第109話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の初陣(2)
虹池に向かってあたしたちは進む。
それほど急いではいないので、歩いて、だ。虹池までなら歩いて3日くらい。
虹池までは、道、がつくられてる。
大森林の、あたしたちの道ってのは、ネアコンイモのロープのこと。
大森林に生えている樹木の、かなり高いところに、そのことを知っている人だけが分かるように、ロープが結んである。そのロープが、道。
これなしで、大森林は歩けない。
アコンの群生地を中心に、虹池までが一本目。大草原につながる重要な道だ。
二本目はダリの泉まで。ダリの泉は、アイラやノイハの暮らしていた村があったところで、オーバはダリの泉の近くでも何かをやろうとしてるみたい。
あと何本か、結んである道は、何かが採れるところが多い。梨の群生地とか、ぶどうの群生地とか、パイナップルときのこの群生地とか。
あたしが熊さんたちの縄張りまで、こっそりロープを結んだんだけど、やっぱりオーバにはばれてて、ちょっとだけ怒られた。
ロープなしでも大丈夫なところは、アコンの群生地から滝の小川までの間と、滝の小川の向こう岸の周辺。毎日村の人たちが移動するから、下草が生えなくなって、あたしたちにははっきりと道が分かるのだ。小川の流れに沿って歩くのも迷わないしね。
でも、虹池やダリの泉へ行くには、絶対に、ロープの道なしでは無理。
一番最初は、オーバが道を結んで、ジッドが試したみたい。慣れるまではなかなか、道を見分けるのが難しい。
アコンの村の、シイナくらいの子たちは、まだ、道について教えられてない。そもそも、アコンの村の周辺で何も困らないんだから、下手に大森林を動くようなことはさせない方針みたい。あの子たちは大草原に帰りたくても帰れないってこと。まあ、誰一人として、帰りたいって言わないんだけど。
ふぅ、とエイムが息を吐いた。この中では、あたしも含めて、エイムが一番、レベルが低い。
「虹池まで三日かかるんだから、どこかに休めるところをつくってほしいわ」
「・・・前は、木にのぼって、ハンモックで寝てたんだからな~。今は、森の獣におれたちが負けるこたぁないって分かってっから、そのまんま木の根に体を預けて寝るだけだけどさ。そんで、休めるとこって、どんな感じのもんなんだよ?」
「エイムが言いたいことは分かるわ。交代で見張りをして、木の根にもたれて寝るって、けっこう疲れるのよ。一日分の距離のところで、二、三本、木を抜いて、家を建てたら? まだ虹池の村とか、ダリの泉の村とかから集めた屋根用の大きな布が余ってるんじゃない?」
「でもさ、こんなとこに家、建てても、おれたちだって、毎日は使わねぇよな。それだと、どっかの獣に荒らされるんじゃねーかな」
「あたし、木の上のハンモックでいーよー」
「ウルはまだちっさいから」
「そうよ」
「そうね」
「えー、ちっさいのは子どもなんだからしょうがないもん」
あたしはぷくっと頬をふくらませた。
エイムがそっと、あたしの頭をなでる。優しい感触。
「ハンモックはともかく、木の上ってのは、いいと思うけど」
「木の上? このへんの木は、アコンの木みたいにはできないわよ?」
「そうね、だから、一本で考えるんじゃなくて、三本の木で、その間の空間をうまく使って、アコンの村で竹の床のスペースをつくってるみたいに、できないかしら」
「さっすが、エイム。そんならできそうな気がする」
「オーバが交易するって言えば、必ずそうなるわ。そうすると、この、道、にそういうところがあった方が、みんなにとっても助けになるはずだわ」
「じゃあ、いつかオーバに提案するとして、今夜と明日の夜、休んだところに目印でもつけとくといいかもね」
「建設予定地ってやつだな」
ノイハが難しそうな言葉を自慢気にそう言った。
そんな話をしながら、大森林の中を歩いて行く。
アイラたち、大人の話は、分からないわけじゃないけど、ちょっとだけ、難しい。
でも、きっと、こういう、何気ない話の中で、あたしたちのアコンの村は、大きくなってきたんだろうなって思う。
夕方、野営場所が決まってから、エイムが手合わせをしてほしいと言ってきた。
村での修行では、エイムと手合わせをしたことがない。
レベル差があり過ぎるから。
「戦場に出るからには、鍛えておきたいの」
そう言う気持ちは大切だとあたしも思う。
「でも、剣術でお願い、ウル。戦場の相手は無手ではないし、大草原は剣が主武装だから」
エイムとの手合わせは、もちろん手加減をしながら、五本、みっちりこなした。
エイムは、骨折、五回。
あたしは、骨折なら二十回以上、神聖魔法で治療できる。
あたしが生み出す女神さまへの祈りの光に包まれながら、エイムが、ありがとう、とつぶやいた。その感謝の言葉が指すのは、神聖魔法での癒しのことなのか、剣術での手合わせのことなのか、それとも、その両方なのかは、分からなかった。
エイムが休むと、今度はアイラにも頼まれて、五本、受けて立つ。もちろん、五本とも、あたしの勝ちだけど。それに、アイラは自分で治療ができる。
ノイハは真剣な表情で弓の手入れをしていた。
アイラに言わせると、あれは手合わせをしないためのポーズらしい。
そうは言っても、実際に手合わせをすると、ノイハはアイラよりも強い。でも、戦場なら、ノイハの弓は有効な武器になるとエイムは言う。なんだかんだ言われるけど、実はノイハってすごい。
「ねえ、エイムは、もといた大草原で戦えって言われて、嫌じゃないの?」
「大草原で生まれ育ったから、ってことかしら? 別に、出身のナルカン氏族を相手に戦うわけじゃないし、どちらかといえば、ナルカン氏族のために戦うわけでしょう?」
「うん? そうなのかな?」
「女神さまが伝えてくれたオーバの指示ではそうだわ。ウル、大草原はね、それぞれの氏族がばらばらに、離れて暮らしているわ。遠く離れた別の氏族に嫁入りして、そのつながりで味方するようなこともあるけど、もともと、それぞれの氏族はひとつひとつ、自分たちのことだけをなんとかしようとしていた。だから、争いも多かったんだけど、それをオーバは、氏族同盟という形で、大きく変えたの。オーバの考えでは、スレイン王国の辺境都市まで交易しようとしたときに、そこまでの間の氏族がばらばらでいくつもあるといろいろ不便だから、ひとつにまとめようとしたって、まあ、そんなことを言ってたわ」
「・・・なんで、オーバは、ばらばらだった氏族をまとめられたのかな?」
「うーん、氏族がばらばらに暮らしているのは、大草原では食糧の確保が難しいから、かな。大草原の氏族は、羊とともに生き、羊によって生かされてるわ。大草原では羊だけが支えだった。オーバはそこに、大森林で採れる食糧をナルカン氏族へ持ち込んだ。大草原での氏族間の争いは、もともと食べ物の奪い合いだったから、無駄に争って奪い合わなくても、食糧をもってるナルカン氏族と同盟を組めば、冬を越せるだけの食糧を分けてもらえる。大森林のアコンの村でなければできないことだわ」
「オーバは、村から、何を持ち出したの?」
「何だと思う?」
うーん。
うちの村で、よそに持っていってもかまわないくらい、たくさんある食べ物って言えば・・・。
まずは、まちがいなく、あれ、だ。
「ネアコンイモ?」
「そうよ」
「でも、大草原から口減らしの子を受け入れてるけど・・・?」
「おそらく、だけど、オーバは口減らしがなくならない程度に、食糧を分けてるわ」
「・・・えー、それ、いじわるなの?」
「アコンの村の人口を増やしたいって、オーバはずっと言ってたでしょう? それに、いじわる、ではない、かな? だって、アコンの村にやってきた子たちは、喜んでるわ」
「あ、そっか」
あたしはシイナを思い浮かべた。
シイナは大草原の、セルカン氏族だったかな? 辺境都市に近い氏族の出身で、二度と帰りたくありません、絶対に追い出さないでください、どんなことでもやりますから、って言ってた。
「エイムも、喜んだの?」
「そうよ。毎日いろいろなものが食べられて、びっくりしたわ」
そう言って、エイムが笑った。
そろそろ寝るぞっ、とノイハが言い、あたしたちは話をやめた。
野営の夜番は、あたしが一番、エイムが二番、ノイハが三番で、最後はアイラと決まった。
そうして、大森林は夜に飲み込まれた。
三日目の昼過ぎ、虹池に到着。
久しぶりの、森の外だった。
かつ、かつ、かつ、かつ、と蹄の音をさせて、大きな馬が一頭、こっちにやってくる。
ここの馬の群れのリーダーのイチだ。
以前は暴れん坊だったらしいけど、オーバを乗せるようになってから、無駄に暴れるんじゃなくて、オーバの指示に従って走り、仲間を的確に率いるようになったという。
「イチ~!」
あたしは大きく手を振りながら、イチに近づいていく。
イチもあたしに寄ってきて、頭を下げてくれる。
あたしの背丈では、イチの頭は高すぎて届かないもん。
頭を下げてくれたイチの顔をぺたぺたとなで回す。
イチもぺろりとあたしの顔をなめてくる。
「あはは、元気だった、イチ?」
ひひーん、とイチは返事をする。
うん。
イチが暴れん坊だったとか、信じらんない。
だって、すっごく賢いもん。
「オーバがね、今回は群れごと力を貸してほしいって」
ぶんぶんと首を上下させて、イチがうなずく。
後ろを振り返ったイチは、ぶふふん、と鳴いた。
他の馬たちもあたしたちのところへ近づいてくる。
あたしたちは何十頭もの馬に囲まれた。
「イチはあたしたちのリーダーになるアイラを乗せてね。アイラはオーバのお嫁さんなんだ」
ぶふふん、と鼻を鳴らしたイチが、きょろきょろと、アイラとエイムを見比べる。
どっちがアイラなんだ、とでも言うように。
「こっちがアイラだよ。あっちはエイム」
そう教えると、イチは、かつ、かつ、とアイラの前に進み出て、あたしの時と同じように頭を下げた。
アイラも、イチをなでる。
やっぱりイチは賢いなあ、と感心する。
「ウル、今、虹池を出発したら、中途半端なところで野営することになるから、今日は虹池で泊まって、明日の朝、早くに出るわ。速駆で一気にナルカン氏族のテントに行く」
エイムがそう言うと、ノイハがうなずいた。
「そんなら、今日は、ロープの長さを調整して、それぞれ、一番楽に力が入るあぶみにすっか。そんで、馬を走らせて、練習ってとこだな」
ノイハも馬には慣れている。
ノイハに言われた通り、あたしたちはあぶみの長さを調整して、軽く馬を走らせてから、その日はそのまま虹池で休んだ。イチたちと一緒に寝て、夜番はおかなかった。馬にもたれて休むと、ほっとする。なんだか不思議。
明日の夜は、ナルカン氏族のテントにいるはずだ。
エイムにとっては、里帰り、ということになる。
・・・だから、オーバはエイムを選んだのかな?
朝日の光はまだ弱く、互いの顔もよく見えない中、あたしたちは人馬一体となって進む。
朝、まだ暗いうちから、虹池から流れる小川に沿って、速駆で馬を走らせる。
・・・やっぱり、馬って、すごい。
灰色火熊のホムラじゃ、絶対に出ない速さがある。
風が、痛いくらいに感じる。目もうまく開けられない。
これって、大牙虎のタイガの全速と変わらないか、それ以上かもしれない。
それはつまり、オーバの全速並み、ってことで。
・・・でもまあ、そう考えると、やっぱりオーバって、すごすぎるかも。確か、『長駆』スキルの上位スキルにあたる、『高速長駆』スキルがオーバにはあるはず。
あれ? 馬ってすごいって思ってたのに、いつの間にか、オーバのことになってたみたいな。
でもでも、やっぱりオーバはすごいと思う。すごいとしか言えない。
大草原でこの速さを出す馬に対して、オーバは大森林を走り抜けるのにこの速さを出せる。
あの、密集した木と木の間を抜けて、迷うことなく、だ。
それと、例えば、あぶみのこと、とかも、そう。
ネアコンイモのロープを輪にして、その長さを調節することで、馬の背に乗ったまま、ロープの輪を両足でそれぞれ踏み込んで、全身を安定させるしくみ。
エイムが言うには、大草原で馬に乗るときはそのまま馬にまたがり、たてがみを掴むだけだったので、それまでの乗馬というのはとても大変だったらしい。体力がとても必要で、長時間乗るのは辛いみたい。それが、オーバからあぶみを教えてもらって、エイムはかなりびっくりしたという。
このあぶみも、オーバが教えてくれた、オーバの知恵のひとつ。オーバは、別に自分で考えたわけじゃない、と言うけど。こういうのは本当にすごい。
今回の戦いでは、大草原の氏族同盟の人たちにも、この、ネアコンイモのロープでつくる簡単なあぶみを教えて、馬に乗ったままで戦うという方法をとる。エイムは、今回のことで大草原での戦いの常識が変わる、って言ってた。
だから、あたしたち四人の乗る馬以外に、30頭の馬がそのままついてきている。 もちろん、虹池に残った馬たちも何頭かいるけど、そういう群れを支配して、何十頭もの馬を率いるイチはやっぱり賢いし、すごい。そのイチの背には、アイラが乗ってる。
途中で一度休憩をはさんで、小川で馬たちは給水。あたしたちは、今後の方針について、エイムから説明を受けた。正直、その方針には納得できないというか、従いたくないというか、おもしろくないというか・・・でも、まだ9歳のあたしの意見はあっさり否定され、エイムにやり込められて、アイラにエイムの言うことを聞きなさいと言われ、あたしはしぶしぶ従った。アイラの命令に必ず従えというオーバの指示は、しぶしぶ従うようなあたしにとって必要なものだったのかもしれない。
まあ、アイラが、あたしに死ねと命令するわけじゃないし。
休憩後、ノイハとエイムとあたしは、別の馬へと乗り換えて出発したけど、イチは交代なしでアイラを再び乗せて走る。そもそも、イチは速くて強いので、他の馬の速さに合わせて楽に流してきたみたい。だから、それほど疲れてないので、交代なしでも余裕がある・・・ってことは、イチだけならもっと速いってこと? はー、びっくり。
ナルカン氏族のテントまでの道は、というか、まあ、はっきりした道があるわけではなく、そのほとんどは小川に沿って北上していくだけだったのだけど、最終的には小川を離れ、ナルカン氏族のテントを目指した。ナルカン氏族のテントの場所は、そこの出身のエイムには、迷いなく見つけられた。小川を離れる地点は、季節によってちがうけど、エイムにはだいたい分かるらしい。
こうして、あたしたちは、たくさんの馬とともに、ナルカン氏族のテントに到着した。
族長のドウラの出迎えに、アイラが感謝を伝える。ドウラはエイムの従兄だ。
久しぶりにジッドにも会う。今、ジッドはアコンの村からの使節として、ナルカン氏族のテントにいる。冬の間はアコンの村にずっといるけどね。今は、たまたま、ジッドがここにいる時期だった。でも、今回、ジッドもここから一緒に出陣する。
ドウラの先導で、テントの中に入る。薄暗い中、獣脂に火をつけて灯りとしている。きっと羊の油なんだろうと思う。
一応、ここにいる者は、みんな大草原の言葉も話せる者ばかり。あたしも含めて。こういうことまで勉強させてきたオーバはやっぱりすごい。
エイムは、族長のドウラのことを、ドウラにいさま、と呼んだ。従兄も兄みたいなものだからかな。親しいから、そうなるのかもしれない。
エイムがあたしたちを紹介していく。
「アイラは、アコンの村の長、オーバの一の妻で、今回の援軍の総大将になってもらいます」
「・・・オーバの義兄上の一の妻か。今後ともよろしくお願いしたい。しかし、総大将とは、大丈夫だろうか? ジッド殿ではないのか?」
「あら、心配?」
そう言ったアイラは微笑んでるけど・・・たぶん、ちょっと、怒ってる?
「ドウラにいさま、不安なら、一本、アイラと手合わせなさいますか? まあ、にいさまと一対一と言わず、氏族の男を全部相手にしても、アイラが勝つと思いますけど? あのときみたいに?」
あのとき・・・?
なんだろ?
何かあったっけ?
「・・・いや、遠慮しておこう。あのときのことなど、思い出したくもない。ナルカン氏族は大森林には逆らわんよ。すまない、アイラ殿。このたびの戦は、よろしく頼みます」
ドウラはすぐに引いた。
アイラもうなずく。
うん、いい判断じゃないかなあ、と思う。あのとき、ってのは何か分かんないままだけど。
でも、オーバから聞いていた通り、大草原での女性の立場は、大森林よりも低いみたい。さっきのドウラの反応も、アイラが女だから、男のジッドじゃないのか、って意味だったみたいだし。ま、今回、アイラがそれを変えちゃうかもしれないけど。
「ノイハは、リイムの夫よ、ドウラにいさま。アコンの村で一番の弓使い。オーバの親友です。義弟ってことになるわ。あと、ジッドさまは、紹介しなくても大丈夫なはずよね、ドウラにいさま?」
「ああ、問題ない。ノイハ殿とも、少し面識はある」
「なら、最後の・・・」
「うむ、こんな小さな子を戦場へ出すのか? アコンの村は?」
あ。
やっぱり、そうなるよね。
だから、あたしは、今回のエイムの作戦は嫌なんだけどさー。
ここで暴れて、はっきりさせたら早いのにぃ。
もう! すぐに小さいから、小さいからって、言われるんだから!
本当はこの中でなら、あたしが一番強いんだもん!
「この子は、ウル。アコンの村の、女神さまの巫女よ、ドウラにいさま。オーバと同じ、女神さまの癒やしの力をもってます。それが、戦場でどれほど重要か、分かるはずよ」
「・・・そういう、ことか。いや、すまない。納得した」
今回のエイムの方針は、あたしをあくまでも癒し手として見せること。
せっかくの戦いなのに、暴れられないんだけど?
でも、アイラもそうしろって言うし、仕方がないので、あたしは我慢。ちなみに、アイラも、ノイハも、神聖魔法が使えることは、ぎりぎりまで伏せる。ぎりぎりというのは、あたしたちの命に危険がある場合、ということだけど、まあ、エイムの予想では、そんなぎりぎりはやってこないらしいけどね。
「だから、ウルにはあたしと一緒に、ドウラにいさまの近くに控えてもらいます。戦いは、アイラ、ジッドさま、ノイハを中心に、各氏族からの応援を動かす予定です。それと・・・」
「あの、馬の群れ、か?」
・・・このドウラって人、なかなか鋭い、のかな?
「・・・そう。馬に乗って戦うつもり」
「馬鹿な。あんな不安定な状態で戦えるはずがないだろう?」
「それも明日には分かるわ。これもオーバの指示なの、ドウラにいさま。各氏族から、何人くらい、戦士は集まるかしら?」
「・・・さっきから聞いてると、エイムが作戦を立ててるように思えるのだが?」
「それもオーバの指示よ、ドウラにいさま」
「・・・おまえは大森林で何をしてるんだ」
「アコンの村のため、大森林のために全てを捧げているだけです。にいさま、この戦には勝ちます。それも、圧倒的に。氏族同盟と大森林に逆らうとどうなるのか、大草原の覇者は誰か、はっきりさせますから」
「大草原の覇者は義兄上だ」
「そうかもしれませんが、そこはドウラにいさまの役割です」
「やれやれ。傀儡、ということだな。まあ、こちらとしても、氏族のためにそうするのは当然だと考えているから、問題はないが」
エイムと話すドウラの表情は穏やかだ。この従兄妹は、なんだかいい感じの関係だ。
互いのやりとりが、わかり合ってる、という感じがする。
「・・・ところで、ライムねえさまは?」
「・・・こっちとしては気を遣って、ライムを奥に行かせているのだが、なぜおまえの方からその名前をわざわざ出す?」
「そんな気を遣う必要、ないわよ? どっちかと言えば、オーバを射止めた大草原の美女に会いたいんだけれど?」
そう言ったのはアイラ。
「・・・義兄上の一の妻であるアイラ殿にそう言われては・・・」
「そもそも、オーバを義兄上って呼んでる時点で、アコンの村とのつながりを重視していることは分かってるの。それなら今さら、ライムさんをあたしの目から隠すってのも変でしょう?」
「しかし・・・」
「ライムさんは、オーバに鍛えられて強くなったと聞いたし、手合わせしてみたいのよね」
そう言われたドウラがすごい顔になった。
殺す気かっ!? とでも言うような表情だ。
そんなことするわけないのに。
オーバの妻はアイラだけじゃない。ケーナも、クマラも、オーバの妻で、その二人とアイラの関係はとっても仲良しだ。どっちかというと、ジルの方が、オーバをとられちゃう、みたいなことを言ってるくらいだもん。
「ドウラにいさま、早くライムねえさまを呼んで。そうしないと、アイラの方からそっちに行ってしまうかもしれないから」
「エイムったら」
「いや、エイムの言う通りじゃねえの?」
ノイハがくくくっと笑って、アイラに小突かれた。
そんな様子を見ていたドウラは、しぶしぶという感じで、ライムを呼ぶように命じた。