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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
グリフ王国
9/68

同じ宿

 女剣士と少女の健気けなげな姿に、もう、居た堪いたたまれない。

「もう、帰らないと城門が閉まるぞ」

 俺は、この場を離れようとラナに声をかけ、先に歩き出す。


「ねえ、あなた達もお城に戻るんでしょ?」

「はい」

「じゃ、一緒に帰りましょうよ」

 ラナの言葉に、女剣士は、

「はい」

 とうなずく。

 別々に帰るより一緒に帰ったほうが安全と考えたのだろう。


 帰り道。

 ラナと少女は、すぐに仲良くなり、手をつないで歩いている。

 二人の身長は大して変わらず、並んで歩く姿は、幼なじみのように見えるが、実際は、ラナの方がずっと年上のはず。

 精神年齢が近いのか、些細ささいなことを話し、楽しそうに二人して笑っている。


 それとは対象的に、俺と女剣士は、黙々と、ラナと少女の両端りょうはしに分かれて歩いた。

 なんとも気まずい雰囲気である。


 まあ、城門をくぐればれるさ、それまでの気まずさだと考え、景色を見て気をまぎらわした。

 城門をくぐり、町に入り、路地を曲がり、どこまで一緒なんだと考えていると、とうとう宿まで辿たどり着いてしまった。


「なんだ。同じ宿だったんだ」

 ラナとアンナが、はしゃぐ。

「アンナちゃん。一緒にお風呂入ろうか?」

「うん。はいろ」

 ラナは、アンナと二人して先に宿へ入っていってしまう。

 二人っきりになってしまった。

「あの、自己紹介が遅れました。私はセシルと申します。……今日は本当にありがとうございました」

「俺は、コウヘイといいます。……よろしくおねがいします」

 俺とセシルはぎこちない自己紹介をするはめになってしまった。

 帰り道、ラナとアンナの会話で、幾度いくどとなく四人の名前が飛びっているので、もうお互い名前を知っている。


 会話が続かない。

 頭をフル回転させたが、話題が見つからない。

『相手のことを知らないんだ会話をしろというのが無理な話だろ。共通の話題といえばさっきのゴブリンの一件だけ。そんな話題わだいしたら話がおかしな方に行くのが分かりきっている』

 と頭の中で、自分で自分に言い訳をしてしまう。

「……それでは失礼します」

 セシルはそう言い残し宿に入っていった。


 緊張からき放たれ、俺はどっと疲れを感じた。今までで一番疲れた思いがした。


 宿の風呂場へと向かい、今日一日のつかれをやす。風呂から出て連泊れんぱくしている二階の部屋に戻ったが、まだラナが戻っていない。

『ラナが戻ったら夕食に行こう』

 そう考えながら、二階の窓を開け、町の景色をぼんやり眺めた。

 東の空が暗くなり星が輝きだした空。

 城壁にともされた松明たいまつの光。

 レンガ造りの街並まちなみ。

 眼下の歩道には、冒険から帰ってきた冒険者たち。仕事を終え、まちり出す工夫こうふたち。

 そして、このざわめき。


 なんとかここで、やっていけそうだと感じる安堵あんどの気持ちからなのだろうか、昔にこの景色を見たような既視感きしかんを覚え、物寂しさに心をうばわれながら、時間の流れを満喫まんきつしていた。


「コウヘイ、夕食行こう」

 元気よく部屋のドアを開けるラナ。

「遅い」

「お風呂でアンナちゃんと長話してた。へへへ」

 ラナは陽気だ。


 宿の玄関げんかんを出ると、アンナが待っていた、当然セシルも。

「おまたせアンナちゃん。どこ行こうか?」


 森と違い、四人横一列で歩くのは、はた迷惑を感じる。次第しだいに俺が先頭を歩き、ラナとセシルが並んで歩き、アンナも付いて歩く。

 三人で話が盛り上がっている。俺は話に入れない。

「ここでいいか?」

 行きつけの食堂まで来た俺は、ラナにそう確認して、その食堂に入った。


 ウインナーと揚げポテト、しゅわしゅわ酒とスパゲティを頼む。

 三人でしゅわしゅわ酒で乾杯。喉をうるおす。

 揚げポテトをつまみながら、ラナが、

「お風呂場でセシルさんとも話しだんだけど、四人でパーティ組まない?」

 と提案を持ち出した。


 メンバーが増えるのは助かるが、セシルの雰囲気がどうも俺に合わない。一緒にやっていける自信がない。

 俺が黙って、しゅわしゅわ酒を飲みながら考えていると、


「もしかして、コウヘイ、セシルさんにれたの?」

 俺の横腹を肘でつつきながら、ニヤけて茶化ちゃかす。

「ちがうわい」

「じゃなんでよ?」

「なんというか、生真面目きまじめというか、かたぐるしいというか」

 正直な気持ちを言ってみた。

「コウヘイが、堅苦かたくるしくしなければいいじゃない」

 そうかもしれないけど、

「しかたないだろ」


「昼間のこと、根に持っているの?」

 真面目まじめな顔で聞いてくる。

 根に持ってない。それだけは言える。

 俺は、首を振って、

「それはない」

 と全否定した。


 話題に詰まったのか、ラナが向かいに座っているアンナのほおおもむろに、触って見せた。

「ほっぺたぷにぷに」

「やめてください」

 ニヤけてほおを触るラナを、こそばゆそうにニコッとした顔を隠すアンナ。

「お風呂で触ってみてビックリしたんでけど、アンナちゃんのほっぺたすごくやわらかいの。おもちみたいよ」

 そう言って、またアンナのほおを触る。

「気持ちいいわよ。コウヘイも触ってみる?」


 照明のランプの炎が、店内をオレンジ色に照らすなか、

 白い肌が、風呂上がりのほんのり色づいたほおを淡く強調させ、今にもとろけてしまいそうなほおをしている。

 魅惑みわくほおではあるが……。

 いやがる少女のほおを無理やり触る。男としてどうなのだろう。いや人間として失格な気がする。

 素知そしらぬ顔して、ぐーっとこらえた。


 俺は、話題を変え、セシルに聞いてみた。

「でも、どうして冒険者をしているんですか?」

 なぜか、敬語になってしまう。


 セシルのよろいは、体型に合わせた特注品のように見えるし、剣も高価そうに見える。しかし、冒険者をするにはしとやか過ぎる。アンナは幼すぎる。


 セシルは黙りこみ、ラナはアンナと手をつなぎ、無言でポンポンポンと手のひらを叩いてる。

 場の雰囲気が静まり返った。

『俺、地雷踏んだかも!?』


「父と母は若いころ、冒険者でした」

 と、セシルが口を開き、


 無言のはさみ、過去をかたり始めた。


 両親が冒険者をしていたのは、ずっと前です。

 私が生まれた時には、父は、もう、小さな農園を経営していたみたいです。


 父の経営は、天才的だったといっても過言ではないでしょう。

 一代いちだいで、城郭じょうかくのなかに、邸宅が持てるほどのざいきずいたのですから。


 私もアンナも安全な邸宅の方で不自由なく生活し、


 冒険者をしていたときの両親の苦労など考えることすらありませんでした。


 ラナが無言で、アンナのもとに移り、アンナをひざかかえてすわる。

 セシルはしゅわしゅわ酒を一口飲み、はなしを続ける。


 ある日、父が経営する農園にオークの群が現れたのです。


 両親は、考えたすえに、自分たちが昔、冒険者をしていたこともあって、他の冒険者をつのって、オークの討伐とうばつを決意しました。


 私はめました。しかし、父も母も「大丈夫」と笑いながら私に心配しないでといい、多くの冒険者と出かけました。


 しかし、それ以来、父と母の姿を見ていません。



 私とアンナには幸せになってもらいたい。と父も母もよく口にしていました。

 貴族へとつがせたいとよく言っていました。


 両親の考えで、私達姉妹は、上流階級の教育を受けましたが、一般庶民の常識をおそわることはありませんでした。


 ですから、世の中の怖さを知らなかったのです。


 家事全般を使用人にまかせていた私達は、何にどれくらいのお金がかかるのかさえ知りませんでした。


 あれほどあった両親の財産はみるみる減り、


 おかしいと気づき始めたころには、使用人たちは、雲隠れするようにめていなくなり、


 とうとう日々暮らしてた邸宅まで売ることになってしまいました。


 今考えたら、それほどまでに私達は世間を知らなかったのです。


 無表情のラナは、ひざかかえたアンナのほおをぷにぷにしながら、無言でセシルの話を聞いている。

 そんなラナの手をパチパチ叩きながらアンナも無表情で、話に耳を傾けている。

 俺も無言で、しゅわしゅわ酒を、ゴクリと飲む。


 幾分いくぶんかの沈黙ちんもくののち、セシルが、ふたたび口を開く、


 さいわい……?


 なのでしょうか。父がまだ若く、私が幼かった頃、

 父は私に剣を教えてくれました。


 その時はまだ父は冒険者に未練があり、私に剣士になってもらいたかったのかもしれません。


 そして数年前、父が若かった頃に使っていた剣を私にゆずってくれました。

 いま使っている剣がそれです。


 そのとき、特注品のよろいを私の体型に合わせて作りました。


 当時は、鎧を私に着せ、父の剣を持たせて喜ぶ父を『酔狂なこと』と呆れていたのですが、今では、数少ない形見となってしまいました。


 セシルはゴクゴクゴクと、しゅわしゅわ酒を飲む。

 長い沈黙が続く。



 ラナは時折、アンナのほおを、触る。

 アンナは、その手をパチと叩く。

 二人共、無言で無表情のままで。


『まずい』

 一度に、頭の中でいろいろなことを考えてしまう。

 地雷だったのは間違いない。食べながら聞く話としては重すぎる。

 今は冒険者の身なりをしているけど、いいとこのお嬢様だったんだ。話し方が上品なのはしかたがないか。

 どう声をかけるべきなのか?


 いつもはよくしゃべるのに、こんな時に限ってラナはしゃべらない。

 俺に何か言えってことなのだろうか。


 この沈黙には耐えられない。何か言わないと、

 考えたあげくに出た言葉が、

「ごめん」


『いや、この言葉は違う』

 心の中でかき消すのだが、次に言うべき言葉が思い浮かばない。


 なんだか、一人で狼狽ろうばいしている。



 ラナが、今の沈黙ちんもくに割って入った。


「これで、決まりね。今日は新パーティー結束けっそくのおいわいよ。じゃんじゃん飲むわよ。 さあ、みんなしゅわしゅわ酒おかわりするのよ」

 ラナは残ってた自分のしゅわしゅわ酒を一気に飲み干し、俺にも残りを「一気飲みしなさい」と命令する。


 今まで、お通夜のような雰囲気だったのが、ラナは話題を変え、明るく話す。


「そういえば、アンナちゃん、ママに魔法ならったの?」

「んー、ならったというか、自然と使えるようになってたから、……。 ママに聞いたらママも昔、魔法使ってたことがあるって言ってたけど、……」

「すごい、アンナちゃん天才ね」

「ああ、そういえば、『アンナには飛び抜けた魔法の才能がある』と母がおどろいていました。母の血を強く引いたみたいでアンナは稲妻いなずま魔法を自然と覚えたみたいです」


「へぇーそうなの」ほっぺたぷにぷに


『なんか、三人で盛り上がりだした。俺いらない子?』


 向かいの席で三人の話が盛り上がるなか、俺は一人、ちびちび、しゅわしゅわ酒を飲みながら、ウインナーをつまんだ。


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2018-11-02 字句訂正


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