選考の発表日
翌朝、空が白み始めた。
日の出前。俺達は木こり小屋を出て、城門へと向かった。
城門前には、荷馬車や商人、冒険者が、開門を待っている。俺達もその人たちに混ざる。
日の出とともに門は開き、同時に人々がゾロゾロと城内に入る。
城門前の広場には、既に多くの人が集まっていた。
みんな冒険者なのだろうか?
町中の人が集まっているのかと思うほど人が多い、中央の壇上付近には人が密集していて近づくことすらできない。それほど今回の募集は魅力的なのだろう。
この人溜まりに混ざっては、背の低いラナとアンナが可哀想だ。俺達は壇上に近づくのを諦め、城壁近くの人気の少ない場所に移った。
騒然とするなか、銅鑼が叩かれ、辺りが静まり返る。
壇上で、大きな声で何か話しているようだが、はっきりとは聞き取れない。
城壁上部から、紙がまかれた。
空から舞い落ちる紙を、パッパッと四枚掴み取り、ラナ、セシル、アンナと渡す。
目的、遠方でのオーク討伐
期間、三週間
募集人数、四百人
資格、不問
報酬、一人二千四百G(四十P)(ただし、成功報酬)
受付、城門広場仮設受付所
「こんな紙見ても何もわからないな」
状況も分からず、成り行き任せに待っていると動きがあった、壇上の近くで、冒険者たちが列を作り並びだす。城兵が「ニ列ずつに並べ」、「列を乱すな」と何度も声を張り上げている。
「ここで待ってて」
ラナが、人だかりの方へと向かう。
「いろいろ聞いてきたわよ」
ラナが聞いた内容は、
五日ほど歩いた所に、旧市街地があり、そこにオークが駐屯している。
斥候の情報によると数は百二十匹。
ゴーレムは居ない様子。
ゴーレムと合流し、再び城を襲ってくる可能性があるため、先に叩いてしまおうというのが今回の作戦らしい。
今回の作戦は旧市街地の奪還ではない。ひたすらオークを狩ればいい。六十匹のオークを駆除できれば任務達成とし、全ての冒険者に報酬四十Pが支払われる。
オークが群を成している所に向かうのだ。ラナを守りきれるはずがない。
「俺は反対だ」
血相を変える俺とは正反対にセシルは、
「私とアンナだけでも応募しようと思うのですが……、コウヘイさんとラナさんには感謝しています。しかし、こんなチャンス二度と無いかもしれません」
応募の決意を口にする。
「私は、アンナちゃん達について行くわよ」
ラナも参加するという、俺はどうしていいか分からない。
「応募の冒険者か?」
受付の兵が目を丸くする。
ラナは、愛想笑いを浮かべ「はい」と答え、申し込み用紙を手に取り書き始める。
結局、ラナとセシルの決意に押し切られて、俺も参加することに合意した。
しかし、他の冒険者と比べ、俺達は浮いている。
冒険者に見えるのは、鎧を着ているセシルだけだろう。俺はかろうじて冒険者に見えるかもしれないが、ラナとアンナは、どうみても冒険者には見えない。
そして、俺達のパーティーは、見るからにひ弱そうに見える。俺もセシルも恵まれた体格とは言えない。その上、装備も貧弱である。周りの冒険者と見比べると恥ずかしくなる。
応募は自由だから兵は何も言わないのだろうが、訝しそうに俺達へ無遠慮な視線を浴びせてくる。
どうやって選考するのかは知らないが、無作為に冒険者を選ぶことはないだろう。周りは俺達より強そうな冒険者で溢れているのだから、俺達がオーク討伐に選ばれるとは考えにくい。
そう考えると少しは気が楽になる。
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今朝の目覚めは、やたら頭が重い。
何か嫌な夢を見ていた気がする。
ここ数日の出来事が走馬灯のように蘇る。
『そうか、今日は、遠征隊の選考発表日だった』
ぼんやりする頭がそんなことを考えた。
遠征隊に加わることが、なぜかそれほど嫌ではなくなっている。
ボケた頭でベットから起き上がり、自分の部屋から台所に出るとラナ達が朝食の準備をしている。
軽く挨拶をかわし、テーブルに座った。
東の水平線には太陽が顔を出しているのに、小さな窓しかない木こり小屋の中は薄暗い。
『こんなんだったっけ?』
何とも言えない違和感を感じる。
食べながら明るく笑うラナとアンナ。無口にパンを口に運ぶセシル。一緒に朝食をとる無言の俺。
日常の風景に浸りながら、いつものように四人で朝食を済ませた。
いつものように狩りの準備をして、木こり小屋を出る。いつもはこのまま森に入るのだが、今日は、オーク討伐の選考結果の日。俺達は森に入る前に城門の方に足を向けた。
「ねえ、コウヘイあれ見て」
城門をくぐるとラナが嬉しそうに、俺の腕をグイグイ引っ張りながらそう言う。
ラナの目線は広場中央にある掲示板に釘付けだが、遠くて俺には見えない。
掲示板に近寄り確認する。
俺達のパーティー番号が掲示されている。俺達四人は、一人前の冒険者として選ばれたんだ。
ラナはアンナと手を取り、飛び跳ねながら喜ぶ、セシルは掲示板を見詰めなから震えているように見える。
複雑な心境になる。嬉しくはあるが、危険な任務だと考えると喜んでいいものなのかどうか悩む。きっとセシルも同じ心境なのだろう。
「このあと、説明会があるんだって、『各パーティーのリーダーは王宮前の会堂に集まること』って書いてあるわよ」
「「……」」
「リーダーって俺のことか?」
「そうよ。他に誰がいるのよ」
「ラナがリーダーになれよ」
「なにバカなこと言ってるのよ。『私がリーダーです』って言ったら他の冒険者に笑われるでしょ」
小さなラナの外見は、子供のようにも見える。……が、俺だって他の冒険者と見比べれば冒険者の風貌に欠けている気がする。
「私が会堂の前まで付いて行ってあげるから」
俺の手を取り、ラナは会堂へと歩き出す。




