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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第2章 大草原編

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第36話:手乗りサイズの女神が超かわいい場合

今回は、いや、今回こそは、交易と交渉です。

「これは・・・」

「すごい・・・」

「きれい・・・」

 おれが取り出した「荒目布」を見た、ニイムとニイムを支える二人が思わずそう言った。

 どうやら、「荒目布」はなかなかの一品らしい。

 女性陣の心を鷲掴みだ。

 さすがはクマラ。

 最高の特産物ができて、とても嬉しい。

 ニイムたちは触りたいようだが、我慢しているらしい。

「触ってみるかい?」

「よいのですか?」

「触らずに何かと交換するってのは、さすがにひどい話だよな。それに、触れば、この布の価値がもっとはっきりと分かるはずだしね」

 ニイムが手を伸ばす。

 あとの二人も、おそるおそる、手を伸ばした。

「これは・・・」

 ニイムが、触り、引っ張り、力を入れ・・・。

 本当に遠慮しないな、おい。

「この白さ、この強さ、この柔らかさ。いったい、この布は何ですか、オオバどの?」

「おれたちは、「荒目布」って呼んでるけれどね」

「「荒目布」です、か・・・これで荒い、ということでしょうか?」

「まあ、うちの村で作る布の中では、ね」

「では、これ以上のものが、そちらの村にはあると?」

「・・・あることは、ある、かな」

「それは、どういう意味でしょう?」

「数がないから。取り引きの品にはならない。「荒目布」よりも品質がいい「本地布」や「極目布」は村の中だけでおしまいだね。よそに持ち出すことはないと思うよ」

「ああ、そういうことですか」

 ニイムは納得した。

「しかし、「本地布」や「極目布」というのも、一度、見てみたいものです」

「持ってきてないからなあ。いつか、見せるだけなら、見せようか」

「その時まで、わたしめも生きながらえたいものです」

 歳をとっても、女性は女性。おしゃれが気になる、ということだろうか。

 ステキなことだ。

「はは、長生きしてください。あなたの孫じゃ、すぐにおれとの約束を破りそうだ」

「ドウラが約束を破りましたら、遠慮なく、ナルカン氏族を滅ぼしてくださいますように」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 おれの残酷な返答に、ニイムは当然だというようにうなずいた。

「まあ、そうなることはないと思います。オオバどのは強すぎました。見たところ、あの五人、誰もが三度、木剣で打たれておりました。剣を持つ手を砕き、逃げようとする足を折り、さらにはあばらや鎖骨を折ることでその心まで砕く。それを六対一で、しかも殺さずに・・・。あなたさまの相手になるような者は、この大草原のすべてを見渡しても、どこにもおりますまい」

 へえ、さすがは、女傑ニイム。

 そこまで、怪我したようすだけで判断していたとは。

「・・・ところで、オオバどの」

「ん?」

「ジッドという男を知りませんか?」

 あ、その名が、ここできたか。

 さてと、ジッドとの約束ではどうだったっけな・・・。

 知らない、と答えるはずだった気がする。

 ・・・ニイムをごまかせる気はしないけれど。

「・・・ん」

 おれは、何も言わないことにした。

 なんか、この人に嘘をつくのは嫌だったのだ。

 ニイムがおれをじっと見つめる。

 おれは何も言わない。

「・・・いや、お忘れください。どうでもよいことでした」

「そう」

「それよりも、この布、どうかお譲り願いたい。近々、嫁に出す娘がございます。この布で着飾って嫁に出せば、相手の氏族も、どれほど大切にしてくれることか」

「ああ、もちろん。取り引き用に持ってきたのに、持って帰ったら売れ残ったみたいで、困るからな」

「では、羊五頭でいかがですか?」

「何言ってんの」

 おれは、ニイムに笑いかけた。でも、話す内容は笑えないものだ。「羊二十頭と、男の子二人。そして十五歳くらいの娘が一人だよ。交渉の余地なし、だ。おれたちとニイムたちが対等に交渉するためには、最初からおれと争わずに交渉するべきだったな。今は、完全におれたちの力関係がはっきりした後だ。おれの方から、そっちに譲歩する必要は感じない。ちがうか、ニイム」

「・・・息子や孫は、しっかり育てなければならない、ということでしょうね。本当に残念なことです。オオバどのの言う通り、わたしどもは、交渉する立場にありません。ご無礼を申しました」

「それじゃ、これは・・・」

「お待ちください」

 おれが「荒目布」を片付けようとすると、ニイムが止めた。

 なんで?

 買えないでしょ?

「先ほどと同じ、五年で羊二十五頭という、羊の引き渡し方でも、よろしいでしょうか?」

 分割払いなら、布を買う、ということか?

「それは、一年ごとに十頭の羊を渡すってことだな?」

「いいえ、十年間、五頭ずつ、でお願いしたいのです」

「気の長い話だねえ」

「なんとか、それでできないでしょうか。どうか、お考えください」

「・・・今回は十頭。それから残り九年間は五頭ずつ。合計五十五頭、というのなら、考えようか」

「いやはや・・・オオバどの、あなたさまの歳はいくつですか?」

「おれ? 十五だよ?」

「っ! なんと、まあ、ドウラよりも年下で、これだけの交渉を。その強さ、その賢さ。孫に学ばせたいものです」

「それで、どうするの? 合計五十五頭だよ?」

「それでかまいません。来年から九年間、オオバどのが羊を受取りに来てくださいますか?」

「ああ、それでいい」

「人選は、こちらで決めてもよいですか?」

「それも、かまわない」

「では、そうさせて頂きます。この取り引きで、十年間のオオバどのとのつながりが続けられるのであれば、利益の方がはるかに大きいというものです」

 なるほど、おれが毎年やってくる、ということには、それなりの価値があるし、十年間という長い期間にも、そういう価値を見出すのか。

 勉強になるなあ。

 ニイムは、族長くんに指示を出して、氏族全体を動かし始めた。

「では、その布をいただいてもよろしいですか?」

「はい、これ。それと・・・」

 おれは「荒目布」をニイムに手渡し、それからかばんに手を入れる。

 もう一反の「荒目布」をかばんから取り出す。

「これも、あげるよ」

「・・・オオバどの」

「近々、嫁入りするんだろ? ま、祝いの品、みたいなもんだと思ってくれたらいい」

 ニイムが、おれの前にひざまずいた。

 慌てて、ニイムを支えていた二人の娘も、それにならう。

「・・・感服いたしました。ナルカン氏族の者では、あなたさまの度量に何ひとつ、及ばぬことでしょう。オオバどの。あなたさまは不要と思われるかもしれませぬが、わたしめが必ず、氏族の者に、大森林、アコンの村への忠誠を誓わせます。これより先、ナルカン氏族は、アコンの村のために」

「そんな、大袈裟な」

「いいえ。オオバどの。あなたさまには、王の資質がございます。王が現れたら、それに従うことが、氏族が生き抜く唯一の道。これ以上、氏族に道を誤らせる訳にはいきませぬ」

 ニイムの言葉を周りの者が聞いている。

 わざと、そうしているのだろう。

「今回の我が子、我が孫の無礼、重ねてお詫びをいたします。それにもかかわらず、最後には、わたしどもにも損のない取り引きをしてくださいました。この御恩、決して忘れませぬ」

「まあ、また来るから、その時まで、元気でいてください、女傑ニイム」

 ニイムが、ちらり、とおれを見た。

 おれは黙って、うなずいた。

 女傑ニイム、の一言で。

 これで伝わったはずだ。

 ジッドが生きていて、おれと関係がある、ということが。

 二人の女の子に支えられて立ち上がったニイムは、族長くんのドウラを蹴飛ばし、羊を集める作業を急がせた。




 羊が十頭。オスが四頭でメスが六頭。すべてに芋づるロープが、縄抜けできないように首と前足の付け根を絡めて、結んである。

 四人の男の子が、羊を結んだロープの先を離さないように握っている。三本のロープを握っている子と二本のロープを握っている子、体格のいい方が三本、という感じにしている。族長のドウラの弟、六男のガウラ5歳、骨折男ガイズの三男バイズ7歳でレベル1、四男リイズ5歳、あとはドウラのもう一人の叔父で既に死んでいるモイルの次男マイル5歳。モイルはおれが殺した訳ではない。というか、おれはナルカン氏族の誰一人として、殺してはいない。

 四人の少年たちは決死の表情だ。ニイムか誰かに、羊を逃がしたら殺されるよ、とでも言われているのかもしれない。

 驚いたのは、適齢期の女の子について。

 ジッドとの事前に打ち合わせた話では、出戻りの娘が選ばれるはずだということだった。つまり、一度、どこかの氏族に嫁いで、ナルカン氏族に戻された娘。相手の氏族で、子を産むことができなかった娘、だ。

 実際のところ、大草原では嫁入りが十歳くらいだという。いわゆる幼女婚だ。

 おれの前世の常識からすると、妊娠しないのは幼いからなんだが、二、三年、妊娠しないと、離婚して追い返されるらしい。

 馬鹿じゃないのか、と思うけれど、そういう慣習なのだという。

 だから、それぞれの氏族は、あまり人数が増えないのだろう。

 たまに早熟な女の子が妊娠して一人目を産むと、二人目、三人目、四人目と産んでいくうちに、女性らしい体つきになっていて、子だくさんになる。六、七人産むのが当たり前、十人くらい産む者もいるらしい。大草原ではそういうものだということだ。

 だから、出戻り娘を押しつけられたとしても、出戻った結果、ちょうど妊娠できる年齢になっているのだから、アコンの村としては問題がない、という考えだったのだが、ここから先はニイムによる予想外の人選が行われた。

 族長くんであるドウラの妹、リイム14歳、レベル2、未婚。

 骨折男ガイズの娘、エイム14歳、レベル2、未婚。

 出戻りではない、箱入り娘が差し出されたのである。

 あれ、この子たちには見覚えがある、と思ったら、ニイムを支えていた二人の女の子だった。どちらもニイムの孫娘にあたる。

 ・・・ナルカン氏族的には、お姫様的な立場、もしかすると巫女的な立場じゃないのだろうか?

 ニイムの意図が、気になるが、まあ、そこの人選は任せると言ったところなので、こっちから文句は言わない。

 なんか、また、火種を持ち帰るような気もするんだけれどね・・・。


 ナルカン氏族、総出での、盛大なお見送り。

 ニイムが、歓迎の宴を用意するから泊まっていってほしい、と言っていたが、それははっきりと断った。泊まるなんて、嫌な予感しか、しない。

 実は、今回の目的は、完遂している。

 あとは、とっととアコンの村へ帰るだけだ。

 見送りの言葉を受けていると、離れたところに、馬の姿が見えた。

 ああ、あれは脳筋馬レベル5だ。

 おれのことが心配で、見に来てくれたのだろうか?

 おれは、脳筋馬レベル5に大きく手を振った。

 あ、気づいたみたいだ。

 こっちに向かって、走ってくる。

 ・・・ん。

 群れの馬たちもついて来てるな。

 脳筋馬を先頭に、三十頭近い、群れ全体が、ナルカン氏族のテントに向かって殺到してくる。

 ナルカン氏族がざわつく。

「荒くれだ!」

 荒くれ?

 何、それ?

「円陣を組め! 女、子どもは後ろへ!」

 え、何?

 あいつらと戦う気なのか?

 羊がおびえて、パニックになっている。

 男の子たちは必死でロープを握り、羊たちを押さえ込む。

「あー、ちょっと待ってくれ」

 おれはのんびりとそう言って、円陣の間を割って進み、向かって来る馬の群れとナルカン氏族の間に立った。

「あの馬の群れは、おれの友だちだから、戦闘隊形は、やめてもらえるかな?」

 おれの手前で、脳筋馬レベル5が急停止し、後ろ足で立ち上がって、大きくいななく。

 ひひひーんっっっ!

 『威圧』スキルだ。

 おれには全く効かないけれど、羊たちや、ナルカン氏族のみなさんには、効果があったらしい。

 パニック状態が加速している。冷静なのはニイムくらいか。

 やれやれ。

 おれは今回も、脳筋馬についている「馬並み」の立派なイチモツを思いきり蹴り上げたのだった。


「あの、荒くれ、が・・・」

「人を背に乗せるなんて・・・」

「信じられん・・・」

 ナルカン氏族の人たちが、いろいろと勝手なことをつぶやいている。

 おれは、脳筋馬を神聖魔法で治療した後、一度落ち着かせてから、ナルカン氏族と争わないように言い聞かせた。話が通じたかどうかは、責任が持てないところだ。それから、脳筋馬の背に座って、ナルカン氏族のみなさんを見下ろしていた。

 他の馬たちも、おれが連れ帰る男の子たちと女の子たちをそれぞれ、乗せてくれている。

 羊のロープは、誰も乗せていないオス馬にしっかりと結んだ。羊はおびえているものの、逃げ出したりはしていない。

「二十頭の羊を連れ帰るなどと、ただ脅しなのだと思っておりましたが・・・」

 ニイムが頭を下げた。

 おやおや、駆け引きもなく、正直に言っていいのかな?

「嘘偽りなど、どこにもなかったのですね。オオバどののお力、もはや疑いの余地はありません。大森林の王よ、我が氏族の子らをよろしくお願いします」

「王、ね。確かに、大森林の王になると、自覚はしているけれど、実感はないんだよ」

「大森林だけでなく、大草原も統べられることでしょう」

「ほめすぎでしょ、それは」

「いいえ。もう、わたしめが何も言わなくとも、ナルカン氏族の者は、オオバどのに従うでしょう。何せ、大草原の誰にも従わなかった「荒くれ」の背に乗り、その群れの全てを従えているのですから」

「・・・荒くれって、こいつのこと、だね?」

「ええ、そうです。「荒くれ」の群れには手を出さない。それが大草原に住むわたしどもの考えでした。それに、大草原のどの氏族でも、多くて馬は五、六頭しか、飼い慣らしておりません。三十頭近い馬の群れが丸ごと従うなど、わたしめの常識ではもはやオオバどのをはかることなどできませぬ」

 そういうもんなのか。

 もっとたくさん、馬を飼って、騎馬軍団を形成しているイメージだったんだけれど。

 モンゴル帝国みたいな、そんな感じで。

 大草原だもんな。

 しかし、大森林が縄文時代くらいの段階からだったんだから、羊で牧畜をしていた大草原の方が進んでいるのかも、とか、勝手に思っていたのにな。

 金属器もあるし、ね。

 まあ、大草原で生産している訳ではない、ということはよく分かったけれど。

「それじゃ、帰るよ」

「オオバどの」

「ん?」

「あの者には、ナルカン氏族は、いつでも、そなたをかくまう用意がある、と」

「・・・さあ? なんのことかな」

「あれは、我ら、大草原の者、みなの罪です」

 ニイムが神妙な顔で、小さくつぶやいた。

 過去に、何があったのか、おれは知らない。

 でも、さ・・・。

「・・・ニイムが言う、あの者ってのが、おれの知っている誰かだったとして・・・」

 おれは、笑って、言った。「あいつは、あの食いしん坊は、今、すっごく楽しそうにしているってことは、よく分かるんだよ」

「っ!」

 ニイムが、何か言おうとして、でも、言葉にはならなかった。

 おれはそのまま、馬首を返して、ナルカン氏族のテントを後にした。




 脳筋馬レベル5は、『苦痛耐性』スキルを身に付けて、レベル6になっていた。

 アホか、こいつ。

 まあ、いいけれど。

 あれだけ痛い目に遭わせているのに、ずいぶんとおれに懐いている気がする。

 不思議だ。

 馬の群れは、羊の走るペースに合わせて、移動している。

 先頭は脳筋馬。

 油断すると、スピードアップしていくので、時々、木剣で脳筋馬の頭を叩いて、スピードをコントロールしている。

 羊の走るスピードでの移動は、人間が走るよりは速く、馬が走るよりは遅い。

 このペースなら、大草原を出て、大森林との境目までは、三日かかるかもしれない。

 まあ、羊のペースじゃなく、馬のペースになったとしたら、ナルカン氏族の子たちも、馬の上にはいられないのだろうと思う。

 だから、羊のペースでちょうどいいのだろう。

 陽が沈む前に、群れを止めて、休む。

 水を馬たちに、羊たちに与える。

 もちろん、ナルカン氏族の子たちにも、水を与える。

 ・・・水だけじゃなく、干し肉と、パイナップル。

 お馴染みの反応があった。

 パイナップルの見た目に拒絶。

 切り割って、中の色にびっくり。

 食べてその味に二度びっくり。

 結果として、パイナップルは大好評を得た。

 ・・・いつか、トマトを食べさせてやろう。

 そのうち、アコンの村の食事に慣れたら、どうなってしまうんだろうか。

 ガウラ、バイズ、リイズ、マイル、リイム、エイムにそれぞれ、自分の名前のカタカナを教えて、何度も何度も、くり返し、練習させる。

 夕日が沈む頃には、馬にもたれるような姿勢で、みな、眠りにつく。

 ひょっこり、セントラエムがおれの首元に顔を出した。

 残念ながら、その位置では、かわいいセントラエムが見えない。

 おれはセントラエムを掴んで、首元から取り出した。

「あ、スグル、ちょっと・・・」

 そのまま、手の平の上に立たせる。

「もう、強引ではないかと思います。もう少し、優しい取扱いを希望します」

 かわいい。

 両手を腰に当てて、ぷんすかと怒っている。

 これもまた、かわいい。

 手乗りセントラエム。

 体長十五センチメートル。

 生身で、自分の意思を持ち、動く、フィギュア。

 いや、フィギュアじゃないか。

 確かに、手の平に重みを感じる。

 守護神として、見えない状態で背後霊のように控えていたときとは、全くちがう、この感覚。

 実体化している、という現実。

 そういうスキルを身に付けた、と、セントラエムはいう。

 いや、とにかく、かわいい。

 なんだ、この可愛さは。

 怖ろしい。

 オタクと呼ばれる人たちが、フィギュアを愛する気持ちが、今なら分かるかもしれない。

 おれもそうだけれど、セントラエムも、おれが転生したばかりの頃よりも、かなりレベルアップしている。そもそも、最初は初級神だったのに、途中で中級神になったくらいだ。

 最初はできなかった、おれ以外への神術の行使も、信者の獲得、信者への加護という形で、可能になってきている。

「セントラエム、昨日の夜のことなんだけれど・・・」

「・・・あの、襲ってこようとしていた、獣たちのことでしょうか?」

「ああ、あれ、動物だったのか。見えないから、ひょっとしたら、ナルカン氏族の人たちだったのかと思ってたよ」

「彼らは、人間ですから、特殊な力がない限り、あの暗闇でまともに動けるはずがありません」

「そうだよな」

 おかしな疑いをかけていました。

 ナルカン氏族のみなさん、すみませんでした。

「アコンの村のようすは?」

「無事ですよ。変わりないようです。そもそも、大丈夫だと信じたから、大草原へと踏み出したのでしょう?」

「そうなんだけれど、心配は心配なんだ」

「・・・なんだか、転生したばかりの頃に、何度も何度も、危険はないかと尋ねられたことを思い出しました。懐かしいですね」

「そんなこともあったなあ・・・」

「それで、昨夜の獣を、スグルはどうしたいのですか?」

「ん、なんていうか、この馬たちに、懐かれちゃったし、ね。守ってやりたいというか、守ってやらないとっていうか、そういうことだよ」

「確かに、懐いていますね。もちろん、強者に守ってもらおうとして懐いている面もあるはずです。しかし、そうは言っても、暗闇でスグルにできることは限られていますね」

「うーん。何か、いい方法はないか?」

「それなら・・・」

 セントラエムは、おれに、作戦を説明する。

 おれも、その作戦にいくつか意見を述べて、お互いに議論を深め、改善策を出していく。

 完全に陽が沈み、セントラエムの顔がよく見えなくなった頃、作戦は決まった。

「それでは、とりあえず、スグルは休んでください。昨夜と同じように、私がスグルを起こしますから」

「分かったよ」

 おれは、素直にセントラエムの言葉に甘え、目を閉じた。

 眠りに落ちるのは早かった。

 どうせ、夜中に眠りは破られるんだろうけれど。

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