、大草原から戻ったのだ、と思い出す。

 背中にあたる、イチのぬくもりが優しい。

 昨日までは、ライムのぬくもりだった。

 いつもだったら、さっと起き上って、アコンの群生地を目指すところが、どうにも気が乗らない。

 原因は・・・。

 まあ、なんだ。

 浮気しちゃったら、帰りにくいよなあ。

 そんなこんなで、ぐだぐだとしていたのだが・・・。


 ・・・何をしているのですか。早くアコンの村へ戻りましょう。


 守護神から、はっきりそう言われてしまった。

 妻や婚約者からも守護してくれないものか・・・。

 おれはついにあきらめて、アコンの村へ帰ろうと『神界辞典』でスクリーンを開き、『鳥瞰図』で地図を映し出し、『高速長駆』スキルで走り始め・・・ようとして、ふと気付いた。

 地図が小さい・・・いや、そうではなく、地図の最大範囲が広がっている。大森林全域はもちろん、大草原とその大草原を東西に貫く河川や、その流れの先にある大草原東北端の都市。そして、青や黄色で点滅した十二か所の光点。おそらく大草原の氏族の位置、だと考えられるもの、など、新たな情報が得られる状態だった。

 活動範囲が広がったからか、それとも、単純に『鳥瞰図』のスキルレベルが上がったからか。

 これは、スキルレベルが上がったと考える方が正解だろう。

 スクリーンの固定という裏ワザを見つけてからは、『鳥瞰図』のスキルは、スクリーンを途中で消す事態が発生しない限り、一日一回しか使っていなかった。

 固有スキルなので消費する忍耐力の数値も大きい方だ、というのもある。

 そういう意味では、スキルレベルの上昇が鈍化していたのかもしれない。まあ、大森林全域が把握可能だったので、困ることはなかったし。大草原でも、これまでの範囲で十分活動可能だった。

 しかし、スキルレベルがまだ上昇し、範囲がさらに拡大するのであれば、夜、寝る前に多用してスキルレベル向上を図るのもいいかもしれない。

 それにしても。

 大草原の特定の範囲には、全く氏族がいないところがある。

 これは、気になる。

 虹池から流れている小川の西側で、大草原を横切る河川の南側は、氏族がひとつもいない。また、大草原を横切る河川の北側にはいろいろな氏族がいるが、西北部にはひとつもない。氏族の空白地帯が存在している。

 調査したい。

 行ってみたい。

 ・・・本当のことを言えば、逃げ出したい。


 ・・・何をもたもたとしているのですか。早く戻りましょうよ。


 守護神から、さらに帰宅を勧められてしまった。

 ・・・とりあえず帰るとしますか。

 『高速長駆』スキルなら、今からでも午前中には、村に着くはず。

 それならまだ河原には行ってないだろう。

 ちょっとだけ寄り道して、パイナップルを入手する。

 手土産でごまかそう。


 アコンの群生地では、みんな、いろいろな作業をしていた。

 お腹が大きくなってきたアイラは、それを座ってみている。

 そのアイラが、おれに気づいた。

「おかえりなさい、オーバ」

「あ、ああ。ただいま、アイラ」

 正直なところ、心の準備が整うまでは、会いたくなかったうちの一人だ。

「それで、どんなヒトだったの? ナルカン氏族のヒトは?」

「っ・・・」

 なんで?

 なんで知ってるんだ、アイラ?

「女神さまから、何日か前に聞いたけど、ナルカン氏族のヒトと、結ばれたんでしょう?」

 セントラエム!?

 何してくれてる???

 ・・・って、あれ?

 アイラからは、別に怒気みたいなものは何も感じない。

 怒ってないのか?

「クマラがうらやましがってたわよ。わたしは、あと二年も待つのかって」

 そんくらいのものなの?

 うらやましい?

「で、どんなヒト?」

「どんなって、言われてもなあ・・・」

「名前は?」

「・・・ライム」

「美人なの?」

「・・・そうだな」

「ふーん」

「ふーんって・・・」

「背は高い?」

「ん、アイラと同じくらいか」

「胸は大きい?」

「ん、いや、どっちかと言えば・・・って、何の話だ?」

「そう、小さいのね。じゃあ、わたしの勝ち」

「ん、ああ・・・」

「強い?」

「強いって?」

「戦いについて」

「ああ、なかなかの強さかな」

「どのくらい?」

「ジッドと十分やり合えるだろうな」

「へぇ、いつか、立ち合ってみたいわね」

「・・・やきもち、やいてるのか?」

「・・・オーバが王である限り、こういうことは、繰り返されるって、女神さまは言うのよね。それは仕方がないとも、思うんだけど、ね」

「まあ、アイラは、妹のシエラにまで、やきもちをやくらしいからなあ」

「そ、そそ、それは、あの、前に、女神さまが言ってた、あのこと? それは別に、やきもちって言うわけじゃなく・・・」

「嬉しいよ、やきもち、やいてくれるってことが、な」

「オーバ・・・」

 アイラが隣に座るおれの腕に自分の腕を回した。

「わたしも大切にしてほしいし、クマラのことも、ね。それに、その、ライムってヒトも、大切にしてあげてよね」

 どうして、そういう考え方になるのか、不思議では、ある。

 不思議ではあるのだが、正直、今の状態では、とても助かる。

 これも女神さまの影響力か。

 それとも、この世界の一般常識か。

 まあ、古代社会だとしたら、源氏物語がベストセラーになるような、あんな男女関係がベースなのだとすると、まだ、たった二人としか関係していないおれは、まだまだ甘い、というものだろう。

 でも、あんまり勝手な解釈はしないように、自分を戒めることも、忘れないようには、したい。

 しかし。

 王ってのは、いったい、何だ?

 いや、そういうものか。

 王ってのは。

 どれだけたくさんの子が生まれるか、というところに、王の価値はあるのだろう。

 古事記でも、ヤマトタケルが全国各地で、子作りに励んでいた気がする。中大兄皇子は弟の大海人皇子と、額田王を取り合ったし、他にも山ほど奥さんがいたはずだし。原始、古代の生活は、おれが考える倫理観とは、かけ離れていたとしても、それが普通、と言えるのかもしれない。

 ・・・まあ、さすがに、世界各地で子作り、みたいなことにはならないようにしよう。


 とりあえず、暑い日中に滝シャワーを浴びる。

 大草原にいる間は、できなかったことだ。

 念入りに全身の汚れを洗い流す。

 昼でもけっこう涼しくなってきた気がする。

 場合によっては、これからは滝シャワーをしない日も、あるかもしれない。

 亜熱帯の短い冬が、来たらしい。

 河原に向かう途中で、栗をたくさん拾った。

 これも食糧確保だ。

 リイムが大草原の話を聞きたいというので、ナルカン氏族がチルカン氏族を屈服させたことを伝えたら、驚いていた。リイムがそれをエイムに話したんだけれど、実は、今回の事前計画には、エイムも加わっていたので、どうしてわたしは知らないの? とぷりぷりとリイムが怒ることになった。まあ、人にはそれぞれ適材適所というものがあるものだ。

 夕食には、追加でパイナップルを提供した。おそらく、時季的に、これが最後のパイナップルで、しばらくは手に入らないだろう。

 そろそろ、みかんの樹の群生地へ行って、みかんの収穫に力を入れなければならない。クマラとよく話して、日程を調整する。

 クマラは、何か、言いたそうにしていたが、結局、何も言わなかった。アイラから聞いていたから、言いたいことはなんとなく分かったので、改めて、クマラが十五歳になったら、必ず結婚するということを確認した。そうすると、いつもの小さな声で、「十五歳になったら、すぐ結婚するんだから」と言って真っ赤になった。かわいいクマラが見られて幸せだ。


 夜は、ジルとウルが甘えてくる。

 いろいろと、二人の話を聞いて、相槌を打つ。

 その中に、気になる話がひとつ、あった。

 タイガと毒蛇の話だ。

「タイガが蛇に噛まれた」

「どこで?」

「河原の、向こう側」

「それで?」

「ジルが、毒消し、した」

「ジルが?」

「そう。女神さまに、教えてもらいながら」

「女神に?」

 ジルのステータスを『対人評価』で確認する。確かに、レベル23になっている。『神聖魔法』の解毒に関するスキルを得たのだろう。タイガには、『毒耐性』スキルがあった。

「・・・前も、ノイハでそういう話を聞いたな」

「同じ蛇」

「そうか。明日、行ってみよう」




 そういう訳で、クマラと二人、毒蛇探しに出掛けた。

 クマラを伴ったのは、『神聖魔法:回復』のスキルがあるから。

 ウワサの蛇はすぐに見つけた。

 四、五匹は、いる。

「クマラ、いつでも『神聖魔法:回復』が使える準備を頼む」

「はい」

 小さな声だが、クマラの「はい」という返事には、確実にやり遂げてくれる、という信頼がある。

 おれは、蛇を一匹、頭を掴んで捕まえ、すぐに他の蛇から離れた。

 そして、そのまま、左腕に、噛ませる。

「オーバっ?!」

 ぽいっと蛇は元いた辺りに放り出す。

 スクリーンで、生命力の数値を確認。1ポイントずつ、減少している。状態異常表示は、「毒」になっていた。

 合計、生命力が20ポイント減少した時点で、減少するタイミングが遅くなる。

 それと同時に。


『「毒耐性」スキルを獲得した』


 はい。

 レベルアップをひとつ、頂きました。

 ・・・これ、ある意味で、効率良く、レベル上げができるな。

 状態異常を我慢すれば、耐性スキルが付くってことだろう?

 ・・・いや、おれの生命力の数値だから、できることなのかもしれない。

 このまましばらく、スキルレベルも上げようと、我慢を続ける。

 左腕が紫色になっていく。

「オーバ、大丈夫なの?」

「ああ、まだ大丈夫だ」

 生命力の減少が、5ポイントずつに変化した。

 あ、毒の影響が強まったのか。

 合計で、80ポイント、減少したとき、今度は、生命力の減少が2ポイントずつに。

 おそらく、スキルレベルが上がったのだろう。

「セントラエム、解毒の神術のイメージを教えてくれ。クマラ、回復を三十秒ごとに、1回、かけてほしい」

「はい」

 クマラが『神聖魔法』のスキルを使って、おれの生命力を回復させる。


 ・・・そうですね。体の中に満ちてきている汚れを取り除くイメージで、祈りを捧げてください。


 汚れを取り除く、イメージ。

 おれは右手に意識を集中し、女神への祈りを捧げる。

 そして、汚れを取り除くイメージ。

 ・・・イメージ。

 右手に光が溢れ出す。

 光は大きく輝き、それを左手へ。

 光がおれの全身を包む。


『「神聖魔法:浄水」スキルを獲得した』


 あれ?

 なんか違うぞ?

 生命力の減少は止まっていない。状態異常も「毒」表示のままだ。

「クマラ、すまないが急いで回復を頼む! セントラエム!」


 ・・・何か、違いましたね?


「解毒じゃなくて、浄水ってのになった。イメージがちがうぞ!」


 ・・・スグルが慌てているのは珍しいですね。


「そういうことじゃない! 解毒のイメージを!」

 クマラの神聖魔法が完成し、おれの生命力が10ポイント回復する。

「クマラ、連続で頼む!」


 ・・・解毒のイメージは、さっきのでいいと思うのですが、まあ、別の言い方をするのであれば、体の中で、スグルを傷つけている異物を消していくイメージですか、ね。


 さっきと言ってることがちがうじゃねーか!

 体の中で、おれを傷つけている異物を消していくイメージ。

 右手に意識を集中して、女神への祈りを捧げる。

 合計で150ポイント、生命力は減少している。

 ここまで減少したのは、一昨日の五時間半の『高速長駆』での減少の次に多いぞ。

 クマラの神聖魔法で10ポイント、また回復する。

 異物を消していく、イメージ・・・。

 ・・・イメージ。

 右手に光が溢れ出す。

 光は大きく輝き、それを左手へ。

 光がおれの全身を包む。


『「神聖魔法:解毒」スキルを獲得した』


 ふぅ。

 ステータスをチェック。

 状態異常の表示は消えている。

 毒は、消えたらしい。


 ・・・毒が消えましたね。良かったです。


 いや、それだけ?

 もうちょっと、心配とか、してくれてもよくないか?

 いざとなったら、セントラエムが神術で助けてくれるのだということは、分かる。

 ・・・まあ、レベルが一気に3つも上がったのは、かなりお得ではあるのだけれど。

 さすがに、あせってしまった。

「オーバ、もう、大丈夫なの?」

「ああ、解毒のスキルは身についたし、毒耐性と、それに、偶然だけれど、浄水ってスキルが身についたよ」

「・・・それは、レベルが三つ、同時に上がったってこと?」

「そうなるな」

「・・・すごいこと、なのよね?」

「うーん・・・」

 三つ、一気にレベルアップしたことって、あったかな?

 おれじゃなくて、アイラや、ライムがそうだった気がする。

 しかし、こうなると、経験値が貯まってレベルが上がるときにスキルが身につく理論には、矛盾があるような気もする。実体としては、この説が正しいと思っているのだけれど。

「わたしも、やってみても、いいかな?」

「クマラ?」

「ここには、オーバもいてくれてるし、女神さまも、守ってくださるはずだし」

 おれは、『対人評価』でクマラの状態を確認する。

 クマラのレベルは9。生命力は最大値が90で、今は86。

 おれはさっき最大で150ポイント近く、生命力を失った。生命力の最大値が90のクマラが挑戦して、大丈夫だろうか?

 そもそも、ジルとの話は、ここの蛇が危ないからなんとかしなければ、という方向の話だったはずなのだが・・・。

 どうも、レベルアップのチャンス、みたいなとらえになっている気がする。

 いや、そう考えていたのはおれだけれど。

 確かに、そうするつもりでここに来たのは間違いないことだけれど。

 クマラに、やらせて、いいのか?

「・・・蛇はオーバに捕まえてもらわないと、無理」

「いいのか、クマラ。危険だぞ?」

「レベルが上がる可能性があるなら、頑張りたいの」

 声は小さいけれど、決意は固い、クマラの意志。

 こうなったら、全力で守るしかない。

「分かった。じゃあ、どこまで、どれだけ頑張るか、相談しよう」

 おれは、クマラの手を握る。「絶対に、無理はしないこと。クマラの命が最優先だからな」

「・・・うん。ありがとう、オーバ」

 クマラが頬を赤く染める。

 ・・・おっと。

 スキンシップには、気を付けよう。

 婚約者とはいえ、節度をもって。

 ・・・最近、いろいろと乱れた生活面があったから、クマラとのプラトニックが少し崩れそうで、意識を高めておかないといけない。

 まずは、蛇を一匹、捕まえる。

 それから、スクリーンにクマラのステータスを表示する。

 スクリーンの位置を操作して、クマラとスクリーンが同時に視界に入るようにしておく。クマラのようすを見逃さないように、だ。

「まず、蛇に左手を噛ませる。それから、生命力の減り方を確認して、おれが回復をかける。それで、まずは『毒耐性』スキルの獲得を目指す」

 蛇を片手に話す姿は、いたずらっ子が女の子を蛇で泣かせようとしているかのようで、ちょっと絵面が悪すぎる。

「『毒耐性』スキルが身に付いたかどうかは・・・」

「それは、おれが確認する。目標は『毒耐性』スキルだ」

「分かった。解毒の力は、どうするの?」

「第2目標だな。難しいと思ったら、すぐ、こっちから解毒もかける」

「解毒は、どうすれば、身に付くの?」

「女神によると、体の中でクマラを傷つけている異物を消していく、そういう想像をしながら、女神に祈りを捧げて、光を集めるんだ。でも、無理はしないこと、クマラの命を最優先で」

「うん・・・」

「じゃあ、いくよ」

 おれは、蛇をクマラの左腕に近づけていく。

 クマラが目を閉じる。

「だめだ、クマラ。目を反らさないこと」

「あ・・・」

 クマラが慌てて目を開く。

「その瞬間を見逃さない。見つめて、受け入れて、そこから始めるんだ」

「うん・・・」

 今度は、クマラはじっと左腕を見つめている。

 おれは、蛇をクマラの左腕に押し当てた。

「っ・・・」

 クマラが蛇に噛まれた。

 おれは、すぐに蛇をクマラから離して、ぽいっと、遠くへ投げ捨てた。

 ステータスを・・・5ポイントずつ?!

 おれの五倍の速さで、クマラの生命力は減少していく。

 まずい、まずい・・・。

 おれはセントラエムへの祈りを捧げ、右手に光を集める。ほんの少し遅れて、もう一度祈りを捧げ、左手にも、光を集める。『並列魔法』スキルを使って、同時に『神聖魔法:回復』スキルをそれぞれの手に。

 すぐに右手の光をクマラへ。

 生命力の回復は45ポイント。

 半減以上の危険な状態を一気に回復するが、すぐに5ポイントずつ、減少していく。

 右手に再び、女神への祈りで光を集めながら、左手でクマラを回復させる。

 45ポイントの回復。

 右手に光を宿しながら、さらに祈りを捧げ、左手にも再び光を集めていく。

 まだか?

 まだなのか?

 クマラは祈りを捧げ、少しずつ、右手に光を集めている。

 おれは右手の光でクマラを包み、45ポイント、回復させる。

 ・・・さっき、おれのときは、1ポイントずつだった。

 おれと、クマラの、レベル差、か・・・。

 確か、この後、毒のダメージが5ポイントになったような記憶が・・・。

 クマラの生命力が、25ポイント、一気に減少した。

 一気に五倍の減少へ。

 まずい!

 おれは右手に光を集めながら、左手の光でクマラを包んで回復させ、ほぼ同時に左手にも光を集め始める。

「セントラエム! 回復を!」


 ・・・はい。回復は私に任せてください。


 光が二重になって、クマラを包む。

 おれの回復と、セントラエムの回復を合わせて、クマラの生命力は全快するが、すぐに25ポイントずつ、減っていく。

 クマラのステータスのスキルに『毒耐性』が加わった。

 生命力の減少が、15ポイントずつになる。

 セントラエムの神術で、クマラの生命力が再び全快する。

「クマラ! その右手で、解毒を!」

「はい!」

 クマラの左手が、クマラの右手からの光に包まれていく。

 頼む!

 おれはクマラに回復の光を広げていく。

 クマラのステータスから状態異常の表示が消えた。

 そして、スキルの欄には、特殊スキルの数が2から3へと増えている。

 生命力は・・・残り20ポイント。

 おれは、思わずクマラを抱きしめた。

 クマラが生きてる。

 本当に良かった。

 はあーっ・・・。

 あせった。

 本気であせった。

 これは、ダメだ。

 確かに、一気にレベルが高くなるかもしれない。

 でも、危険過ぎる。

 もともとのレベルが、高くなければ、『毒耐性』スキルが身に付く前に、死んでしまう。

 ・・・クマラを失うかもしれない、と思ったとき。

 とにかくセントラエムに叫ぶしかなかった自分が腹立たしい。

 力が、足りない。

 クマラを、みんなを、守る、力が。

「・・・あの、オーバ?」

「ん?」

「どう、したの?」

「・・・クマラが生きてて良かった」

「・・・うん。ありがとう、守ってくれて」

 いや。

 おれでは、クマラを守れなかった。

 セントラエム・・・。

 おかげで、本当に助かった。

「・・・でも、ちょっと、強すぎて、苦しい」

「・・・」

 ・・・クマラを抱きしめたままでした。

「うれしい、けど、ね・・・」

 おれは、ぱっと、クマラを離して、少し距離を取った。

 クマラは耳まで真っ赤になっていた。

 おれも、なんだか恥ずかしくなって、クマラから視線を外した。

 なんなんだろうか、この、照れくさい、感じは。

 何もないのに、髪をかき上げてしまったり。

 こほん、と咳払いをしてしまったり。

 ・・・走って逃げたい!

 そう思った瞬間。

 クマラがそっと、おれの手を握った。

 クマラの手から、不思議な温かさを感じた。

 目を合わせられなかったが、おれたちは、そのまま手をつないで、河原へと戻って行った。


 この日、レベル11になったクマラは。

 立合いで、ジッドを完封して、打ち倒した。

 リイムとエイムが、呆然と口を開けて、それを見ていたが、おれは気付かなかったことにした。




 陽が沈むころ、肌寒さを感じる。

 とりあえず、王宮のアコンの中に別れて、夜を過ごす。

 二段目、六メートルの高さのところに、女性陣が振り分けられ、一段目、三メートルの高さのところに、男性陣が振り分けられた。

 陽が完全に沈み、暗闇にアコンの村が落ちていく。

 皿石の獣脂のランプは、少ない獣脂で用意してあるので、みんなが寝ついたころには、ちょうど消えている。二酸化炭素や一酸化炭素で、みんながどうにかなるようなことはない。

 おれは、アコンの木の中ではなく、たて穴住居で、アイラ、シエラと、クマラと一緒だ。もうひとつのたて穴住居では、サーラとエランに、マーナが付き添ってくれている。

 アコンの木の中の、地上と同じ高さのところは、実は、中に入るとまるで剣山のように突起がたくさんあるので、中でゆっくり休めないのだ。アコンの木の内部が空洞になる過程で、そういう部分が残ってしまうのだろう。

 いずれは、竹板か何かでふたをするようにして、地上と同じ高さのところも、人が利用できるようにしていきたい。

 たて穴住居の通気性は、アコンの木の中よりもはるかにいい。

 その代わり、寒くなる。

 だから、中心で火を焚いて、それを囲んでいるし、大牙虎の毛皮が、横になっている一人一人に分け与えられている。もちろん、サーラたちの方も同じだ。あ、おれのはライオンの毛皮だった。

 クマラが一緒にいるのは、アイラに何かあったときのため。おれでは、そういうときに役に立たないだろうと思う。サーラが妊娠していなければ、マーナにも付いていてもらいたいところだけれど。

 シエラはにこにこしながら、ここ数日のいろいろな出来事をおれに教えてくれる。相変わらず、話の内容はあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと、めちゃくちゃなのだが、それが可愛らしい。

 四人で火を囲んでいるが、おれの向かい側がシエラだ。両隣には、アイラとクマラがいる。クマラの役割としては、アイラの隣にいるべきだと思うのだけれど、どうも、アイラとクマラはどちらもおれの隣がいいらしい。

 アイラのお腹は、生命の神秘が詰まっている。

 どうしてこんなに大きくなるのか、不思議で仕方がない。

 クマラが蛇でレベルを上げた話は、アイラにも教えていない。教えたら、わたしもやるわよ、と言いかねないからだ。だから、誰にも言わないし、クマラにも口止めしてある。

 あの蛇の毒、やたらと強力なものだった気がしたおれは、あとで、一人で河原の向こうへ行き、あの蛇に『対人評価』スキルを使ってみた。そえすると、驚いたことに、数匹の蛇たち、全てがレベル5だった。

 どうして先に、確認しておかなかったのかと、悔やむ。自分自身の油断が招いた、クマラの危険だったことをはっきりと思い知った。

 この世界の生き物は、そのサイズで、レベルを勝手に判断してはならない。

 大森林の生き物を甘く見てはいけない。

 この森には大草原の雄ライオンと同じレベルの小さな蛇がいる。

 これを教訓にしなければならない。

 レベルアップは生存確率を高めるために重要だが、命がけでレベルアップしようとして死んでしまったのでは話にならない。

 アコンの村のすぐ近くに、実は見落としていた脅威が存在していたってことだ。

 まだまだ、分からないことは、やはり多い。

 そして、おそらく、正解は、ない。

 ただ、アコンの村のみんなが生き抜いていけるように、いろいろと考え抜いたことを実践して、みんなで強くなっていくだけだ。

 おれたちの苦闘は終わらない。


 アコンの村は、亜熱帯の、短い冬に入った。

 間話から、そのうち中盤に入ります。

 中盤は、二人旅。

 大草原道中膝栗毛、みたいにいけたらいいなと思います。

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