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壱拾壱 「アタシに同調しろ」


 悪魔が出現した。

 何かの本で見たことがあるような濃紺の肌に赤い目、尖った耳を持ち、鋭い歯の口は耳まで裂けていた。鋭利な刃のような爪。蝙蝠さながらの翼と尻尾。どれも絵画から抜け出したように特徴ある姿だった。

「お前は、母を生き返らせたいのだな。良かろう。その望み、叶えてやろう」

 悪魔は宗楽に信じられない言葉を言った。悪魔ではない。神だ。宗楽はそう思った。

「お願いです。お母さんを生き返らせてください」

 土の中からもがき出て来るものがあった。宗楽は驚いたが、それは人間の形をしていた。

「お母さんなの」

 宗楽は嬉しさのあまり、それに抱き付いた。土だけらの体で、尚ももがき続けるその人間の形をしたものは、漸く動きを止めた。

「そら?」

「そうだよ、宗楽だよ。お母さん」

「宗楽なのかい。 ―――― この裏切り者がぁぁぁぁ」

 人間の形をしたものが、突如宗楽を襲った。耳まで口が裂け、宗楽の喉に噛み付き、肉を喰らった。鮮血が飛び、骨を噛み砕く音が響く。バキバキと何時までも楠公墓地に響き続けていた。

「エマ」

 夜月はこの凶悪な悪魔を前にして、愛真を守るために立ちはだかった。助かる方法なんてある筈がない。それでも愛真を守ると誓った。

「卑弥呼さん。助けて」

 夜月の心の奥深くにある願いが解き放たれる。天に振り上げた指が宙で大きく動いた。

 卑弥呼の紋章が、橙色に輝き出現した。すべての『倭祷神器』が、優しく強烈な金色の光を放った。

 ドドドドンッ

 地面が波立ったような衝撃が走る。

「!」

 愛真は、夜月の体が宙に浮いているのを見た。徐々にその体の内側から金色に輝きだしている。しかし、それは全く不愉快なものではない。まるで神々しい菩薩のごとき聖なる輝きであった。

「我は、卑弥呼である。邪悪なるものよ。再び封印する」

 卑弥呼が夜月に憑依したのだ。だが、意識は夜月のものである。卑弥呼の力が、夜月のものになった。

 バリバリバリバリ・・・・

 悪魔が隙を突いて先制を仕掛けた。

 バリバリバリバリ・・・・

 バリバリバリバリ・・・・

 二度三度と続く。楠公墓地が跡かたもなく消え去った。

 夜月は愛真と稔宗を防御して結界を張っている。それが足かせになって、戦いの隙を与えてしまっていた。

 悪魔の攻撃は絶大だ。四条畷市全域が焦土と化している。

「少しは、反撃してみたまえ」

 余裕をひけらかす悪魔は、不気味な笑みを浮かべている。

 閃光を夜月は放った。悪魔は直撃を受けたようだが、平然としている。

「下等な人間が、身の程を知れ」

 バリバリバリバリ・・・・

 夜月が攻撃を受けながらも、悪魔に突進していく。

 だが、これでは敵わないと、稔宗は何故か冷静に判断していた。

 バリバリバリバリ・・・・

 悪魔は愉快になっている。姿は夜月だが、それは卑弥呼である。己を封印した憎むべき存在であった。悪魔の復讐を果たす絶好の機会が、今ここにある。

 バリバリバリバリ・・・・

 攻撃を受けながらも、夜月は悪魔にしがみついた。

「エマーーーーッ」

 稔宗は我が目を疑った。愛真が変化していく。

 金色に輝く愛真が宙を飛び、『火の刃』の剣を悪魔に突き立てた。

「グォォォ」

 悪魔は事態に戸惑っている。卑弥呼が二人いるというのか。

「エマ。アタシに同調しろ」

「わかった」

「水の呪術を使う。呪文は大丈夫か」

「解っている。いいえ、いま知った」

 愛真は、力強く拳を握って見せた。

 夜月がそれに応えて、大きく頷く。

「稔宗さんに、二重の結界を張れ。アタシもやる。それで合計四重になる。いいな」

「わかった」

「ヨシ、全部同時にするぞ。忙しいぞ、遅れるな」

「はいっ」

 夜月と愛真が手を取り合った。

 周辺の空気が張り詰めた。

「把世界遂縋神逾的土地」

「把世界遂縋神逾的土地」

 夜月と愛真の呪文が共鳴した。

 すべてが光の中に包まれた。キノコ雲が、二重三重と次々に形成されていく。


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