表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第4章 かわいい女神と異世界転生したこぼれ話。
106/132

第106話:巫女姉妹は重要人物 妹巫女の今昔物語(2)



 あたしはちらりとジルを見た。


 ジルもちらりとあたしを見た。


「ウル、聞こえた?」


「ジルも?」


「・・・じゃあ、やっぱり」


「この熊、しゃべるの?」


 あたしたちは巨大な灰色火熊を見つめた。


 赤い瞳の灰色火熊。


 これまでタイガが追い払ってきたのとはまったく違う、大きな熊。


 タイガは低くうなったまま、身構えている。




『おいらはしゃべれるよ。くり返すけど、おいらたちの縄張りに、何の用だい?』




「やっぱりしゃべった!」




『もうそこから先に話を進めてほしいんだけど、妹巫女さん?』




「やっぱり聞こえる!」




『そっちもまだそこなの、巫女王さん?』




「どうしよう、ウル?」


「どうする、ジル?」




『・・・とりあえず、おいらとしゃべってくれると嬉しいんだけど?』




「ねえねえ、どうやったらタイガもしゃべるようになるの?」


「これで、しゃべる灰色火熊に会ったって、ジッドに自慢できる」




『巫女王さんたち、何が言いたいんだか、おいら、分からないけど・・・?』




「タイガと話せるようになりたいの。ずっとそうできるといいなあって、思ってたから」


「しゃべる大角鹿に会ったことがあるって、自慢してくるの、ジッドが、あれ、むかつくんだ」




『・・・とりあえず、あんたたち二人が、けっこう勝手気ままな感じだってことは、なんとなく分かったよ』




「やっぱり、タイガに毎日話しかけるべきよね」


「ジッドに自慢した方がいいかな、それとも、ジッドが自慢したときに言い返すのがいいかな?」




『・・・』




「タイガがしゃべれるようになったら、花咲池に行ってほかの大牙虎とも・・・」


「・・・やっぱり言い返す方が、威張ってるジッドを静かにさせられるかも」




『・・・大森林の覇王は、この二人の相手がちゃんとできるんだろうなあ』




 立ち上がっていたしゃべる灰色火熊が前足を地について、四足になった。


 それを見たタイガがくうう~ん、という感じで、小さくうなった。




『・・・主人がすまないって? ああ、気にしてない。あんたが悪い訳じゃないよ。お互い、苦労するよなあ』




 わうん、とタイガが小さく吠えた後、あたしの足をタイガは前足でぽんぽんと叩きつつ、ジルの服を噛んで引っ張った。


 あたしたちはタイガを振り返る。


「タイガ・・・?」


「どうしたの?」


 がう、と短く吠えたタイガが、まっすぐに灰色火熊を振り返って見つめた。


 それにつられて、あたしとジルも灰色火熊を振り返る。




『・・・やっと、こっちを見てくれたねえ。ありがとさん。それで、おいらたちの縄張りに、何の用だい、巫女王さん?』




 ・・・やっぱり熊がしゃべってるっっ!!


 すごいっ!


 なんか、声が頭に直接響く感じ。


 女神さまが、姿も見せずに話しかけてくる時と同じかも。


 女神さまよりも、ずっとくだけた感じではあるけど。


「あなた、話せるのね?」


 ジルが灰色火熊に確認する。




『そうだね。おいらは、話ができるよ。おいらたちの中じゃ、話せるのはおいらだけだけどね。それで、おいらたちの縄張りまで来たのは、ひょっとして、この前、大樹の近くまで行った、つがいが迷惑をかけた報復なのかい?』




「報復? ・・・ああ、仕返しってことね。ちがうわ。あのつがいのことは、こっちこそ、ごめんなさい。村の小さな子たちがびっくりしたから、あの場では殺すしかなかったの」




『それはいいよ、もう。この森で、互いの力関係が分からないような連中がどうなったとしても、そのことで巫女王さんが気に病むようなことはないかな。覇王の支配圏に入ったんだ。どんなメに遭ってもそいつらのせいだよ。じゃあ、あの報復じゃないなら、こんなところまで何をしに?』




「探し物。ええと、あのね・・・」


 ジルは一生懸命、身振り手振りを加えて、探している物を説明する。


 赤眼の灰色火熊は、うなずきながらジルの説明を聞く。


 本当に、この森の中では、ふしぎなことが起こる。


 森の探検は、こういうことがあるから、おもしろいのかもしれない。


 オーバが出かけっぱなしになるのも、そのせいなのかな?




『・・・それはアリクサかな?』




「アリクサ?」




『おいらが知ってる中じゃ、たぶん、それはアリクサだね』




「そのアリクサって、どこにあるか、分かる?」




『オオアリの巣がある・・・っていうか、オオアリが巣にしてるっていうか・・・』




「そこに案内してほしいの」




『・・・とりあえず、おいらたちを狩ろうってんじゃないってことは、分かった』




「そのつもりなら、もうとっくに、何頭も皮をむいてるかな」




『巫女王さんは、こわいねえ。それで、おいらたちの縄張りを抜けて、アリクサがほしいと?』




「ほしい。私たちの村に必要だと思うから」




『それなら、交換条件だ』




「交換条件?」




『巫女王さんの要求は一方的で、おいらたちを狩らないかわりに案内しろってんなら、交渉じゃなくて、脅迫だろ? ちがうかい?』




「・・・そうね」




『脅迫だと、こっちも楽しくないな。だから、交換条件で交渉したいな。つまり、案内するかわりに、おいらたちも、ほしいもんがある』




「・・・ものによるけど?」




『そうだろね』




「何がほしいの?」




『そんなこわい顔しないでほしいな。別に、人間をよこせってんじゃないよ』




「・・・それなら、いいけど」


 ジルがほっとしたように息を吐いた。


 あたしもほっとした。




『おいらたちは、バウブってよんでる。木の実なんだけど、あれがほしい』




「バウブ?」


 ジルが首をかしげてあたしを見る。


 あたしも知らないから、首を振って答える。


 タイガは、わうん? と、こっちも分からない感じだ。




『バウブってのは、こう、とげとげの針がいっぱいついてて、その中にいくつか、こんな形の実が入ってんだけど』




 それは、なんとなく、分かる。


 この前、灰色火熊のつがいが来たときも、それを狙ってたはずだし。


「ジル、クリのことかな?」


「そうみたいね」




『そっちじゃ、バウブをクリっていうのかい?』




「とげとげの殻の中に、さらにもうひとつ殻があって、それをむいたら柔らかい実があるのよね?」




『おいらたちは、とげとげの殻だけのけたら、あとはそのままかじって食べちゃうけどね。たぶん同じものかな』




「あれがほしいのね」


「うーん・・・」


 あたしは目を細めた。




『妹巫女さん、どうしたの?』




「あのね、クリって、オーバが大好きなの」


 あたしは、一歩、熊さんの前に進み出た。




『オーバ・・・大森林の覇王か。覇王の好物ってことだな?』




 あたしはうなずいた。


「分けてあげたいけど、クリが、どれくらい必要なの?」




『・・・まさか、大森林の覇王の好物とは考えてなかったな。おいらたちと同じものが好物だなんて、予想してないからさ。交換条件としては難しそうか?』




「・・・とげとげ5個分くらいなら?」




『そいつは少ないって! それじゃ中身が20個もないよ?』




「え~、じゃあ、6個分?」




『ほとんど増えてねえっ? 妹巫女さん、交渉する気、あるっ?』




「オーバの好物って、あたしたちにとって、すっごく大事なことなの」




『いや、そりゃ、そうだろうけど、どういうこった?』




「ジルはね、オーバの役に立ちたくて・・・その、アリクサ? ってのを探してる。アリクサを見つけて喜んでもらいたいの。でも、そのせいで、クリがなくなっちゃうんじゃ、アリクサが見つかったとしても・・・わかる?」




『・・・ああ、そういうこと。分かる、分かる』




「だから、クリを分けてあげたいけど、そんなにたくさんは難しいの」




『まあな、覇王の好物じゃなあ』




 熊さんがうなずいてくれたところで、あたしは勝負に出た。


「・・・ということで、とげとげ20個分ってどう?」




『急に増えたなっ!? 難しいんじゃなかったのかよ?』




「・・・ダメかな?」




『いや、ダメっつーか・・・』




「・・・じゃあ18個で」




『減ったっ! 減ったぞ、おいっ? なんでだ? なんで数が減る?』




「・・・んー、じゃあ16個かな? はやく返事しないと、どんどん減らすよ?」




『え? そういうしくみ? どういうこと? これ、交渉だよな?』




「よし、15個!」




『わ、わかった! 15個だ! 15個なら交換条件として認めるから!』




 ふふん、熊さん、ちょろい。


 交渉なんて勢いなんだから。


 せいしんてきゆーいに立てば、たいていなんでも通るってオーバが言ってたし。


 でも、まだ、交渉は継続中。


 既に勢いだけでせーしんてきゆーいは確保したも同然。


 ここからが交渉が本番なの。


 あたしにとっては!


「さて、アリクサのとこまであたしたちを案内してもらうための交換条件が決まったところで、熊さんに相談がありますよ」




『・・・なんだ、妹巫女さん? おいら、今、あんたがちょっと怖いんだけど?』




 熊さんって、けっこう失礼かも?


 まあ、いいけど。


「熊さんにお渡しする、とげとげ15個を、とげとげ20個に増やす方法があります」




『な、な、な、なにいっっ? そ、そんな方法があるのかっ?』




 熊さんが驚いてる、驚いてる。


 ますます、せーしんてきゆーいを高めていく。


 そうして、目的を達成する・・・必ず・・・。


「一年間に、とげとげ5個。それを4年間で、合計20個、お渡しする方法があるのです。それでね、こうすれば、毎年、そっちにも分けてあげることができるし、あたしたちとしても、オーバの好物をそんなに減らさずに済むから、とっても助かるの。どっちにとっても、いい条件になると思うけどなあ?」




『・・・ふ、増えたような? 減ったような? いや、でも、確かに合計は増えたか?』




「それを5年間で合計25個にしてもいいよ?」




『増えたっっ!』




 この、毎年いくつって交渉は、オーバが教えてくれた。


 オーバは大草原でこうやって交渉したらしい。


 クリじゃなくて、羊で。


「どう? 6年間で30個とか?」




『うおおっ、増えてる! 増えてるなあ、おいっ!』




「では、10年間で50個とか、すごいでしょ?」




『50個っっっ!!』




「こっちの条件をのんでくれるなら、10年間で50個。しかも、うちの村のクマラにお願いして、クリの木そのものを、熊さんたちの縄張りに植えてもらえないかどうか、確認してみるし? もし植えられたら、毎年、自分たちの縄張りでクリがとれるよ? まあ、そうなったら、毎年5個ってのは、なしにしてもらうけど?」




『おいらたちの縄張りでバウブがとれるってのか? あの覇王があらわれて、おいらたちも大樹から離れて暮らすようになったから、バウブはなかなか手に入らなくてさ、そりゃ、そうなったらありがたいんだけど・・・』




「どう? こっちの条件をのむ気はある?」




『そ、その、じょ、条件ってのを、聞かせてくれ・・・』




「あたしね・・・」


 あたしは、となりにいるタイガをそっとなでた。「タイガみたいに、乗れる熊さんがほしいんだ」




『ええええ~っっっっ』


「ええええ~っっっっ」




 熊さんだけでなく、ジルも同時に、あたしの一言に対して叫んでいたのだった。











 熊さんだけでなく、ジルまでびっくりした顔であたしを見つめていた。


 そんなに驚くようなことだろうか?


 ジルは、もう、ずっとタイガに乗ってるし。


 あたしが灰色火熊に乗ったからといって、驚くほどではないと思うんだけど?


「ウル、本気?」


「え、そんなに変かな?」


「変っていうか・・・灰色火熊は、大きくない?」


「・・・大きいって、タイガよりもってこと?」


「タイガよりっていうより、村のみんながびっくりするくらい大きくないかってこと」


「そんなの、タイガのときだって、みんなびっくりしてたし」


「それは、そうなんだけれど・・・」


「みんなはタイガを仲間と思ってるよね?」


「そう、ね」


「だから、灰色火熊でも、そのうち慣れるよ、きっと」


「そ、そうかな?」


「そーだよ」


 うん。


 ジルは自分がタイガに乗ってるんだから、あたしが熊さんに乗りたいのをダメって言うのはダメだよね。そんなのずるいもん。


「さ、熊さん。どうかな?」




『そ、それは、おいらがってこと? おいらに乗りたいってことか?』




「うーん。熊さんだったら、話もできるし、それは嬉しいかなあ。でも、熊さんじゃなくても、他の灰色火熊でもいいんだけど。乗れるんならね」




『おいらは、この縄張りを離れる訳にはいかないから、無理だよ、実際は。おいらはダメ。だから、他の誰かってことになるんだけど、妹巫女さん、分かってるかな?』




「何が?」




『おいらたち、灰色火熊は、大牙虎とはまったくちがうんだけど・・・』




「そうなの? たとえば、どこが?」




『見たところ、巫女王さんは、そこのタイガっていう大牙虎と一緒に暮らしてるよな? でも、大牙虎はほとんど食べなくても平気なんじゃないか? そういう獣のはずなんだけど?』




 そういえば、タイガはあんまり食べない。


 たまに、猪肉を食べたりもするけど、けっこう長い期間、食べなくても平気だ。


 オーバが言うには、空腹耐性というスキルが大牙虎にはみんなあるらしい。


 つまり、大牙虎とはちがって・・・。


「灰色火熊は、よく食べるってこと?」




『・・・すごくたくさん食べるということでもないけど、大牙虎みたいに何日も食べないで大丈夫っていうことはないし、おいらたちは毎日何かを食べるんだ。だから、一緒に暮らすとなると、大変かもよ?』




 確かに。


 食べさせる必要があるとなると、オーバが怒るかもしれない。


 オーバが怒らなくても、クマラやアイラに怒られる、たぶん。


 そもそも、クマラは、今回のジルの飛び出しを本当には許可してなかったっけ。


 まずいかな?


 まずいかも・・・。


 でも、乗りたい。


「そっかあ。でも、それなら、必要なときに、ここまであたしが来るから、そんときに乗せてもらえたらいいよ!」




『・・・乗せたら乗せたで、おいらたちは、大牙虎ほど賢くないからね? そこも大丈夫かい? この森の中でも、ときどき遠くまで行った仲間は迷子になってるけど? 本当にそのへんもいいのかい?』




 ・・・そうなんだ。


 意外な話だ。


 熊さんたちも迷子になるなんて、やっぱりこの森って、すごいんだ。


 それでも迷わず行ける大牙虎って、すごく賢い獣ってことかな?


 そういえばオーバがそんなことを言っていたような気もする。


 うーん、どうだろう。


 さすがに森の中で迷子になるのは困る。


 困るんだけど、やっぱり乗りたい。


 うーん、熊さんたちに乗るときは、タイガに一緒に行ってもらうとか?


 ・・・いや、それなら、ジルに頼んで、タイガを借りれば済むよね。


 今回みたいに、ジルと一緒に、大森林を探検するとき、乗せてもらうって形になるのかな?


 乗らないって選択肢はなし。


 だって、乗りたいんだもん。


「じゃあ、ときどき、必要なときに、迷子にならないように、ジルやタイガと一緒で、そういうときに乗せてほしいの!」




『・・・いいけど、それって、めったにないんじゃない?』




 いいの!


 たぶん、めったにないんだろうけどね。


 そもそもジルは、あんまり村を出ないもの。


 オーバに村の守りを任されてるから。


 今回は、そのオーバを喜ばせるためっていう、別の理由を優先してるだけ。


「いいから、それでお願い!」




『分かった。じゃあ、さっきの約束は守ってもらうよ。それと、うちの子たちを、納得させるために、妹巫女さんの強さを示してもらう必要があるからね』




 強さを示す?


 そんな簡単なことでいいのなら、楽勝だ。


「じゃ、すぐに始めよう!」


 あたしがそう言うと、熊さんは長~く吠えた。


 しばらくすると、のそのそと灰色火熊が集まってきた。


 どうやら、群れを呼び寄せるための吠え方のようだ。


 数え切れないけど、50頭くらいはいると思う。


 まあ、楽勝だけど?


「これ、全部やっつければいい?」




『・・・この子たちを全部って。そこまでしなくていいから。この子たちの中で1番強い子を相手にしてくれるかい?』




「もちろん!」


 そう答えると、熊さんにうながされて、1頭の灰色火熊が進み出てきた。


 あたしはにっこりと笑う。


 他でもない、得意分野だ。


 はっきりいえば、もっとも得意なことだ。


 戦闘、手合わせ、あたしは大好き。


「じゃ、行きま~す」


 あたしは一瞬で間合いを詰めた。




 勝負はきわめて短時間で終わったとだけ、報告しておく。


 灰色火熊の群れは、あたしにおしりを向けて、頭をかかえるようにしながら、うずくまっている。


 熊さんによると、これは服従のポーズらしい。


 あたしをぐるりと何重にも取り囲む50頭を超える熊のおしりは、見応えがあるのやら、見苦しいのやら。


 あたしと戦った灰色火熊は、大地に横たわったまま、ジルから女神さまの光を浴びていた。




『・・・顔面陥没にアゴも砕かれて、四肢骨折させられて、しかも内臓破裂まで。一瞬でそこまでやっちゃう妹巫女さんの強さも予想以上だけどさ、その、死亡寸前の大怪我をああやって治療できてしまう巫女王さんの癒しの力も、びっくりだよねえ。まあ、これで、うちの群れの連中は、誰も大樹のところへは近づかなくなると思うけどさ』




「これで、強さは示せたかなあ?」




『・・・強さを示したどころじゃないけどねぇ。あのへんにいるの、いっつもやんちゃしてる子なんだよ、本当はさ。それなのに、今は絶対にこっちを見ようとしないもんな。ここにいる灰色火熊は全部、これで妹巫女さんに屈服したよ?』




 とりあえず、あたしはこの灰色火熊の群れを完全に掌握したらしい。


 別そんなつもりではなかったんだけど。


「じゃあ、どの子に乗せてもらえるの?」




『さっき戦った子にしようね。力の差が、一番よ~く分かったはずだから』




 ああ、あの子。


 ちょうどジルの神聖魔法が終わって怪我が治ったからか、上半身を起こしてきょろきょろしてる。


 そして、あたしを見つけて、目を見開いた。


 あ、目が合って喜んでるのかな?


 ふふふ、いい感じみたい。


 かわいいなあ。




『今、絶対、何か、勘違いしてるよね・・・』




 熊さんが何かつぶやいていたが、よく聞こえなかった。


 さて、熊、熊、というのも不便だ。


「ね、熊さん。あの子、名前はなんていうのかな?」




『名前? おいらたちに、名前なんて、ないよ?』




「え、そうなの? 名前がないと困らない?」




『別に、困らないけどね? まあ、必要なら、名前をつけてあげてよ』




「そうね~・・・」


 名前、名前っと。


 うーん、何がいいかなあ。


 タイガは、オーバが名付けたんだよね。


 虎って意味だって、言ってたっけ。


 熊って、何かな?


 分かんないや。


「クマってどう?」




『・・・それって、名前なのかい?』




 熊って意味でクマにしてみたけど、ダメみたい。


 うーん。


 名前、ねえ。


 あたしの名前はウル。


 姉の名前はジル。


 じゃあ、この子は・・・。


「じゃあ、サルで!」




『・・・すまないけど、別の名前にしてくれないかな・・・』




 熊さんがじとっとした目であたしを見ていた。


 一瞬で否定されてしまいました。


 どうしてだろうか?




 結局、あたしの灰色火熊の名前は、ジルが「ホムラ」と名付けた。オーバに教えてもらった、炎をあらわす言葉だという。火を吐く熊だから、という理由だった。


 ホムラもその名前が気に入ったみたいで、そのままジルにすりすりしてた。


 ジルも微笑みながら、ホムラをなでている。


 ・・・こいつ、あたしの配下なのにぃ。


 あたしが頬をふくらませていると、タイガがぺろっとあたしの腕をなめた。


 どうやら、なぐさめてくれているらしい。


 なんか、フクザツ。








 そんなこんな、いろいろとあったけど、あたしはホムラに、ジルはタイガにまたがって、熊さんの案内で森を進んだ。


 タイガのような速さはないけど、位置が、タイガに乗ったジルよりも高くなる。


 ちょっとだけ、嬉しい。


 タイガもふかふかなんだけど、ホムラのふかふかはちょっと固め。


 タイガはまたがりやすいけど、ホムラはおっきいから、ちょっと不安定かも。




『そもそも、おいらたちに乗りたいってのが、ちょっと、ねぇ・・・』




 そんな不満を言われても困るよ、と熊さんが言った。


 不満ってほどでもないけど。


 あたしたちはホムラの速さに合わせて進む。


 木の高さがちょっと低くなったかな、と思ったら、視界が開けた。


 そこで熊さんがとまった。




『ここだよ。これが、アリクサの群生地』




 なんだろう。


 竹ほどではないにしても、まっすぐに生える感じで。


 竹よりはもっと細くて。


 竹ほどは高さもないんだけど。


 それでもあたしたちよりも背は高い草。


 それに、ちょっとだけなんだけど・・・。


「甘いにおいがする・・・?」


「うん、甘い感じ」




『アリクサは、甘いにおいがするし、実際に甘いんだ。でも・・・』




「でも?」




『そのせいで、オオアリがここら全部を巣にしてるんだよ』




 そう、熊さんが言った瞬間。


 かさかさ、という音がどんどん広がり・・・。


 何十という、アリが姿を見せた。


「・・・ジル、アリって、こんなに」


「大きくないはずよ」


「・・・だって、高さはあたしのふとももくらいまで、長さは首くらいまであるよ?」


「そういうアリみたい」




 アリなのに、でっかすぎるよ!!











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ