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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
変化するラナ
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四面・松明の炎

「この《ビジュアル》は《真空の壁》を作ることが出来ます」

 ピピにそっくりな《ビジュアル》を俺達に紹介する。


 透明の壁の向こうでは、続々(ぞくぞく)押し寄せるゴブリンに後ろから押され将棋倒しの下敷きになったように壁に張り付いたゴブリンがみにくい顔をさらしている。

 そんなゴブリンを踏み台にして、壁の上にい上がるゴブリンもいるが、はいれる隙間すきまは無いようだ。

 見えない壁を長い爪できむしったり、石オノで叩いたりしている。しかし、《真空の壁》が壊れる様子ようすはない。


「物理攻撃だけではなく、炎や雷、毒の霧や衝撃波しょうげきはなども全てふせいでくれます」


「最強じゃないか」

「それが、そうでもないのです」

「たとえば?」

「……すぐにわかりますよ」

 余裕を見せて説明していたアントレアが口をにごす。隠すアントレアに違和感を覚える。


「バカね。相手の弱点なんかは聞かないってのが常識でしょ」

 そんな常識知るもんか!

 俺がラナをにらむと、なに?と言わんばかりにラナもにらみ返す。


「魔物とのあらそいのみに目が奪われてしまいますが、時として人間同士が殺し合うということもありますから。 穏やかに見えて派閥争はばつあらそいはつねにあります。ともだった者が、敵になったとしても世の常と受け入れるしかありません。ですから一般的には聞かないってなってますね」

 俺とラナを仲裁ちゅうさいするかのように説明口調くちょうで話し、そして、さみしそうな表情を浮かべる。


 アントレアに向けていた目線を周りの風景にうつす。

 ひっきりなしに透明の壁を攻撃していたゴブリンらだったが、今は、不思議そうに透明の壁を小突こついている。

 周りのゴブリンらから離れたところに美しい女性と、一段と体格のいゴブリンが居るのに気づいた。

 俺の目線の先に気づいたアントレアが注告ちゅうこくする。

「あまりサキュバスの方は見ないでください。光は通しますから《魅惑みわくの魔法》に魅了みりょうされます」

「あのサキュバス、アンナちゃんをさらったサキュバスだわ」

「サキュバスは執念深しゅうねんぶかいですから、おそらく復讐ふくしゅうでしょう。それにしてもよくこれだけのゴブリンを集めたものです。ちょっとした軍隊ではないですか」

 俺に吹き矢を飛ばしたあの魔物なのか?

 確かめるようにサキュバスを凝視ぎょうしする。

「見ないでください。あやつられてしまいますよ」

 ぼんやりしていた。体をすりながら声を掛けるアントレアに気づき、目線をらす。


 ゴブリンのむれは、透明の壁をこわせないと理解したみたいだが、しかし、ゴブリンらは立ちろうとしない。

 取り囲まれてから一時間は経っただろう。

「しかし困りましたね。引き下がってくれそうにはありませんね」

「これ、いつまで続けるつもりなんだ」

明後日あさっての夕方までに私が町にかなければ捜索そうさくが行われるはずです。ですから最悪でも三、四日辛抱しんぼうすれば、仲間が発見してくれます」

「三、四日もこのままなのか?」

「私もゴブリンが途中であきらめてくれることを願いますが、こればかりは先が見えないですね」


 日が暮れても、ゴブリンは《真空の壁》を幾重いくじゅうにもかこんだままだ。

 内側で火を起こせば、煙が充満じゅうまんする。

 ゴブリンが手に持つ松明たいまつの光をたよりに、かた燻製肉くんせいにくをそのまま食べる。

「食事と睡眠はいかなるときも大事です。弱気にならず今できることをしましょう。なに、最悪でも四日間の辛抱です」

 遠くまで続く敵の松明たいまつを眺めていると落ち込んでしまうが、アントレアのプラス思考に勇気づけられる。


 しかし、数枚の燻製肉を食べ終わると、また、ひたすら待つだけの時間が流れる。

 ゆらゆられる敵の松明を見ていると、なんとも心細くなる。


 俺達は動こうとも、話そうともしない。

 《真空の壁》は音を通さない。

 かすかな物音と、馬の鼻息が聞こえる。

 無言のときが流れる。


「ところで、コウヘイさんは、なぜ冒険者になったのですか?」

 唐突とうとつなアントレアのいかけに、今更いまさらのように過去の記憶をさぐった。

 脳裏に過去の記憶と映像が再生させるようによみがえってくる。


 俺とラナは、仕事をしていた、幼馴染おさななじみとか親戚しんせきとかでは無く、同じ職場で働く同僚どうりょうだ。

 俺は、キーボード(なんの変哲へんてつもないように見える木で出来た板)をカタカタとたたく。指が触れた場所が水滴すいてきらしたように波打つ。波は段々とく鮮明になり、雲のような実態じったいあらわれる。ラナはそれを小瓶こびんめフタをする。つくえの横には、水とも雲とも区別がつかない物がまった小瓶がたくさんある。全部、俺が作り、ラナがふうをした。魔法の材料なのは知っているが何に使われるのは知らない、それで生計せいけいが立てれるだけの収入があるから作る。それだけの仕事だった。

 そんな俺達が住む町に、ある日、ゴブリンが出没した。小さな田舎町だったため冒険者などいない、町人は自警団じけいだんを作り警戒に当たったが、俄仕込にわかじこみではたいしてやくにたたない。そのゴブリンを仕留めるまでに一ヶ月ほどの時間をようし、その間に八人の町人がゴブリンに殺された。その中にラナの両親も居た。


 俺は、頭によみがえった記憶を、アントレアに話した。

 その話をラナもシンミリ聞いている、つらい過去だろう。

「「「……」」」


 沈黙をきらうかのようにラナが問う。

「アントレアはどうして冒険者になったの?」


 家庭の事情でおずかしいのですが、私は、兄たちと仲が良くありません。


 兄たちは私のことを野心家とののしり、私は兄たちを臆病者おくびょうものだと考えています。


 以前に少しお話ししたと思いますが、《魔物の洞窟》は当家の領地にあります。そして、今は採掘量は少ないですが、恐らく大量の銀や金の鉱物が眠っているはずです。

 うわさと言うのはすぐに広まるものです。鉱物の存在を知った公爵こうしゃくたちは《魔物の洞窟》への派兵はへいに反対しています。おおやけには認めませんが、一度《魔物の洞窟》を魔物に奪わせてから奪還だっかんすることで所有権を自分達のものにしたいがためにです。


 もともと少量の石炭しかれないと考えていた鉱山ですから当家にとっては無かったも同じ。対立をさけるため兄たちは、公爵達のくわだてを黙認するつもりだったようですが、みすみす権利を放棄ほうきするのは私には理解できません。

 今、私は、叔父おじ親類縁者しんるいえんじゃから資金を集め、《魔物の洞窟》にいる魔物と戦っています。

 父は私を応援してくれているはずですが家督かとく同士の争いになることを恐れ何もしません。

 しかし、兄たちは私の行動が目障めざわりのようで……。

 いかりを見せたかのようなアントレアだったが、さみしげな顔で口をつぐむ、そして一言。

「ですのでこの《ビジュアル》はとても役立っています」


『兄たちに命を狙われているのだろうか?』

 アントレアの顔色に、そんな苦悩くのうがあるのではないかとかんぐってしまう。


 あまり深入りしないほうがいいのかもしれない。話題を変える。

「この《ビジュアル》の名前は?」

「《ビジュアル》はあくまで《精霊の力》ですから、力を使っていけば、いずれ力が底を消滅しょうめつします。名前を付けてしまうと愛着あいちゃくが湧きますから、いざっと言うときに判断がにぶらないように名前は付けていません。 敵の松明に囲まれて、センチメンタルになったのかもしれません。私らしくないことを話してしまいました。この話は他言無用たごんむようにお願いします」


 湿っぽい話だったが、ゴブリンの松明たいまつを無言で眺めているよりは気休めになった。結構けっこうな時間話していた、空がっすら明るくなってきている。

 それでも、まだ、半日しかってない、この状態をあと三日半続けるのか?気が遠くなりそうだ。


 気のせいかなんだか息苦しい、いや気のせいではない。


「なんだか息苦しくないか?」

「そうですね、もうそろそろ限界のようです。 これがこの《ビジュアル》の最大の弱点です。そう、空気を遮断しゃだんしてしまうのです」


 敵の攻撃を防ぐが、こちらからも攻撃が出来ず、移動する事もできない。ただの時間稼ぎでしかない。そして、一定時間ごとに新鮮な空気を入れ替えるため、《真空の壁》を張り替えないといけないことを俺に説明してくれた。

「ですから、この秘密だけは、絶対兄たちに知られてはまずいのです」

 アントレアの目は真剣だ、殺気すら感じさせる。


 するどい目線を俺からはずし、立ち上がったアントレア。

「気づかれないようにそっと開閉かいへいしますが、《真空の壁》を張り替えるには少々時間がかかります、もしゴブリンが入ってきたらお願いします」


 ちょうどその時、サキュバスの隣に居た背の高いゴブリンが雄叫びをあげる。

「ガーーーー」


 《透明の壁》を取り囲むゴブリンらがおどろき、道を開ける。


「どうやら、ホブゴブリンもシビレを切らしたみたいですね」

「ホブゴブリン?」

「はい。あの背の高いゴブリンはホブゴブリンです、ゴブリン界では英雄的な存在です」


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