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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
グリフ王国
22/68

銀行

 俺の作戦のおかげで、ここ数日は、毎日二十匹近くのゴブリンを狩っている。

 本当は、もっと狩れるのだが、ラナが、

「一日の収入としては十分よ」

 と歯止めをかける。

 まだまだ先は長いのだからこんめ過ぎるのもよくない。俺達はそう考え、昼過ぎには城に戻り、町での時間を楽しんでいる。


 冒険者の武器や防具は、見ていて飽きない。

 知れば知るほど、もう少し上のランクの装備そうびが欲しくなる。

 特に俺はラナとアンナの防具をなんとかしたいと物色ぶっしょくするのだが、

 ラナは、

「ほんの少し性能が良くなるだけで、値段が跳ね上がるから今必要な装備そうびそろえるのが一番いい方法よ」

 と言う。

 今の作戦では、ラナやアンナが冒険者の装備を持っているとあやしまれる。

 セシルは、

「今の装備で問題ないです」

 と、新しい装備の必要性を感じていない。

 結局見るだけになってしまうが、それでも、武器や防具を見ているのは楽しい。


「なあ、そろそろ食堂に行かないか?」

「そうね。その前に銀行に寄ってもいい? 金貨がもう持てないくらい貯まってるのよ」

 ラナがそう切り返し、腰のポーチを開ける。

 ポーチの中には、てのひらくらいの麻袋あさぶくろ五袋と革の袋が入っていた。

 俺達は銀行の方向に足を向けた。


 ラナが銀行の窓口で受付を済ませると、俺とラナだけが、大きな金庫の中に案内される。

 どうやら、二人までしか金庫の中には入れないらしい。

 金庫の中には多くの宝箱が置いてある。

 ラナは窓口で渡された、鍵の番号と宝箱の番号を見比べながら、

「あ、あった。これが私達の宝箱よ」

 そう言いながら、宝箱の鍵を開ける。

 中身は、とうぜんからっぱである。

 その中に、麻袋五袋をしまい、鍵をける。

 そして、鍵を自分のポーチにしまう。


 金庫の出口へと歩きながら不思議な感覚にとらわれていた。俺がイメージしていた銀行と何かが違う。何がどう違うかは分からないのだが。

「なぁ、銀行ってどこも、こうなのか?」

「こうって?」

「いや、窓口で金貨を出せば預かってくれそうなんだけど」

「それじゃ、どの金貨を預けたか分からなくなるでしょ」

『どの金貨?』

 たしかに、自分の宝箱の中に金貨を入れるんだから、自分が預けた金貨を取り出せる。

 が、金貨ってどれも同じだろ?


 俺はお金のことを知らなすぎるようだ。


「おまたせ」

 ラナは、銀行のロビーで待っていたアンナとセシルに声をかけ、

「じゃ、食べに行きましょ」

 と元気よく繁華街へと歩き出した。


 このところ毎日、食堂でしゅわしゅわ酒を飲みながら肉を食べる。

 ラナは、骨付きの肉にかぶりつき、しゅわしゅわ酒で流し込む大食おおぐらいである。

 セシルは、ナイフとフォークで肉を切り分けて口に入れる。しゅわしゅわ酒も飲むが、一口一口味わいながら飲んでいる。しゅわしゅわ酒自体は嫌いではないように見える。

 アンナも、ナイフとフォークで肉を切り分けながら食べる。食べながらラナと話して笑っている。出会ったばかりの頃は、食べながら話すアンナを、「お行儀が悪いですよ」とセシルは叱っていたが、最近は何も言わない。

 俺も、ラナに引けを取らないくらい肉にかぶりつき、しゅわしゅわ酒を飲むのだが、最近、肉の塩味にも飽きてきた、いろいろと食べてはみるのだが、どれも似たような塩味しかしない。


「そうだ、さっき銀行に預けた麻袋、ひもふうをしていたけど、麻袋に入れる金貨の枚数決まっているのか?」

「ルールはないけど、どの店も、大抵六十G入れてふうをするわね」

 俺は、ふと考えた。例えば、三百Gの剣を買った時、麻袋を五袋だせばいいことになるが、本当に一つの麻袋に六十G入っているとは限らない。やはり、一枚一枚数える必要がある。

「なあ、もしもだけど三百Gの剣を買ったら、金貨を一枚一枚数えて、三百Gあるか確認するんだよな」

「そんなことしないわよ」

「じゃ麻袋に本当に六十G入っているかどうか分からないじゃないか」

「計るのよ」

「計る?」

「そう、店に置いてある皿に、麻袋の中の金貨を全部移すと、店員が天秤てんびんに載せて、ちゃんと六十枚あるか計ってくれるの」

 そう言ったラナは、例を示す。

「例えば、百Gの買い物をしたとするじゃない。私は、ポーチから麻袋を二つ取り出して、麻袋の一方から二十G数えて取り出せばいいの。あとは店員が、私の目の前で、麻袋から金貨を皿に移して、そこから十G数えて取り出し、六十G用のオモリと三十G用のオモリを載せて計ってくれるのよ」

「え、お金を重さで計るのか?」

 俺は不思議な顔をしたが、ラナも不思議な顔をする。

「百Gならまだ、数えられるかもしれないけど、五百Gの武器や防具なんてざらにあるのよ。剣と鎧で千Gって言われたら、金貨を一枚一枚数えられるわけないでしょ」

 そう言われればその通りだと納得するしかない。

 俺が黙っているとセシルが口を開く、

「さすがに千Gともなるとプラチナを使いますね」

「プラチナ?」

 時折、プラチナの値札を見るが、実際のプラチナコインを見たことがない。

 セシルは続きを話す。

「そうです。千Gなら、十六プラチナ四十ゴールドですから、プラチナコインを十六枚数えて、三十Gはオモリで計って、十Gは数えることになると思います」

「私不思議に思ってたんだけど、邸宅の購入とかになれば、何万Pプラチナとかすると思うんだけど、プラチナコインも計るの?」

「さすがにプラチナコインを計ったりはしません。一枚違えば大違いですから。ちゃんと一枚一枚数えます。 ですから、数万Pとかの商品になると数えるのも持ち運ぶのも大変なので、普通、プラチナコインは使わずに有価証券で取引します」

 良く知っているラナも上流階級のことは知らないようだ。

 その後も、ラナはセシルにいろいろと聞いていた。


 そんな二人に、俺は、この前経験したおかしな出来事を話してみた。

「俺この前、夕食の材料を買いに、一人で町へ行っただろ。その時、肉の代金が三シルバーカッパーって言われたんだよ。それで、俺が四シルバー出すと、店員が代金受け取ったまま何も言わないから、『お釣りは?』って聞いたら、いやに厚かましそうに三カッパー手渡てわたされたんだけど。俺、『お釣り七カッパーだろ』って文句言おうとしたんだけど、その店員がやけに厚かましそうな顔で俺をにらむから、ケンカになるのも嫌だし『この店には二度と来ない』って思って……」

 話が言い終わらない内に、

「コウヘイ、カッパーのお釣りもらったの! やめてよね。はずかしい」

 ラナは軽蔑した表情で赤面する。

 俺はお釣りの金額が違うと言ったのだが、ラナはお釣りをもらうこと自体がおかしいと言う。

「いや、お釣りが三Cっておかしいだろ」

 ムキになる俺に、セシルは、

「コウヘイさんはこの国の通貨つうかをよく理解してないみたいですね」

 そう言って、お金の単位を説明してくれた。

 それによると、

 もっとも安い貨幣かへいカッパーという硬貨こうか

 六カッパーは、シルバー硬貨一枚と同等の価値。

 六シルバーは、ゴールド硬貨一枚と同等の価値になる。

 六十ゴールド集まれば、プラチナ硬貨一枚と同等の価値になるのだが、銀行で六十Gを一Pに交換してもらうとき、ニGの手数料を取られる。一Pから六十Gに交換する場合は手数料は取られない。だから、実質六十Gより一Pの方が価値が高い。


 この話だと、一Sで三Cの商品を買った場合、お釣り七Cと考えていた俺の認識がずれていて、お釣り三Cを渡してきた店員の方が正しいことになる。

「十単位で桁上がりしないのか?」

「何で十単位で桁上がりするの?」

 逆にラナに聞き返されたが、俺もよくわからない。

「いや、十単位のほうが計算が楽だろ」

「なに言ってんのよ。六単位の方が計算楽でしょ」

 話が噛み合わない。頭が混乱しそうだ、苛立いらだたしさをにじませて、

「なんで六なんだよ」

 ラナに詰め寄る。

「なんで、十じゃなく六なんだって言われても、……昔からそうとしか」

 ラナは返答に困った。

 そこにセシルが、

「あ、わたし聞いたことがあります。なんでも、分けやすいからだとか」

「分けやすい?」

「はい、一Pあった場合、十人以下なら、分けられないのは、七人の場合だけですから」

「そう言われたらそうね。即席そくせきのパーティーだと基本頭割あたまわりだから分けやすい方がいいわよね」

「冒険者だけではなく、工夫や使用人だって同じ仕事の場合は頭割りだと思いますから、やはり分けやすい方がいいですよ」


 反論ができない。十単位の方が計算が楽だとは思うのだが決め手となる理由が思いつかない。

 話題を変え、俺はもう一つの疑問を聞いてみた。

「なあ、金貨を計ってたら、一枚くらい足りなかったり多かったりするんじゃないか?」

「するかもしれないけど、心配ならその場で数えるわよ。もし、数えられないくらい多ければ、一、二枚、違ったって、冒険者は誰も文句言わないわ。冒険者はおおらかなの、せわしくお金の計算なんかしないわ。もし店員がカッパーのお釣りを出してきても、革袋かわぶくろが重くなるっていやがったり、馬鹿にしてるのかと怒るのが普通の冒険者よ」

 そう言い終わるやいなや、思い出したかのようにラナは顔色を変え、

「それと、冒険者はカッパーなんていう、はした金扱っちゃぁダメなの。 いい?冒険者の中には、三カッパーのリンゴ一つ買っても、一ゴールド払ってお釣りもらわない人がいるのよ。……私はちゃんと、五シルバーはおつりもらうけど。でも、カッパーが足りないなんて文句を付けたりはしないわ」

 そう言って俺をおこり、さらに、

「商人や農奴のうどや使用人じゃないんだから。冒険者がカッパーのお釣りを要求ようきゅうするのはすごく恥ずかしいことなの。お願いだからもうしないでよ」

 真顔で念を押された。


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