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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
変化するラナ
57/68

グリフ王国しかない一

 予約日。

 深夜の秋葉原《グリフロード》ビルのリクライニングシートに、俺は座っていた。


 リアルな戦闘シーンは俺にはいてない。そう思う。

 むしろ新しいシナリオの方が俺きなのかもしれない。しかし新しいシナリオにはラナが居ない。


 ラナに会いたい。《グリフ王国》に、ラナに会いに行くことに、俺は決めた。


 三じょうほどの小部屋に流れるやさしい音色ねいろのBGMを聞きながら、

 ラナと楽しく暮らすことを夢見てログインを静かに待つ。


 《魔物の洞窟》には入らない、湖のほとりで楽しくラナと暮らそう。・・・・


 できれば、アンナとセシルとも一緒に暮らしたい。・・・・


  -----


 朝。

 アントレアの屋敷の自分のベットで目覚めた。

 やけに頭がボンヤリする。


 ハッと、『ラナとうまくいっていない!』。『このあと、どうしよう?』今の状況を思い出し、気持ちが落ち込む。

 ラナは部屋から出てこようとしない、ベットにいつも座っている。以前のような元気なラナでいて欲しい。

 イキイキと呪文を唱えるラナ、うように戦う俺の姿。脳裏に浮かぶ出来事が昔のことのように懐かしく感じる。

 《魔物の洞窟》が脳裏に浮かぶ。

『《魔物の洞窟》に行くのが正解なのだろう、そうすればラナは元気になる』

 わかっている。しかしなぜか俺の心の中には、その選択肢が無くなっている。 俺の心の中には迷いがない。


 ベットにこもったまま、考えをめぐらせる。


『そうだ。木こり小屋を作ろう』

 アンナやセシルが居たときみたいにラナと楽しく暮らせるかもしれない。

 いや、セシルの農園に行こう。


 本当にそれでいいのか?

 昼ごろまでそんなことをベットの中で考えていた。


 『ラナからさそいに来てくれないかなぁ』あわ期待きたいがあったが、ラナが俺の部屋に来ることはなかった。


 ラナの部屋のドアをノックしてドアを開ける。ラナはベットの上に座り、一点を見つめている。

 以前のイキイキしたラナからは想像ができない、別人、いや人形のように無機質むきしつだ。


 そんなラナの姿に、さみしさを感じ愕然がくぜんとし、無自覚にラナを見つめたままだまり込んでしまった。

 「どうしたのコウヘイ?」

 無表情に聞いてくる。


 気をしぼる。

 「なあ、外に出てみないか?」

 「そうね。わかったわ」

 怒っているのか?あきれているのか?ラナの気持ちを知りたいとラナの顔を見るのだが、ラナの顔からは何の感情もうかがえない、まるで石膏せっこうでできた仮面かめんに感じる。


 ラナを湖に誘った。

 見晴らしのい風景なのだが、ここも何度も来ている。目新めあたらしさを感じるものなどない。

 二人で湖岸こがんに座り、水に足をつける。


「なあ、ラナ、城に戻らないか?」

「戻ってどうするの?」

「セシルの農園に行ってみる」

 ラナがまゆを少し動かし、さらに質問してくる。

「行ってどうするの?」

「一緒に暮らす」

「はぁ?セシルになんて言うの? わけも無く魔王討伐とうばつめました、一緒に暮らしましょうって言うつもりなの?そんなのダメに決まってるでしょ」

 ラナが愛想あいそきたと言わんばかりの怒鳴り声をあげあきれた顔をする。

 あわてて話題を変えた。

「なら、以前に住んでた木こり小屋に戻って、ゴブリン狩りでなんとか暮らそう。遠征隊の報酬ほうしゅうもまだあるし、十分暮らせるよ。城はにぎやかだし、ここに居るよりマシだよ」

「いい?、コウヘイには可能性があるの、魔王を倒せる可能性がある勇者なの。これはどうすることもできない運命よ。もし城に戻っても、またここに来ないといけない運命なの。私にはかるわ! だから絶対、城に戻ってはダメ」


 ハキハキとものを言うラナにラナらしさを感じ少しうれしくなるが、俺はラナを怒らせたいわけではない。楽しく暮らしたいだけなんだ。


 気まずいが、言葉にする。

「ならここに小屋を建てないか?」

 ふくれっ面でラナが聞いてくる。

「小屋なんか建ててどうするの」

「住もうと思う」


「……そうね。いつまでもアントレアの屋敷で厄介やっかいになってるのも気が引けるわね。 コウヘイがそうしたのなら、私はいいけど」

 戸惑いを見せながらも了解りょうかいするラナにホッとした。



 早速さっそくだが、棒切ぼうきれで地面に線をく。

 城で住んでいた木こり小屋をそのままイメージしてく。

 ラナは見ているだけだ。

「広さってこれくらいでいいか?」

「んーー、部屋はもう少し広いほうがいわね。せめてクローゼットが置けるくらいの広さがほしいわ。あとアンナちゃん達が居ないんだから部屋は二つでよくない?」

 たしかにラナの言うとおりだ、三部屋もらないし、以前の木こり小屋より部屋は広いほうがい。

 ラナと相談しながら、小屋の間取まどりを決めた。


「ラナはここに居てくれ、俺、町でオノ買ってくるから」

 俺は全速力でオノを買いに走った。久しぶりにラナと意見があって、心がウキウキする。ここでうまくラナと暮らそう。


 オノで木を切り倒す。何本もの木を切り倒した。木こりのように一日を過ごした。

 ラナは木陰こかげに座り、一日俺のやることを無表情に見ていた。


 一人で切り倒すことができても、その切り倒した丸太を一人では運べない。

「ラナ手伝ってくれないか?」

「私、そんな重たい物てないわよ。 それより大工さんに頼んでみたら?」

 それもそうだ。


 日もだいぶ西の空に傾いた。アントレアの屋敷に足を向ける。

 新しいことに挑戦するのはじつに楽しい、ウキウキした気分になる。

「小屋が出来たら、次は風呂作りだな。当分は寸胴ずんどうナベだけど、あとから立派な風呂を作ろうな」

「そうね。楽しみにしてるわ」

 おだやかにラナは笑う。

「あの湖、小魚が多いから、大きな魚もいるはずだよ。小屋が出来たら釣りをしようなラナ」

「私釣りしたことないけど、釣れるかしら?」

「大丈夫だよ。きっと釣れる」

「そうね。楽しそうね」

 おだやかにラナは笑う。


 町に戻り、大工の家をたずねた。

 大工はプライドが高いのか、小屋を作りたがらない。「ワシの設計どおりの家なら作る」と頑固がんこに言いる。しかし、そんな大工が言うような立派な家はらないし値段も高い。


 何軒かまわったが、大工の言うことはみな同じだった。


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