第112話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の根回し(2)
「それで、何しに来たの?」
エイムの口調が、どこか冷たい。
まあ、それは、あたしが怒らせたからなんだけど。
ダリの泉と、大森林の境目。
四本の木の上につくられた樹上の家の中。
竹板の床に敷いた毛皮に座って、夕食を食べながら。
あたしの右隣にシイナ、左隣にセンリ。正面にエイム。
エイムの隣にいるはずの、夫のトゥリムには、別の家に行ってもらっている。
夕食のメニューは、ピザだ。
ここ、ダリの泉は、アコンの麦栽培の中心で、牛も飼っているから、牛乳から作るチーズがある。トマトソースは、アコンならどこでも手に入るし、大草原でもトマトは栽培されてるしね。
手のひらにのせて、少しはみ出るくらいの円形のピザを食べながら、あたしは答える。
「ふぇいむにしょうなんしにゃいころがなって」
「・・・口の中のものがなくなってからしゃべりなさい、ウル」
うん、そうだよね。
まずは食べてからだよね。
あたしはもぐもぐとピザを噛み続ける。とろーりとしたチーズに包まれた、たっぷり肉汁の牛肉に、うっすら塗られたトマトソースが合う。
ちっさい頃は、あんまりトマトは好きじゃなかったけど、ピザのトマトソースはとっても美味しい。
「おいしい・・・」
「本当に・・・」
「二人とも、大変だったわね。いっぱい食べなさい。これからもウルのことはよろしくね」
エイムがシイナとセンリをねぎらって微笑んでいる。
「はい、エイムさま」
「はい。でも、エイムさま、あたしたちでは、ウルさまをお止めできないのです」
「ウルを止められるのは・・・いないわね、そういえば」
エイムがシイナとセンリから目をそらす。
なんだって?
そんな、わがまま娘みたいな扱いっっ?
「いるよっ! あたしだって、オーバの言うことなら聞くもんっ!」
「オーバしかいないんじゃ、誰もいないのと同じよ、ウル。それに、オーバは忙しくてアコンにいつもいるわけじゃないわ」
「うっ・・・」
それは、その通りかも。
「でも、この子たちは、けっこう、いろいろと、なんていうか、そう、あたしに向かって、ふつーなら言いにくいことを、はっきり言うっていうか、なんていうか・・・」
「それはそうよ。そういう二人だから、アイラとクマラはウルの付き人に選んだんだから」
「・・・えっ? そうなの?」
そんな基準で決まったの、あたしの付き人?
どういうこと?
「ジルの付き人は、希望する人が多くて、それはそれで、決めるのも困ったんだけれど・・・。ウルの場合、希望する人がいなくて困ったのよねえ」
「えっ・・・」
あたしは首を左右に振って、シイナとセンリをそれぞれ見た。
二人とも、あたしから視線をそらしたんだけど?
この子たち、あたしの付き人を希望した訳ではないってこと?
「アイラとクマラが、シイナを呼び出して、ウルのことを頼んだのよ。確か・・・」
「え、エイムさま、その話は、それくらいで・・・」
シイナがあたしとは視線を合わせないように顔をそむけながら、エイムに手を伸ばして、話を止めようとする。
「あやしい・・・シイナ、何か、隠してんの?」
「隠してませんよ・・・」
「じゃあ、なんでこっち向かないの?」
「・・・いやあ、付き人を希望してなかったとか、気まずいじゃないですか・・・」
むぅ・・・。
それは、確かに、そうかもしれないけどさ・・・。
なんか、あたしの付き人になるのに、もうちょっと、何かがあった感じがするんだけど。
「ウルさま、それよりも、ここまで来たのは、エイムさまにお話があったからですよね?」
センリがあたしの肩にそっと触れて、エイムの方を向かせる。
・・・なんか、話をそらされた気がするんだけど。
この二人、何を隠してるんだ?
「・・・そうね。それで、ウル、何しに来たの?」
「・・・あきれた。そんなことのために?」
「えー、そんなことじゃないよー。大事なことだよー」
「大事じゃないとは思わないわ。でも、それは、わざわざ、ダリの泉まで大急ぎでやってきて話すほどのこと?」
「エイムなら、なんかいい考えがあるかなって思ったから」
エイムは、ちらり、とあたしの左右の二人を見た。
つられて、あたしも二人を見た。
シイナも、センリも、何か美味しくないものでも飲み込んだような、気まずそうな顔をしている。
「・・・二人の顔を見る限り、ウルはこの二人には何も言わずにここまで突っ走ってきたのね」
「なんで分かるの?」
「二人の顔を見れば、それは、ね」
「・・・この二人は、あたしの付き人なのに、ジルの言うことの方がよくきくんだもん」
「・・・じゃあ、今回の話は、ジルは、私に話すなって言ってたんじゃないのかしらね?」
「う・・・」
確かに。
ジルは、エイムには言うな、という考えだった。
「ジルさまは、エイムさまには言えない、と」
「今回のことは、ウルさまの独断です」
シイナとセンリがエイムをまっすぐに見てそう言った。
ふぅ、とエイムは息をはいた。
「・・・ジルも、成長したのね」
「・・・あたしだって、成長してるもん」
「そういうところが、成長してないのよ」
「エイムは、いろいろと、はっきり言い過ぎ」
「そうでもしないと、ウルは聞かないでしょう?」
・・・そうなんだけどさ。
今回の場合、目的を達成するための、最適で最高の方法だと思ったんだよね。
「・・・それで、手伝ってくれるの? くれないの?」
「手伝うと言っても、難しいわね・・・」
「とにかく、なんかいい方法はないのかなあ?」
「・・・ウルは、私が手伝うってことを疑ってないのね」
「う・・・エイムは、いっつも助けてくれるし・・・」
「ウルのそういうとこ、嫌いじゃないわ」
エイムがあたしの頭をなでた。
なんか、久しぶりだ。
それなりに背も伸びたし、成人も近づいてるから、子ども扱いよりも、もうちょっと大人らしく行動しなさい、みたいなことをよく言われるけど、こんな風に、優しく頭をなでてもらうことは、なくなってたな。
「お願い、エイム。教えて! どうすれば、ジルはオーバと結婚できる?」
翌日、あたしはダリの泉での女神さまへのお祈りを取り仕切って、麦畑の雑草抜きや牛の乳しぼりを手伝い、夕方の修行にも参加した。
もちろん、シイナとセンリの二人も付き合わせた。
エイムの夫であるトゥリムは、いい修行になると言って喜んだし、ダリの泉に派遣されていた人たちも、あたしや、シイナ、センリの強さに驚きながら、こんな機会はめったにないからと立ち合いを挑んできた。
また、ダリの泉での訓練のようすもしっかりと見学した。
足をそろえて歩く、走る、ということを基本に、列を整えたり、小さな組に分かれたりなど、集団での行動を一致させていく訓練。
オーバの指示でトゥリムが指揮している。
ここにアイラが時々やってくるのは、これを見るためらしい。ちなみに、クマラがやってくるのは、麦畑と牧場を確認するためだ。
訓練内容はオーバの指示だ。
昨日のエイムの話によると、来年にはスレイン王国で戦になるらしい。
そうすると、オーバが長期間、アコンに戻らないってことも考えられるから、ジルがオーバの后になりたいのなら、成人してすぐに行動を起こすべきだとエイムは言う。
とりあえず、エイムが示してくれたことはふたつ。
近々行われる、オーバの大草原の猛獣地帯の探索に、ノイハではなく、ジルを一緒に行かせること。
これには、エイムも後押ししてくれるみたい。
オーバのいない間、アコンを預かる巫女王としていつもアコンに残されるジル。
でも、それだけじゃ、アコンを治めるには、足りない。大森林以外の、外のことも知っているべきだろう。だから、猛獣地帯の探索と、いくつかの大草原の氏族のところへ視察に行って、ジルにも大森林の外のことを学ばせる必要がある。
そういう理由で、ジルをオーバに同行させる。
その代わり、ジルのいない間に、自覚の足りない妹巫女であるあたしに、アコンのことを任せて、自覚を促す、と。もちろん、いろいろな人が補佐する前提で。
・・・エイムによると、後半の方が、本当は必要性が高いらしい。
あたしって、そんなに信頼されてないのかな?
まあ、まずは、ジルが積極的にオーバにせまれるように、二人で過ごす、そういう機会をつくる。
・・・そこで、ジルがオーバに何かできるような気はしないんだけどさ。
もうひとつは、アイラとクマラの了解をきちんと得ておくこと。
この二人は、オーバの后の中でも、アコンの軍事の長であり、アコンの内政の長でもある。
エイムの予想では、きちんとジルの気持ちを伝えれば、反対はしないみたい。
アイラも、クマラも、オーバの后が増えることには、特に抵抗がないらしい。それなら、何も言わなくてもいいんじゃない、って気がするけど、エイムはだからこそ、この二人だけは、きっちり話をしなければならないって、言う。
ケーナとシエラもオーバの后だけど、こっちの二人は、特に問題はないみたい。賛成しようが、反対しようが、オーバがそのことに左右されることはない、とエイムは断言した。もちろん、反対する可能性はとっても低いらしい。
問題は、ジルと同い年で、既に婚約しているジッドの娘のスーラ。
しかも、同い年ということで、スーラには少し、ジルに対する対抗心みたいなのがあるんじゃないか、というのがエイムの見立てだ。だから、ジルが后になろうとすると、それを邪魔するような行動をしてもおかしくないみたい。
だから、アイラとクマラの了解が重要になるという。
スーラの行動次第では、ジッドがどう発言するかも、不安があるみたい。
でも、ジッドは、アコンにみんなが集まる前にあった、大森林周辺の村の均衡をかつて訴えていたらしい。
なんか、あたしも聞いたことがある気もするんだけど、その頃はまだ小さくて、よく分かってなかったと思う。
エイムに言わせれば、スーラが反対したら、かつてジッドが言っていた大森林周辺の村の均衡を理由に、オギ沼からの后がいないことを持ち出せばいい、らしい。
とにかく、オーバと結婚したいのなら、オーバ本人よりも、その周りに認めさせるのが早い。
それがエイムの助言だった。
そこまで分かってて、どうしてエイムがオーバと結婚できなかったのか、不思議。
なんだか、ややこしいところもあるけど、ジルがオーバの后になるのは、なんとかなりそうだと、エイムと話して、あたしは安心した。
・・・エイムには、その先のことまで、ばれちゃってるみたいだけどね。
あたしは今。
手合わせをしている。
得物は木の棒。
相手はアイラ。
場所は・・・ダリの泉、だったりする。
実は、エイムに相談した後、アコンには戻らずに、ダリの泉にそのまま滞在している。
トゥリムたちと猛獣地帯に出かけて、バッファローを捕獲して戻ったり、麦の水撒きを手伝ったりしながら、エイムのところに居候したままである。
アコンに戻る用事があるというシイナに頼んで、アイラを呼び出してもらったのだ。
シイナは、あたしの付き人のくせに、アコンに戻ってジルへの報告をしてるみたい。
アイラを連れて一緒に戻ってきたシイナは、あたしがダリの泉に遊びに行ったことをジルがすっごく怒っていると言っていた。
・・・あたしとしては、遊びに来たつもりはないんだけどさ。
まあ、確かに、ここに来てもう十日目。
ジルが怒るのも分かる。
でも、これ。
エイムの作戦なんだけどさ。
オーバとジルを二人で旅立たせるためには、あたしがいかに無責任なのかってことが、どうやら必要になるらしい。逆じゃないのかな?
なんか、損な役回りのような気もしないでもない。
いや、損な役回りでしかないよね?
・・・べつにいいけど。
アイラが体ごと回転しながら棒で連打してくる。
それらを全て、左右に体をひねりながら下がって受ける。
ダリの泉の人たちは、しーんと黙ってひたすらあたしたちを見てる。
カン、カン、という、棒がぶつかる音だけが響く。
たぶん、棒の動きが速過ぎて、実は見えてないんじゃないかな?
あとで、シイナとセンリには、アイラに修行をつけてもらおうと考えながら、あたしは頭を狙ったひと振りを受けずにかわして、前へ出る。
そのままアイラの右手の甲を強く一突き。
「っ・・・」
小さなアイラのうめきとともに、からんと棒が落ちる。
あたしは棒を構えたまま、アイラを見据えた。
「・・・負けたわ」
そうアイラが言ったので、あたしは構えを解く。
そのまま、女神さまへの祈りを心に浮かべて、アイラの右手を光で包む。
神聖魔法での癒しだ。
骨折させたから、早めに治療しないと。
アイラなら、自分でもできるけど、神聖魔法が使える者同士での立ち合いでは、終わったら互いに互いを治療することが慣例となっている。
「ありがと、ウル」
「どういたしまして。久しぶりに楽しかったね」
「あたしは悔しいわ。一番得意な戦闘棒術なのよ?」
「オーバは、戦は個人の武だけじゃないって言うよ? だから、あたしにはできない全体の指揮ができるアイラはすごいと思うけど」
「・・・個人の武で、戦況をあっさりひっくり返してしまうオーバにそう言われてもね」
「はは、そーだねー」
「それで、こんなとこまで呼び出して、何かあったの? 手合わせするため?」
「・・・来たとたんに、手合わせするわよって言ったのはアイラでしょーに」
「・・・あとで、あの子たちとも、いいかしら?」
アイラがちらりと、シイナとセンリを見た。
「あ、それはこっちからお願い。最近、あたし以外に負けてないから慢心してるかも」
「うふふ、じゃあ、たっぷりと、ね」
アイラの視線を受けて、シイナとセンリが互いに見つめ合って、小さく息をはいた。
アイラとの立ち合いは、一回ではすまない。
五、六回は行われる。
シイナとセンリだと、まだ体格と体力で、ちょっと辛いのだろう。
「あの子たち、ウルが実戦で鍛えてるって聞いたから、楽しみだわ」
「そんな風に言われてるんだ・・・」
「知らなかったの? ま、それで、何の用なの?」
「呼び出してごめんなさい」
「いいわ。どうせ、ここの訓練はオーバに頼まれてるんだし。それで?」
「あー、実は、ね・・・」
あたしは声を落す。
「アイラは、ジルがオーバの后になりたいって言ったら、どう思う?」
「ジルが? ん? 別に、いいんじゃないかしら」
「あ、いいの?」
「別に、オーバが決めることでしょうに」
「そこなんだけどさ・・・」
あたしは、ふうっと息をはく。「オーバはね、あたしたちのことは、娘扱いだから。ジルをそういう相手としてまったく見てないし、オーバに決めろってのが、難しいと思うんだけど。だから、アイラにも後押しをお願いしたいんだ」
「・・・ああ、分かるような気がするわね。オーバが、仮に、ジルに結婚を迫られたとしても、決断せずにうだうだとしてるところが目に浮かびそう」
「それで、オーバを説得してほしいっていうか、味方になってほしいっていうか・・・」
「分かったから。大丈夫。味方するわ。まあ、気に食わないとしたら・・・」
「したら?」
「ジルが自分で言わないってとこ」
「あー、これ、あたしが勝手にやってることだもん」
「あ、そうなの?」
「ジルって、あんまり、積極的じゃないところがあるし」
「・・・それは、ウルの勘違いよね」
「え、そうかな?」
「アコンの発展のために、自分からたくさん行動してきたわよ、ジルは」
「・・・言われてみれば、そうかも」
「でしょ」
「でも、まあ、オーバのことに関しては、うまくいかないって言うか」
「最終的には、うまく行くわよ、きっと」
「ほんとに?」
「だから、早くあの二人をこっちに来させなさい、ウル。二対一でいいかしら?」
「うんうん、すぐに行かせる、行かせる」
あたしは、シイナとセンリを呼び、アイラの前に差し出す。
アイラは二人の武器を指定して、二対一での一回目の立ち合いを始めた。
あたしは、少し離れたところにいるエイムに視線を送る。
エイムがうなずく。
・・・さすがはエイム。
アイラとは、手合わせをしてから話せばだいたい大丈夫だと、エイムの言った通りになった。ちなみに、シイナとセンリを対戦相手に差し出すところも、エイムの予想通り。
くわしい作戦は、エイムからアイラに話してもらえることになっている。
とりあえず、アイラは問題なく、こっちの味方になった。
アイラはシイナとセンリを二人同時に相手にして、五勝一敗。
さすがだ、と思いつつ、二人がかりとはいえ、アイラから一本取れる二人にも少し驚く。
次の日は、猛獣地帯でアイラの指揮を見せてもらって学ぶ。
馬で速度をそろえて、並んで走る。ひたすら走る。
馬の並びを横並びの一列にしたり、三角にしたり、縦の一列にしたり。
馬をおりても、やることは同じ。
歩幅を合わせて、進む、戻る、曲がる。
もちろん、列を変えたり、並びを変えたり。
そんなことをしながら、バッファローを二頭、捕獲。
すごいな、と心から思った。
そのまま、あと何日か、アイラはダリの泉に残るというので、翌朝、あたしはアコンへと馬を走らせたのだった。
もちろん、シイナとセンリも、あたしを追って、アコンへと戻った。
あたしは、後宮のアコンの木の中にある部屋で、クマラのおなかに耳をあてていた。
シイナとセンリが、クマラの付き人になんかぺこぺこしてるけど、ま、それはいいとして。
どっくん、どっくん、と音が聞こえる。
クマラとオーバの、三人目の子が、クマラのおなかにいるのだ。
「心臓の音、なのかな?」
「そうよ、ウル。おなかの中の赤ちゃんも、生きてるの」
耳を離して、クマラを見上げたあたしに、クマラはにっこりほほ笑んだ。
相変わらず、クマラの声は小さいけどね。
アコンに戻ってすぐ、あたしはジルのところには行かずに、すぐクマラの部屋をめざした。
妊娠中で、かなりおなかが大きくなっているクマラは、基本、部屋にいる。
アコンの木の中の、部屋だ。
もう陽は落ちたので、明かり取りからは、光が入らない。
小皿の獣脂を燃やす炎が、部屋の中を照らす。
にぶい、にぶい、と言われるあたしにも、クマラの付き人たちが、出て行ってほしい、という顔をしていることは、分かる。
分かっているけど。
今、出て行ってほしいのは、付き人たちの方。
シイナとセンリを含めて。
・・・はっきり言うと、アイラの付き人、クマラの付き人、ケーナの付き人、シエラの付き人、そして、ジルの付き人は、仲が悪い。
アイラとクマラ、ケーナ、シエラ、ジルの仲は、とってもいい。
それなのに、付き人同士の仲は悪いのだから、不思議だ。
うちの二人、シイナとセンリは、どこの付き人にも、よくぺこぺこしてるから、仲がいいとも悪いとも言えない気はする。でも、その分、苦労してる・・・のかもしれないけど。
「それで、どうしたの、ウル?」
「あ、うーんとね・・・」
「話しにくいことね?」
「あー、そうなんだけど・・・」
「・・・あなたたち、ちょっと、外していて、ね?」
・・・さすがはクマラ。
すぐに分かってくれて、嬉しい。
シイナとセンリはさっさと、クマラの付き人の二人はしぶしぶと、アコンの木から出ていく。
「・・・わざわざここまできて、二人で話したいってことは、アイラを呼び出したのと同じ内容?」
「あー、知ってたんだ」
「そういうの、いちいち教えてくれるのよ。アイラがどこに行ったとか、ケーナが何をしてたとか、いろいろとね。そんなこと、別に本人に聞くだけなのに」
「あー」
「それが仕事だと勘違いしてるみたいね。近いうちに、別の人に代わってもらうつもり」
「え、そうなの?」
「後宮を乱す原因だもの。アイラも、そのつもりみたいだから、シエラのところもそうなるだろうし、ケーナもそうするかもね。ジルは、どうかな?」
「・・・分かんない。うちのシイナたちも、そうした方がいいかな、クマラ?」
「ふふふ、ウルは相変わらずね。あの子たちは、大丈夫。付き人の中で、一番、後宮のために働いているもの」
「あ、そうなんだ」
「ウルの行動について謝って回るのが仕事みたいになってるから、叱られ役として後宮をひとつにまとめてくれてるのよね」
・・・クマラの笑顔があたしの心に突き刺さるんだけど。
そんなことになっていたとは。
どうりでぺこぺこしてるはずだ。
「アコンに人が増えて、いろいろなことが変わっていくけど、なかなか難しい」
「そーだね」
「それで、話は、ジルのこと?」
「それも分かるの?」
「分かり切っている気がするけど・・・」
クマラがこてり、と首をかしげた。
あたしは、クマラに預けていた体を起こした。
「オーバを説得してほしいって、こと、よね?」
あたしはごくり、と唾を飲んだ。
クマラの小さな声の響きは、賛意ではない気がしたのだ。