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第14話:女神が見ている前で一線を越えてしまった場合

思春期の方は、必要があれば、読むのを省略してください。

 木の根元にいる二人は、見た目からして衰弱している。

 確か、「怪我」と「衰弱」の表示が出ていたはずだと、『神界辞典』でスクリーンを出して、『対人評価』を行う。


 名前:アイラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:戦士

 レベル5 状態:怪我・衰弱 生命力4/50、精神力9/50、忍耐力6/50

 筋力29、知力21、敏捷27、巧緻27、魔力19、幸運14


 名前:シエラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:なし

 レベル1 状態:怪我・衰弱・昏倒 生命力1/10、精神力3/10、忍耐力2/10

 筋力7、知力9、敏捷8、巧緻8、魔力8、幸運8


 ダリの泉の村!

 ノイハやクマラ、セイハたちと同じ村の人たちだ。

 ステータスは少女の方、シエラがかなり危険な状態にある。

 なぜダリの泉の村とは離れた、花咲池の村の方向に・・・? という疑問はあるが、今は二人を助けるのが先だ。

 とりあえず、弱っている状態で、雨にさらされるのはよくない。

 おれはかばんから、オギ沼の村で回収していたテントを取り出し、その一方を、二人がもたれている木に結び、もう一方を地面へと斜めに伸ばして、重しの石を置いた。

 テントが大粒の雨をはじく音が大きい。

 女性がうっすらと目を開く。

 竹筒を取り出し、水袋から水を注ぐ。

「ダリの、泉の神、さま、かい・・・?」

 女性は腕を動かそうとしたようだが、腕が上がらないようだ。血を流しているのは右足だが、怪我は足だけじゃないのかもしれない。

 水が入った竹筒を女性の口につける。

「飲めるか? ゆっくりでいい。水だ」

 女性が少し、口を開いたので、わずかに水を流し込む。

 ごくり、と、のどの音がする。

「おい、しい。泉の神さま、は、村をすてた、あたしらの最後を、看取りにきてくれた、んだね・・・村人の最後、に、水をくれる、って、ホント、だったん、だね」

「落ち着け。おれは神さまじゃないから。それよりも、この子の方が心配だ。怪我をしているようだが、どういう怪我か、教えてくれ」

「・・・神、さまじゃ、ない?」

「おれはオーバ。女神の命令で、二人を助けに来た。この子の治療を急ぎたい。どういう怪我なのか、分かるのか?」

「・・・シエラ、は、あたしと、一緒に、崖から、落ちて・・・たぶん、左足の骨を、折ってる、はず」

「左足の、骨、か。ちょっと、見てみるぞ」

「さわ、る、な・・・」

「そういう訳にはいかない。助けに来たんだ、信じてもらうしかない」

 さわるな、と言ったものの、彼女に抵抗できる力は残っていないようだ。

 おれはシエラという少女の左足に触れた。触れて確かめると、腫れと熱を感じる。ここが骨折したところだろう。

 骨折が治せるかどうかは分からないが、患部に触れたまま、セントラエムに祈りを捧げ、『神聖魔法:治癒』のスキルを強く意識していく。青い光が少女の足を包む。

「ひ、かり・・・あたた、かい・・・」

 女性、確か名前はステータスでアイラだったか、彼女はおれの手とシエラの足が光に包まれていくのを見つめていた。

 おれはスクリーンを横目で見る。

 光が失われると同時に、シエラのステータスの状態から怪我が消える。

 良かった。骨折も癒せるようだ。

 衰弱と昏倒はそのままだが、これで生命力や忍耐力を急に奪われることはないだろう。

「セントラエム、この子の生命力を回復させられないか?」


 ・・・『神聖魔法:回復』のスキルがあれば、可能です。あのときの、ジルやウルの怪我を癒したときのように、心から私のことを信じて、願ってみてください・・・。


 あのときか。

 セントラエムは、おれの生命力は回復してくれるが、他の者は、そうできないようだ。

 確かあの時は、心から信じる神に祈って、スキルを手に入れた。

 もちろん、その神とは、女神セントラエム。おれの守護神だ。転生するために出会い、それからずっと一緒で、毎晩語り合い、疑いようもなく、その存在を信じ切っている。

 この子の、シエラの生命力を・・・。


『「神聖魔法:回復」スキルを獲得した』


 光が、おれと少女を包み、消えていく。

 スクリーンでステータスを確認。


 名前:シエラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:なし

 レベル1 生命力6/10、精神力3/10、忍耐力2/10

 筋力7、知力9、敏捷8、巧緻8、魔力8、幸運8


 生命力が5ポイント回復している。ついでに、状態異常は全て消えた。

「セントラエム、これで、この子の命は・・・?」


 ・・・この状態なら、大丈夫でしょう。


 女神のお墨付きがもらえたのなら安心だ。

 もう一人、アイラの方を見る。さっきまでは意識があったのだが・・・。


 名前:アイラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:戦士

 レベル5 状態:怪我・衰弱・昏倒 生命力3/50、精神力9/50、忍耐力6/50

 筋力29、知力21、敏捷27、巧緻27、魔力19、幸運14


 まずい。

 昏倒が加わってる。意識がない。

「セントラエム、助けてほしい。こっちの、アイラの方は、怪我はどういう状態なんだ?」


 ・・・足の傷は見た目通り、それに、左足を骨折していますね。あと、右脇腹のあばら骨も三本、ひびが入っています。右腕、上腕部も骨折です。さっきの話では、二人で崖から落ちたということなので、この子、シエラという子をかばったのでしょうね。


 重傷過ぎる!

 おれは慌てて、患部に手を触れる。そして、『神聖魔法:治癒』を連発する。

 右足の傷、ふさがった。

 左足の骨折、つながった。

 右脇腹、もう大丈夫。

 右腕の骨折、完了。

 ステータスの怪我という状態は消えるが、衰弱と昏倒はそのままだ。

 引き続き、『神聖魔法:回復』を行う。

 生命力が5ポイント回復するが、衰弱と昏倒が消えない。

 もう一度・・・。


 名前:アイラ 種族:人間(ダリの泉の村) 職業:戦士

 レベル5 生命力13/50、精神力9/50、忍耐力6/50

 筋力29、知力21、敏捷27、巧緻27、魔力19、幸運14


 アイラのステータスから状態異常が消えた。

 どうやら、おれの『神聖魔法:回復』は、一度に5ポイントしか生命力を回復できないようだ。

 大きな雨音に消されてしまいそうな、二人の小さな小さな寝息が聞こえた。

 どうやら、命の危機は去ったらしい。

 おれはかばんから大牙虎の毛皮を取り出して、そっと二人にかけた。雨とはいえ気候は熱いが、消耗して衰弱の状態にあった二人の身体は冷え切っていたのだ。

 同じ木に、角度を少し変えて、別のテントの一方を結び、もう一方を地面へと斜めに伸ばして、重しの石を置いた。

 土器と石を取り出して、井型に組んだ石の上に土器をのせる。

 ネアコンイモを小さく輪切りにして、皮をむいて、土器に放り込んでいく。

 大牙虎の干し肉は、できるだけ小さく刻む。量は多めでも、形は小さくすることが大切。


 ・・・以前、よもぎを集めていましたね。それと、キシメジもあったはずです。薬効があるので、材料に加えてあげましょう。


「小さく切る方がいいかな」


 ・・・そうですね、その方がいいでしょう。水は多めで、イモをとにかく柔らかく。衰弱の原因は怪我だけでなく、空腹も重なっていたようです。


 セントラエムのアドバイスに従って、よもぎをちぎって追加。キシメジも、ばらばらにして土器の中へ。岩塩を削って、獣脂を少し。水袋から、水はたっぷり。

 土器の周囲にかばんから取り出した薪と竹炭を並べ、獣脂をぬった小枝と、枯れ葉を添える。火起こしはすぐにできた。やはりこのかばんは便利だ。この雨の中で燃料を探していたら、いつまでたっても火などつかないだろう。

 左を向いて、二人のようすを確認する。

 疲れきってはいるようだが、顔色はさっきまでとは違うものだ。

 しかし、このアイラという女性は、レベル5か。

 これまで会った人たちの中で、ジッドの次にレベルが高い。しかも、職業が「戦士」というのも驚きだ。

 大森林外縁部の水源に暮らす人々は、森の恵みを糧に平和な暮らしをしていたはず。村々が争っていたことなどなかったようなのだが、戦士の役割とは何だったのだろう。

 しかも、ダリの泉の村の出身だ。

 ノイハたちの話では、ダリの泉の村は主戦派が中心で、大草原へと迂回して虹池の村へと逃げたセイハやクマラと、他にも花咲池の村へ逃げた者がいる、ということだった。方角から考えると、この二人は花咲池の村へ逃げたはず。戦士が逃げる、ということも違和感がある。まあ、レベル5で大牙虎に対抗できるかどうかは分からないけれど。

 スクリーンで地図を開いて、大牙虎の動きに変化がないこと、アコンの村にも変化がないことを確認した。ついでに、自分のステータスを見ると、精神力と忍耐力が100ポイント以上も消耗していた。

 神聖魔法を連発したし、対人評価や鳥瞰図、範囲探索もかなり使ったからだろう。


 ・・・それにしても、スグルのスキル獲得の速さは尋常ではありません。


「そうかな、久しぶりだった気がするけど」


 ・・・その久しぶりという感覚が、あなただけのものだと思います。さっきアコンの木を離れて、すでに三つのスキルを連続で獲得しています。転生した時、レベルは36でした。あれから一か月半、今はレベル45です。私たち下級神が聞いていた話では、あり得ないことです。


「そう、かもね。まあ、今まで会った中で、一番レベルが高いのはジッド。それでレベル8だった。そう考えたら、確かにおれのレベルは異常に高い。それは今まで話し合ってきたことだし、納得もできるよ。だから・・・」


 ・・・実はスキル獲得には、基礎スキルが重要だ、ということでしたね。


「そう。それで、セントラエムが言ってた通り、上級神が言っていることは、やっぱりおかしい気がするよ」


 ・・・転生時、基礎スキルや応用スキルを獲得させないように仕向けているという、私の考えに賛同してくださるのですね。


「転生者のレベルが守護神のレベルアップにつながるから、レベルアップさせないように、固有スキルや特殊スキルを選ばせている、というのは、あり得るだろうね。

 そもそも、固有スキルと特殊スキルを選んでレベル4で転生したとしたら、おれの『鳥瞰図』は忍耐力を16も消耗するんだ。

 レベル4だったとしたら1日に二回使えば限界だよ。

 それじゃ、使用回数が制限されて、スキルレベルも上がらないし、慎重にスキルを使わなければ生きていけないはずだ。まあ、その方が人間らしいとは思うけど」


 ・・・スキルによっては、忍耐力だけでなく、使うことで生命力や精神力を消耗するものもありますね。まあ、何も消耗せず、常時発動しているのが基礎スキルや応用スキルに多いのも確かです。


「単純に生きていくだけなら、便利な固有スキルや特殊スキルよりも、レベルが高い方が絶対に有利なはずだしね。そう考えたら、固有スキルよりも取れるだけ基礎スキルや応用スキルを選んだ方が、転生後の生存確率は高くなるはずだからね」

 土器の中が沸騰して、ぐつぐつと煮えてくる。

 いい匂いがする。

 おれはセントラエムとの話を切り上げて、そっと目を閉じた。




 かさっ、という音で目を開く。

 アイラが、四つん這いで、おれの方へ近づいてきた。

 その後ろを見ると、もう一人の少女、シエラはまだ眠っているようだ。

 しかし、その格好だと、胸が丸見えなんだが・・・。

「ダリの泉の神さま・・・」

 まだ、勘違いをしているらしい。

「おれは、神様じゃない」

「でも、こんなところに、人がいる訳がないわ」

「いるんだよ」

「わたしたちの怪我を治してくれた」

「女神の力を借りただけだ」

「女神さまの?」

「そう」

「でも、あなたが治してくれたことに変わりはないわ」

 アイラが近い。

 確かに、大怪我をしていたし、衰弱していたし、その上昏倒していたのを何とかしたのは事実だ。

「でも、おれは神様じゃない」

「わたしはアイラ。ダリの泉の村、カガザの子、アイラ。あの子は妹のシエラ」

「おれは、オオバだ」

「オーバ、わたしと妹を助けてくれたこと、感謝するわ。あなたが自分で神様じゃないと言っても、わたしたちにとって、あなたは神様よ」

「ダリの泉の村は、ノイハやセイハ、クマラと同じ村だよな」

「セイハを知ってるの?」

「今は、おれの村にいる。ダリの泉の村は全滅したよ」

「そう・・・」

 アイラはうつむいた。

「妹さんが起きたら、食事にしよう。食べたら、気をつけて花咲池の村へ戻れよ」

「・・・あの村へは、戻れないわね」

 アイラは吐き捨てるように言う。「それに、もう、森の中をどっちに行けばいいのか、分からないもの」

 何か事情がある、とは思っていたけど・・・。

 聞いても仕方がないので黙っていたのだが、アイラの方から、ぽつり、ぽつりと話し出した。

 アイラとシエラは、既に父も母も亡くしていた。父のカガザは花咲池の村の出身で、ダリの泉の村にやってきて母のニエラと結ばれたのだが、ダリの泉の村の者たちは、あまりカガザに優しくなかったらしい。まあ、余所者だもんな。

 母が亡くなり、父も死んだ後、ダリの泉の村での生活は、途端に厳しいものになった。妹のシエラを守り、毎日の食料を得るため、アイラは強くなるしかなかった。魚やウサギという獲物の奪い合い、夜になるとテントにもぐりこんでくるろくでなしの村の若者たち。そんな連中を撃退していくうちに、アイラは村の誰よりも強くなっていたという。

 村落の生活は助け合いの精神かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。まさか、若者たちって、セイハやノイハじゃないだろうな。年も近そうだし。心配だ。

「オギ沼の村からヨルって女の子がやってきて、大牙虎の群れが襲ってくると聞いたとき、戦うか、逃げるか、好きにしていいと、村は決めたわ。

 わたしは村で一番強かったの。

 でも、村のために戦う気にはなれなかった。

 だから、シエラを連れて花咲池の村へ逃げたのよ。カガザの生まれた村だし」

 なじめなかった生まれた村で、必死に生きてきたアイラ。

 村から受けた仕打ちは、アイラにとって、ふるさとを捨てることに、何のためらいも抱かせなかったらしい。

「セイハやノイハも、ひどかったのか」

「あの子たちはわたしより年下だもの。何もないわ。それに、セイハたちは戦うのが嫌で大草原へ逃げたはずよ。ノイハは、戦ったはずだけど、全滅していった中で、よく生き残ったわね」

「まあ、運が良かったんだろう」

「そうね」

 良かった。

 セイハやノイハがろくでもない連中とは違っていて。

 でも、今度はなんで、花咲池の村を出たんだろ?

 おれの心の疑問が伝わってしまったらしく、アイラは続きを語り出した。

「花咲池の村は、父カガザの村。助けてもらえると思ってたけど、あまり歓迎されなかったわ・・・」

 カガザは、嫌われ者だったようで、逃げるように花咲池の村を出て、ダリの泉の村にたどり着いたらしい。死んだ父が実は生まれた村でうとまれていたなんて、知りたくもなかっただろうに。

 それでも、とりあえず、村はずれに泊めてもらえたらしい。

 しかし・・・。

 ここでも、男たちが夜な夜な現れる。

 まあ、それは。

 原始社会の在り方のひとつなんだろうけど。

 食べ物と引き換えに身体を要求されるようにもなってきたという。

 それでも、アイラが気に入った男はいなかった、ということらしいのだ。

 うとましかったカガザの娘たちだってことや、何より、アイラが美しく、魅力的なプロポーションの女性だってことも影響があったに違いない。

 アイラたちはどこにいても気が休まらない。

 そして・・・。

「あの晩、わたしにのしかかってきたのは村長のイイザだった。もちろん、ぶっ飛ばしてやったけど、その時、シエラにも男が襲いかかってたの・・・」

 なんとも最低な感じだ。

 そんなところにいたい訳がない。

 シエラに襲いかかったのは、村長の息子のララザだったという。

 とんでもない親子だ・・・。

 いつか出会ったら、おれもぶん殴ることにしよう。

「手加減なしで、ララザをぶちのめしたわ。殺したかもしれないと思って、シエラを抱いて逃げ出したの。もう行き場はないし、森に入るしかなくて・・・」

 水もない。

 食料もない。

 行くあてもない。

 しかも、逃げなければならない。

 森の奥へと入っていったが、方角はつかめない。

 昼でも薄暗い。

 このあたりのことはよく覚えていないらしい。意識がもうろうとしていたのだろう。

 そして、崖から落ちて、今に至る。

 生き抜くことが厳しい、そういう世界の姿が分かった。


 不意に、温かい感触がやってきた。

 どうやら、唇を奪われたらしい。そのまま、唇を吸われ続ける。

 押しあてられる胸が柔らかい。

 アイラの目がうるんでいる。

 生命の危機に際して、種の保存を優先するとかなんとか、そういう奴か?

 おれは、そっと、アイラの肩に触れ、唇を離す。

 アイラは抱きついてきて、さらに唇を重ねてくる。

 そして、言った。

「生きていくにしても、ろくな男がいないもの。どうせ、いつか、誰かに抱かれるなら。それなら、せめて、一度くらい、神様に抱かれてみたいと思うのよ。お願い。わたしを・・・」

 いや、なんというか。

 何も言えない。

 前世の倫理観と、この世界との違いについて。

 出会ったばかりだろ、とか。

 神様じゃない、とか。

 男と女について。

 人間の欲望について。

 頭の中がぐるぐるして。

 ・・・とりあえず、おれは考えるのを止めようと思ったのだった。




 アイラは「初めて」だった。

 おれも「初めて」だった。この世界では、だけど・・・。

 おれの「初めて」をアイラが奪ったのか、アイラの「初めて」をおれが奪ったのかは、もはやどちらでもいいとして。

 降りしきる雨の中とはいえ、まだ真昼間だったとかそういうこともどうでもいいとして。

 おれが、自分の無数の分身たちを全力でアイラの中に解き放った瞬間。

 いつもの声が響いた。


『「覇王之道」スキルを獲得した』


 なんのスキルだか、よく分からないスキルをおれは獲得していた。

 スキルについては解明できないことも多い。

 意識して使おうと考える機会がくれば、考えればいい。

 しかし、いったい、どこまでレベルが上がるのか。

 自分自身が怖ろしい。

 それが終わった後、アイラはすやすやと穏やかな寝息をたてている。

 結果として、今、こうなっていることは、もう何を言っても仕方がない。


 ・・・スグル。この娘を『対人評価』で確認してみてください。


「セントラエム・・・?」

 そう言えば。

 セントラエムが見ていることを忘れていた。

 あれを見られてしまったか・・・。


 ・・・とにかく、はやく、確認してみてください。


 セントラエムが、慌てている? いや、驚いている?

 何があった?

 あれを見ていたことを指摘されたくないとか?

 いや、守護神が見てしまうのはどうすることもできないだろう。

 そんなことでセントラエムを責めるのはおかしいしな。

 おれはスクリーンを出すのを忘れて、そのまま『対人評価』をアイラに向けた。


 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:后、戦士

 レベル9 生命力21/120、精神力20/120、忍耐力12/120

 筋力61、知力53、敏捷59、巧緻59、魔力51、幸運24

 一般スキル・基礎スキル(4)、応用スキル(2)、発展スキル(1)、特殊スキル(1)、固有スキル(1)


 スキルの種類別の数が分かるようになっている。

 どうやら『対人評価』のスキルレベルが上がったらしい。

 いや、そこ、じゃない・・・?

 おれは『神界辞典』でスクリーンを開いて、もう一度、アイラに『対人評価』を使う。スクリーンに表示された状態で、じっくりと確認する。

 まず、所属がダリの泉の村じゃなくなった上に、セントラ教の信者で、アコンの村人になった。

 職業に、后、というのが加わっている。

 后・・・?

 きさき、だろうか?

 あの、皇后さまとかの、后?

 それだけじゃない。生命力とかが、人間の基本値となるレベル×10よりも多くなっている・・・って、レベルが4も上がってないか?

 さっき確認した時は、レベル5だったはず。

 示されたスキル数は9。レベルと同数だから、間違いない。

 いや、というか、これなら、大牙虎と戦えるんじゃないか?


 ・・・気づきましたか?


「セントラエム、いつの間にか、アイラはレベルアップしているし、ステータスの数値も、かなり高い気がするんだけど・・・」


 ・・・それだけじゃ、ありません。この娘は固有スキルを獲得しています。


 固有スキルを獲得?

 それがどうしたんだ?

「それは、おれだって、ほら、3つあるしさ」


 ・・・違うのです、スグル。固有スキルというものは、転生者が転生の広場で選択して得られるものであって、もともとのこの世界の住人には、あるはずがないもの、なのです。


「それは、つまり・・・」

 アイラが、おれと同じ、転生者だってことか?

 そんな馬鹿な・・・。

 あ、いや、ありえなくはないのか。

 元々のレベルが5というのも、こちらの住人にしては、高いと感じたっけ。

 転生するときに、転生ポイントでスキルを五つ獲得していたんなら、レベルが少々高いことも、納得できるのか。


 ・・・この娘が転生者かどうか、ということであれば、それは違う、と断言できます。


「え? どうして?」


 ・・・この娘には守護神がついていませんから。


 あ、そうだった。

 別の世界からの転生者は、その転生を担当した守護神が必ずついているんだ。

 おれに、セントラエムがついているように。

 じゃあ、転生者じゃないのに、固有スキルを持つってことになるのか・・・。


 ・・・この娘は、スグルに、そ、その、ええと、だ、抱かれたときに、固有スキルを獲得したようです。それに、スグルのステータスも、大きく変化しています。


 まさか・・・。

 確かに、さっきスキルをひとつ獲得したけれど・・・。

 スクリーンは出したままだったので、自分に『対人評価』を使う。


 名前:オオバスグル 種族:人間(王族:アコンの村) 職業:覇王

 レベル46 生命力542/560、精神力487/560、忍耐力421/560

 筋力278、知力345、敏捷290、巧緻211、魔力248、幸運115

 一般スキル・基礎スキル(11)、応用スキル(12)、発展スキル(14)、特殊スキル(6)、固有スキル(3)


 王族・・・。いったいどうして?

 しかも、職業、覇王。魔王と紙一重じゃないか。

 レベル×10に対して生命力などの上限がさらに+100になっている。

 いや、大牙虎と戦うとか、そういう点からはとても有利なのだけれども。


 どうやらおれは、王様になって后を迎えてしまったらしい。

 自覚は全くないけれど。




 セントラエムが、スキル獲得の実態について実験するために、クマラを寝所に呼ばないかと持ちかけてきたが、即座に却下した。

 何言ってんだ。

 そういうのは、実験とかで、することじゃないだろう。

 そもそも、クマラはまだ12歳!

 女神のくせに何を考えてるんだ、とんでもない。

 やがて、妹のシエラが目を覚まし、姉のアイラを起こす。

 目覚めたアイラは、妹のシエラと目を合わせ、それから回りを確認し、おれを見つけて微笑んだ。

「夢じゃ、なかったみたいね」

 どきり、とさせられる一言だ。

 土器の中でしっかり煮炊きし、温かくなったネアコンイモと干し肉のスープをアイラとシエラにゆっくり食べさせた。

 この三日は、森の中で何も食べていなかったというので、時間をかけて、最後の一滴まで食べさせる。

 食後は、アコンの群生地を目指す。

 アイラは自分で歩くと言ったが、それでは時間がかかり過ぎる。

 おれは、シエラを背負って、アイラを抱き上げ、二人の腕を首に回させると、右腕でアイラを、左腕で背中のシエラを支え、アコンの群生地に向かって走った。

 陽が沈む前には、みんなのところへ戻りたかった。

 それは、心の奥に、後ろめたい気持ちがあったからかもしれない。

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