第28話:女神の加護を受けた村人たちがぜいたくをした場合
今回は、歓迎会です。
トトザ一家は、アコンの村をあげて、歓迎した。
これまでのたて穴住居とは異なるツリーハウスに驚き、おっかなびっくり樹上へとのぼり、その高さに足を震わせたり、三つのアコンの木の行き来では勇気を振りしぼって吊り橋に挑戦したりと、今までとは全く違う生活への驚きに満ちていたらしい。
トトザとマーナは、この村では年長者だ。トトザは29歳、マーナは28歳となるらしい。二人ともレベルは2。アコンの村にとって、戦力ではないが、この二人は欠かせない存在となる。
上の姉のケーナは13歳、下の姉のラーナは8歳、妹のセーナは5歳だった。
ジルやウル、ムッドやスーラは、ラーナとセーナを連れ回して、ツリーハウスをぐるぐると回っている。トトザたちのツリーハウスを探検し終えると、現王宮のツリーハウスにも連れて行って、いろいろな部屋を紹介していた。トイレについても、ちゃんと教えてくれたようだ。
こういう時、小さい子たちは、すぐに打ち解けて、ツリーハウスにも慣れていく。
ケーナのようすを見ていると、ツリーハウスでの移動はかなりドキドキしているようだ。そっとクマラに目くばせすると、クマラがすぐに気付いて、ケーナのところへ行ってくれた。
それに気付いたアイラは、マーナに話しかけ、樹上での移動のコツを教えたりしている。
こういうところが、この二人の信頼できるところなんだよね。
ノイハは舞い上がって、楽しそうにしているが役には立っていない。セイハは、ジッドと話すトトザの横にいるだけで、あまり関われていない。
サーラはエランとの再会を喜び、抱き上げて頬ずりしていた。
おれは倉庫に行き、必要な食料や土器をかばんに詰めこみ、もてなしの準備をする。
今日は、祭りだ。
焼肉祭りだ。
おれは一人、河原で準備を進めていた。
アコンの村での暮らしについて、ジル、アイラ、クマラが中心となって、トトザたちを案内しながら説明している。
実際には、明日から、みんなと同じように「スパルタ式」を経験するのだが、今日のところは、簡単な説明だけだ。
おれは、まず、ネアコンイモと干し肉のスープを火にかけ、その横で、かぼちゃの煮物も火にかけておいた。
それから、ぶどう、パイナップル、梨、すいかを並べて、デザートの雰囲気を盛り上げてみた。
さっき『高速長駆』で収穫してきた米はもみがらを落として玄米にして、玄米粥の準備も進める。きのこ類と豆類が玄米粥には加えられる。本当は、乾燥させておけば、もっと美味しくなるし、保存もきくんだろうと思うけど・・・。
メインの焼肉は、準備の必要があまりない。平石が熱くなるのを待つだけだ。
飲み物として、アコンの実をひとつ、今回は使う。
アコンの実は、保存している物以外は既にないので、とても貴重なのだが、まあ、祭りだから。
食器類の土器は、充実している。
セイハのスキルレベルは高まっているに違いない。
おれの要望に応えて、調理用も食器用も、使いやすい土器が生産されている。
さて、どういう順番で、誰が、誰に配膳するか、いろいろと考えておくことにしよう。
ジルが先頭に立って、みんなを河原に案内してくる。
おれは、かまどに囲まれながら、みんなを待っていた。
ジルに言って、トトザ一家を五人、並んで座らせた。
ノイハがうきうきしているようだが、とりあえず相手にしない。
ジル、ウル、クマラ、アイラ、セイハを呼んで、それぞれに配膳役を務めてもらうように伝えた。ジルがラーナ、ウルがセーナ、クマラがケーナ、アイラはマーナ、セイハはトトザに食べ物を運ぶようにさせる。
歓迎会という祭りだから、村人は後から。サーラは村人扱いで。
ジッドが、え、なんで、という顔をしていたが、ノイハと同じく、相手にしない。
「トトザ、マーナ、それに三人の娘たちよ。ようこそ、女神に守られたアコンの村へ。今日は新しく村人となった五人を歓迎する」
おれの大きな声での宣言に、ジッドが合わせて、「歓迎する」と叫び、他の村人たちも次々に「歓迎する」と叫んだ。
なんか、なんとなく、儀式っぽくなったな。
トトザたちは、笑顔だ。
「トトザ、みんなに言葉を」
おれは、トトザに一言、何かを言ってもらおうとした。
トトザが、立ち上がる。
「アコンの村のオーバに感謝する。我ら一家は、この先、この村に尽くすことだろう」
おお、なんか、いい感じの言葉だ。
周りも、おおっ、と叫んでいる。
祭りっぽい、高揚感があるかもしれない。
ジルたちを手招きして、一品目を提供する。
ネアコンイモと干し肉のスープだ。セイハ特製のスープ皿とスプーン・・・というよりもレンゲを漬けて、ジルたちがトトザたちに皿とレンゲを渡す。一人ひとりの分量は、少ない。
「さあ、おれたちのいつもの食べ物だ。この村での暮らしの基本となる、イモのスープをまずは食べてくれ」
実は、既にヨモギ入りのスープを提供していたが、ま、気にしないことにする。
ケーナが、甘くて美味しい、とつぶやき、クマラがネアコンイモって言うの、焼いても甘いのよ、と名前を教えていた。
ジッドがうろうろして食べたそうにしているが、やっぱりここも相手にしない。ノイハも同じ。そもそもお前ら二人が言い出したことだろうに。
食べ終わる頃を見越して、次はかぼちゃの煮物に竹串を刺したものを出す。はしやフォークらしきものよりもその方が食べやすいだろうと思ったからだ。
「次は、おれたちの中でも、人気の食べ物だ。特に、セイハはこれが好きだよな。かぼちゃの煮物だ。食べてみてくれ」
セイハは少し照れくさそうに笑って、トトザに皿を渡していた。スープの皿は交換で回収している。
「・・・確かに、うまい。ちょうどいい柔らかさと、くせになりそうな甘みがある」
トトザは、セイハに向けて、笑顔でそう言った。
子どもたちにも、好評だったようだ。
やはり、甘みのある食べ物が、人気なんだよなあ。
続いて、フルーツ盛りを出す。ぶどう二粒、梨一切れ、パイナップル三かけら、すいかは八分の一サイズ。
果物好きのノイハが、目を回しそうになっている。ノイハを配膳係にしなかったのは正解だった。
「続いて、果物だ。梨は知っていると思うが、他のも楽しんでくれ。それぞれ、どういう果物か、説明してもらうといい」
そう言いながら、おれは虎肉を焼き始める。
じゅう、という音と、肉が焼けるにおい、そして煙が河原を包み込む。
いつの間にか、ジッドとノイハは、少し離れたところに座り込んでいる。近くにいたら、我慢ができないのかもしれない。いや、単に、すねているだけかも・・・。
マーナがアイラにいろいろと聞いているが、答えられないところは、アイラはクマラに話を振ってうまくかわしているようだ。食べ物ならクマラに聞けば間違いない。
ビワの葉に、焼けた肉をのせていく。トトザ、マーナ、ケーナまでは五枚の肉。ラーナとセーナは三枚の肉だ。
ジルたちがトトザ一家の前に肉を届ける。
「これは、大牙虎の肉だ。干し肉は食べる機会も多いが、生肉を焼いたものは、おれたちもめったに食べられない。ぜひ、味わってくれ」
「大牙虎の・・・」
トトザが絶句している。
小さい子の方が、怖れないらしい。ラーナとセーナが真っ先に食べて、おいしい、と叫ぶ。
トトザとマーナは顔を見合わせ、それから焼肉を口に含んだ。
ケーナはクマラによく噛むように言われて、ゆっくり味わっている。
ノイハとジッドの目が、大きく見開かれているが、ここも、相手にしない。
おれはアコンの実に石で二カ所、穴を開けた。
セイハ特製のコップに、琥珀色の液体を注いでいく。
アコンの実のジュースその一だ。その二は、実の下の方にたまっている白い液体を水で薄めたものになる。どちらも美味しい上に、疲労回復の効果が高い。
まずはその一、琥珀色のジュースを提供する。
これも、満足してもらえたらしい。特に、マーナが気に入ったようだ。
「みんな、待たせたな。ここからは俺たちも食おう! トトザたちも、まだ食べたい物があったら、こっちに残っているから、自由にとってくれ」
おおっと叫んで勢いよく立ち上がったのは、もちろん、ノイハとジッドだ。
この二人は、もう、どうしようもないのかもしれない。
でも、アイラやクマラ、ジル、ウルたちはもちろん、サーラまで、みんな笑顔で、今日の料理を分け合って食べた。
きのこと豆が入った玄米粥も、大人気だった。
ノイハとジッドには、肉の制限を付けるのを忘れなかった。二人が泣きそうな顔になっていたが、そこは完全にスルーした。
食べ終わった後は、いつもの修行に入る。
トトザ一家は見学だ。
今日は、拳法の組み手の後に、ジッドから剣術の指導を受ける。
ジルやウル、ムッドなど、年少の子たちの真剣さに、セーナとラーナがびっくりしていた。
ジルにぶっ飛ばされたムッドの手当をアイラが『神聖魔法・治癒』で行い、ムッドが光に包まれると、マーナが目を丸くした。さらに、今日は消耗したムッドの生命力をクマラが『神聖魔法・回復』で回復させている。これはおれの指示で、スキルレベルを高めるためだ。おそらく、その使用頻度で、レベルアップ時の能力値の上昇にも補正がかかるはずだ。
剣術は、ジッドの教える型を大きな声を出しながら、繰り返す。男の子も、女の子も、関係なく修行する姿に、花咲池の村出身の娘たちは驚きっぱなしだ。花咲池の村の平均レベルは低かったので、こういう鍛え方は想像もできないことなのだろう。
クマラがおれと立ち合っている間に、ジッドとアイラが真剣に立ち合いを続ける。ジッドとアイラの勝負は見応えのある真剣勝負なので、大人しそうなケーナが思わず握りしめた拳を見て、ちょっとおれたちの方も驚いた。
あとでクマラが、ケーナにその話をしたところ、ケーナは、女の人が男の人と互角に戦うのがとても嬉しかったのだと言ったらしい。まあ、ぶちのめしたい男どもがいた、ということだろう。
今日は、ジッドの辛勝だった。二人とも、片腕、片足の骨折で、ほぼ痛み分けという感じだ。
おれが『神聖魔法・治癒』で二人の骨折を治す。
トトザ一家は、目の前で続く、修行と治療の光景に、半ば呆然としていた。ただ、ケーナだけは真剣に見ていた。
アイラとジッドの強さに、感動していたトトザたちだったが、そのアイラをあっさりと、ジッドを軽々と打ち倒したおれを見て、五人家族が口を開けたまま、呆けることになった。
おれは、明日からは、特に子どもたちは、同じように修行を積んでもらうと告げた。ケーナは子どもたちという枠の外だったのだが、一緒にやりたいと申し出てきた。
「強くなりたいんです」
ケーナのその言葉は真摯なものだった。「自分を守れる強さがほしいんです」
断る理由はないので、もちろん許可する。
そういうやる気は大歓迎だ。
それからは文字の練習をしたり、いろいろな話をしたりして、女性陣から先に、おれたちは後から滝シャワーを浴びて、アコンの群生地へと戻った。
滝シャワーは、マーナとケーナに大好評だったらしい。
アコンの群生地へ戻る途中、何度も滝シャワーのことを興奮しながら母娘で話していた。
アコンのツリーハウスでは、それぞれの家へと戻る。
おれは、アイラを呼んで、後宮へのぼった。シエラは、今日は我慢させている。
昨夜の、ナニはなくとも、アイラとクマラに添われて寝たのも良かったが、まあ、アイラと二人で、優しく肌を重ねて求め合うのも、もちろん良かった。
祭りの夜の独り寝はさみしいので、アイラの寝息を聞けて、おれは幸せだった。次は、シエラが一緒に来たいといったら、アイラに連れて来てもらおう。
翌朝、女神への祈りから1日は始まる。
祈りを捧げた後に、最近は、女神の力で癒やされたときの話をジルだったり、アイラだったり、クマラだったりが、みんなに教えるようになっていた。布教活動だ。ジルは自分とウルが、アイラは自分とシエラが、クマラはセイハを守って大牙虎に噛まれたおれの傷が治ったときのことを、まるで今目の前でそうなっているかのように、ドラマチックに話す。
信者が増えそうだが、残念なことに人口は今、頭打ちだ。
女神の祈りの後は、いつもの体操だ。
新メンバーがいるので、ジルがいつもよりも丁寧に、教えながら動く。
ウルも、そのサポートにあたっている。
健康な朝の光景だ。
これであの音楽が流れていれば完璧なのに・・・。
それから、キックアンドパンチ。突きの型と蹴りの型をジル師範代の指示の下で、何度も声を出しながら繰り返す。夕方の組み手のための基本だ。これは、新メンバーへのサポートとして、おれも手伝った。
それから水やりランニングで小川と農場を三往復。
トトザ一家は頑張ったのだが、かなり消耗した。そのため、『神聖魔法・回復』のスキルで、五人の生命力を回復させる。ただ、誉めたいのは、消耗したとしても、トトザたちが最後までやり切ったことだ。弱さを乗り越えようとする気持ちを感じる。
水やり後、梨をふるまう。そろそろ梨もなくなってきた。
今日の午前中は、アコンの木の穴開けを中心に動く。
実は、おれの担当しているところは、もうすぐ開きそうだと思う。
アイラやジッドが適当に大牙虎の牙を打ち込むのに対して、おれは、くりぬきたい範囲を的確に狙って大牙虎の牙を打ち込んできた。アイラやジッドがアコンの幹を破壊して穴を開けようとしているとすれば、おれは出入り口となるスペース分、樹皮を取り除こうとして、必要な部分だけ穴を開けていたからだろう。
幹の厚みは、およそ30センチくらい。予想していたよりも、薄いのだが、それなのにこの堅さがあるのはますます謎だった。
そして、その日の作業で、おれは入口を一つ開けることができた。『住居建設』スキルのレベルがある程度は高いからだろうと思う。ジッドとアイラは作業スピードで負けて悔しそうだった。どうしてこの二人は勝ち負けにこだわるのか。
トトザ一家も含めて、みんなで手伝いながら穴を広げていく。アイラなんかは片っ端から破壊して穴を開けようとしているから、切り抜くようなマネとか、そういうことは想定していなかったらしい。もったいないが、仕方がない。
昼前からは森小猪の狩りに行った。
ノイハの的確な指示通りに追い詰めていくと、森小猪は大量に捕獲できた。
それはノイハの才能だろう。
まあ、その前段階として、おれが森小猪を『範囲探索』することで、大きな群れがいるところを突き止めていたのだけれど。
それから、河原で、上流へのぼり、実験水田への水の追加を行う。
滝で水袋を満たす。
セイハの指示に従ってねんど掘りをして、新たなねんどを確保する。
ハンモックや縄梯子、捕獲用の網などの道具類も作成していく。ハンモックは戻ったらトトザたちの家に設置する予定だ。
食事は焼肉の残りとネアコンイモのスープ。
修行にはトトザ一家の娘たちも参加して、元気に声を出す。
文字の練習も時間をかける。
立合いでは怪我をするくらい本気で、『神聖魔法』の光が眩しい。
そして、滝シャワーは今夜も好評だった。
次の日も、その次の日も、少しだけ作業内容は変更されていくが、女神に祈り、体を鍛え、計算や文字を覚え、村の生活改善に取り組む日々を続けた。
トトザ一家は一生懸命、村のために尽くした。
その忠誠心は、歓迎会の食事によって生まれたなんて、誰も気づかなかったに違いない。
でも、こちらの方が感謝したいと思える、立派な移住者たちだった。
そして、さらにその次の日。
ジル、アイラ、クマラに後は任せて、おれは花咲池の村へと向かった。
大牙虎との日々も、そろそろ、終わりへと進めていこう。
『高速長駆』で、2時間弱。
大森林を抜け出す。
スクリーンは朝から固定している。
地図の縮尺を変えて、大牙虎の位置を確認。
大牙虎は花咲池の村の四方を警戒するように、配置されていた。
森の中での待ち伏せはやめたらしい。まあ、あれはこっちからすると、ちょうどいい各個撃破の対象だからな。
『対人評価』も重ねて、レベル確認。
群れのリーダーのレベル12の次は、もうレベル8が二匹だ。
着実に大牙虎の数は削ってきた。
生かしておくのは、レベル7以下の個体のみ。もちろん幼体は残す。
そして、今日で一気に狩る訳ではなく、生かしておくことで食料としての保存期間を延ばすという認識でいい。
今から、レベル8を一匹、圧倒的な強さで狩って、対策の立てようもないことを意識させて、帰る。
これは、暖めていた攻撃のアイデアでやってみたいと思っている。
おれはスクリーンで相手の位置は把握しているが、大牙虎からしてみると、まだずいぶんと距離があるので、大牙虎は、おれに気づいていない。
おれは『高速長駆』で加速し、通常では考えられない、人間の走る速度に達する。
そのスピードの助走で、『跳躍』スキルによるジャンプ。
文字通り、おれは空を飛んだ。
警戒している大牙虎の視線は水平。
頭上から落ちてくるおれには気づかない。
そのまま、重力に導かれながら、おれはレベル8に蹴りをかまして、さらに踏み潰した。
一撃で、レベル8の生命力を奪った、飛び蹴りのクリティカルヒット。
『「大跳躍」スキルを獲得した』
『「大飛蹴撃」スキルを獲得した』
二つのスキルを手に入れたらしい。
呆然としている、ように見える、大牙虎の群れのリーダー。
おれは、仕留めたレベル8のしっぽを掴んで、肩に担ぐ。
「また来るよ」
言葉は通じない。そんなことは分かっている。
でも、おれはそう言って、そのまま走り始めた。
森へは入らず、草原を走る。
予想通り、大牙虎は追いかけてこなかった。
もともと、おれの転生から始まった、この大牙虎たちの大移動。
大牙虎からしてみれば、怖れて逃げたはずの相手との、なぜかの敵対するはめになった。
戦っていくほどに、確実に減っていく群れの仲間。
人間の立場から見ても、今回の一件は大災害だ。
大森林外縁部にあった四つの人間の村は、全て滅んだ。
人口は四分の一以下だ。
大牙虎は大森林外縁部に。
人間は大森林中央部に。
それぞれ住処を入れ替えただけだが、互いに滅亡の危機にある。
大森林外縁部でも、人間は十分に生き抜いていくことができた。それが中央部となると、見つかる食料の種類と量がとても多くなる。
ただし、大森林の奥で人間が生き抜いていくには、樹海を歩く術が必要だ。
ネアコンイモは、大森林の中央部での生活をさまざまな側面から支えた。食料という面でも、材料という面でも、優れた植物だった。
肉食の大牙虎にとっては無用の長物だったネアコンイモが、人間のおれには宝になった。
仲間も増えて、一人ひとりの力も、少しずつ増している。
もう、ジッドも、アイラも、大牙虎にやられるようなことはない。レベルに差はなくとも、スキルレベルが違う。ジッドの剣術や、アイラの戦闘棒術で、大牙虎に負けることはないだろう。
もちろん、全員が大牙虎に勝てるとは言わない。でも、クマラは既にレベル6に達した。いろいろなスキルも磨いて、スキルレベルも高めているはずだ。戦闘系のスキルはまだまだだと思うが、大牙虎の攻撃で即死という事態はない。まだまだクマラのレベルは上がるはずなので、十分対応できる。
もはや、アコンの村にとって、大牙虎が脅威だと考えていた時代は終わったのだ。
もう何日か経って、あと二匹、大牙虎を狩る。
それで、大牙虎との戦いを終える。
おれの存在で始まったこのマッチポンプも、もう終わりを迎えなければならない。
『高速長駆』で外縁部を走り、ダリの泉に行く。
ダリの泉で大牙虎の血抜きをしかけておいて、ダリの泉の村の跡地に入った。
めぼしい道具は、既にジッドが回収している。
しかし、使えるけれども、大き過ぎるものは、そのまま残されていた。例えば、麻でできた住居用のテント。七家族分なので七つも手に入った。あとは、各家で使われていた大きな土器。
こういうものをかばんに詰め込み、血抜きを終えた大牙虎を回収する。
スクリーンで確認するが、花咲池の村にいる大牙虎に動きはない。
おれは、さらに草原を走った。次は虹池の村だ。
虹池の村でも、同じように住居用のテントや大き目の土器を回収した。他にも、使えそうな石器類は全て回収していく。
緑や赤の飾り石を使ったペンダントを見つけた。
誰かの物だったのだろう。
大牙虎には無用の長物。
サーラに届けるくらいはしてやろう。
見つかった遺骨は、虹池に沈めた。
虹池の村を襲ったときの大牙虎の波状攻撃。
おれの襲撃を受けた後の、待ち伏せ作戦。
レベル差による力押しでなければ、とても手強い相手だっただろう。
知的レベルの高い獣。
せめて、あの大角鹿みたいに、人間の言葉を話せたなら。
まだ、交渉の余地もあったはずなのに。
おれは、手に入れられるだけの物を全てかばんに詰め込んで、大森林に入った。
生命力や精神力、忍耐力を消耗しているが、食事までにはアコンの村まで戻れる時間だった。
小川に現れたおれの背中に大牙虎を見つけて、ノイハとセイハが、肉が食えると小躍りして喜んだのは、言うまでもない。




