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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第5章 王国内乱編

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第114話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の出陣




 森都アコンは、相変わらず、にぎやかだけど、落ち着いている。


 大草原の氏族たちは多くの騎兵を出し、アイラを総大将として、辺境都市を越えて、スレイン王国へ侵入した。もちろん、アコンからも何人も参加している。


 スレイン王国でこの数年間続いていた内乱は、最終局面に入ったとオーバは言っていた。


 王国北部をまとめた勢力と、王国東部をまとめた勢力が、それぞれ、辺境伯領と接する混乱地域に侵攻し、いずれ、辺境伯領へもその手を伸ばすことが明白である以上、ここに至っての静観は意味がないらしい。


 アイラ、ノイハが騎兵を率いて先発し、ジッドとトゥリムが歩兵を率いてその後を追った。


 女神さまとの話では、すでに、スレイン王国内でいくつかの戦いが行われて、オーバは戦況を優勢に進めているようだ。


 今回、あたしは居残り組の方だった。


 ジルと一緒に、アコンにいた。虹池にはクマラが、ダリの泉にはケーナが入り、大森林の守りを固めている。ちなみに、クマラは三人目の女の子を出産した。


 あと数日で、あたしも成人となる十五歳だ。


 だけど、今、アコンにはオーバがいない。








 ジルとオーバは、エイムの作戦通り、結局は結ばれた。


 ジルが十五歳となった、その日の夜に、だ。


 オーバと一緒に、大草原から辺境都市アルフィを経由して、海沿いの町カスタまで旅したジル。


 ジルなりに、オーバに好きだ、好きだ、と言い続けたらしい。


 ・・・実際、どこまで言えたか知らないけどさ。


 そして、その日。


 夜伽はアイラの予定にしてあり、実際にアイラがオーバの前で獣脂の灯りを消したんだけど。


 そこで、足音を消した薄衣一枚のジルがオーバに抱き着いて、唇を重ね・・・。


 あたしは、ジルが強引にでもオーバの寝床に入れるかどうかを確認し・・・。


 すぐにオーバに気づかれた。


「・・・ジル?」


「・・・はい」


 オーバに名前を呼ばれて、小さく、まるでクマラのように返事をするジル。


 真っ暗闇でも、オーバには分かるんだよね・・・。


「なんで・・・」


「だって、今日は私の成人の日で、私は、オーバが好き、だから・・・」


「いや、アイラは?」


「アイラは、私たちの味方、です」


「えっ?」


「アイラだけではありません、オーバ。クマラも、ケーナも、みな、この瞬間をつくるために、手を貸してくださいました」


 うんうん。


 それは、あたしのお手柄だよ、ジル。


 忘れてない?


「ジル?」


「女神さまからも、認めて頂いています」


「セントラエスまで?」


「ずっと、ずっと・・・オーバが私とウルを助けてくれた、あの、子どもの頃から、ずっと。オーバだけが、私にとって、たった一人の恋しい人です。オーバ以外の男性と結ばれるなんて、私には、考えられない」


「あ、いや、ジル、そぅ・・・うく・・・」


 ジルは再度、オーバの唇をふさいだらしい。


 ふわさっ、というほとんど聞こえないくらいの音が、した。


 薄衣がジルから離れ、寝台から床へと落ちたのだろう。


 女性らしく成長してきたジルと肌を合わせて、何も思わないはずがない。


 オーバは、それでも、源氏の君かと、紫の上かと、なんだかよく分からないことを言っていたのだが、ジルが泣きながら、オーバと結ばれることがないのなら、もう、このまま裸で森を出て死ぬ、とまで言ったところで、ようやくオーバも観念したらしい。


 ふぅ、とオーバが息を吐く音が聞こえた。


「・・・ウル、そこにいるんだろう?」


「・・・え、えへへ?」


 やっぱり、見つかってた?


 アイラは、とっとと、退散してたんだけど、あたしは残って、結果をきちんと見届けたかったもんだから・・・。


「まったく・・・しょうがないな。ウル、今日は、そうだな、クマラのところで休みなさい」


「はあ~い」


 私は、素直に返事をして、クマラの部屋、あっと、宮、か、に向かった。


 あたしを自分の宮に戻らせると、ここに来るのをとめる者がいないとオーバは考えたのだろう。クマラなら、あたしをきちんとそこで我慢させられる、と考えて。いやいや、オーバがちゃんと、ジルを后にするんなら、あたしは大人しくしてますよ。もちろんですとも。


 こうして、その夜、ジルは長年の想いを叶えた。


 これで来年は、私の番が来る。


 クマラに寄り添って目を閉じながら、その時のあたしは、そう思っていたのだった。








 現実は厳しい。


 スレイン王国の内戦は、優位な戦いを進めているらしいけど、あたしの成人の日までに決着はつきそうにない。


 つまり、あたしの成人の日に、オーバはアコンにいない。


 そんなことにあたしは、ちょっと、いらいらしてたんだけど。


 突然、すぐに来てほしい、と、ジルの新しい付き人に呼び出されて、あたしはジルの宮へ向かった。


 シイナとセンリが追いかけてくる。


 ジルは宮の外、竹板の床のデッキに出て、空を見上げていた。


「ジル、どうしたの?」


「ウル・・・」


 ジルは、そのまま空を見上げたままで、あたしの名を呼んだ。


 なんか、変。


 あたしは、そのままジルに近づいて、ジルの手を握る。


「どうしたの? なんか変だよ、ジル?」


「分からないの・・・でも」


「でも?」


「オーバが、何か、黒くて大きな、怖ろしいものと向き合ってるみたい・・・」


「黒くて、大きな、怖ろしい、もの?」


「分からない・・・」


 あたしは、ジルが見上げる空を一緒に見た。


 特に、空がおかしなことはないように思えた。


 だから、ジルが何を見ているのか、何を怖れているのか、まったく分からない。


「女神さまは、スレイン王国での戦況は優位に進んでいると言ってたけど・・・」


「人と人との争いではない、何かが、見えたの・・・」


「ジル・・・?」


 ジルはまだ、空を見上げている。


 あたしはジルに移した視線を、再び空へと向けた。


 すると、空が、突然、光った。


 小さな光は、白から金色へと変化し、まぶしさを増していく。


 これは、いつもの・・・。


「め、がみ、さま・・・?」


「何が・・・?」


 光がはじけて、女神さまの姿が現れたと思ったら、すぐにもう一度輝きはじめて、光が膨らむ。


 とくん・・・。


 自分の心臓の音が、はっきりと耳に入った。


 何かが、ちがう。


 これは、いつもと、何かがちがう。


 何か、特別なことが起きている・・・?


 光がいつも以上に大きく、まぶしくなったと思ったら、はじけて、消える。


 その中から、小さな、女神さまが、降りてきた。


 久しぶりに見た、小さな、女神さま。


 てのひらや、肩に乗る、小さな、小さな、女神さま。


 いや、そのことよりも・・・。


 あたしは降りてきた女神さまに左手を差し出し、てのひらで受け止める。


「め、女神、さま・・・実体化されては・・・」


 ジルがつぶやく。


 ・・・そう。


 小さな女神さまは、女神さまの分身が実体化した姿。


 そして・・・。


「そのままだと、時間が経てば、オーバとともにある本体に吸収されてしまうのでは・・・」


 ジル・・・。


 その通りだよ・・・。


 なんで、女神さま?


 このままじゃ、アコンから、いなくなっちゃう?


「神力を振るうには、分身とはいえ、実体の方が適しています。時間がありません、ジル、ウル。アコンや虹池、ナルカン氏族のテントには、ある程度、結界をかけます。いつまで効果を維持できるかは分かりません」


「結界? 女神さま?」


「オーバに何かあったのですか?」


 ジルが言っていた、黒い、何か。


 女神さまが慌てるなんて、オーバに何かあったとしか・・・。


「今は、まだ、何も。ただ、スグルはこれから、とてつもなく危険なところへ向かいます。私が、スグルを護るために、アコンに分身を残せないほど、危険なところです」


「・・・それは、スレイン王国ではない、ところ、ですか?」


「その通りです、ジル」


 ごくり。


 あたしは、唾を飲みこんだ。


「スレイン王国の内戦は終わったのですね?」


「いいえ、ジル。終わっていません」


「では・・・」


「ウル、女神セントラエスの名において、スレイン王国への出陣を命じます。できるだけ早く、スレイン王国の内戦を終わらせなさい」


「女神さま、それなら、私が・・・」


「お黙りなさい、ジル」


 あたしの左手に乗った小さな女神さま。ただし、その威圧感はオーバに勝るとも劣らない。「異論は認めません、ジル。あなたは、今、月のものがきていないでしょう?」


 あたしはびっくりして、ジルを見つめた。


 ジルがすっと、目をそらした。


 じゃあ・・・。


「ジル、オーバの子が、おなかに?」


「ウル・・・まだ、分からないわ」


「いいえ、ジル。今、あなたのおなかに、新しい命が、スグルとあなたの子が、育っていますよ」


 女神さまが言い切る。


 それなら、もう、間違いない。


 ジルを戦場に出す訳にはいかない。


「ジル、だめだよ」


「ウル・・・」


「ジル、あなたはおなかの子と、このアコンを守りなさい。スグルがこの世界で、必ず最後に戻ってくる、この場所を」


「・・・はい、女神さま」


「虹池からアコンへ戻るように、すでにクマラには伝えました。代わりにシエラを虹池へ行かせるように」


「すぐに伝えます」


「時間がありません。私はこの後、すぐに結界を整え、スグルのもとへ向かいます。ウル、全ては、あなたに。スレイン王国を早く、なんとかしてください。私が与えた、いかなる装備の使用も許可します」


「あ・・・」


 い、今、なんて?


 女神さま?


「聞こえませんでしたか、ウル?」


「い、いえ、聞こえましたが、聞き間違いか、と?」


「では繰り返します。ウル、女神セントラエスの名において、スレイン王国への出陣を命じます。できるだけ早く、スレイン王国の内戦を終わらせなさい。そのためなら、私が与えた、いかなる装備の使用も、許可します。分かりましたか?」


「はいっっ!!!」


 あたしは全力で返事をした。


 その時、シイナとセンリの顔色が、死人のようになっていたというのは、全てが終わって、ジルの付き人から教えてもらうまで、あたしは知らなかった。









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