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グリフ王国はクソゲーだ

　検索結果に『グリフ王国はクソゲーだ』というタイトルが表示されるのは以前からだ、《グリフ王国》をしないヤツが根も葉もない言いがかりのような事を書いていた、見る価値など無かった。

　しかし、今回は違った。

　よく見ると、俺がちょくちょく見るブロガーのページではないか！？

　そのブロガーは情報を細かく取りまとめ、《グリフ王国》を絶賛（ぜっさん）していた。度（ど）が過ぎるほどの愛好家（あいこうか）のはずだ。

『こんなタイトルを付けるはずがない、なぜ？』

　見ないではいられない。

　その検索結果のタイトルをクリックする。

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　『グリフ王国は、すばらしい』

　私は以前からこの言葉で《グリフ王国》を形容（けいよう）してきた。

　実にすばらしい。

　私は月に二回のペースで《グリフ王国》の世界を訪（たず）ねた。貯金を取り崩して、何日もキャンセル待ちに並んで。私の人生を捧（ささ）げるつもりでした。

　魔物を倒すうちに葉月（はずき）（私のパートナー《ＩｇＣ》）とは深い友情が芽生（めば）えたと思います。葉月（はずき）と冒険できる。そのことが私の生きがいでした。それは現実世界に居るときも変わりません。

　《魔物の洞窟》にある《魔界へのゲート》が大きく開き魔界に飛ばされた後（あと）は苦難（くなん）の連続でした。しかし、パーティーのメンバーと共に助け合い、時に泣き、時に笑い苦難を乗り越え、魔物と戦いました。今（いま）考えれば希望に満（み）ち、今の自分を信じ、明るい未来を築（きず）きたい、そんな絶頂期（ぜっちょうき）だったのでしょう。後戻りはできない、野宿（のじゅく）しながら魔王城に向かう。途中、仲間ができ、仲間と死に別れる。このとき心底（しんそこ）魔王を憎（に）んだし軽（かる）はずみな自分の行動を悔（く）やみました。

　いくつもの困難（こんなん）を乗り越え、やっと魔王を倒すことができました、ゲームを初めて十回目の時です。ゲーム内での体感的な月日は一年半くらいでしょうか。

　破壊（はかい）されたグリフ城に戻った私達は、町人から盛大（せいだい）な歓迎を受けました。

　すべての人が私達を祝福（しゅくふく）し、すべての出来事が輝（かがや）いて見えました。

　そんな私は現実世界に戻っても、未来に胸を膨（ふく）らませていました。このあと《グリフ王国》はどうなるのだろうか？復興（ふっこう）と平和な生活が訪（おとず）れるのか？それとも、新しい敵が現れるのか？そう期待しました。

　おとずれた未来は平和な生活でした。いえ、地獄です、平和過ぎて何もすることがないのです、王様から奨（すす）められた爵位（しゃくい）と領地（りょうち）は辞退（じたい）していたのですが、あまりにもすることがなく、一度断った爵位と領地を受け取りました。暫（しばら）くの間（あいだ）は治水工事（ちすいこうじ）、都市計画（としけいかく）など気を紛（まぎ）らわすことができたのですが、《グリフ王国》は難易度（なんいど）の高いゲームではないことをつくづく実感しました。なぜなら昨日で十二回目になるのですが、難無（なんな）く私の町は完成し、もう私のすることはありません。私の町は順調に発展するでしょう。お金は貯まる一方です。《グリフ王国》にあるほぼ全てのものが買えるようになるのではないでしょうか。普通おかしいですね。数カ月で町が発展して、世界中のものが買えるほどお金が貯まっていくなんて。

　《グリフ王国》のシナリオは、魔王を倒すまでなのです。それ以降は、ただゲームの世界に入れるだけというおまけみたいな物なのです。

　《グリフ王国》には、それ以上の問題があります。私にはそれがどうしても許（ゆる）せません。

　私のとって一番の問題は、《ＩｇＣ》が人形のようになることです。『葉月（はずき）は俺の嫁』と決めてたのに、人形のようになったのです。

　葉月（はずき）は、自（みずか）らは何も行動しなくなりました。一日中自分のベットに座っています。

　質問には答えるのですが、そこには感情がありません。

　いつも優しく、時には心強く、私を支えてくれたのに……悔（く）やまれます。

　あんな葉月（はずき）を見るのは辛（つら）くて堪（たま）りません。先程（さきほど）運営にメールしました『私の葉月（はずき）を返せ』と。一日も早く運営はシステムを改善（かいぜん）するべきです。

　まだ、《グリフ王国》を楽しんでいる人が多いと思うので助言（じょげん）します。長く《グリフ王国》を楽しみたいと思うなら、選択できるイベントはできるだけ飛ばさない方がいいでしょう、魔王を倒してもいいことは何（なに）もありません。

　深くパートナー《ＩｇＣ》と接（せ）すれば接（せ）するほど、人形のようになった《ＩｇＣ》を見るのは辛（つら）く、そして悲（かな）しいでしょう。

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　俺は、もう三回ログインしている。今夜のログインで四回目だ。シナリオの三分の一を終（お）えていることになる。

　《グリフ王国》のシナリオは案外（あんがい）短いのだと知った。いや、このブロガーは急（いそ）いで魔王を倒したのかもしれない。俺の歩（あゆ）みは遅い、まだまだ先があるのかもしれない。

　今後の展開が気になる。

　インターネットを検索すれば、ネタバレを挙（あ）げているブロガーは多い、《魔物の洞窟》の攻略方法や、その後の展開を簡単に知ることができるはずだが……、

　今読んだブログを読み返す。

　"《魔界へのゲート》が大きく開き魔界に飛ばされた"と書いてある。

　"破壊（はかい）されたグリフ城"と書いてある。

『《魔物の洞窟》を攻略してはいけないのだ』

　グリフ王国が平和なのは今しかない、これ以上すすんだら魔王と全面戦争になる。

　そして、魔王に勝利してもいいことなどない。ラナが人形のようになる未来しかない。

　しかしまてよ、アントレアは「《魔物の洞窟》を攻略して、城に戻って武道大会」と言っていたじゃないか！？。

　あれはホブゴブリンを倒した後に発生したセリフだった、《魔物の洞窟》を攻略したあと、俺だけのシナリオに進むのか？

　いや、そうとも限らない。アントレアが言ったことがシナリオとして存在しているとは限らない。

　存在していたとしてもその分岐点（ぶんきてん）がわからない。

『調べてみるか』

　インターネットで検索しようとしたが、『いや止（や）めておこう』

　もうそんなに時間がない。《グリフロード》ビルで仮眠（かみん）をとって、明日はそのまま会社に行くのだ。その準備をしないといけないし、俺のブログの返事欄に書かれた内容を見る限りではホブゴブリンを倒したのは俺だけだ。嘘（うそ）が多いインターネットの情報を信じて間違った選択（せんたく）をしてしまえば取り返しの付（つ）かないことになる、魔王と全面戦争になる。

　今夜のログインでは《魔物の洞窟》の攻略はせずに、なんとか《アントレア・シティ》で過（す）ごそう。

　現実の記憶を《グリフ王国》には持ち込めないが、今までの経験上、強い意思が何らかの形で残っていることは間違いない。

　深夜午前二時、秋葉原《グリフロード》ビル。

　俺は『《魔物の洞窟》に行ってはダメだ。行くとラナが人形になる』そう念（ねん）じながら、ログインした。

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　……今ログアウトしてわかった。ラナの頭の中には魔王を倒す目的しかないんだ。《魔物の洞窟》に行けないラナは、まるで人形じゃないか！、ラナと平和に暮らす夢は叶（かな）わない。

次の投稿は、また日数（一ヶ月程度）が空きます。