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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第1章 大森林編

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第22話:女神と一緒に、初めての村を訪れた場合

対人戦、ですか・・・?

 朝の祈りは毎日、変わらない光景のひとつだ。ただし、雨の場合は東階の2段目が集会場所になるだけだ。祈りの中心はジル。今、一緒に祈りを捧げないのはおれだけだが、そんなおれを咎める者はいない。なぜなら、女神の加護をもっとも手厚く受けているのはおれだからだ。

 おれたちの女神はおれの守護神だ。女神セントラエムは中級神で、守護しているおれと、信者のうち特に信仰心があつい者、数名に直接加護を与えられる。おれから離れることはないが、信仰心のあつい信者に対しては、離れた場所からでも、その言葉を告げることが可能らしい。だから、おれが離れたところからジルに何かを伝えたいと思えば、セントラエムが伝えてくれる。女神のお告げという形で。しかし、セントラエム自身はおれの近くにいるため、ジルの方からの返信はできない。今後、セントラエムのレベルアップで、もっといろいろなことができるようになることを祈ろうと思う。

 みんなは女神セントラと呼んでいる。初級神から中級神になったとき、セントラエムの名前が変わったので、今度もどこかで名前が変わるかもしれない、と、前回と今回で変化していない部分を利用してセントラと名前を伝えた。だから、宗教の名前もセントラ教となっている。

 祈りの次は体操だ。腕を前から上にあげて背伸びをしてみたり、跳躍するときには手足を開いたり閉じたりする体操である。身体をつくる基本となる筋肉は適当な運動で刺激を与えられないと育たない。腕立てと腹筋、背筋を鍛え、スクワットをする。セイハがとても辛そうだが我慢させる。

 そこからはランニングと水やりだ。全員で小川と農場を3往復し、竹筒ジョウロで、ビワの木、すいか、豆、竹筒栽培の稲に水やりをする。さらに放牧施設の水飲み場の水も追加する。この前まで赤ちゃんだった土兎がすくすくと成長しているのが分かる。

 水やりを終えたら、1日の予定を確認して、セントラ教の巫女であるジルを中心にアイラ、クマラがそれを支えて、活動する。

 今日の予定は、アコンの幹の穴開け、細い芋づるの収穫と植え替え、実験水田の開墾、農場の木の伐採、という内容だった。食事は、ネアコンイモのビワの葉茶スープに干し肉と野草を加えたものだ。あと、修行は必ず予定通りに実施する。雨が降ったら違うけれど。

 おれは別行動で、周辺の探索を進める。目的は、竹林、果樹、きのこ類、または栽培できそうな作物の発見に力を入れる。それと、鉱石も探すことにしていた。さらに、芋づるロープで、見つけた場所とアコンの村をつないで道が分かるようにするのも仕事だ。大牙虎に動きがない限り、最大で三日間は探索を続ける予定だ。

 アイラたちは信頼できる。いざとなったらセントラエムを通じて連絡もできる。

 だから、村をよりよくするために、おれは探索を開始する。




 今日のルートは西部開拓。

 アコンの群生地から北部はジルたちと出会ったきのこ類の採れるところ、一つ目の竹林、野生の豆類、ビワの大木、パイナップルの群生地など、これまでもお世話になっているさまざまなものを発見した。きのこ類のルートから、さらに北に向かえば、オギ沼の方へと進む。北部は既にいろいろと開拓し、発見済みなのである。

 東部はいつもの小川があり、川を下って、スイカや稲を発見したし、日常的に石関係と水の確保で、欠かせない部分だ。魚も採れる。小川に行く途中には栗の群生地がある。気候的にはあまり期待できないが、もし栗が食べられるのなら、秋には食事のアクセントになる。土兎や森小猪の狩り場もこの辺りを中心にやっている。小川の向こうは、まだ開拓していないから期待できるが、とりあえず大角鹿との接触する可能性も考えて、今回は保留だ。

 南部はしばらく進むと石灰岩の絶壁にあたる。イメージとしてだが、大森林は、石灰岩の絶壁を直線とする大きな半円だ。石灰岩の絶壁は、なんとかすれば登れるような気はするが、今のところそこまでの興味はない。こっちはかなり早い段階で、セントラエムの協力を得て、岩塩を発見している。塩は生き抜くために必須のアイテムだったから、守護神頼みで急いだのだ。今後は鉱石の捜索も視野に入れている。石灰岩地形なら、銅なり、鉄なり、銀なりと、いろいろな鉱石がどこかにあっても不思議じゃない。ただし、金属はまだ手を出そうとは考えていない。大牙虎の牙で今のところ作業はこなせている。

 西部は、新しい竹林を見つけただけで、ほぼ探索していない。あとは、アイラとシエラを助けに走っただけだ。だから、まだ見つけていない、アコンの村を支える何かが見つかるのではないかと期待している。それに、そのまま進めば花咲池の村へとたどり着く方角だ。ある程度、もりがどんな状態か把握しておくのは悪くないはずだ。


 最初は、既にロープがつながっている竹林まで来た。

 竹林の竹は現在伐採禁止令を出している。許可範囲は一日一本だが、一本では、何も作業が進まないので、実際には竹の伐採そのものが休止中だ。

 その近くをいろいろと回ってみる。食べられそうなきのこや野草もあるにはあるが、手を出したら全滅させてしまうような、少なさでしかない。果物関係はないようだ。

 そのままさらに西へ移動して、そこでまだ周辺を回ってみる。

 移動しては周辺を回る、ということを繰り返した。

 最大の成果は、「ぶどう」の発見だ。つぶも大きく、ひと房食べたら、かなりの満足度と満腹度があった。植え替えるのは難しそうだから、後で帰りに寄って、収穫したブドウから栽培できるかどうか、試してみることにする。まあ、実を一粒ごとに植えたり、種だけを植えたり、水耕栽培にしてみたりと実験の幅は広いだろう。ぶどうの木は土地がやせていてもよいという話を聞いたこともある。畑にぶどう畑が追加される日を夢見てがんばろう。栽培できなければ、収穫可能な期間は、ここまで通えばいいのだ。

 もうひとつは「トマト」の発見である。これはもう、トマトの森のように、むきむきと群生していたので、持ち帰って栽培しても、ここに取りにきても、大丈夫そうだ。トマトは、好き嫌いが出そうだが、栄養としてもいい上に、繁殖力の強さが怖ろしいほどだ。小さな学校で育てたことがあるが、育てるのを止めた翌年も、その畑に自生して実をつけていた記憶がある。

 ロープを結び、トマトの群生地とぶどうの木、そして竹林をつないだ。これで、誰でも迷わずにたどり着けるだろう。まだまだ芋づるロープはあるので、さらに探索は続けることにした。


 ぶどうの木からさらに西へと二時間進むと水音が聞こえた。

 小川が流れている。東側の小川はアコンの群生地から近くて、利用しやすいが、こっちはかなり遠いので、利用は難しそうだ。

 この辺での川幅は、いつもの小川とおなじくらいか。

 それなら、上流へ行けば、滝があるのかもしれない。

 そう考えて川をさかのぼり、上流の水源を目指して走った。

 驚いたのは、上流は天然のロックダムのようになっていた。岩場を登ると、ダム湖がある。広さはそれほどでもないが、石灰岩の岸壁から、三か所、細い滝が流れ出ていた。いつもの滝シャワーの十分の一くらいの水流が三か所から集まって、ダム湖を形成し、そこから少しずつ流れ出した水が小川になっているらしい。

 深さがそれほどでもなければ、天然のプールみたいなものか。

 それよりも、気になるのは、水鳥の存在だ。

 軽く五十羽は超えているが、人間であるおれが現れても、逃げるそぶりすらない。

 捕まえて鶏肉、という考えも浮かんだが、それよりも羽の回収を優先した。

 矢がまっすぐ飛ぶようになるという話はノイハから聞いていたので、持ち帰ったらノイハが喜ぶだろう。あと、ここの水鳥は、ノイハやクマラと相談して、捕まえたり、飼育したりしてみるのもいいかもしれない。渡り鳥の水場なのだとしたら、ある時期だけの存在かもしれない。

 時折、頭から水の中にもぐる姿が見られたので、魚か何かを捕まえて食べるのだろう。水鳥が一口で丸飲みにできるサイズは、人間用の魚としては小さい。

 そのまま折り返して下流も探索するが、途中で流れが大きく西へ曲がっていたので、『鳥瞰図』で流れる先を確認する。

 そこは花咲池の村だった。

 この小川は森の中を抜けて、花咲池へとつながっているようだ。

 それが分かったので、下流へ行くのは中止した。

 ついでに大牙虎を確認してみたが、動いたようすはなかった。

 そのまま、そこでかまどを組み、火を起こして、干し肉と潰したトマト、少しの水に獣脂を加えて、竹筒でじっくり煮込んだ。

 煮込んでいる途中で、セントラエムを通じて、ジルに今日は戻らないと連絡した。

 時間をかけてトマトスープが完成する。

 まだまだ、味付けは工夫が必要だと思うが、これまでの食事にはない新鮮な味だ。

 今後は工夫していきたい。

 それからさらに二時間ほど探索して、日暮れ前に野営場所を決めて、野営する。

 寝るまでは久しぶりにゆっくりとセントラエムと話し合った。

 その結果、明日は、花咲池の村を目指すことになった。


 朝、樹上のハンモックで目覚めた後、ふと、サーラを思い出した。そう言えば、ハンモックの話をしていたのだが、アコンの群生地へ着いて、実物を見て、使って、驚いていた。

 出ていってから、ほとんど考えることもなかった相手だが、花咲池の村へ行けば会えるだろう。

 顔を洗って、水を飲み、昨日もいでおいたトマトをかじった。

 赤い実の中から、ジェル状の酸味が口に飛び込んでくる。

 ジルやウルも、このトマトのなんとも言えない感じを好きになってくれるだろうか。

 この世界は食料にいちいちケチをつけたりしないが、それでも好き嫌いはある。

 例えば、大牙虎のレバーは、セイハは苦手だ。

 ウルは、パイナップルの熟れてない、すっぱい部分は、いやいやしながらジルに食べさせられていた。熟した甘いところは目を輝かせて食べるので、酸味が強いとウルは苦手なのか。トマトは健康に良さそうだから食べてほしい。

 何より、トマトは栽培が可能で、たくさん収穫できそうなのが、群生地の様子から予想できている。だから、今後、食料としてはある意味メインのひとつとなるはずだ。

 こうして、村を豊かにしていく。

 時間はかかるかもしれないが、着実に、人が安全に暮らせる、豊かな村をつくり、人口の増加に合わせて、生産力を高めて、森の中に国をつくる。

 だから、探索でみんなのためになるものを探しては持ち帰る。

 それが王としてのおれの役目だ。


 小川を下流へと進むが、川幅はほとんど変化しない。あの天然のロックダムが決壊でもしたら大変なことになりそうだが、あのロックダムのおかげで、この小川の水量は一定で安定したものになっているようだ。

 川沿いの探索で、なんと「かぼちゃ」を発見した。

 これも好き嫌いが分かれそうだが、調理次第かもしれない。

 サイズがあまり大きくないので、竹筒に土と根と苗を四本分回収し、実もいくつかかばんに入れる。アコンの木の根元の土を使えば、実の大きさも変わるだろう。

 前世の記憶があるから、これは食べ物になる、とおれは認識しているが、この世界の住人なら、そこに気づかずに、見た目の形で避けるのかもしれない。

 さらに下流へと進むと、岩場で水が地下へと吸い込まれているところにたどりついた。おそらく、ここから地下に入った水が、湧き出しているところが花咲池なのだろう。

 不思議なことに、大森林外縁部の水場は全て、その上流をたどれない。虹池も花咲池と同じで、アコンの群生地の近くの小川がその上流だろうと推測しているが、やはり地下へと流れて、再び湧き出している。

 まるで、水の流れをたどって、森の奥へと人が入ってくることを拒むかのように。

 森全体が、何かを守っている。

 それは、やっぱり、アコンの群生地ではないかと思う。

 まあ、あれだけ不思議な木だ。守られていても、そうだよなって感じはする。

 地下に吸い込まれた小川の向こう側には、魅惑の光景が広がっていた。

 二十本くらいはある果樹の群生地だ。

 しかも、実がなっている。

 というか、実がなっていなければ、果樹の群生地だとは判断できないんだけれど。

 「梨」だ。

 これは、なかなかの発見だろう。

 色は、濃い実なので、いわゆる赤梨タイプ。水分は控え目で、甘みの多くなる奴だ。

 さっそく、ひとつもいで、かじってみる。

 確かに、梨の味がする。

 ありがたい。

 これなら、好き嫌いはなく、全員が食べられるし、喜ぶ。

 数は十分にあるので、二百個くらいは収穫し、かばんに納めた。改めてこのかばんの収納力には感動する。

 しかし、梨ってどうやったら栽培できるんだろうか。

 梨の実をそのまま植えたら、生えてくるのか?

 そのへんがイメージできない。とにかくやってみて、できなければ、実のなる季節にここまでくればいいだけだ。しかも、ここは小川をたどれば着くので分かりやすい。

 収穫中に不思議なことに気付いた。

 果樹のうち、三本に一本くらいの割合で、全く実のない果樹があった。

 大自然の神秘だ。

 それに、梨の果汁で肉を漬けているという焼肉店のことを思い出し、村に戻ったら試してみることを決めた。

 大森林の恵みは、着実におれたちの生活を向上させてくれる。そんな気がするし、そんな木がたくさん存在している。

 森との共存は、大切なのだ。

 それと同時に、梨が腐る前に大牙虎を一匹狩ってこよう、ということも心に決めた。




 梨の発見後は、もう今回の探索は十分だと言わんばかりに、花咲池の村を目指して走った。

 『高速長駆』は今日も快調な走りを見せる。生命力・精神力・耐久力は消耗するが、時間は宝だ。寝れば回復するものには代えられない。

 集落がはっきりと分かるところでスピードを落とし、かなり近づいてからは歩いた。

 村の男がおれに気付いて、村人たちに声をかけている。

 集落の前で、何人かが集まり、おれもその前でとまった。

 こっちを見つめてくる。

 そう言えば、人間が生き残っている村を一人で訪問するのは初めてだ。

 なんか、作法みたいなもんがあるよな、そりゃ。

 名乗り、あげるとか、かな。

 先に名乗らないと、敵対しているとか思われるのも嫌だし。

 まあ、敵対したとしても、問題はないけれど。

「森の村アコンの長、オオバだ。花咲池の村の人たちに話がある」

 ざわっ、とした。

 村人たちが、まさに、ざわついている。

 本当なのか、とか、信じられない、とか、いろいろ言われている。

 うん。

 この反応は、ジッドからも聞いていたので、予想はしていた。

 ジッドたちもそうだが、大森林外縁部の人々は、森の中に人間が生きているとは、考えていなかったのだ。そもそも、彼らは森の中に入ると迷ってしまうので、大草原との境目の、いつでも森から出られる範囲で恵みを得て生活していた。森の奥へと挑戦した者もいたが、その多くは戻ることができずに死んでしまったらしい。正直なところ、森の奥に入って戻らなかった者は、生きているのか、死んでいるのかも分からないのだ。

 まあ、おれと出会って、森の奥にいた人間がおれ一人だけだったということは、ジッドはもちろん、他の全員にとって不思議なことだったのだが、そこは、女神の加護を受けているから、ということでなんとなく納得している。それに、おれの存在で森の奥で生きる術を得ているので、感謝はしていても、疑問は何も言わない。

 でも、まあ、おれに初めて会う花咲池の村の人々からすれば、森に暮らす人、というのはまさに伝説的存在、神にも匹敵する、ということらしい。これはおれが調子に乗っているのではなく、ジッドやアイラ、セイハが言っていることだ。

「サーラ、あれがおまえの言っていた男か?」

 大柄な、身長百八十センチくらいはある男が、サーラの名を呼んだ。

 あ、後ろにサーラがいた。

 男がでかかったので、見えてなかった。

 表情が、暗い。

 目に力がない。

 ああ、これは、なんかひどい目に遭ったんだな、と直感した。

 自業自得、というような面もあるが、おれとしては、アイラやクマラに嫌われたくはないので、サーラに同情するとしよう。

 サーラがうなずいたので、大柄な男がおれの前に出てきた。

「花咲池の村、長のイイザの子、ララザだ。森の人、用がなければ去れ」

 あれ。

 いきなり敵対的だ。

 どういう理由があって、おれの存在が困るのだろうか。

「サーラは返さん。偉大な森の人とはいえ、おれたちの村のことに口出しは無用だ」

 ああ。

 おれがサーラを取り戻しに来た、という感じに受け止められたのか。

 その割には、サーラが大切にされている印象を受けない。

 あの暗い表情、間違いなく、ダークサイドに堕ちている感じがする。

 まあ、どういうことがあったかは、残念ながら予想ができる。

 アイラとちがって、自分の身を守る力が足りないサーラ。

 そういうことだろう。

 そして、それは、この原始的な社会での、ある意味での日常。

 ただし、叔父のジッドと姉との恋愛結婚に憧れを抱いていたサーラにとって、ろくでもない男に蹂躙されるというのは、人としての健康な表情を失う、残酷な出来事だったと言える。

 そういう誰かを踏みにじる行為に対する怒りは感じるが、おれ自身の中に、サーラに対する、うまく言葉にできない感覚もあって、そのことに対する怒りだけにのみこまれたりはしなかった。

 そういえば、こいつ、アイラに半殺しにされたんだっけ。

 もうその怪我は治ったみたいだな。

 敵対的に対応されるなら、味方になってやることもないか。

 別に、サーラを連れ帰るつもりはさらさらない。

 でも、あえて挑発してみよう。

「・・・おまえの話はいろいろと聞いている。まだ幼いシエラにのしかかって乱暴しようとした情けない男なんだろう。成人前のサーラにも、どうせいやらしいことをしたんだろう」

「なにっ!」

 サーラがうつむく。

 当たりだな。

 やれやれ、本当にろくでもない男だったんだな。

 悪いことをしたとは思うが、うーん。

 どうしておれは、サーラには優しくなり切れないんだろうか。

 そんなことを考えていると・・・。

 男はずいっと前に出て、おれを突き飛ば・・・そうとしたけど、おれをぴくりとも動かせずに、逆に後ろへよろめいた。

 筋力値が違う。おれがふんばっていれば、突き飛ばすなんて不可能だ。たかだかレベル3くらいの力で、何ができるということもない。

 ・・・というか、こいつ、偉そうにしているけれど、クマラよりもレベルは下になるのか。

 まあ、サーラはもちろんだが、アイラとシエラのこともある。

 こいつに遠慮はいらない。

 一回くらい、ぶっ飛ばして、おれのもやもやをすっきりさせよう。

 それで力の関係は、はっきり分かるだろう。

 レベル3ごときが・・・という調子に乗った発言は、ここまでとしよう。

 死なない程度のぶん殴る。

 それで、いろいろとすっきりしよう。

「・・・な、なんだ、お前?」

 男は、予想もしなかった出来事に、戸惑っている。

 おそらく、後ろに転がるおれをイメージしていたのだろう。

 まあ、この村の中じゃ、長の息子で、レベルの上で、力も強くて。

 つまりは井の中の蛙。

 残念でした。

「今のは、この森の王たる、アコンの村の長への敵対だとみなす。覚悟はいいか?」

 おれは、一歩、前に出る。

 そのまま、ボディーブローを一発。

 大男は、体をくの字に曲げて、悶絶した。

「よく聞けよ。おれは、サーラを連れ戻す気などない。サーラは自分で選び、この村に来た。村に来たものを大切にするのはお前らの務めだ。おれは、女神の言葉に従い、この村を大牙虎から助けようとここに来ただけだ。女神の加護がいらないのなら、そのまま滅びればいい。邪魔をしたな」

 おれはそう言って、大男を見た。

 聞いていない。

 おかしな姿勢で、そのまま気絶している。

 あら。

 やり過ぎたかな。

 『対人評価』でステータスを確認してみたが、死ぬようなことはなさそうだ。

 おれはくるりと向きを変えて、すたすたと歩き去った。


「お待ちください、森の人」

 森の中に入る寸前、呼び止められた。

 ふり返ると、一組の男女がいた。

「私は花咲池の村のトトザ、こちらは妻のマーナです」

「アコンの村のオオバだ」

 名乗られたら、名乗り返す、ということで良さそうなのでそうしてみた。

「オーバさま・・・」

「さまはいらない」

 何かを言いかけたトトザという男に、即座に割って入って、そう言った。

「おれは女神とともに生きる者だが、ただの人だ。神のように扱われるのは、気分が悪いよ」

 マーナという女性が、意外そうな顔をしている。

 トトザも面食らったようで、口が開いたままだ。

 花咲池の村は、ここから、動き出すことになる。

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