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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
五年という歳月
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五年後(ラナと出会って七年)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 夜空で大輪たいりんの花火、楽団員の演奏えんそう、空中庭園。


 そこは俺とラナの世界だった。



 もう五年も前のことになる。

 花火を楽しむラナの姿を見て、なぜ俺の目から涙が出たのかからなかった。ログアウトし現実世界に戻った俺の目からも涙が出ていたことにおどろいた。おどろきよりも、恥ずかしさが隠しきれなかったことをおぼえている。


 俺はなぜ泣いていたのだろうか?


 ずっとからなかったが、最近、ぼんやりラナのことを考えていて、ふと思い当たるふしがあった。

 俺と湖畔こはんで暮らすようになったラナが、イキイキとした楽しそうな表情を見せて、笑顔で話しかけてくるようにはなったのだが、それがラナの本心なのかうたがっていたのだと気づいた。

 考えてみれば、ラナは《魔物の洞窟》攻略こうりゃく断念だんねんしてから自発的じはつてき意志いしを言わなかった。シロを飼うのも、甘いケーキを作るのも、空中庭園を花でいっぱいにするのも、全て俺ののぞんだことでしかないのでは?心の何処どこかで、そう感じていたのだ。


『ラナは、こたえているだけでは?』


 そう、ラナ自身(個性)を、ラナは一度も口にしていなかった。


 あの日、初めて魔物退治以外の意思いしをラナから聞いた。

「来年も花火がみたい。今日を記念日にしましょう」

 本当にうれしかった。


 そこにまぎれもないラナが居た。俺と一緒に花火をることをうれしいと感じているラナが居た。


 だから俺は涙が出たのだろう。


 あとから考えたこじつけかもしれないが、そう考えてしまう。


 ラナと暮らす世界は、本当に楽しかった。

 現実世界にもどっても、ラナと一生いっしょうともにしようと本気で考えた。ラナには神秘しんぴ的な、奇跡きせき的ななにかが起こり、感情が宿やどっていると本気でうたがうようになっていた。


 そんな俺にとって、APIは天のめぐみだった。

 《グリフ王国》のシナリオには無かったゴールドラッシュのイベントを俺が発生させた。

 町がない場所に町を作り《ニュー・アントレア・シティ》と名前を付けたのも現実世界の俺だ。

 その町をテーマパークのような夢の町にしたのも当然とうぜん俺だ。


 《グリフ王国》には無かったいろいろな食べ物を作った。

 元々(もともと)は《グリフ王国》の世界には、味もかおりもそれほど無かった。《グリフロード》自体じたいがまだ新しく、味覚みかく嗅覚きゅうかく規格化きかくかされていない。だから俺が、多くの味とにおいを作った。


 元々(もともと)は《グリフ王国》では魚は釣れなかった。俺が釣れるようにした、大きな魚のオブジェクトも作った。

 湖の周りを整備して、町人のいこいの場所にした。


 APIを使えば、いろいろなことができるが、ある日突然とつぜん見慣みなれないものが目の前に現れるのはおかしい。


 クエスト屋は、料金りょうきんだけをとって雲隠くもがくれするキャラクターだったが、俺が役割やくわりを変えた。

 俺が《インテリ・ジェネリーター》の知識を使って、町人に多くのことを教えた。

 町人が新しい料理を作り、町人が新しい建物を作る。手間てまかったが、現実世界の俺は舞台裏にてっし、できるかぎり《グリフ王国》の住人の手で町を発展させていた。


 俺は、ラナを喜ばせるためなら手間暇てまひましまなかった。

 《グリフ王国》の世界の俺は、《ニュー・アントレア・シティ》が発展していく過程かていをラナと楽しんだ。



 早いもので、ラナと初めて出会ってから現実世界では七年の月日が過ぎ、今日、俺は二十九歳の誕生日をむかえる。二十代最後の一年になる。

 その自分への誕生日プレゼントとして、今日、十時間の連続フルダイブに挑戦する。

 今日の俺は、とことんまで《グリフ王国》を楽しむ。魔物を倒すことに集中するから、《グリフ王国》の世界でおそらく半年いや一年ほどの月日を過ごすことになるだろう、魔物をたおしてたおして、のぼめれるとこまで突き進む。初代魔王を倒し、大魔王に挑戦するのが、今日の目標だ。

 もちろん、安全第一の精神は忘れずにだ。


 《グリフ王国》はバージョンアップをかさね、魔王をたおすと大魔王があらわれ、最近、そのうえしんの魔王が存在するようになった。バージョンアップにより新しく追加された場所では、自作じさくの武器や防具などの使用が制限される、チートと判断される装備そうびはまったく使えなくなった、もう、生半可なまはんかな覚悟ではしんの魔王は倒せないほどに難易度なんいどが上げられている。

 プレーヤーの中には「こんな無理ゲーやれるかよ」「クソゲー」とヤジる人もいるが、そんな人は初心者ばかりだ。ヘビーユーザーはしんの魔王を倒すため、日々鍛錬たんれんしている。その人たちは、現実世界でも英雄だ。当然とうぜん一部いちぶのヘビーユーザーのあいだだけだが。


 難易度なんいどとは別に《グリフ王国》の世界で出来できないことは無いと言われるほど、バラエティーにんだ行動がとれるようになった。一日中仲間なかまと話していてもいいし、スポーツで汗をかいてもいい。

 ただ長く過ごしていると、どうしても《IgC》相手では物足ものたりなさを感じる。今の技術だと、それが現実なのは仕方しかたがない。


 《グリフロード》をとりまく環境も、五年前とは随分ずいぶんと変わった。


 健康面けんこうめん依存性いぞんしょう懸念けねんから、きびしい自主規制じしゅきせいがあったが、年々緩和かんわされ、今では、十三歳以上から楽しめ、利用時間も週十時間までのプレイが可能となるまで規制きせいがゆるくなっている。カスタムチップの開発により、小型化された《グリフロード》が各地にでき一般的な娯楽ごらくとなっている。利用料もがり、今では、一時間千九百八十円だ。ホント安くなったものだ。十時間あそんでも、二万円でお釣りがくる。


 プレーヤーはMMO(多人数同時参加)を待望たいぼうしているが、まだ実現できていない、それでも二人同時に同じ世界に入ることはできるようになった。

 《グリフロード》は手軽に遊べるシナリオを増やし、カップルで楽しめるシナリオもある。

 そのほかに、《グリフ王国》のフィールドを使った。一対一の対人戦や、対立する二人のプレーヤーが指揮官しきかんとなり千を越える《IgC》をしたがえた大戦を楽しむこともできる。

 そのためのリーグー戦やトーナメント戦も開催かいさいされている。


 昔に比べ充実しているのだが、近年、若者の《グリフロード》離れが目立つ。《グリフ王国》がヘビーユーザー向けになってしまったのが一因いちいんかもしれない。

 そして、もう一つの原因は、やはりフルダイブ型家庭用VR機ができたせいだろう。


 フルダイブ型とはいっても《グリフロード》と家庭用では、天と地くらい性能が違う。

 家庭用はゲーム中でも、現実世界の感覚は残るし、睡眠すいみん状態まで意識が低下することもない。現実世界の記憶も残ったままだ。

 そして性能が低いから、味やにおいの感覚はない、皮膚感覚もとぼしいから水に濡れているのか炎につつまれているのか映像で判断するしかない。

 操作性も脳でゲームパッドを動かしているようなものでしかない。


 《グリフロード》とは比べ物にならない。俺に言わせれば、子どものオモチャとしか思えない。


 それでも、最近の若者は家庭用VR機で十分じゅうぶんだという。むしろ、時間の合間あいまをみて楽しむのがゲームだから昏睡こんすいしてゲームにのめり込む方がどうかしていると、俺のようなヘビーユーザを揶揄やゆする。


 最近は《グリフロード》を長時間使うようになったせいか、《グリフロード》の中でも意識がたもてるときが多くなった。明晰夢めいせきむ、それに近い。以前のように無我夢中むがむちゅうでということは少なくなった。

 《グリフ王国》の世界に居ても現実世界の日常を考えたりすることがある。


『人生かけてするものじゃない、ゲームは遊ぶもの』


 そう言う若者の言葉が、最近、やたらと心にひびく。

 この年になるといろいろと考えさせられるものがある。


 それでも、俺は《グリフ王国》をつづける、ラナとともにありつづける。


 《グリフ王国》が平和になっても、もうラナは人形のようになったりしない。

 ラナと一緒に、しんの魔王を倒すと、心に決めている。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 《魔物の洞窟》坑道こうどうの入り口。


 装備そうび調ととのえ、魔王の幹部サラマンダーを倒しに向かう俺とラナ。


 道端みちばたの石に腰を掛け、現実世界のことを考えていた。


『ここがバーチャルな世界だと、三年前にはもう気づいていた。でも他にどうすることもできず《ここが俺の居場所だ》と自分自身をだましていた俺が居た、俺は……』


 俺の先を歩いていたラナが振り返り、屈託くったくのない笑顔を見せる。

「なに辛気臭しんきくさい顔してるのよ。今日は魔物をってって、そのあと、しゅわしゅわ酒で乾杯かんぱいよ!」

 魔物が暗闇くらやみへと手招てまねきする。


「待てよラナ、俺ランタン持ってないんだから、先に行くなよ」

 俺は笑顔を作って、ラナの元へと駈け出した。


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