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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第1章 大森林編

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30/132

第30話:女神の信者が人間の範囲を超越しそうだった場合

 今回は、ステータス発表会です。

 とりあえず、その場ですぐに、ジルにはおれ以外との立合いを禁止した。

 アイラが、えっ、という顔をしたが、ここは何も言わない。

 ムッドが生きていたのは、とっさにジルが手加減をしたからだろうと考えている。そして、立合いの中でジルがとっさに手加減すれば、それはすぐ、アイラも気付く。説明する必要はない。

 この日は、修行をストップして、全員を座らせた。

「この話は、2回目になる者もいるが、よく聞いておいてほしい・・・」

 そして、スキルとレベルについて、説明していく。

 得意なことが、スキルであること。

 スキルには種類があること。

 スキルを身につけた分だけ、レベルが上がること。

 レベルが上がると、生命力や精神力が高くなり、生存確率が高くなること。

 それとは別に、スキルそのものも上達していくこと。

 人間は、7歳でスキルを持つようになること。

「ジルは今日、7歳になって、スキルをいくつか獲得した。それで、昨日までとはちがう強さを手に入れた。だから、今のジルとは、簡単に立ち合ってはいけない」

「ジルは、強くなったの?」

「そうだよ、ジル。強くなったよ。もう、大牙虎を怖れなくてもいいくらいにね」

 おれはそう言って、ジルの頭をなでた。

「・・・どうして、そんなに強くなれたんですか?」

 そう発言したのは、ケーナだ。

 その答えは、よく分からないところも多い。

 でも、強くなりたいと願うこの子に、おれは考えていることを伝えるべきだろうと思う。

「・・・これは、正しいとは言い切れないので、答えとは言えない話だと前置きさせてほしい。

 おれは、女神と話し合って、これまでの村の方針を決めてきた。

 ジルとウルを引き取ってからずっと、毎日、祈りと修行と学問を繰り返してきた。

 そうして、今、ジルが通常では考えられない強さを得たことで、女神と話し合ってきたことが間違いではなかったと考えている。

 スキルを獲得するには、

 文字を学び、知識を増やすこと。そうすれば学習関係のスキルが身につく。

 運動をしっかりすること。これは、運動や戦闘に関するスキルが身につく。

 神を信じ、祈りを捧げること。信仰によって、神の奇跡の力を借りるスキルが身につく。

 この三つが基本となる。

 学習と運動と信仰だ。

 しかし、普通は、文字を学んだり、運動や修行をしたり、神に祈りを捧げたりしないで生きているはずだろう。

 花咲池の村ではどうだった?」

「文字を学んだことも、体操や修行をしたことも、なかったと思います。アコンの村に来てからです。神への祈りとはちがうかもしれないけれど、花咲池への感謝の祈りは、欠かさなかったはずです」

「自然崇拝だね。オギ沼の村でも、ダリの泉の村でも、虹池の村でも、水への祈りはあったはずだろうね。生きるために欠かせないものへの祈りは必ず起こるはずだ。

 自然がありのままの姿でいれば、おれたちに恵みも与えてくれるけれど、例えば、嵐なんかの強い雨や風、猛烈な日照りなど、災害も起こるものだろう。

 でも、女神への祈りは、根本からちがうものになる。

 女神への祈りは、女神の神力を借りて、実際におれたちの怪我を癒したり、疲れを回復させたりすることができる。女神の持つ力を、おれたちは使えるようになる。そういう祈りだ。

 それは、心の底から女神を信じていないと、使えるようにならない。

 おれは、直接、女神の守護を受けている。だから、信じるも信じないもなく、女神がいることはおれにとって、当たり前のことだと言える。

 だから、おれにとって、女神の力を借りるのはとても自然なことなんだ」

「では、わたしたちも、この村で、文字を学び、運動と修行を重ね、女神を信じることができれば、オーバやジルのように、強くなれますか?」

「そこはまだ、分からないところも多い。

 ただし、ジルは特殊な状態だとしても、例えばクマラは、ここに来てから二か月で、四つのスキルを身に付けてレベルを上げているし、アイラも実はレベルが五つ上がっている。元々の才能も関係しているとは思うけれど、努力による部分も大きいはずだ。

 だから、ケーナにも、強くなれる可能性はあると思うよ」

 ケーナはゆっくりとうなずいた。

「オーバは、わたしたちのスキルやレベルが分かるの?」

 いつもの小さな声で、クマラが問う。

 実はこれ。

 大きな問題点なんだ。

 誰かのスキルやレベルが分かる者がいる、ということの重大さ。

 誰が強いか、誰が弱いかを見抜くことができるということの重要性。

「おれは、全てではないけれど、みんなのスキルとレベルをある程度なら把握できる。女神は、女神を信じている者については、その力のほとんどを見抜くことができる」

「じゃあ、わたしのレベルを教えて」

「クマラ、スキルとレベルは、おれたちが生きていく上での、もっとも重要な情報のひとつだ。

 相手が自分よりどれくらい強いか、弱いかを知られるということは、命にかかわることなんだ。

 だから、誰がどのくらいのレベルで、どんなスキルをもっているというのは、そうそう言えないことなんだ」

「ここにいる人たちは、わたしの命をねらったりしないと思うの」

「それは、そうだよ。もちろん」

「それに、この村の外の人に、そういう話をすることもないはず。それから、オーバは、この二か月でレベルを上げたって言ってくれたけど、わたしはこれからもまだまだ成長するの。だから、今、ここで、教えてほしいし、今のスキルとレベルがわたしの全てではないと思うの」

 クマラはおれをまっすぐに見つめて、そう言った。

 ここまで、クマラが言い張るのは、何か、理由があるはずだ。

 自分が知りたいだけでなく・・・。

 ・・・みんなが自覚して、明日からの修行の効果を高めるためか。

 ・・・いや、それもあるけど、その中でも、セイハのことか。

 まだ、女神を本気で信じ切れていないセイハ。

 運動から逃げて、楽をしようとするセイハ。

 修行は見ているだけで、参加しないセイハ。

 妹として、兄に、生き抜く強さを身につけてほしい。

 そのためには、セイハに今の自分のレベルを自覚させたい。

 クマラは自分が先頭に立って、レベルを聞くことで、他のみんなも自分のレベルを聞き易くして、その上で自覚させていこうとしている。

 クマラは自分を高めようという意識が高く、今の自分はアイラよりもはるかに弱いと自覚していて、もっと強くなっておれの役に立ちたいと考えている。

 そういうところが、クマラのすばらしいところなんだろうと思う。

「分かった」

 おれは、クマラに『対人評価』をかける。


 名前:クマラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の婚約者

 レベル6 生命力57/60、精神力52/60、忍耐力45/60

 筋力37、知力54、敏捷40、巧緻45、魔力48、幸運20

 一般スキル・基礎スキル(2)信仰、学習、応用スキル(1)栽培、発展スキル(1)論理思考、特殊スキル(2)、固有スキル(0)


「クマラのレベルは6だよ。この村に来たときは2だった。他に知りたいことはあるか?」

「どんなスキルが身についているのか、教えて」

「分かる範囲でなら。『信仰』と『学習』、それに『栽培』、あと三つのスキルはよく分からないけれど、おそらく、『神聖魔法・回復』のスキルがあるはずだよ。実際に使えているから」

 おれは『論理思考』スキルのことは伏せた。クマラと二人で話すときに伝えればいい。

「それ以外の二つのスキルは、オーバには分からないの?」

「そうだね」

「お兄ちゃんは、どうなの?」

「セイハか・・・」

 おれは、セイハを見た。

 セイハが、少し身じろぎをして、うなずいた。

「オーバ、ぼくのレベルとスキルについて、教えてくれ」

 後悔するなよ、と心の中で思った。まあ、これはクマラのねらい通りなのだろうけれど・・・。

 おれは、セイハに『対人評価』をかける。


 名前:セイハ 種族:人間(アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力14/20、精神力17/20、忍耐力17/20

 筋力12、知力18、敏捷12、巧緻16、魔力17、幸運10

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(1)作炭、発展スキル(0)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


「セイハのレベルは2だ。スキルは『作炭』と、もうひとつはおそらく土器づくりに関するものだろうと思う」

「レベル2・・・」

 そう言ってセイハは絶句した。

 妹よりも、四つもレベルが低いのだ。

「この村に来てから、ひとつレベルが上がったんだ。その時に身に付いたスキルが『作炭』だったはずだな」

 おれは、止めを刺した。

「ダリの泉の村に住んでいた頃は、レベル1・・・」

 セイハはうなだれている。

 いい薬になればいい。

 クマラの願いに気づいてほしいと心から思う。

「わたしのレベルとスキルも教えてください」

 ケーナは真剣な表情だ。おれは、ケーナに『対人評価』をかける。


 名前:ケーナ 種族:人間(アコンの村) 職業:なし

 レベル1 生命力7/10、精神力6/10、忍耐力6/10

 筋力7、知力10、敏捷8、巧緻8、魔力8、幸運8

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(1)聞き耳、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


「ケーナのレベルは1。スキルは『聞き耳』がひとつだけだ」

「・・・大牙虎のことは、オーバは知っていますか? レベルとか」

 何か、理由があるのか、ケーナは大牙虎のレベルが知りたいようだ。

 花咲池の村に戻りたい、とか言われたら嫌だな。

 ケーナはやる気のある期待の新人なので。

「大牙虎のことは、誰よりもおれがくわしいと思うよ。大牙虎の生き残りは、だいたいレベル6から8までだ。群れのリーダーだけはレベル12。こいつは身体も大きくて、要注意だ」

「大牙虎に殺されないためには、どのくらいのレベルになればいいですか?」

「ジッドと同じくらいになれば、生き残れるかもしれないね。ジッドは実際、生き残ってサーラとエランを助け出したからね」

「ジッドのレベルは?」

「それは・・・」

 おれはジッドを見た。

 ジッドは肩をすくめた。

「オーバ、おれのレベルとスキルを教えてやってくれ。その子、ケーナは大牙虎に負けないくらい強くなりたいんだろう?」

「分かった」

 おれは、ジッドに『対人評価』をかける。


 名前:ジッド 種族:人間(アコンの村) 職業:戦士

 レベル8 生命力76/80、精神力69/80、忍耐力64/80

 筋力73、知力59、敏捷68、巧緻62、魔力49、幸運21

 一般スキル・基礎スキル(3)運動、調理、説得、応用スキル(3)殴打、長駆、剣術、発展スキル(1)戦闘視野、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


「ケーナ、よく聞いておくように。ジッドは大草原から旅をしてきた、剣の達人だ。そのレベルは8。アイラやジルの力が成長するまでは、大森林の周囲の村の中では、もっとも強い存在だった。ジッドのスキルは『運動』、『調理』、『説得』、『殴打』、『長駆』、『剣術』で、あとの二つはおれには分からない」

 本当は『戦闘視野』という発展スキルがあると分かっているのだが、それは伏せておく。

「実は、虹池の村が大牙虎に襲われたとき、なんとか互角に戦えたんだ」

 ジッドはケーナと目線を合わせて、真剣に話しかけている。「でも、反対側からも、さらには別の方向からも、大牙虎はあらわれて、動揺して、結局最後には、ほとんど何もできなくなった。おれの力程度では、大牙虎の群れには立ち向かえない。一対一なら、まだ自信はあるのだが」

「・・・そうでしたか」

 ケーナは黙る。ケーナのレベルは1で、ジッドのレベルは8。それでもジッドは立ち向かえないという。ケーナのめざす先はまだ遠い。

 次にアイラが口を開いた。

「わたしも、教えてもらえるわよね?」

「アイラ・・・」

「自分を知らなきゃ、今以上に強くなれないのなら、知るべきだと思うのよね」

「分かった」

 おれは、アイラに『対人評価』をかける。


 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の后、戦士

 レベル10 生命力115/130、精神力123/130、忍耐力112/130

 筋力71、知力61、敏捷70、巧緻69、魔力59、幸運27

 一般スキル・基礎スキル(4)運動、調理、信仰、説得、応用スキル(2)殴打、蹴撃、発展スキル(2)戦闘棒術、苦痛耐性、特殊スキル(1)、固有スキル(1)


「アイラのレベルは10。この村に来て、レベルは五つ、上がった。すごく強くなっている。ジッドとの修行では互角の戦いができてるしね。アイラのスキルは『運動』、『調理』、『信仰』、『説得』、『殴打』、『蹴撃』、『戦闘棒術』で、あとは『神聖魔法・治癒』が実際に使える。残りの二つのスキルはまだおれには分からない」

 あとは『苦痛耐性』スキルがあるけれど、あまり教えたくないスキルなので伏せておく。苦しみや痛みに対して我慢強いなんて、ね・・・。

 アイラは、腕を組んで、顔をしかめた。

 おや?

「・・・わたしはレベル10で、ジッドはレベル8なのに、立合いで互角なのは、どうしてなのよ?」

 ああ、そこか。

 確かに、引っかかるところだよね。

「・・・それは、これまでの経験の差、じゃないか?」

 ジッドが答える。「レベルが少し上だというだけでは、埋められないものがあるんじゃないのか? そうじゃなかったら、長生きしてきた意味が薄いな」

「・・・納得できなくはないけれどね。オーバ、どうなのよ?」

「ジッドの言う通りだと思う。言い方を変えれば、レベルではない、「スキルレベル」の部分で、ジッドの剣術が優れているからだろうな」

「スキルレベル・・・」

 アイラはまた考え込む。

 真剣過ぎて、よくないことを考えていそうだ。

「それなら、オーバがジルに、わたしやジッドとの立合いを禁止するのは、やり過ぎよね?」

「確かに、そうなるな・・・」

 アイラの言葉に、ジッドが相槌を打つ。

「今日、7歳になったジルが、スキルを獲得してレベルを上げたからって、これまで修行してきたわたしが負けるとは限らないわね。それに、修行は、強い相手とするべきよね?」

「アイラの言っていることは、正しいな」

 わざとだ。

 この二人は、ジルとの立合いを禁止されたのに、腹を立てている。

 そりゃ確かに、単純なレベル差だけでは、勝敗は決しない。

 レベル差が2というアイラとジッドの間で、勝ったり負けたりが繰り返されるのは、ごく普通のことだ。

 そこまで言うのなら、ジルと立ち合ってみればいい。

「さあ、ジル、わたしと立ち合ってよね!」

 ジルがおれを見上げる。

 さっき、おれに禁止されたばかりなのに、アイラから立ち合うように言われて、困っている。

「ジル。今まで、おれとアイラの立ち合いは、いろいろと見てきたな?」

「はい」

「それなら、今まで見てきたように、立ち合いなさい」

「分かった」

 ジルはゆっくり立ち上がった。

 おれは、心の中で祈る。

 どうか、アイラが大きな怪我をしませんように、と。

 たかが少しのレベル差ならば、アイラやジッドの言う通りだろう。

 実は、アイラとジッドの能力値には、ほとんど差がない。筋力など、ジッドの方が高いくらいだ。その原因はいろいろとあるのだろうけれど、事実として、ジッドとの能力差は僅差であり、戦いにそこまで差が出ないのも当然なのだ。

 アイラとジルのレベル差は8。

 能力値は、そのほとんどが2倍。

 ジルの方が、能力値がはるかに高いのだ。

 それが、戦闘でどうなるのか、というと・・・。

 アイラが、得意の棒術で、その長さを幻惑しつつ、ジルの脳天へと振り下ろす。

 ジルは紙一重で右へかわしつつ、左腕でアイラの棒を叩き落として加速させ、さらに、その棒の上に乗る。

 一歩、二歩、と棒の上を歩く。

 体重をかけられて、アイラのバランスが崩れ、棒は封じられる。

 ジルは、そのまま、アイラの鼻を右手でむにゅっと掴んだ。

 地面に高速で棒を振り下ろしたアイラ。

 その棒の上に立って、アイラの鼻を掴んだジル。

 身長差を埋めるための、アイラの棒の利用。

 一瞬でかわす敏捷性と、棒の上にあっさりと立つバランス感覚。

 ジッドが。

 クマラが。

 そして、アイラ自身も。

 呆然とするしかなかったようだ。

 ジルが鼻を掴んでいた右手を離すと同時に、棒から飛び降りた。

「オーバ、これでいい?」

「・・・ああ。それでいい」

 ジルは、天才かもしれない。

 ジルが勝つことは、疑っていなかった。

 それは能力値の差で、ジルが勝つものだと、おれは考えていた。

 でも、実際に起こったことは。

 これまでの、修行の成果のあらわれ、だった。

 何回も、何回も、繰り返してきた型の動きと、その応用。

 見取り稽古で見てきたこと。

 相手を苛立たせながらも、あきらめさせる、手加減の仕方まで・・・。

「アイラ、もういいだろ」

「え、ええ。よく分かったわよ。まるで、オーバにやられたときみたいだったわ」

「ジル、オーバと立ち合いたい」

「あとでね」

「いや、今、見てみたいわよ、それは」

 なぜか、アイラが懇願する。「ジルの、レベルはいくつなの? オーバは? わたしはレベル10で、大牙虎が相手でも、ジッドと同じでなんとか戦えるってことよね。じゃあ、大牙虎を無傷で狩ってくるオーバや、わたしを圧倒できるジルのレベルはいくつなのよ?」

 アイラの言葉に、クマラや、セイハもうなずく。

 仕方ない。

 どうせ、この近辺には、もうおれたちしか人間はいないんだから。

「繰り返しになるけれど、アコンの村の全員のレベルについて教える。静かに聞くこと。

 そして、誰にも言わないこと。

 それに、これから、レベルは上がっていくはずだからな。成長すればいいだけだ。

 まだ7歳になっていない、エラン、セーナ、ウルにはレベルはない。

 レベル1なのは、シエラ、マーナ、ケーナ、ラーナの四人。

 レベル2がヨル、セイハ、ムッド、スーラ、サーラ、トトザの六人だ。セイハとスーラは、アコンの村に来てから、ひとつレベルが上がったんだから、この先もまだまだ成長できるはずだ。

 レベルが2までのみんなは、大牙虎とは決して戦わないこと。木のぼりをしっかり練習して、すぐに木の上に逃げるんだ。

 クマラとノイハは、レベル6。女神の加護もあるだろうけれど、この成長は、二人の努力も大きいと思う。みんなも、この二人のように成長してほしい。二人は、大牙虎との接近戦は避けること。

 ジッドのレベルは8。これは、これまでのジッドの戦士としての生き方によるもので、この村でレベルが上がった訳じゃない。おれの考えでは、年齢が高くなると、レベルは上がりにくくなる。ジッドは十分に強いが、これからも、修行は続けてほしい。

 アイラはレベル10。これは、この森のほとんどの生き物と対等に戦える。でも、アイラも、大牙虎の群れのリーダーなんかの、一部の強敵には注意してほしい。

アイラとジッドは、大牙虎一匹との接近戦は大丈夫だ。それでも、無理はしないこと。

 そして、ジルのレベルは18」

 そこで、ざわついていたみんながシーンとなる。

 これまでのみんなのレベルとの隔絶。

 ありえない数値。

「次に大牙虎を狩りに行くときは、ジルと一緒に行って、ジルに狩らせる。それで、この村はもう、大牙虎におびえなくてもいいと証明する。ジル、いいな」

「分かった」

 ジルは神妙にうなずいた。

「みんなに言っておく。おれたちは、この大森林にある全てのものを狩り尽くさないし、採り尽くさない。それが大森林と共に生きる、ということ。もちろん、大牙虎も狩り尽くさない。だから、大牙虎もこの大森林で生き残る。大牙虎に殺されないだけの力を、全員が身に付けなければならない」

 おれは全員を見回す。

「弱い者は、強い者のエサとなる運命にある。

 大牙虎は人間をエサとした。同時に、おれたちも大牙虎を食料としている。

 残った大牙虎がアコンの村を襲ったとしても、おれやジル、アイラやジッドが生き残る。ただし、弱い者が生き残れるとは限らない。

 おれたちはみんなを守るつもりだが、いつも、それが可能だとは言えない。

 だから、自分を守るために、力をつけてほしい。

 それが、この村の生活のしくみ。

 祈りを捧げ、体操と拳法で体幹を整え、走って体力をつける。

 日々の生活で得意なことを見つけ、自分の才能を伸ばす。

 適切な食事で、健康な体をつくる。

 文字を覚え、知識を蓄える。

 武術を身に付け、戦いに備える。

 そうやって、自分のレベルを高めてほしい」

 そこまで言って、おれはジルを見つめた。

「ジル、前に出なさい。立ち合いをするから」

「・・・はい」

 ジルが立ち上がって、前に出て、おれと向き合う。

 全員の視線が集まる。

 こういう、デモンストレーションが必要なのだと、おれは割り切っている。

 一瞬、全員が息をのむ。

 ジルが動いた、次の瞬間、ジルは動いた方向の真逆に軽く三メートルは吹っ飛ばされた。というか、おれがジルを吹っ飛ばした。

 おれは、その場から一歩も、動いてはいない。

「アイラ、クマラ。ジルに神聖魔法で治癒と回復を頼む」

 慌てて、アイラとクマラが動き出す。

 おれは、みんなを振り返った。

「おれのレベルは、54。アイラを圧倒できるジルでさえ、まともにおれには触れられない。もちろん、おれは大牙虎に囲まれても問題なく撃退できるし、その上、女神の加護も受けられる。おれの力は、みんなを育て、この村を大きく成長させるためにある。それが、王の力、らしい」

 誰も、何も言わなかった。

 何も言えなかった。

「弱い者は、いつか、その命を奪われる。だから、少しでも、自分を高めておこう」

 スパルタ宣言。

 アコンの村は、弱い者が弱いままであることを許さない村となった。


 夜は後宮にアイラとクマラが来た。

 アイラがクマラに相談して、二人でおれと話したいと考えたらしい。

 つまり、レベルやスキルについて、もっと知りたい、ということらしい。

 だから、今夜は、ナニはなし。

 時間の限り、二人の質問に答えていく。そうは言っても、おもに質問するのはクマラだ。

 もちろん、内容によっては答えないし、答えられないものもある。

「オーバは、どうやって、わたしたちのレベルやスキルを確認しているの?」

「おれには『対人評価』というスキルがあって、それを使えば、たいていの相手のレベルやスキルが分かる」

「そのスキルはどうすれば身に付くの?」

「・・・それは分からない」

「自分がもっているスキルのことでも、分からないことがあるのね」

 アイラが首をかしげた。

「あんまりかいかぶられても困るな。おれは、女神に守られて、これまでにいろいろなことを学んできただけだから」

「じゃあ、そのスキルで分かることを教えて?」

「例えば、アイラに『対人評価』を使うと・・・」


 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の后、戦士

 レベル10 生命力110/130、精神力106/130、忍耐力92/130

 筋力71、知力61、敏捷70、巧緻69、魔力59、幸運27

 一般スキル・基礎スキル(4)運動、調理、信仰、説得、応用スキル(2)殴打、蹴撃、発展スキル(2)戦闘棒術、苦痛耐性、特殊スキル(1)、固有スキル(1)


「名前、種族、職業、レベルが分かる。それから、生命力、精神力、忍耐力が数値で分かる。最大値と今の数値が、ね。あと、筋力、知力、敏捷、巧緻、魔力、幸運などの能力値が分かる。スキルの数と、基礎スキル、応用スキル、発展スキルは、スキルの名前が分かるな」

「わたしの職業?」

「アイラの職業は、覇王の后で、戦士だ」

「・・・アイラは、覇王の后」

 クマラがつぶやく。

「クマラのことも分かるのよね?」

「クマラの職業は、覇王の婚約者、だよ」

「・・・わたしは覇王の婚約者」

 クマラが頬を赤く染めながらつぶやく。

「・・・オーバは、覇王、なの?」

「そうだ」

 クマラがとても嬉しそうにしている。

 そう言われてみれば、おれの職業は覇王になっている。

 覇王になってから、生命力などの数値はとても高くなっている。レベルアップするとき、30ずつ上昇しているからだ。

「ジルが、いきなり高いレベルになったのは、どうしてなの?」

「・・・女神と話し合って、朝から祈りを捧げたり、体操したり、走ったりしていれば、成長するときにいろいろなスキルを獲得していくだろうって、考えてた。正直に言えば、いきなりそんなレベルになるとまでは予想していなかったんだ」

「女神さまも・・・?」

「セントラエム、どうなんだ?」


 ・・・私も、ここまで効果があるとは、考えていませんでした。


「・・・どうやら、女神にとっても、予想外だったらしいな」

「女神さまも、予想外だった・・・」

 セントラエム、直接クマラやアイラに話せばいいのにな。

 そうか。

 おれと話すのは、耐久力なんかの能力値を消費しないんだ。

 クマラやアイラに話しかけると、消費する。

 余るくらい高い数値なんだけれど・・・。

「いずれ、ウルも、ジルのようになるの?」

「その可能性は、十分にある。ジルとウルは、ほとんど全ての条件が重なっているから」

「そうなったら、アコンの村にとっては、最高の戦力になるわね」

 アイラの言う通りだった。

 圧倒的な力をもった子どもの存在。

 大牙虎より強いというだけでなく、大森林の全ての存在の頂点だと考えられる。

 ・・・おれがいなければ。

 それから、レベルやスキルについて、いろいろとクマラの質問に答え続けた。


 クマラと手をつないで歩く。

 アイラはそのまま、後宮でおれが戻るのを待っている。

 クマラたちのツリーハウスまでの、短い夜道。

 その手のぬくもりに、心まで満たされた。

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