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偵察

「なんだ。あれは?」

 今は魔物のとなっている旧市街地。

 その風景に多くの冒険者がおどろきの声を上げた。


 屋根は落ち、壁は壊れ、ところどころこけが生えている。

 そして、真新まあたしい瓦礫がれきの山が、冒険者の侵入しんにゅうはばむように其処彼処そこかしこまれている。

 想像だにしなかったオークの防御にアントレアも表情を曇らせ、

「おかしいですね。オークは、こういった小細工はしないはずなんですが」

「そうよね。絶対おかしいわ」

 ラナもオークの行動をいぶかる。

 しかし、その肝心かんじんのオークの姿が一匹も見えない。


「冒険者のリーダーは、隊長のもとに集まれ」

 冒険者達の間を、兵が声を張り上げ伝令でんれいしながらけていく。

 俺とアントレアは、隊長の元に走った。



 五日後、やっと旧市街地に辿たどり着いてみると、道のあちらこちらが瓦礫がれきの山でくされ迷路のように入り組んでいた。

「隊長おかしいじゃないか?あんな瓦礫がれきの山、聞いてないぞ」

 一人の冒険者が、すでに隊長にいついている。

「まあ待て、みながくれば状況を話す」

 続々ぞくぞくとパーティーのリーダーと思われる者が集まり、隊長の前には五十人ほどの冒険者がたむろした。

「皆も見たとは思うが、旧市街地のとおりは、瓦礫がれきおおわれている。そして、斥候せっこうの報告では、ところどころ瓦礫がなく先に進める道があるとのことだ。そこで冒険者のだれかにその先に進んで様子をみてきてもらいたい」

「それ迷路だろ。誰が考えたってわなじゃないか!」

 誰ともなく見え見えの罠だと言い始める。

「だれがそんなとこ行くんだよ」

 反発はんぱつする冒険者達を前にして、隊長は平然と、

「なら、今ある瓦礫がれきみなで一つずつのぞき、前に進むしかない」

「冒険者が瓦礫を運ぶのか?土工の仕事だろ」

「土工の人数は多くない。土工だけでは瓦礫の撤去てっきょが済むまえに遠征期間が終了してしまう」


「瓦礫なんかえて、町の中に入ろうぜ」

 一部の冒険者から強攻策きょうこうさくが出る。

 見えた範囲では、大抵の場所が、近くの建物をくずして出来できたレンガと木材を積み上げていた。高くてもこしの高さ程度である。簡単に越えられる。

 

 しかし、

「オークにとってレンガなんて泥団子どろだんごみたいに踏みつぶせるだろうが、俺達は違う、散乱するレンガに足をすくわれるし、崩れてくれば足が埋まる」

「退路がたれる。オークが待ち伏せしてたら死者がでる」

「瓦礫の上では、走るどころか歩くことすらままならないんだ、そんなところでオークと戦うつもりか?」

 反対者が多数を占めた。


 口を開く冒険者はいなくなり、全員が考え込んでしまった。

 このまま一匹のオークも狩らずに報酬もなくおめおめと帰るのか、それとも罠と分かっている迷路に入ってみるのか。


「おまえら逃げ足だけははやそうだから、行ってみろよ。ほかじゃやくに立たないんだからよ」

 初日の夜にからんできた酔っぱらいハンスだ。

 明らかに俺を見てしゃべっている。

 俺が無視していると、調子に乗って話を続ける。

「どうみたっておまえ、戦うって恰好かっこうじゃないだろ。それになんだよその短剣、オークの皮膚も切れないんじゃないか?」

 そう笑うハンスだが、無視を続ける。

「なあ、どうなんだよ。……。なあみんなもそう思うだろ」

 俺が相手にしないと分かると、ハンスは、まわりの冒険者に同意を求める。

 あながち、ここにいる冒険者達はハンスの言うことがおかしいとは考えていないようだ。

「あーぁ、分かったよ。でも、当然とうぜんおまえも行くんだよな?」

「な、なんでおれが行かないといけないんだ」

「これだけ、大口おおぐちたたいておいて、自分は俺の尻に隠れているつもりか?単におまえが怖いから俺に押し付けているだけだろ。どうなんだよ」

「ふざけんな!」ハンスは激怒し剣に手をかける。


 隊長は手をパンパンと大きな音で鳴らし、

「そこまでだ。 では、この二人ふたりのパーティーに偵察ていさつをお願いしよう」

 その一言で事をおさめた。

 他の冒険者たちも合点がてんがいった顔つきで自分のパーティーに戻り出す。

「お、おい待てよ。俺とこのパーティーは十人居るんだから俺が勝手に決められないんだよ」

 ハンスは、あわてて隊長の発言を撤回てっかいさせようとするが、続々と他の冒険者は解散し、事実上の決定事項となってしまった。


 トボトボとラナ達の場所に戻る。

「すみません。アントレアさん」

 しょんぼりするアントレアを見て、悪いことをしたと謝った。

「いえいえ、コウヘイさんが謝ることはないですよ。私もあのハンスという男の態度には腹がすえかねていましたから、 あのあと自分も行くはめになったハンスの苦虫にがむしを噛み潰したような顔をみて気が晴れました」

 アントレアはやさしい顔を見せる。俺は少しホッとして、付けす。

「でも、偵察には俺一人で行くんで、ラナ達と休んでてください」

 アントレアは少しおどろいた顔をして、またしょんぼりして、

「いえ、私が行くのはいいのですが、軍隊では個別行動は認められていません。……つまり、今回の偵察にはラナさん達も一緒に行ってもらわないといけません」

「えーーー」

 はなから自分一人で偵察に行くつもりだったが、知らぬ間にラナ達を危険な目に合わせる状況になっていたことに驚いた。

「『偵察は俺一人で行きたい』って隊長に掛け合ってくる」

「無駄ですよ。一人の冒険者のわがままで、五百人を超える隊の原則を変えるようなことは、どんな愚将でもしませんから」



「ほんと、ごめん」

 俺は事情を話し旧市街地に入らなくてはいけなくなったことを、手を合わせてラナ達三人に謝った。

 最初驚いていたセシルだが、

「その冒険者が悪いにしろ。おそらく他の冒険者も私達に偵察に行かせようと考えていたみたいですから、仕方が無かったことだと思います」

「そうよ。コウヘイは悪くわないわ。オークなんてやっつけちゃいましょ」

 ラナが威勢いせいのよい言葉を発し、アンナが

「そうだ」

 と話の流れに合わせて掛け声をかける。

 アントレアが話の流れをる。

「いいえ、今回は偵察ですからオークと戦う必要はありません。一匹でもオークを見かけたら逃げ帰ることを考えます。そして、先頭はあのハンスという冒険者に歩いてもらいましょう。角を曲がった途端とたん、待ち伏せしているオークに一撃をらうのだけは避けたいですから」


 数十分後、他の冒険者と、隊長はじめ兵が見守るなか、

 俺達は、旧市街地のとおりの前に立った。

 他の通りは瓦礫がれきふさがれているがここだけは町中まちなかに入れるようになっている。


「なんで俺らが行かないといけないんだ」

 ハンスの仲間が不平をこぼす。

「こんなの青二才でもできることなんだが、成り行き上こうなったんだよ。ほんと手間かけさせる青二才だぜ」

 ハンスは仲間にへつらい、ご機嫌を取っている。


 俺達より後ろに居て、仲間と大きな声で話すハンスに、嫌味いやみこもったにくまれ口をたたいてみせる。

「その青二才にさきかせて、自分はその尻についてくるつもりですか?」

「なんだとぉこらー」

 ハンスはすぐさま顔色を変え、ケンカ上等と俺の方に歩いてくる。

 アントレアはハンスの前に出て、

「まあまあ。私闘しとう厳禁げんきんですから、遠征が終わって話し合いましょ。今は偵察です」

 煮えたぎったような顔色で俺をしばらく睨んでいたが、今の状況はが悪いと感じたのか、

「覚えてろよ」

 捨てセリフを吐いたハンスは、どしどしと迷路の中へと進んで行った。


 ハンスから十歩ほど離れて俺達は歩き始めた。そして、また十歩ほど離れて残りの冒険者が歩きついてきた。


 初めはドシドシと歩いてたハンスだが、だんだんあゆみが遅くなる。


 通りでは、耳をませ建物の中の様子をうかがいながら慎重に歩く、角に差し掛かると角の向こうの様子をじわりとのぞく。まだ三百米も進んでないだろう。

 「おい、ハンス、日が暮れるぞ」

 ハンスの仲間がヤジを飛ばし、クスクスと笑い声をらす。


「本当に日が暮れそうだ」

 今までの威勢いせいい態度とは、打って変わったハンスの用心深さに俺もハンスにヤジを飛ばしたい気持ちになる。

「オークの渾身こんしんの一撃だけは避けなければなりません。オークの待ち伏せを警戒して用心深く進むハンスの行動は、あながち間違ってはいませんよ」

 そう口にしたアントレアは、いつもの冷静さを保ちながら状況を説明する。

「オークは図体ずうたいが大きい分、息も荒く近づけば大きな鼻息が聞こえます。それに何時間も息を潜めて待ち伏せすることはオークにとって苦痛以外の何物なにものでもありませんから、必ずなんらかの音が聞こえるはずです。元来がんらい、オークはこんな戦法は取りません。きっと強大な力をもった指導者にオークは従っているのでしょう」

 冷静に分析ぶんせきするアントレアは、しばらく黙っていたが、また口を開く。

「しかしこのままではまずいですね。なにかしら報告できるものがないと、一日無駄になったと他の冒険者に非難され、また明日も私達が偵察をするはめになりますよ」


 アントレアは、ハンスに駆け寄り、

「ハンスさん、こっちの壁は私が警戒しましょう」

 わざわざ危険を買って出る。


「あ、俺もなにかするよ」

「それなら、コウヘイさんは向こうの壁の中の物音を確認してください。もし、なにかしらの音が聞こえたらすぐに壁から離れてください。こんな壁オークなら簡単にこわせますから」

「私もなにかするわよ」

「それなら、ラナさん達は、後ろから二階と屋根を警戒していて下さい」


 旧市街地に入るまでは、あんなに悪態をついていたハンスだが、今は何も言わない。

 角に差し掛かると、

「ハンスさん少し前に出て下さい」

 アントレアは左側の建物の壁に肩を付けている。俺は右側の建物の壁の中の様子を耳を澄ませて確認する。道の真ん中を歩くハンスにアントレアがそう指示をし、ハンスが少し前に出て左右にオークが隠れていないか確認する。

「左右とも大丈夫だ」

 一安心してT字路の中央に出る。

「次はどっちに行くんだ」

 ハンスがアントレアに聞く。

「では、こっちに行ってみましょう」

 アントレアは隊長からあずかったという地図に印を付けなから、進む方向を決めた。

 テキパキとした指示、ブレない発言に俺だけではなく、ハンスまでもがアントレアの意見を聞くようになっている。


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