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VRマシン・グリフ王国への道  作者: ai56go
グリフ王国
19/68

風呂を作る

 洋服店を後にし、町を歩く、

「次は、お風呂ね。お風呂って売ってるのかしら?それとも大工さんに作ってもらうのかしら?、それとも土木になるのかしら?」

 ラナの独り言を聞きながら、俺も考えるのだが、俺にも分からん。


 しばらく歩いていると、大きなナベに目が止まった。

 この店は、金物屋かなものやのようだ。

 人が丸々入る寸胴鍋ずんどうなべ店先みせさきに置いてある。

 俺は立ち止まり、手でさわってたしかめてみる。

 野営の炊き出しで使っていたのだろうか?

 中古で、取っ手が片方取れかけていてげも付いている。そのせいか、随分ずいぶんと安い。

「これ風呂にしないか?」

「え、この中に入るの?」

 られて立ち止まっていたラナは、そのナベをまじまじとみて、ジトッと俺をにらみ言葉を付け足す。

「私達てもおいしくないわよ」

「いや、おうってんじゃなく、風呂だよ」

「でも、ナベでしょ」

 ラナは嫌な顔をする。

「これだと、下にかまど作れば、そのまま湯が沸かせて便利だよ」

「ますます、スープの具材よね」

 ナベで煮こまれる自分の姿を想像して悪寒が走ったのか、ラナは、自分の二の腕をつかみ、ブルっと震える。

「いや、このナベの中に入らなくても、温めたお湯をおけんで使うことだってできるだろ」

「ナベと湯船ゆぶねは違うわよ」

「水を温めるだけなら同じだろ」

 金物屋の前で、俺とラナは口論となったが、

 俺が、

「大工に湯船ゆぶね作ってもらって、土木に風呂場作ってもらおうとしたらどれくらい掛かるんだよ。そんな金どこにあるんだよ」

 と、ラナを説得した。

「……そうね。川で水浴びするよりはマシよね」

 と渋々でも納得させた。


 そうと決まれば、さっそく購入こうにゅう

 大きいわりには、さほど重くない。野営で使うから軽く出来ているのだろうか?

 持って帰れないこともないが、風呂場をかこう板も買って帰らないといけない。後で荷馬車で取りに来ると店番みせばんに伝え、

 俺達は、風呂を作るのに必要な物を買って回った。


 一通り買い終わった頃には、日が高くなっていた。


「まだ、昼には少し早いけど、ご飯にしない?」

 ラナが言う。

 そういえば、腹が空いた気がする。

 全員賛成で、近くのオープンカフェに入ることにした。


「大きなお風呂じゃなくて残念ね」

「でも、私とラナお姉ちゃんなら一緒に入れるよ。多分」

「えー、ナベなんかに入ったら、コウヘイに食べられちゃうわよ。アンナちゃん美味おいしそうだし」

 と、ラナはアンナのほっぺを触る。

「ラナお姉ちゃんだって美味おいしそうだよ」

 と、アンナが、ラナのわきをくすぐって反撃する。

 二人して、体をくねらせて笑い合う。


 そんな二人を見ながら、運ばれてきたサンドイッチを俺は頬張ほおばる。

 この町の食事は、どれも似たような味しかしない。基本塩味なので、木こり小屋で食べる味とほとんど変わらない。

 それでも、人が行き交うにぎやかな場所で食べる食事は、なんだかおいしく感じる。



 昼食を終え、荷馬車を借り、先ほどの店を一軒一軒わって、木こり小屋に戻った。


 すぐに風呂作りに取り掛かる。

 寸胴鍋ずんどうなべの焦げを落とし、

 木こり小屋のすぐそばの空き地にレンガでかまどを作り、

 その上に寸胴鍋ずんどうなべを置き、

 地面にタイルをいて、その周りを木の板でかこんだ。

 日が沈む前には完成した。


 閉門時刻に間に合わないときだけ使おうと考えて作った風呂だが、

 せっかく作ったのだからと、今日は使ってみることにした。


 夕食の準備もある。結局、俺が風呂当番となった。

 川から水をんで来るのが大変だと気づいたが、しかたがない。

 ラナとセシルは夕食の準備、

 俺は、川から、バケツ三十杯分の水をナベに移した。


 森で枝を拾い集め、ナベの下のかまどに火を点け湯を温める。湯加減を確かめながら、火を取り出す。


 食後、

「アンナちゃん、早速お風呂使ってみようか」

「うん」

 ラナとアンナは二人して、出来立ての風呂場に向かう。

 しばらくするとラナが俺を呼ぶ声がする。

「コウヘイ、コウヘイ」

「なんだよ」

「ちょっとぬるいわよ。種火たねびあるならべてよ」

 言われる通り、俺は小屋を出て、かまどから出しておいた燃え残りの木片もくへんを入れなおし、枝を少々その上に加える。

「あまり、火、強くしないでよ」

 ちゃぷちゃぷと水の音がする。どうやら、寸胴鍋ずんどうなべの中に入っているようだ。

「火弱くしているけど、熱かったら言えよな」

 木の板越しにラナと会話する。


 しばらくの間、俺はかまどの中の火加減を見ていた。

「アンナちゃん見て、星がいっぱい」

「ほんとだ」

 その二人の会話につられて俺も、夜空を見上げる。

 無数に広がる星の数。

 帯状おびじょうかがやく星々。

 オレンジ色の星、白い星、まばたく星。

 夜空って、こんなににぎやかだったんだなぁ。

「あ、あの星、チカチカしている」

「どの星」

「あの星」

 その会話で俺も、夜空の星を探す。

「どうしてチカチカしてるのかなぁ?」

「多分、宇宙人がメッセージを送ってるのよ」

「なんて?」

「んー、『こんにちわ』かな?」

「えー、違うと思うな?」

「じゃぁアンナちょんならどんなメッセージ送る?」


 枝は燃え終わり、火が弱くなってきた、

「湯加減どうだ?もう少しえだ入れようか?」

「ちょうどいいかも」

「そうか。俺、小屋に戻ってるから」

「うん、ありがとう」

 ラナが明るく木の板しに礼を言う。

 町では、あんなに寸胴鍋ずんどうなべの中に入るのをこばんでいたのに。と考えるのだが、

 たのしそうに、アンナと一緒に湯にかって笑うラナの声に、俺までうれしくなり、風呂を作ってよかったと充実感じゅうじつかんに満たされる。


 小屋に戻ると、セシルは、鎧の手入れをしていた。

 俺は、短剣の手入れを始める。

 二人っきりになると会話がほとんど無い。しかし、以前のような居心地の悪さは感じない。俺とセシルはこれが自然体なのだ。


 風呂から出たラナは、

「セシル、お風呂気持ちいいわよ。私とアンナちゃんが一緒に入っても大丈夫だったから、セシルが入っても大丈夫だよ」

 セシルは、俺の顔を見る。俺は、

「ああ、お先にどうぞ」

 と風呂を進める。

 セシルは、自分の部屋に戻り着替えをとり、小屋の外にある風呂場に向かった。

「ねえ、コウヘイ、まだ木材あまっているんでしょ」

「ああ」

「それなら、ナベの底に沈める木の板を作ってよ。かまどで火を燃やすと少し底が熱くなるから、あと、ナベに入るみ台もあると便利だわ」

 ラナはもう、寸胴鍋ずんどうなべに入ることを前提ぜんていに話している。

 楽しそうに話すラナを見ていると、悪い気はしない。自然とやさしい表情になる。


「ああ、明日にでも作るよ」


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