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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
グリフ王国
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城郭都市

 ラナが、倒れたゴブリンに近づく。


「これだけあれば、今日の宿と食事はなんとかなるから、今日はもう、帰ろ」

 ゴブリンの死体をあさり、ふところから宝石を取り出した。


 昨日のゴブリンと同じ宝石。

「それは?」

「これ?これはねぇ、ほとんどの魔物が持ってるよ。魔王の部下になるとき、そのあかしとしてもらうんだって。まあ、勲章くんしょうみたいなものじゃないかなぁ。幹部クラスともなると大き過ぎて持ち運べないから、部屋に飾っているらしいの。大抵たいていそういうとこはダンジョンやタワーになってて、魔王軍の主要拠点しゅようきょてんになってんだよ」


 何の疑問もいだかず、ラナはゴブリンの死体をそのままに、帰ろうとする。

 魔物といえども死者の大事なものを奪い、売り飛ばすのは気が引けるが、でも、そうしないと生活が成り立たない。


 まだ、日没には早いが、俺達は城へと足を向けた。


 道中、

「コウヘイやれば出来るじゃない。 この分だと、武器だいなんて、あっと言う間に貯まるわね」

 ラナは上機嫌だった。

 今のラナと俺は、大した装備ではない。

 ラナはワンピース姿で、武器・防具は何も身に着けていない。

 俺は、ぬのの服に、短剣だけだ。


 それなのに、ラナが言ったとおり、ゴブリンと十分じゅうぶん戦えた。

『俺ってあんなに速かったのか?』

 初めて、ゴブリンをたおした感動より、自分の身体能力に戸惑とまどった。

「なに、しけた顔してるの。今日はぱぁっといきましょ。ぱぁっと」

「そうだな。町で腹いっぱい食おうか!」



 俺達は町を少し歩き、お目当ての換金所かんきんじょを見つけた。


 さっきのゴブリンの宝石を金貨に交換する。七ゴールド

 換金した宝石の数は記録される。大体ゴブリン三百匹分の宝石を換金すれは、一人前の冒険者として、仕事を紹介してもらえるらしい。

「なあラナ、ゴブリン三百匹なんてすぐだよな」

 今日の感触かんしょくからして、ゴブリン十匹とでも戦える気がする。明日がたのしみだ。

「くすくす」

 ラナが笑う。

「なにがおかしいんだよ」

 今朝けさビビってた俺自分がはずかしくなり、強がってみせた。

「いいえ、別に。それより、もう少し町を見てみない?」


 日暮れまでには時間がまだある。

 散歩を続けることにした。

 この城壁内の町は広い、とても一日では回りきれない。

 川が流れ、草原だってある。

 王宮、邸宅、民家、商業、工業、繁華街、この城の中だけで生活ができる。



 町の人に道を聞きながら、冒険者の装備品そうびひんそろっている通りに辿たどり着いた。

 立派な店が立ち並ぶ通り。


 多くの冒険者風の人が行き来している。

「まずは、この洋服店から入ってみましょ」

 俺の手を取り、ラナは店に入った。


 【= 服の店 =】


「これいいわね」

 ラナが手にしたのは、軽快けいかいそうなワンピース。ただ、無地のうえに色も地味。

「こっちの方がいいんじゃないか?」

 俺は、似たような見た目のはなやかなワンピースを指差した。

「そっちはただのワンピースだけど、こっちは《精霊せいれいの力》が宿やどっているの」

 ラナは俺の意見など聞いてない。

「値段は百四十ゴールド。……まぁそんなものね」


 ラナの後ろについて、俺も店内を見て回るのだが、同じように見えて値段が随分ずいぶん違う。どうも《精霊の力》が違うようだ。


「《精霊の力》ってなんだ」

 ラナに聞いてみた。

「んーーー、精霊せいれいは知ってるわよね?」

「ちっこくて、かわいくて、ふわふう飛んでる妖精だろ」

「それは妖精。 精霊は、山や川や草木なんかに宿やどたましい

 残念そうに、首をかしげる。


 気を取り直して、ラナは話に戻る。

「その《精霊の力》が服に宿やどると、防具として使えるの、矢を防いでくれたり、炎を防いでくれたりするの」

 そういいながら、

「小さな精霊の力でもいいんだけど、物理防御属性ぶつりぼうぎょぞくせいがある服がいいわね」

 と、次の服を手にとって品定しなさだめする。

 もう、俺との会話など気にしてない。


「コウヘイにはこれがいいんじゃない。 これも精霊の力が宿っているわよ」

値段、二百十ゴールド


 ラナは真剣な眼差しで、物色ぶっしょくしているが、

 精霊が宿っているかどうかなんて俺にはサッパリわからん。



 【= 防具の店 =】


「ちょっとこのよろい着てみてよ」

 ラナが、俺のサイズに合いそうな頭の先から足の付け根まで全身をおおよろいを見つけて、その商品に駆け寄る。

 値段が六十Gとほかの商品に比べて、ずいぶん安い。

 そこに店員が近づいてきてセールストークを始める。

「なかなかそのよろいのサイズに合うお客様がいませんでね。つい最近お値段を下げたところなんですよ。 見たところお客様にピッタリのようですがいかがですか? セミオーダーですから、合わない所はお直しできますし」

「《精霊の力》もあるようだし、これ絶対お買い得だよ」

 近くで、まじまじと鎧を見ていたラナは、乗り気だ。

「鎧は重いからいいよ。 それに動きにくいだろ?」

「そんなことないわよ。 物理攻撃、魔法攻撃、全身防げるんだから、強い剣士はほとんど鎧つけてるでしょ」

 店員と、ラナに進められ、俺はしぶしぶ試着してみた。

 一般的な剣士は筋肉質なのだろう。俺の体型には合ってないように思える。


 試着室から出てきた俺を見て、ラナは、

「せんぜん似合わないね。あははは」

 第一声がそれだ。


ろっていったのそっちだろ』

 口には出さないが、少々腹立たしい。


 背丈せたけは合っても、細身の俺が着ると、胸囲きょうい、二の腕の膨らみ、首の太さがぜんぜん合ってない。

 俺が動くたびに、鎧がずれる、操り人形マリオネットのようなガクガクとした動きになる。

 食堂のテーブルに身の入っていないカニが出されたときのような残念な面持ちで店員も苦笑いしている。


「コウヘイには、この腕に付ける盾がいいわよ」

 笑いものにされた俺の気持ちなどほったらかしに、ラナは次の商品を物色ぶっしょくしている。

 そんな無邪気なラナをみて、トボトボとした足取りで、更衣室にもどった。



 【= 武器の店 =】


 コウヘイは剣士だから、長剣がいいわよね。

「この剣がよさそうだけど、……ちょっと高いわね」

 値段三百ゴールド


 【= 護符ごふの店 =】


 《精霊の力》が宿やどったお守り。

 この護符、空気を圧縮して、物理攻撃をやわらげるから、必需品ひつじゅひんよ。

 こっちは、電撃でんげき系魔法の防御。

 こっちは、真空を作って、ほのおを防ぐの。

 効力こうりょくを使うと灰になっちょうから、一回限りなんだけどね。


 独り言のように俺に説明しながら、護符を手に取り、なにやら確かめている。


 ラナは楽しそうに、あれが欲しい、これがいいと独り言をいう。

 しかし、現実はきびしい、

 百ゴールド、二百ゴールドなどあたり前、とても今の所持金額で買える物など無い。

 「高いな」

 「高いわね」

 商品を見る度に、この言葉が、口から何回でたことやら。


 いろんな店に入って、商品をみて楽しめたのだが、

 どれもこれも高くて、気が滅入めいる。


「そういえば、金額が十プラチナとか十ニプラチナの値札があったけど、百Gや二百Gより上なのか?」

「一Pは六十Gのことよ。だから、十Pは六百G、十二Pは七百二十Gになるわね」

「なるほど」

 とは言ったものの、なんとなく納得ができない。

『計算の仕方がわからん。じゃ、百GはなんPなんだ?』

 一・三Pとか、一・四Pあたりなのかと、小数点のことを考え、黙り込んでいた。


「さぁごはんにしましょ」

 ラナが言う。

 お金もないのにむずかしいことを考えても、しょうがない。

「そうだな。とりあえず、めしだな」

 そう考えると、無性に腹が減ってきた。

「そのまえに、……」

 と、ラナがゆびす。

 大衆浴場!?

 俺とラナは、男湯、女湯に分かれて今日一日の汗を洗い流した。



 日は沈み、町のランプの光があちらこちらで輝いている。

 風呂あがりの風が気持ちいい。

 見知らぬ町を、ふらふらと繁華街の方へと歩いて行った。



 干しレンガと木材で造られた店舗がのきを並べるなか、

 はしら天幕てんまくだけのスペースがあった。

 どうやら、近くの屋台で買ったものを、ここで飲み食いする場所らしい。


 ラナと顔を見合わせた。

 ラナは袋からお金を取り出して確認する。六コールドしかない。

 ここなら商品と引き換えにお金を出せばいい。宿代を残す計算もしやすい。

 ちゃんとした食堂に入ってお金が足りませんでしたでは、情けない。


 ラナと顔を見合わせて、ここにすることにした。


「肉肉肉」

 なにがなくても肉が食いたい。

「肉いいわね」

 二人して、肉汁があふれ出す骨付きブロック肉を遠火であぶっている屋台の前で立ち止まった。

 けむりが鼻腔びこうをくすぐる。二人前盛った皿を受け取る。

 隣にはしゅわしゅわ酒の屋台があった。


 空いている席に座るなり、肉にかぶりつく、肉汁が口の中に広がり香ばしいにおいが嗅覚きゅうかくを刺激する。

 肉汁で満たされたのどをしゅわしゅわ酒が、胃へと洗い流す。また、肉にらいつく。

 肉の塩加減がうまい、しゅわしゅわ酒の刺激がうまい、夜風が気持ちいい。

 舞台ふたいでは、芸人が音楽をかなでだし、軽快なステップでリズムを刻む。


 ラナは俺に負けず、大食おおぐらいだった。皿にあった肉を平らげて、しゅわしゅわ酒で流しこむ。

「「ふっはぁーー」」


 二人して、目で屋台を舐め回す。

「あれ焼き肉じゃない?」

「行ってみようか?」

 二人で焼き肉の屋台へと向かい、焼き肉と、また、しゅわしゅわ酒を買って一緒に席に戻った。

 思いつくままに食べた飲んだ、散々飲み食いした。

「もう、腹いっぱい。もうはいらん」


 舞台の音楽は、いつしかさみしげな音色に変わっている。

 楽しく飲みわす人々の笑う声が騒然として耳に入るのだが、なんだか心地よい、街灯のランプが暖色だんしょくの光をきらめかしているのが見える。


 食欲が満たされると、次は寝床ねどこが恋しくなる。


 ラナが袋からお金を出す。

 ニゴールド

「これで、宿やどまれるか?」

 ラナは黙って、首をよこに振った。


「野宿か」

 酔がさめる気分だ。


「あそこなら」

 そういうと、ラナは俺の手を取り、もときた換金所かんきんじょの方向に歩き出した。

「たぶん、ここ待機所たいきじょだよ」


 ラナは入り口で一ゴールド出し、銀貨二枚のおつりをもらっていた。

 中には広い床張りの部屋があった。

「今は横になれるだけでもありがたい」

 俺とラナは薄いクッションを敷き、その上にごろした。


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