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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第1章 大森林編

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第24話:女神と話しているうちに怖ろしい可能性に気づいた場合

マラソン日和です。

 虹池の村に居座る大牙虎の群れの中に不意打ちを食らわせて混乱させ、一匹分、肉をお持ち帰りした後、ある程度、虹池の村を離れてから、おれは一度止まった。

 一本、木の枝を折り、ロープで大牙虎の後ろ脚をその木の枝に結びつける。

 その枝を木に斜めに立てかけると、ぶらりと大牙虎が逆さに吊り下げられる。

 その大牙虎の首を切り裂き、血を流させる。

 そして、そのまま、枝を右肩にかついで、おれは走り出した。

 走るおれの後ろに、大牙虎の血が散っていく。

 おれの後ろに、血だらけの道ができていく。

 王の道とは、そういうものかもしれない。そんなことを思いながら、おれは走った。


 思っていたよりも時間がかからずに虹池の村を混乱させることができたので、帰りは『高速長駆』ではなく、『長駆』で走った。それでも、能力値が高いので、マラソン金メダリストレベルのスピードでマラソンの倍以上の距離を易々と走り抜いた。

 そのまま、小川まで走って、みんなと合流する。

 セイハは土器を焼く準備、ノイハは弓をみんなに教えていた。アイラとジッドがかまどの火の番をしている。

 おれが戻ると、クマラがほっとしたように笑った。大丈夫だと信じていても、やっぱり心配はしてしまう、そういう表情だった。

 アイラとジッドは、大きな大牙虎に驚いていた。

 アイラとジッドに手伝ってもらいながら、小川で大牙虎を解体していく。

 肉を切り落としていく前に、土器を用意して、まず、梨の皮をむいて、梨の実を土器の底に二個分敷き詰めて、丸石で潰して果汁を出していく。

 梨のつぶつぶジュースのような状態ができたら、その上に切り分けた肉を入れていく。これは明後日用の肉だ。年長は一人五枚、年少は一人三枚にする。

 そして、もう一度、今度は梨を三個分、別の土器にその実を敷き詰め、丸石で潰していく。梨のつぶつぶジュースができたら、さっきの明後日の肉の上に追加する。

 さらに肉を切り分けて、二段目のつぶつぶジュースの上に、のせていく。これは明日用の肉だ。

 また繰り返して、別の土器でつぶつぶジュースを作り、明日用の肉の上にかける。

 今日、この後に食べる分の肉を切り分けて、三段目のつぶつぶジュースの上にのせていく。

 四段目のつぶつぶジュースをその上にかけて、ちょうどいいサイズの平石を重しとしてつぶつぶジュースの上に置いた。

 果汁で肉がうまくなるのは気のせいなのか、本当なのかは分からないが、何か工夫をしている気分になれるのでよしとする。

 残りの肉を煮込み用のブロックと干し肉用に切り分けて、煮込みを仕掛ける。煮込みは、今日から毎日、弱火で煮詰めて、骨までとろけそうなくらい、肉をとろとろにして、四日目に野草を加えて、虎肉スープとして食べる。実際に骨がとろける訳ではないが、虎骨スープはかなり美味しい。とろとろになった肉も、いい感じになる。三日後が今から楽しみだ。

 干し肉は細い竹の棒に仕掛けて、走って調理室へかけておいた。


 アコンの群生地から小川へ戻ったら、いろいろな立合いが始まり、おれはクマラと三回、ジッドとアイラとは一回ずつ立ち合った。ジッドとアイラの立ち合いは、今日はジッドが制したが、二人とも骨折しており、おれが神聖魔法で癒した。

 ジルとムッドの立合いで肩を怪我したムッドをアイラが神聖魔法で癒した。ウルとムッドの立合いでもムッドは怪我をしたので、もう一度アイラが癒した。二度とも負けたムッドはとても悔しそうに、剣術なら負けないのに、とぶつぶつ言っていた。剣術でもどうなるかは分からないし、ジルやウルの方が強い気がしているが、何も言わずにそっとしておく。

 一番小さいエランが、アイラの真似をして、棒を振り回しているのがかわいい。アイラも笑顔で型を教えている。


 今日の食事は、ネアコンイモとトマトのスープに、虎肉の梨漬けを焼いて、さらにデザートとして梨を食べた。

 イモとトマトのスープは、結局、トマト味が優勢なので、トマトスープの具にイモがある、という感じだった。トマトは、どういう利用が一番いいか、いろいろ考えてみようと思う。

 虎肉の梨漬けの焼肉は、大好評を獲得した。たまたま思いついただけの、梨での味付けだったが、これがびっくりするほど、肉をうまいものにしていた。理由は全く分からないので、偶然の産物だと思う事にする。明日も、明後日も食べられるので、みんな喜んでいた。

 デザートの梨も好評だ。しかし、梨はもぎ過ぎたかもしれない。花咲池の村への贈り物のつもりでたくさん採ったのだが、あの場で敵対関係になったので、トトザとマーナの夫婦に二個の梨を渡しただけで、大量に手元に残ってしまった。まだ百五十個以上ある。

 だから虎肉を漬けたりしてみたのだが・・・。朝と夕で食べても、合わせて一日に二十個ぐらいしか消費していないので、まだまだなくなりそうにない。明日からも朝、夕と梨は提供していく。

 クマラの提案で、土兎や森小猪が梨を食べるかどうか、明日一度試してみることにした。

 滝シャワーの後、夜はアイラとゆっくり過ごした。




 アイラが寝息をたてている横で、おれはセントラエムと話をしていた。

「クマラのレベルが、また上がったんだけどさ」


 ・・・そうですか。クマラのレベルの上がり方は、やはり早いと思いますね。


「以前、セントラエムのレベルドレインの話をしたときに、言ったこと、覚えてるか?」


 ・・・経験値の話を私が説明したときの、スグルの話ですね。確か、スキルを獲得すればレベルが上がる仕組みだけれども、実は見えないところで必要な分だけの経験値がたまったら、その時もっとも得意としている分野からスキルが選択されて身に付き、レベルも上がるのではないか、という推論でしたね。結局、経験値がたまってレベルが上がり、レベルが上がるときにスキルを与えられる、という、逆の考え方といいますか。


「この考えが、あたっているんじゃないかなと思うんだ。

 セイハとクマラは、とても頭がいい兄妹だと思う。

 特にクマラは賢い。

 もうこのアコンの村では欠かせない存在だ。

 クマラは、みんなと同じ勉強や運動、武術を全てこなしながら、それに加えておれに立合いを申し込んだり、農場の管理や栽培実験をしたり、芋づるから糸を取り出して布を織ったりと、一番多様な経験を重ねている。

 同じ経験を積んでも、賢明なクマラが吸収する技能や知識は、他の者よりも多いんじゃないかな」


 ・・・ひょっとすると、ただ賢いだけではなく、学習スキルが身についているのではないでしょうか。スグルの考えだと、学習スキルは、他のスキルの獲得を助ける効果があるのかもしれない、ということでしたよね。私がクマラの力を確認してみましょうか?


「いや、それがさ、さっき『対人評価』で確認したんだけど・・・」

 おれはさっき使った『対人評価』で、スクリーンに出たみんなのステータスをもう一度確認する。


 名前:ジル 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:セントラの巫女

 レベルなし 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力6、知力6、敏捷6、巧緻6、魔力6、幸運6

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(0)、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:ウル 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベルなし 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力5、知力5、敏捷5、巧緻5、魔力5、幸運5

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(0)、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:ノイハ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:狩人

 レベル5 生命力50/50、精神力50/50、忍耐力50/50

 筋力30、知力38、敏捷39、巧緻36、魔力23、幸運15

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(2)長駆、解体、発展スキル(2)捕縛、弓術、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


 名前:ヨル 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力20/20、精神力20/20、忍耐力20/20

 筋力13、知力12、敏捷15、巧緻11、魔力12、幸運8

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(2)長駆、採集、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:ムッド 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力20/20、精神力20/20、忍耐力20/20

 筋力13、知力11、敏捷13、巧緻13、魔力9、幸運12

 一般スキル・基礎スキル(1)運動、応用スキル(0)、発展スキル(1)好奇心、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:スーラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力20/20、精神力20/20、忍耐力20/20

 筋力16、知力17、敏捷16、巧緻15、魔力16、幸運11

 一般スキル・基礎スキル(2)運動、調理、応用スキル(0)、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:セイハ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベル2 生命力20/20、精神力20/20、忍耐力20/20

 筋力12、知力18、敏捷12、巧緻16、魔力17、幸運10

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(1)作炭、発展スキル(0)、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


 名前:クマラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の婚約者

 レベル5 生命力50/50、精神力50/50、忍耐力50/50

 筋力30、知力44、敏捷33、巧緻37、魔力39、幸運18

 一般スキル・基礎スキル(2)信仰、学習、応用スキル(1)栽培、発展スキル(1)論理思考、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:覇王の后、戦士

 レベル10 生命力130/130、精神力130/130、忍耐力130/130

 筋力71、知力61、敏捷70、巧緻69、魔力59、幸運27

 一般スキル・基礎スキル(4)運動、調理、信仰、説得、応用スキル(2)殴打、蹴撃、発展スキル(2)戦闘棒術、苦痛耐性、特殊スキル(1)、固有スキル(1)


 名前:シエラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベル1 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力7、知力9、敏捷8、巧緻8、魔力8、幸運8

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(0)、発展スキル(1)魚料理、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


 名前:ジッド 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:戦士

 レベル8 生命力80/80、精神力80/80、忍耐力80/80

 筋力73、知力59、敏捷68、巧緻62、魔力49、幸運21

 一般スキル・基礎スキル(3)運動、調理、説得、応用スキル(3)殴打、長駆、剣術、発展スキル(1)戦闘視野、特殊スキル(1)、固有スキル(0)


 名前:エラン 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:なし

 レベルなし 生命力10/10、精神力10/10、忍耐力10/10

 筋力3、知力3、敏捷3、巧緻3、魔力3、幸運3

 一般スキル・基礎スキル(0)、応用スキル(0)、発展スキル(0)、特殊スキル(0)、固有スキル(0)


「どうやら、一般スキルの名前が分かるようになったみたいなんだ。『対人評価』のスキルレベルが上がったんだろうな。それに『対人評価』で消費する耐久力は少なくなった。これもスキルレベルが上がった効果なのかもしれないと思う。それで、クマラのスキルなんだけど、確かに、学習スキルが身に付いているみたいだな」

 クマラのスキルは、基礎スキルが信仰、学習、応用スキルが栽培、発展スキルが論理思考となっていて、あとは特殊スキルなのでまだおれにはそのスキルが何かは分からない状態だ。

「学習スキルだけじゃなくて、『論理思考』って、おれが持ってない発展スキルなんだよ。クマラが賢いのって、このスキルの影響もあるんだろうな」


 ・・・特殊スキルを確認しましょうか?


「・・・セントラエムは、おれ以上の力を使えるんだよな。まあ、神族なんだから、当たり前なんだけどさ。おれの『対人評価』って、セントラエムに対しては使えないの?」


 ・・・使おうと思えば、使えるはずですが。


「じゃ、試しにやってみようか」

 おれは意識を高めて、『対人評価』をセントラエムに向けてみる。

 スクリーンに表示されたのは・・・。

『レジストされました』

 あれ?

「セントラエム、レジストされましたって、なってるんだけれど・・・」


 ・・・ああ、そうなりましたか。別にスグルのスキルに抵抗した訳ではなく、単純に私の方が、スグルよりも少しレベルが上なので、うまくスキルが働かなかったということでしょう。レベル差が大きい場合はたいていレジストされます。レベル差の上下に関係なく、レベル差が小さい場合には、かなりの確率でレジストされますしね。


 あ、そうなんだ。

 なんか悔しいな。

 もう一回、挑戦だ。

 えい。


『レジストされました』


「もう一回やってみたけど、やっぱり『レジストされました』って、なるよ」


 ・・・だから、さっき言いましたよね? レベルが上の存在に対しては、スキルが通用しない場合もあるのです。


「場合もある? ということは、成功することもあるってことか?」


 ・・・そうです。力の差を越えて、スキルを使用することは不可能ではありません。


 そうか。

 なら、いつも以上の集中を。

 真剣に、心から、力を振り絞って。

 『対人評価』を使う。


 名前:セントラエル 種族:神族 職業:守護神(中級神)

 レベル52 生命力7200、精神力13000、忍耐力5500

 筋力230、知力340、敏捷265、巧緻285、神力500、幸運84

 『これ以上の内容はレジストされました』


「あ、一部分だけど、成功した」


 ・・・えっ? 本当ですか? 三回目で?


「本当だって。スキルに関する内容はレジストされたみたいだな」

 おれは短く答えた。

「おれとセントラエムのレベルは2つちがい。生命力とか、精神力とか、忍耐力とかの数値が人間とはケタ違いに多いのは、神族だから、種族補正でそうなるのかな。その他の能力値は、そういう圧倒的な差がある訳じゃないか。筋力、知力、敏捷、幸運なんかはおれの方が数値は高いくらいだもんな。これは驚きだ。魔力は神力って、呼び名がちがうけど、似たようなものだとしたら、この数値はセントラエムの方がすごく大きい」


 ・・・本当ですね。やはりスグルは、人間としては完全に規格外だと考えられます。筋力・知力・敏捷・幸運の数値が、レベルの近い神族よりも高いということは、神と戦ったとして、神に攻撃をあてた上に、神を傷つけるだけの能力をもつ、ということですから。いいえ、それどころか、下級神であればスグルが圧倒してしまうことすら、考えられますね。


 怖ろしいことを聞いてしまった。

 おれは、下級神を倒せるレベルにいるらしい。

「それでも、生命力の差は圧倒的だからなあ」


 ・・・忘れていませんか? 守護神の私がいる限り、私の神力で、私の精神力や忍耐力が尽きるまでは、スグルの生命力を回復させることができるのです。だから、生命力の差は、埋められない差ではありません。


 そういえば、そうだった。

 守護神が中級神だということは、下級神よりもステータスは高いはず。

 だから、一撃で即死、というようなことがない限り、神力500のセントラエムからの回復を受けられ続けるし、セントラエムの精神力は五ケタだから、ある意味で無限に回復を受けられる。

 だから、か?

 神族すら、おびやかす可能性があるから。

 転生を世界の端みたいなところに送り込んだのか?

 それは、言いかえると・・・。

「上級神は、おれが神族と戦う可能性があるって、考えたのかな・・・」


 ・・・まさか、そん、な、はず、は、ない、・・・と、言えない、です、ね。


 おれとセントラエムは顔を見合わせた・・・というつもりにおれはなった。相変わらず、セントラエムとは話はできるが、姿は見えないままなのだ。




 翌日からの祈りの時間は、おれは信者の信仰心を感じ取るように、見えないものを見ようとする修行を始めた。

 これは、セントラエムのアドバイスによるもので、神族との戦いを前提とするのなら、神族が見えない今の状態では、いくらレベルが高くとも、攻撃を当てることさえできない。

 それでは、戦いにならない。

 だから、「鑑定」系のスキルのうち『対人評価』や『物品鑑定』、『範囲探索』などの上位スキルである「心眼」系スキルか「神眼」系スキルを身に付けることが必要になる。

 そう教えられたのだ。

 ちなみに、セントラエムは『神眼看破』という特殊スキルによって、その気になれば、スキル名からこれまでの経験を書き記した「ログ」まで、見破ることが可能なのだという。

 言われた通り、素直に修行していると、確かに、一見全員が集中して祈っているようで、祈りの想いの大きさや純粋さに、いろいろな差があるように感じられた。

 おれは、見えない何かは、確かに存在していると思う。

 それは、前世で、いろいろな部活動を担当しているとき、「不思議な勝ち」を感じたことで、いつもそう思うようになっていた。

 一生懸命、努力した先にある、何か、突き抜けたものの存在。

 論理や科学では、説明がつかない、神秘としか思えないこと。

 この世界では、話ができる神さまが、疑いようもなく、存在しているしね。


 水やりランニング終了後、みんなと分かれて、『長駆』スキルを持つノイハ、ヨル、ジッドとおれの四人で、前回の探索で見つけたばかりの遠い竹林を目指して走った。

 移住予定者用の住居を造るための竹を確保するためだ。

 みんなで歩いて行って、竹林で一泊して戻ろうと思っていたが、それで子どもたちを連れて歩くよりも、ノイハとジッドとおれで、竹の太い部分を中心に運び、ヨルには先の細くなっていく部分を中心に運ばせることで、その日のうちに行って戻れるという計算が立ったのだ。

 大牙虎には動きがない。

 花咲池の村は、いろいろとおかしな動きをしているみたいだけれど、おれたちへの影響はない。

 大牙虎以外の相手なら、アコンの村はアイラがいれば十分守れる。

 近くの竹林では竹が少なくなってきている。

 全滅はさせない、というのがこの森の生き方だ。

 だから、この遠い竹林を利用するしかない。

 おれたちは一番遅いヨルのペースに合わせて走った。マラソンで言えば、「サブスリー」とかいう、三時間切りでゴールできるペースだろうか。

 三時間くらいで竹林に着いたら、ヨルには休憩をとらせ、その間に竹を切り倒していく。

 ノイハは十本なら持って走れると言い、ジッドは十五本だと言う。おれは両肩に十五本ずつ、合計三十本持つことにした。切り分けた細いところは、ノイハ、ジッド、ヨルで三等分にした。竹林荒らしになってしまったが、全滅はさせてない。まだ、この倍は切り倒しても余裕があるだろう。

 明日も来ることにして、おれたちは走って戻った。

 予想していたよりも早く戻れたが、切り倒してきた竹は、新居の建設予定地に置いて、小川にいるみんなと合流した。

 ヨルはくたくたで、武術修行は休憩。

 ノイハはくたくたなふりをして、武術修行はお休み。

 そういうところだよ、ノイハ。

 見えないものを見るって、こういうものも含むのだろう。

 時間にゆとりがあったので、明日は少し、寄り道をしよう。

 食事、勉強、武術、シャワーといういつもの流れ。

 シャワーはいつも以上に気持ちが良かった。

 夜、セントラエムと話すときは、セントラエムには前にいるように頼んで、セントラエムを見ているつもりで、話をするようにした。

 これも修行の一環なのだが、セントラエムが本当に前にいるのかどうか、そこは謎だ。


 翌日も、水やりランニングの後、同じメンバーで出発した。

 ノイハは嫌そうな顔を露骨にしていたし、ヨルも元気がない。

 ジッドは、さすが、年長者だ。無表情で走っている。喜んではいない、な。

 しかし、『長駆』では、話をするゆとりはないので、全員の呼吸だけが聞こえてくる。

 昨日とは違うルートなのだが、そもそも、この森の中を移動するとき、ちがいがはっきり分かる者はいない。当然、三人とも、ルートが違うことには気づかない。

 おれが立ち止って、休憩を告げた。

「これって・・・」

 ヨルが見上げて、あるものを見ている。

「おい、オーバ、これ、この前の、ぶどうじゃねーか!」

 ノイハが満面に喜びを浮かべて、叫んだ。

 ジッドは・・・。

 ・・・おっさん。

 なんで、既に、もいで、食ってんのさ・・・。

 この食いしん坊オヤジめ。

「まあ、今回の特別任務での、ごほうびみたいなもんだ」

「うおうっ、やったぜぃ」

 ノイハもジッドに続く。

 ヨルも嬉しそうだが、背が届かないので、おれがひと房、採って手渡した。

 ジッドはもう三房目に突入している。

 おれはお土産用に三房、かばんに入れた後、自分用にひと房、もいで、食べた。

 前回、おれが持ち帰ったときは、一人三粒か四粒ずつくらいしかなかったので、今日はたくさん食べられる。少ない量だったが、大人気だったフルーツだ。

 マラソンのごほうびとしては、いいものだろう。


 昨日と同じように、河原でノイハはくたくたなふりをして修行をさぼり、本当にくたくたなヨルは休憩をした。ジッドは、二日目はさすがに疲れたのか、アイラとの立合いを断っていた。残念そうに、アイラがおれを見たので、今日はおれが二回、アイラと立ち合った。

 三日目の焼肉も大変美味しく頂いた。大牙虎には、ある意味感謝したい。煮詰め続けている大牙虎ブロックも、既にとろとろな状態で、明日のとろとろ肉スープも楽しみだ。

 毎日、朝夕と食べているが、梨はまだまだ根強い人気を保っている。この調子なら、在庫は消費されそうだ。

 お土産のぶどうはやはり好評で、クマラがぶどう栽培に野望を抱いているようだった。

 今日も、アコンの村は平和だった。

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